おじさん、ポケモンの事なら何でもするんですよね?   作:石転法師

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おじさんのポケモンもヒスイから密輸入してるので誘われちゃったんでしょうねえ…


「チリちゃんもアオキさんとご飯食べたい!」(5)

 ステラタイプのテラバーストはテラスタル状態のポケモンに対して効果が抜群となる。

 これは後から知った事だ。完全に初見で予想できるはずもない。

 故にテラスタルにはテラスタルで対抗してしまった俺達は、まんまとその罠に嵌ってしまったのだった。

「くっ! すまんボーマンダ!」

 一撃でノックアウトされたボーマンダをボールに戻す。アオキのチルタリスも同様だ。俺とアオキはお互いに戦ったせいで消耗してしまっている。残り3体、はたしてこの厄介な相手を攻略しきれるか。

 

「エド、頼む!」

「ノココッチ、行きなさい」

 テツノツツミの能力はある程度調べてある。ちょっと変わった個体だが、サンダースとかを上回るぶっ飛んだ素早さに高い特攻を持つのは同じなはず。ならスピードより特防を重視してのエルレイドだ。

「おいかぜを吹かせなさい」

『ココッ!』

 ところがアオキのノココッチが背中の小さな羽をパタパタと動かして風を生む。これなら、ノココッチは無理でもエルレイドなら速さで上回るかもしれない。

「流石っすね。よし、せいなるつるぎだ!」

『エッッッッ!』

 アオキのサポートを受けたエルレイドが猛烈なダッシュでテツノツツミに迫る。ステラタイプの相性は分からないが、切れ味抜群の一撃はどう足掻いても痛い!

 

『テッ!』

 しかしそうは行かなかった。瞬時に青い炎のようなオーラを放ったテツノツツミは、素早さが倍加した相手よりもさらに俊敏な動きで距離を取り、ブレードを躱したのだ。

「……まさか、早業か」

 見た目だけのハッタリオヤブンと思いたかったがそこまでしっかり大昔仕様らしい。

「何か、まずい一撃が来そうです」

 グルメのアオキがまずいと言ったら本当にまずい。まさかに続くのは次のまさか、今度はオレンジ色の炎を奴は纏ったのだ。そして尻尾にとんでもない水量が集まっている。これは、マジでまずい。

 

『テェーーーッツ!』

 力業のハイドロポンプ!

 特防にはそれなりに定評のあるエルレイドが一発で押し流された。

「アカン、さらにマズイで! 他のテツノツツミが!」

 まずい皿のフルコースやでとチリが叫ぶ。飛び散った水が気付けとなったか子分のテツノツツミ達がもぞもぞと再起動を始めたのだ。オヤブンだけでも手に余るのに、こんなのが大量に来たら一貫の終わり──。

 

「ノンちゃん、ほうでん!」

「よしうまい!」

 そこに飛び出したのはヒメカのクワガノン。

 敵がエレキフィールドを張ったのだから、逆にそれを利用してしまえば良かったのだ。フィールドパワーで威力が増加した大放電を食らってしまった子分たちは再び目を回して倒れこむ。そしてそれは、力業の直後で大きな反動を受けていたオヤブンにも例外ではなかった。

「……効果は抜群のようですね。ならば水か飛行、ですか」

「あるいは、元から変わってない。あのステラタイプってのは攻撃に特化したテラスタルなのかもしれませんね」

 これがトレーナーバトルだったら、いきなり3人目が乱入して攻撃なんて反則も反則。しかしこれは大自然の中での戦いなので文句は言わせない。何にせよチャンスだ。電気が効くのならまだこいつが残っている。

「ユージ、10まんボルトを放て!」

 電気・鋼のジバコイル。先ほど鋼となったボーマンダが落ちたので警戒していたが、今は積極的に攻めるターンだ。くるくると回るU字磁石に強力な電磁エネルギーが集まり、バリバリとけたたましい音で空気を切り裂いていく。

 

『ツ、ツゥ~~……』

 テラスタイプの結晶、砕ける。

 弾け飛んだ光の中で、テツノツツミはふらふらと立つのみだ。

「麻痺させなさい。へびにらみを」

 ノココッチが、目を引く独特な黄色の体も使って全身で相手を睨み付ける。消耗したところにこの脅かしはよほど効いたか、テツノツツミはビクンと大きく体を痙攣させた。

「さあウノさん、早々に捕獲を」

「……感謝っ!」

 とどめにサポートを入れてくれたアオキに挙手の敬礼。既にサンプルとして同種を捕獲済みなので、ここはリピートボール!

