おじさん、ポケモンの事なら何でもするんですよね? 作:石転法師
今回の茶番に当たって用意した物は二つだった。
まず一つ目は顔を隠すためのフルフェイスヘルメット。顔はもちろんだが声もある程度曇らせないとバレてしまうだろう。何しろアオキとは数日前に会ったばかりなのだから。
そしてもう一つはこれが絶対に必要だからとヒメカがうるさいので、渋々購入したライダースジャケットだ。確かに服も変える必要はあるし、ヘルメットに合うのはこれだろうが、しかし本当の狙いは他にあったのだった。
「ふふふ、ようやく来ましたな……!」
パルデアの大穴、またの名をエリアゼロ。ここの途中途中には何やら事件性を感じる廃墟として研究所が残っている。その第一ポイントまでスーツ姿のまま駆け付けたアオキの前に、俺達が立ちはだかる。ちなみにアオキを待っていたかのようなセリフは聞かれたら完全にダメなやつである。
「……知っているでしょうがここは立ち入り禁止区域です。即刻立ち退き願います」
「知りませんなあ! 我ら、泣く子も黙るライダースジャケット団、略してラケット団ですぞ! ここのポケモンは全て我らが貰っていくのですな‼」
ヒメカは大地を豪快に蹴って、ライダーっぽい決めポーズを取った。
「……はあ…………」
深い、深いため息。
まあアオキの反応も当然だろう。ノー残を潰された挙句、取り締まるのは変な口調の変な奴ら。まず悪の組織ぶっておいて結局ただのバイク乗りである。俺がアオキの立場だったら破壊光線でもぶっ放して亡き者にしている。
(……ほれ、ウノさ~ん。次、自分やで~)
岩影から、俺達を見守っている人物が小声で芝居を促した。言うまでもなく、アオキがピンチに陥ったら素早く飛び出せるように控えているチリである。
確かに悪役を演じようと提案したのは俺だが、ヒメカとチリが思った以上にノリノリでセリフを練ってしまい、自分の方が付いていけないのだった。しかし考えてみたらヒメカは元配信者だから変な小芝居が好きに決まっている。大失敗だ。
「……貴殿は、リーグ四天王のアオキか。従わないならどうする。実力行使で追い払うか?」
「ふう、そちらはまだ普通に話せそうですね。荒事は好みませんが、仕事ですので」
「お、あいつヤル気ですよアニキぃ! ぎったんぎったんのコテンパンのメロンパンにしてやんよですな!」
「……少し黙っておけ」
「ウイーッス!」
俺とアオキは揃ってため息と共にボールを構えた。見た目こそ湿気ているが実力は本物。全力で来られたらヒメカは勿論、俺も勝てるか怪しい相手だが、今からこれをピンチに陥らせなければいけないのである。
「ムクホーク!」
アオキはいきなりエースを投入してきた。ノーマル兼飛行タイプの使い手である彼にとって象徴のような鳥ポケモンだ。強さもジム用の手加減レベルではない。本当に俺達の相手が嫌だから速攻で終わらせに来たと見える。
「ミカルゲ!」
一方こちらは、普段は留守を守っているポケモン。というのも、アオキは俺の主力を知っているので手持ちで正体がバレるかもしれないからだ。
「おにびを撒け!」
「ムクホーク、ブレイブバード」
その高い攻撃力を半減させようと火傷を狙う俺に対し、アオキは初手から大技で突っ込む!
『ン、ゲッ……!』
直撃したミカルゲの姿がぐにゃりと歪む。元々彼のポケモンはからげんきで戦う事が多い。状態異常にも全く怯まず確実なダメージを与えてきた。
「もう一発、ブレイブバード」
「チッ……ふいうちだ!」
落としきれなくても最低限削る。ただでさえ火傷と自傷技の二重苦を背負っているのだ。ミカルゲは戦闘不能に追い込まれてしまったが、これでムクホークも虫の息だ。(鳥だけど)
(よっしゃ、巻き返してこ。勝負はまだこれからやで~)
チリが小声でエールを送る。お願いだからバレないように引っ込んでいてほしい。
「……ならばこれだ。キョジオーン!」
普段はいわゆるフルアタ思考の俺だが、今回はキャラを変えているので徹底的に受け重視で行かせてもらう。
これまた留守を任せている岩タイプのポケモンで、料理にもうちょっと塩気が欲しい時に便利な子だ。その長所は状態異常も一切受け付けない守備力にある。
「てっぺき!」
「……一度下がりなさい」
アオキがムクホークを交代させた隙に、俺は防御を固めるように指示。これで生半可な物理攻撃でキョジオーンを落とすなど不可能だ。
「カビゴン、任せます」
代わって出てきたのはノーマルタイプの大食いモンスター。どこで手に入れたのかは知らないが同じ食いしん坊のアオキにはお似合いである。
それはともかく、岩技が弱点の飛行タイプ程ではないがノーマルだって不利な立場で、アオキにとってはかなり厳しいはずだ。どちらもタフなポケモンだが既に防御力を上げたこちらが間違いなく有利なはず。
「ボディプレス!」
そしてキョジオーンが放つは、防御が高いほど強くなる格闘タイプの技。四角形だらけの角ばった巨体が跳び上がり、圧し潰す!
