おじさん、ポケモンの事なら何でもするんですよね? 作:石転法師
「チルタリス、テラスタルの時間です」
「ボーマンダ、こちらもだ!」
アオキと俺は揃ってテラスタルオーブを握りしめた。何しろ相手は氷タイプを含むテツノツツミ、一方こちらは2体ともドラゴン・飛行の氷4倍弱点だ。冷凍ビームで撃ち落とされるのがオチだろう。
そしてタイプが同じ2体が光り輝き冠する結晶は、奇しくも変化先まで同じ鋼だったのだ。
「……ふ、それで俺のキョジオーンも倒す気だったか?」
「さて、どうでしょうね」
アオキ自身は顔色一つ変えずにただチリ周辺を見渡していた。少しは会話に付き合えよとも思ったが、今の俺はヘルメットの怪しい男だったので仕方なしとする。
「攻撃、来ますぞー!」
我々のお姫様(王子様?)を奪わせてたまるかと、チリを取り囲んでいたテツノツツミ達が袋のような尻尾をこちらに向ける。氷技なら良かったのだが、今発射準備をしているのはどう見ても水の塊だ。野生のポケモンだってタイプ相性ぐらい理解しているらしい。
「ラプラスを出せ!」
「はいっ!」
ならばこれ、ヒメカが水タイプを欲しがっていたのでホームから引っ張り出してきてやった、テツノツツミと同じ水・氷タイプのポケモン。背中に何人も乗せて泳げる巨体が俺達の盾となる!
『ラッ……プラー!』
当然奴らのハイドロポンプはラプラスに集中するが、そこはしっかり特性も貯水。ダメージどころかお肌つやつやだ。
「よーし、そのまま押し潰しちゃえですぞ! ボディプレス!」
落下の勢いに任せて押し潰す! 小さなテツノツツミ数体がラプラスの下敷きだ。よし、ヒメカにしてはなかなか上出来の戦果である。
「よっしゃ……くーっ、振動が骨に響くわ……!」
一瞬だけ拳を振り上げたチリであったが、またすぐにうずくまってしまう。抑えたのは脛だ。落ちた時にヒビでも入ってしまったか。ならば尚更早く救助して治療しなければならない。
「りゅうのはどう」
「ぼうふう!」
俺達も地上に降り立ち反撃に転じる。チルタリスから放たれたドラゴンのエネルギーが群れの体勢を崩し、そこにボーマンダが両翼を広げて風を巻き起こす!
テツノツツミの群れは左右に吹き飛ばされ、チリとの間に一本の道が拓いた。
「今や! アオキさーん、こっち来てー!」
ちゃっかりアオキに手を振るチリ。しかし今がチャンスなのは間違いなく、だったら走る以外にあり得ない。
「エルレイド! ヒ……その女の側の相手を頼む。片っ端からせいなるつるぎを叩き込め!」
『エッッッ!』
普段は捕獲要員として頑張っているエルレイド。久々にみね打ち以外の攻撃が出来ると張り切っているようだ。
「お手伝いありがとうですぞ!」
右側は俺、左はヒメカとエルレイドが食い止める。予定は大幅に狂ったがお膳立てとしては十分なはず。
「……さっさと行け」
「行って男を見せるのですぞ!」
この流れならいくらアオキでも颯爽と駆け寄るはず──。
「ケンタロス、乗せてもらいますよ」
思わずずっこけそうになった。もうちょっと白馬のような様になるポケモンは居なかったのか……と言いたかったが、パルデアにはギャロップもブリザポスも居ないのを思い出す。
そしてそんなどうでもいい事を考えていた間に、白馬の王子様ならぬ白髪混じりのおじ様がチリの所までドスドスと駆け付け、手を伸ばした。
「立てますか?」
「無理や……アオキさん抱っこして……」
「いえ、それはハラスメントに該当しますので……」
「チリちゃんがええって言っとるんだからええの!」
やっぱりアオキはアオキであった。
「はあ……では失礼して」
しかし彼とてジムリーダーであり立派な成人男性で、その気になれば細身のチリを持ち上げるなんて造作もない事だ。
(うっひょぉおおおお~!)