 ボールに閉じ込められたテツノツツミはその中でゆらゆらと最後の抵抗をするが、ついに観念して──。

 

 ポンッ。

『ミィイイイイイ‼』

 いや、観念してやったらオヤブンの名が廃るとでも言わんばかりに、奴はボールの支配から脱して再び闘志をごうごうと燃やす。麻痺が入っているとは信じられないスピードで跳び回り、まずは俺達の囲いから抜け出したのだ。

 

「ちっ、しぶといな。ならもう一丁……!」

「……の前に攻撃来ますーっ!」

 最後っ屁のつもりかテツノツツミはまたもオレンジ色の力業の構え。テラスタル状態は無くなっても奴はまだオヤブンなのだ。

 そしてその照準は当然のように俺に向かっていたのだが……不運な事に、その間にはアオキも挟まっていたのだった。

「あ……」

 その状況を理解したアオキに出来たのは、たった一字の母音を発する事だけだった。

 

「ユージッ!」

「ノンちゃんっ!」

 まずい。中年サラリーマンの身体能力でハイドロポンプを避けられるものか。

 俺とヒメカも今出しているポケモンが受け止めるように指示するが、この2匹はどちらも鈍足。割って入るには間に合わない。

 この後の惨状が否が応でも浮かんでしまった俺は、思わず額に手を当てて俯いてしまう。

 すみませんアオキさん、お墓には山盛りのおにぎりをお供えするのであっちの世界ではゆっくり休暇を取ってください。そんな事を勝手に考える俺だった、が。

 

「行ったれ、ドオー!」

 その中で、誰よりも瞬時に動いていたのは負傷中で座っているはずのチリだったのだ。

 鈍足のポケモンが追い付かないならボールの状態から自分で投げればいい。ポケモントレーナーなら当たり前の話だった。

 地面タイプだが、ラプラスと同じく特性のちょすいによって水を吸収できるポケモン、ドオー。危うく体中が水圧でバキボキに折れる寸前だったアオキの上に覆い被さり、その窮地を救ったのである。

「おおっ! チリちゃん、ナイスですっ!」

「っくぅ~~~~! スネに響くわぁ……!」

 痛む脚で踏ん張り全力投球。チリは再び脚を抱えてうずくまる。無茶も良いところだがそうしなければ終わっていた。とにかくその頑張りに敬意を、そして俺がやるべき事も決まっている。

 

「お前にも鍋食わせてやるから、さっさと大人しくしな!」

 再度投球のリピートボール。捕獲率はもう上げようがないので後はひたすら投げ続けるだけだ。

 やっと自らの運命を悟ったか、もしくは鍋の一言が効いたのかは知らんが、テツノツツミは今度こそボールに収まってくれた。

 テツノツツミのオヤブン、捕獲完了!

 とりあえずオモダカに提出して調べてもらう事になるが、それが終わったら俺の秘密兵器として存分に働いてもらおう。

 

「っふー! これで一件落着です……よね?」

「一件どころか二件も三件もあったような気がするが、終わりであってほしいな」

 むしろ終わりでないと困る。人間の怪我人が1名、俺とアオキのポケモンも半分以上が(お互いのせいで)やられている。

 飛べないと困るので、まずはボーマンダに元気のかけらと傷薬を与えて。

 と、ここで気付く。そのアオキは本当に無事だったっけ、と。

 

「あーっ! アオキさんっ⁉」

 ヒメカは顔を真っ青にしてアオキに駆け寄った。

 ここで、そのアオキを庇ったポケモン、ドオーのデータをおさらいしてみよう。

 見た目こそ癒し系といった趣ののんびりした顔だが、その重さは223キログラム。相撲競技の横綱級だ。それが、チリの全力投球のスピードに乗って体にのしかかったのである。おまけにドオーは毒タイプで、ちょすいの他に持っている特性はどくのトゲだ。おさらい終わり。

 つまり何だと言うと、足がドオーの身体の下敷きになっていたアオキは、仏像のように虚無の表情で銀河の果てを透視していたのであった。

 

 

 

「……いやー、アオキさんホンマに堪忍なあ……」

「気にしなくていいです。労災も下りましたし、久々にこういった時間も悪くありませんから」

 

 そして、翌日。

 俺とヒメカはポケモンリーグ本部に併設された救護施設を訪れていた。理由は言うまでもなく、チリとアオキのお見舞いだ。

 チリ、急斜面からの転がり落ちで左脚の骨にヒビ。アオキ、ドオーによる圧迫骨折で右脚の骨にヒビ。二人仲良く病室のベッドでお寝んねであった。

「この度は本当にいろいろ申し訳なく……これはつまらない物ですが」

「病気だけでなく怪我にもよく効いて、とっても美味しいらしいですよ」

 マリナードタウンの競りで買ってきたまぼろしモモンというフルーツだ。何でも、食べると思わずきびきび踊りたくなるほどの絶品だそうな。

 足が折れても書類は書けるとベッドの上で事務作業中のチリに対し、アオキはこの体で営業が出来るかとサラリーマンが主人公の食べ歩き漫画をのんきに読んでいる。この差だ。

 

「あ~~~~! チリちゃんダメなのです! おケガのひとはベッドでゆっくりおやすみしませんと!」

 そこに可愛らしいぷんぷん顔で入ってきたのは、幼稚園児かと思うほど小柄の女の子、ポピー。9歳児にして四天王の二番手を勤める天才トレーナーだ。皿の乗ったお盆を持って、よたよたと若干危なっかしくベッドに近寄った。