一方でカビゴンが放つ技は――。
「こう見えても賭け事は嫌いじゃないんですよ」
俺の背中にぞくりと悪寒が走った。
「じわれ!」
カビゴンの踏み付けた地面に亀裂が走る!
飲み込まれれば問答無用で戦闘不能になる一撃必殺技だ。まずい、ここでキョジオーンが落ちたら後がかなり厳しくなる。
「のわっ!」
「くッ……! そいつにしがみ付いて耐えろ!」
『……しおぉおおおおッ!』
自分で起こした地割れに飲み込まれるバカはいない。ボディプレスでカビゴンに圧し掛かっていたのをこれ幸いと、とっさの機転で相手自身を掴んでなんとか九死に一生を得たのだった。
「……残念です。貴方ごと落ちてくれたら良かったのですが」
「フン、笑えん冗談と受け取っておこう」
実際、咄嗟に飛び退いたが亀裂は俺の向こう側に達するまで広がっていた。こんな崖だらけの大穴、本当に地震だ地割れだが起きたら命がいくつあっても足りない。
ともあれ一撃技は回避したのだからもう一発ボディプレスをぶち込んでカビゴンを落とし……そしてしれっと俺にしがみ付いていたヒメカを引き剝がす。
「勝負の邪魔だ。離れてろ」
「いやぁ、まだちょっと足がガクガクしてますぞぉ……」
そのせいで俺まで危なかったのはダメだが、ヒメカにとってこの場所で落ちるというワードはあの時の恐怖体験を思い出すのだろう。
今回に関しては危険だから付いて来なくてもいいとは言ったのだが、自分の身は自分で何とかするから大丈夫ですと胸を張ってここに居る。そしてこれであった。
(……ところで、チリちゃんは?)
囁かれてハッと辺りを見渡した。
さっきの「のわっ!」という悲鳴、よく考えなくてもヒメカの声色ではなかった。もちろん俺じゃないし、アオキの訳がない。だったらチリが発したに決まっている。
彼女が隠れていた場所は坂に近かった。地割れの拍子に滑り落ちていたらまさにミイラ取りがミイラだ。俺から離れたヒメカがさりげなくそちらに移動し――。
「あーっ! あそこ!」
まさにチリが居た場所の下。そこを覗き込んだヒメカが勢い良く指差した。
「……ショーワの時代じゃあるまいし、その手には乗りませんよ」
「いいから見てください! ですぞ!」
若干素が出かけていたヒメカの(ヘルメットで見えないがたぶん)必死の形相に押され、まず俺が。俺が勝負を中断したのを見てやっとアオキがそろりそろりと崖に寄る。次のポケモンであるチルタリスと出したままだ。
「……な」
「なんだこれは……」
そこには俺達もどう反応すればいいのか分からない光景が広がっていたのだ。
『アゲルー』
『ササゲヨー』
『プレゼントー』
『デリバババァアアアアア!』
「なんやねん自分ら! そんなにチリちゃんが好きかい!」
デリバード、ではない。こんな雪の無い場所に生息するポケモンではないからだ。
その名はテツノツツミ。デリバードに酷似したおもちゃのような謎のポケモン。時空の歪みか何かで大穴に現れたという未来の生き物だ。それが坂を転がり落ちてまだ起き上がれないチリを取り囲んでいたのだ。
地面タイプの使い手が、やたらと高い特攻と素早さを誇る水・氷タイプのポケモンに、である。
「あ、アオキさぁあああああん! お助けぇええええ!」
俺達が覗き込んでいるのを見つけたチリが助けを求めて手を伸ばす。
「なんでそこに居るんですか……」
物凄く既視感のある光景に、思わず皆で頭を抱えた。
アオキからしてみれば、後から行くと言っていたチリが何故か自分より奥にいるのだから尚更わけが分からないはず。まあ、自分が放った地割れのせいなのだが。
「……おい、助けるか? 手が要るなら協力するが」
話がややこしくなるので、一応口調は作ったままにしておく。
「密猟者の貴方がですか。意外ですね」
「クックック……勘違いされては困りますな! 我々は強いポケモンが欲しいだけで悪人になったつもりはありませんぞ!」
「不法侵入はれっきとした悪事なんですよ」
ごもっともだが、今そんな事は重要じゃない。ポケモンのプレゼントといえば8割の確率でダメージを受ける爆弾なのだ。そんな物を一斉に打たれたらチリの命が危ない。
「……とりあえず、あの女性の安全が第一です。それを忘れないように」
「承知した」
「今助けますぞー!」
話は決まりだ。本当は俺が捕獲したパラドックスポケモンに囲まれたアオキをチリが助ける、という筋書きだったのだが、まあこれも悪くない。どうも俺とアオキは大穴で女を助ける羽目になるタイプの人間らしい。
「ボーマンダ!」
ギャラドスの代わりに連れてきた空を飛ぶ要因のドラゴンポケモン。これもお気に入りの1体だ。
その背に俺とヒメカが飛び乗り、アオキもチルタリスに捕まって、貢がれまくりでお困りのお姫様を救助に向かうのであった。
ちなみにアオキのカビゴンは作者の分身が実際に特別講師で交換したものです