そんな持ち上げられたチリの表情は、声こそ出ていないが歓喜に満ちていた。ハイハイ良かったですねとしか言いようがないが、今はエリアゼロの危険なポケモンに囲まれている事を忘れないでいただきたい。
「私があの時して欲しかったのもアレですよ、アーニーキ~?」
「ハラスメントに該当するから駄目だ。それに今そういう話をするな」
そりゃボーマンダよりラプラスを出しているヒメカの方が余裕かもしれないが、こっちは時たま俺を狙って冷凍ビームが飛んでくる、文字通り冷や冷やしながらの戦いなのだ。いくら今救った気分になっても、このテツノツツミ共を片付けないとにやけているチリの顔もまた凍り付く。
「チリさん乗っててください」
「はい? いや、そうじゃなくて……」
「アオキさ~ん……」
アオキがチリをケンタロスの上に掛ける。乗せるじゃなく、掛ける。干された布団のように。ヒメカも露骨にがっかりした。
ロマンスも早速ぶち壊しだが今は非常時なので救助方法に文句を言っている場合じゃない。ケンタロスと一緒に囲いから脱出するアオキの援護が最優先だ。
「ボーマンダ、りゅうせいぐんを辺り一面にぶち込め!」
『グオォオオオ!』
咆哮と共に空へ放出された蒼いドラゴンのエネルギーが、無数の隕石となって降り注ぐ!
テツノツツミが大技にわたわたと慌てる中、アオキ達は流星に怯む事なく全力で駆ける。
「ラプラス、歌って!」
『ラー……ラーラーラー……』
さらに眠気を誘う歌声!
成功率こそ高くはないが、対象が多ければ寝る数も増えるはず。現にテツノツツミの何体かは動きを止めて下を向いている。
「ならこちらもだ。エルレイド、さいみんじゅつ!」
『えっっっ……!』
呼び寄せたエルレイドの目が紫色に妖しく光る。うっかり見てしまったが最後、もれなく夢の世界にご案内だ。
「畳み掛けますか。カビゴン、貴方もあくびを」
『かぁびぃ、ごぉおおおお……!』
さらに帰ってきたアオキのカビゴンも追撃。肥満体の凄まじい肺活量から送り出される呼気は、既に二重の催眠がかかっているポケモン達には致命傷。この眠気に抗える者などいるはずがなかった、というか俺もちょっと眠い。
「よし、みんな眠りましたね。なんでも屋のお二人もご苦労様でした」
「いえ、この度はアオキさんにも大変なご迷惑を……」
「チリちゃんもお助けできて何よりですよー……」
「……じゃなくて!」
俺達は大慌てでヘルメットのズレを確認した。ポジションは正常、顔は全く見えないはず。
「いえ、お二人の体格や所作で何となく怪しいとは思っていましたが……ヒメカさんの投球フォームはついこの前見たばかりでしたので、それでほぼ確信を」
言われてみれば、そちらは全く設定を練っていなかった。アオキは独特なサイドスローでモンスターボールを投げている。投げ方に拘りがあるなら他人のフォームもよく見ていて不思議ではない。
「……く、くっくっくー! バレてしまっては仕方ありませんなあー!」
「いや、もうやらんでいいから」
蒸れるわ視界が悪いわで辛かったヘルメットの前を開く。ヒメカも俺に続いて大きくシャバの空気を吸った。頭部を守るに越したことはないのでまだ被ってはおくが。
「やはり、なんでも屋さんですか。なぜそのようなおかしな変装を……?」
「……えー、これはですね、そう、ポケモンの捕獲調査でして」
「そう、そうなんです! 大穴のポケモンが暴れた時の為にデータが欲しいってオモダカさんが言ったからー……!」
しれっと、リーグの最高責任者であるオモダカに責任を擦り付けるヒメカ。しかし捕獲調査を名目にしての立ち入りはチリの名の下で出しているし、無論許可を出したのもオモダカなので半分は本当だったりする。
「な、なんやそれー。チリちゃんは何も聞いてへんでー」
干された布団だったチリもむくりと反り返り、白々しく口を開く。
