おじさん、ポケモンの事なら何でもするんですよね?   作:石転法師

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ペパー君の料理コンテスト本番
おじさんはただ腕組んで見てるだけ


俺の人生にはスパイスなんていらない(5)

『さあ、いよいよ審査も大詰めです! ここまでの最高は91点! はたしてこれを上回る料理人は現れるのでしょうか……!』

 司会の姉ちゃんが小指をピンと立ててマイクで声を張り上げる。今回は賞金100万円に釣られてか100人以上の応募があったらしいが、そこからレシピを含む書類審査で絞って20人。その中にはペパーもしっかり残っていた。

 今回は審査を潤滑に進めるため、4人を組にしてまとめて点数を出している。そしていよいよペパーも含まれる最終組と言うわけだ。

『それではラストの皆さんもお願いします! 思い切って腕を振るっちゃってください!』

 会場に集まった観客からわあと歓声が上がる。ここまで見ているだけで食欲を刺激され続けてきた側にも食べられる物がようやく決まるのだ。待ち遠しくて仕方ないに決まっている。俺も含めて。

「おー! きたきた、来ましたよ! 我らがペパー君の出番が!」

 最終組のメンバーは、別に我らのではないがペパーに、頭にタオルを巻いて腕組みしたラーメン屋風のオタク青年、小悪魔系ファッションの厚化粧女、そしてマッチョにヒゲにピンク色シャツという、シンプルにして一番印象に残る紳士の4人だ。どれも癖が強い。

 

「いや、ちょい待ち。あのマッチョでヒゲの人、どう見てもうちの先生なんだけど……」

「そうなの⁉ あのダンディなおじさまが?」

 そう、そのペパーと隣り合って会話している大男は、紛れもなくアカデミーの家庭科教師であるサワロという人物だったのだ。ところで俺はおじさんなのにあっちはおじさまだった違いは何なのだろう。ヒゲの差か?

「これさ、アマチュアのコンテストじゃん。家庭科の先生って出ていいん?」

 ボタンがごもっともな疑問を口にした。調理師免許も持っているはずだから微妙なラインだと思うのだが、まあハイダイが許したのだから良いのだろう。客商売をやってるわけでもなし。

「良いんじゃない? ほら、ペパー君も気合入ってるみたいだし。先生と生徒の直接対決なんて盛り上がるに決まってるじゃん」

 そう、町興しの為のイベントなのだからつまらない事は言いっこなし。美味い物を作って勝負が盛り上がれば良いのだ。おそらくこの最終組にしても二人がぶつかるよう意図的に組んだに違いない。

 

「へへ、まさか先生との勝負になるなんてな……悪いけど勝たせてもらうぜ!」

「その意気や良しだ。ワガハイも全力を尽くそう!」

 分かりやすく師弟対決といった趣の台詞を最後に二人も調理台に付いた。進行の都合上、時間のかかる下準備は事前に済ませてある。後は調理して、ハイダイも座る審査員席に持っていくだけだ。

「ボタンちゃん、サワロ先生って料理は上手なの?」

「あんま知らんけど、先生なんだし下手なわけないっしょ。あの見た目で得意なのはスイーツ系みたいだけど」

「手際を見りゃ分かるさ。ありゃあ紛れもなくプロ級の腕前だ」

 他の参加者はこの大舞台で若干動きが硬くなっているように見える。それに比べてサワロだけは、普段から生徒というクソお客様を相手に料理をしているおかげか威風堂々だ。料理は細かいポイントをミスるだけで味が変わるものだが、あの教師は間違わないだろう。

「じゃあペパー君が勝つには……」

「料理は腕と素材だ。俺達が頑張って採ってきたアレがどこまで影響するか……」

 ペパーは予め煮込んでいた鍋をコンロに置いた。ここからさらに煮詰めて生地で包んで揚げれば完成となる。鍋の中身は、蓋を取れば誰しもが分かるだろう。

 

『おぉおおおおぅ……!』

 