「ポピーちゃん許してやー。チリちゃん報告書いろいろ書かなあかんくて……」

「アオキのおじちゃんをみならってのんびりするのです! おしごとならポピーがかわりますので!」

 それは、人としてまずいというかバレたらオモダカに大目玉だろう。代われと言うなら俺は漫画読んでるアオキに言う。

「それよりー、おうどんです! ポピーもおてつだいしてつくってもらいましたのー。のびないうちにめしあがれ!」

 ほんのりとダシの香りが広がる透き通った汁、ジョウト地方風のうどんだ。チリに醬油ベースのカントー風うどんを出したらキレそうだし、賢い選択と言える。

「ポピーちゃん、持ってあげるね。ほらほらおじさんも」

「はい」

 それはともかく、ポピーは持っているだけで精一杯なので配膳は俺達大人が代わる。初対面の子供とあって距離を測りかねていたのだが、こいつが居て助かった。

「ありがとーございます! おふたりがウワサの、なんでもやのおじちゃんとおねえちゃんですのね。このたびはチリちゃんとアオキのおじちゃんがごめいわくをおかけしました」

「いえいえご丁寧にどうも。それとね、おにいさんと呼ぼうね?」

「はいはいそれは後にしましょうねー。ポピーちゃんも、二人が居なくて大変な事があったらメールかお電話ちょうだいね」

 勝手に……と言いたい所だがまあ仕事は来ないだろう。もし来てしまったら良心の呵責で絶対に断れない相手ではある。

「いただきます」

 アオキは当然のように手を合わせてからまず汁をすすった。チリも流石にペンを置き、代わりに箸を取る。俺達もおっさんと姉ちゃんがうどんを食う所を見ていたってしょうがない。見舞いは済んだしオモダカに捕獲調査結果を提出するかと考えていた、そんな時である。

 

「それにしても、チリちゃんよかったですね。まえからおじちゃんといっしょにごはんたべたいなーっていってましたもの!」

「ん?」

「ん゛っ⁉」

 ネギの切れっ端がチリの口から吹き飛んだ。

「いやいやちゃうねん、いや違わんけど。アオキさんとご飯食べた事無かったからそう思っただけで深い意味とか別に無いねんて……」

 コガネ出身者は早口とよく言われるが、この台詞は特に猛スピードで発された。俺もヒメカも咄嗟に横を向く。なぜなら笑いを堪えていたからである。

「……同僚だからって気を遣わなくても良いのですが」

「仕事は関係ないんで! 単に顔突き合わせてご飯食べたいだけやから!」

「失礼ですが、気は確かですか?」

「確かですー! ええやん別に、ヒトの趣味嗜好は多種多様でも!」

 悪いが傍から聞いていて正気とは思えないが、ヒメカが言うには実はアオキの隠れファンも意外と多いとか。男の俺には理解できないがこれも多種多様性を認めなければならないご時世か。マイペースにまた汁を口に含むアオキに対し、チリは返答が来るまで完全に箸も止まっているのだった。

 

「……コガネの名物と言えばお好み焼きなどでしたか」

「あ、ああうん。せやな」

「良い店をご存じでしたら、連れて行ってくださると」

「知ってます知ってます! 今度ぜひ!」

 チリは嬉々とした顔で器をチャカポコと叩いた。こちらも何も食っていないのにご馳走様の気分である。さっさと帰って本当の飯でも食うとしよう。

 

「それじゃあ俺達はここらでドロンしますんで……」

「後はお二人でどうぞごゆっくり~」

「ちょい待ちちょい待ち」

 気を遣ったつもりなのに、チリから逆に呼び止められた。今回は捕獲出来るから報酬は無償で良いと言ったはず。

「ウノさん、鍋行くゆーてたやん。まず快気祝いでそっち行こうや。恩人の二人が来てくれんと始まらんやろ」

「いや、しかし……」

 もう打ち上げをやるには日が変わってしまった。せっかくなのだから二人で行けばいいと思ったのだが。

「……大人なら分かってーな」

 はいはい、二人きりだと恥ずかしい、場が持つか不安と、顔がそう言っている。まず予行練習として助手が欲しいと。こちらの気分は完全にお守りである。

 

「うふふ。ポピーはくうきのよめるレディですので! こんかいはおとなだけでたのしんでくるとよいのです!」

 これは参った。完璧な空気の読み方だ。

 ここでポピーが参戦したら、なし崩しでハッサクとオモダカまで来ていた事だろう。そうなっては肝心のアオキが不参加になる可能性が大だった。もしかするとこのお子様が誰よりも精神的に大人なんじゃなかろうか。

「おじさん、今日のお昼ご飯なんですけど私から提案が」

「まあ、考えてる事は同じだろうな」

 乙女心もつゆ知らず、うどん汁まで残らず完食する大きな子供おじさんを眺めながら、俺とヒメカは揃って近場のうどん屋候補を思い浮かべるのであった。




次は小話かキタカミかブルベリ学園かで迷っています
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