「極秘依頼だったもんで……俺達も一応変装を……」
「アオキさんにも一応内緒の方が良いかなと思って勝負しかけちゃいましたー。ごめんなさーい」
そのせいで一時はアオキに殺されかけたのだからこれほど馬鹿げた言い訳もないのだが、果たしてアオキの返答は。
「……本当に、あの人は困ったものです」
よし、アオキにだけは言われたくないだろうが、オモダカも困った人のおかげでシラを切り通せた。俺は大穴のポケモンは複数捕獲できたし、チリもお姫様抱っこはしてもらえたのだからウィンウィンだ。とにかくこんないつ目覚めるか分からない奴らから離れるべき。
「今回は俺が奢りますよ。帰ったら美味い鍋でも行きますか」
「良いですね。ちなみに私は締めに雑炊派なのですが」
「そりゃ奇遇で、俺も米派ですよ」
「ウチも! チリちゃんもお米ラヴやで!」
「しーっ……! チリちゃんしーっ…………!」
そりゃヒメカだって口の前に指立ててお母さんになる。今回こそは打ち上げに参加しようとチリだって必死なのだろうが、テツノツツミが起きるから静かにしてほしい。
『ツミ!』
ほら、大声は罪だって言われている。飯の話をした俺も悪かったがさっさと立ち去って……ツミ?
『ツミ! ツミ! ツミ! ツミ! ツミ‼』
それは紛れもなくテツノツツミだった。これまでの奴らとは明らかに別物なのを無視すればだ。
崖上に突如として現れたそいつは、飛び降りからの着地で地鳴りが起きる程の巨体。さらに瞳からは炎のように燃えるオーラが滾っている。
何でこの地域にこいつが。そんな疑問を考える前に俺は反射的に叫んでいた。
「オヤブン個体だ!」
「親分⁉ 確かにめちゃくちゃおっきくて強そうですけど!」
「たぶんこいつらのボスだろうよ。手下があんまりにも不甲斐ないから怒って出てきたってところか……」
まだぼんぐり製のボールが現役だった時代、野生の力に満ちたポケモンはここまで大型に成長する事があった。大穴という特殊空間じゃ何が起きても不思議ではないか。しかし、こいつの怪異はそれだけに留まらなかったのである。
『ステラァアア‼』
「今度はなにーっ⁉」
ポケモンが結晶化して光り輝く姿、テラスタル。それだけなら既に見慣れたものだが、18色の結晶が周りに浮かぶこれは俺の知るパターンのどれにも当てはまらない、いや18のタイプ全てが当てはまっているようにも見える前代未聞の状態だったのだ。
『カーーーーッツ!』
そして鉄っぽい見た目のポケモン定番のエレキフィールド。これでこいつはさらに強化された上に、眠りにもならない。手下共と同じにはいかないという事だ。
「……はあー…………何でこう、アオキさんが絡むと厄介な案件になるんですかねえ!」
あらゆる疑問をとりあえず投げ捨てて、俺の出した結論は一つ。こんな面白い奴、ぶっ飛ばして捕獲調査以外にあり得ない!
「アオキさん、業務外で申し訳ないんですがご助力願えますか」
「無論です。今の私は飢えておりますから」
さっさと帰って飯を食いたいと、非常に同感だ。俺達は微笑を浮かべてボールを構えた。
「ヒメカ、フワライドでチリさんを運ぶ準備を」
「了解ですっ!」
いつまでもケンタロスに干しておくわけにもいかない。ヒメカはバッグからロープを取り出してフワライドに手早く結び付けだした。
「アオキさん、ウノさん、たぶんそいつはステラタイプや! 詳しいデータは無いけど凄いらしいんで要注意で!」
「承知!」
変な呼び方をしないで済むから名前だけでも十分だ。詳細は殴り合いながら確かめればいい。
テラスタルにはテラスタルを。俺達はまだ輝きをキープしたままのチルタリスとボーマンダを送り出す。そして──。
テツノツツミは強烈なテラスタルエネルギーで2匹のドラゴンを吹き飛ばしたのだった。
次回、はたしてチリちゃんはアオキさんとご飯を食べられるのでしょうか