 スパイスを効かせた茶色くドロドロな液体、その強烈な芳香に観客も湧き上がる。

「あのカレーパン、本当に美味しかったですよねえ……」

 ヒメカはきらきらした瞳であの日の感動を昼間の星空に描いていた。

 辛味、苦味、甘味の3種のスパイスをブレンドした特製カレーパンがペパーの答えだ。ただでさえ美味いカレーを、パンに包めるようドロドロに濃縮している。もはや不味い理由がない。

 一方で他の参加者も負けていない。あのラーメン屋風オタクはラーメンと見せかけてもうもうと湯気を昇らせてうどんを、小悪魔系お嬢は何かよく分からない肉と野菜をアーティスティックに盛り付けている。

 そして気になるサワロはというと、彼が調理に使っているのはせいろ。つまり出す料理は蒸し物だ。

「……よし!」

 何かを確信した彼は掛け声に合わせて素早く蓋を取った。驚いた事にサワロは目を閉じてせいろに向き合っていた。おそらく、蒸し上がる中身の僅かな音や匂いの変化にのみ集中していたのだ、しかもこの喧騒の中で。それが出来るのならサワロは本当にプロである。

「……やっぱ、先生は参加させたらダメじゃんね?」

「うん、お兄さんもちょっとどうかと思ってきた」

「お兄さんじゃなくておじ……イタいっ!」

 デコピン。

 ともかく出てしまった以上はサワロにお帰りも願えないのでペパーも頑張るしかない。それに何かいかにも凄そうだったのに食ってみたらポンコツのケースだって無い事もない。

「うっわぁ、生地の良い匂い……!」

 しかしそんな僅かな希望も打ち砕く、心を掴んでくる甘い香り。ヒメカは切なそうにひくひくと匂いを嗅いでいる。かく言う俺も軽くひもじいのだが。

 せいろの中から現れたのは白く丸い塊、つまり中華まんだった。それもシワ有りとシワ無しがある。肉まんとあんまんのセットだ。

「先生と生徒、奇しくも料理まで似たか」

「どっちも小麦の生地で具を包んだ料理ですね。違いと言えば……いえ、どっちも美味しいので一緒でした」

「ああ、どっちも美味いな」

 そしてボタンが呆れ顔で一言。

「バカの会話……」

 ヒメカのおバカな発言を一々真に受けてはいけない。受け流しのスキルが重要になってくるのだ。

 

 そんな事より、ペパーの調理もいよいよ佳境だ。パン生地がジュワジュワと良い音立てて油の海に浮かんでいる。ここで焦がせば秘伝のスパイスだろうが台無しだが、果たして。

「……しゃっ!」

 サワロに負けじとこっちも気合十分にパンを掬い上げる。その仕上がりは、焦げ一つ無いまさに綺麗な小麦色だった。俺も詳しくはないが完璧に限りなく近いのではなかろうか。

「よっしゃ、パーフェクトだぜ!」

 どうやら本人も確信するレベルで完璧な調理だったようだ。ならば勝敗の決め手は具材の調和。スパイスをたっぷり使った特性カレーを審査員がどう判定するかだ。

 他の2名、大鍋で煮込んだ鍋焼きうどんと、やっぱりよく分からない食材アートも完成したらしい。ならばもう、やる事は食す以外にない。

 

『それでは、出来上がった物を順番にお持ちください!』

 司会の合図で4人の料理人が自信作を机に運んでいく。

 まずは一人目、ラーメン屋風腕組みオタクの鍋焼きうどん。美味そうではあるが、おそらくペパーの品には及ばないと見た。そしてそのペパーは最終組の最後だから本当にトリを飾る事になる。

 果たして審査員は、一級料理人のハイダイはペパーの、そしてサワロの料理をどう判定するのか。空腹を我慢しながら見ているだけしか出来ない俺達は、ただただ固唾を飲んで結果を見守るのであった。




次回スパイス編終了予定
はたしてペパー君はサワロ先生に勝てるのでしょうか
そしておじさんは見てるだけで終わるのでしょうか
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