おじさん、ポケモンの事なら何でもするんですよね? 作:石転法師
(同人原稿作業でこっちの更新止まってました)
「う、ウマいっ……ウマすぎるっ……!」
ナンジャモはフォークを片手にぷるぷると震えていた。いつものぷるぷるとは違って今回は感動のぷるぷるである。
いつもの撮影なら一口食べていろいろとコメントを挟むものだが、今回ばかりはフォークが止まらない。視聴者に魅力が伝わるのでそれも良しか。
「っぷはー! 思わず天までシビルドン昇りしちゃいそうな甘さ! 甘いミツの濃厚さが凄かったですねー!」
「ありがとうございます~。そこまで言ってもらえると、ミツハニーちゃん達も喜びますね~」
新作スイーツの濃厚ハニーシロップケーキ、その作者であるカエデがおっとりとした口調でほほ笑んだ。一流の菓子職人でありながらジムリーダーとしてポケモントレーナーの実力も兼ね備える人物、それが彼女である。
そしてその横で大げさに叫んでいる、水色とピンクの二色ヘアーがあまりにも特徴的なナンジャモもまたジムリーダー。今回はリーダー同士のコラボ企画でセルクルタウンまで訪れていた。
「……ということでぇ! 今度の新商品はボクもメチャクチャお勧めなので、皆の者もセルクルタウンまで来たらぜひぜひ! それではカエデ氏、本日はありがとうございましたー!」
「こちらこそ、ありがとうございました~」
二人でにっこりとスマホロトムに手を振り、そこで今回の撮影は終わりとなった。
「……お、いたいた。ヒメ~」
配信を終え、黒いウィッグを被ってお忍びモードの地味な格好となったナンジャモ。セルクルタウンまで足を運んだ目的は無論カエデとの撮影の為だが、今日はもう一人会いたい人物が居る。撮影で集まっていた人混みの中からお目当ての女の子を見つけ出し、低めのトーンで声を掛けた。
「あー、今日もお疲れ様~。二人とも可愛かったよー!」
駆け寄ってきた人物の見た目は、いわゆるミニスカートタイプのポケモントレーナーで、名前はヒメカ。オレンジがかった綺麗な茶髪のツインテールも目を引くが実年齢は20代前半の、ファッションで学生をやっているだけの歴とした成人女性だ。彼女もナンジャモと同じ配信者だがいろいろあって休業中で、現在は代わりにとあるバイトに励んでいる。
「最近ナマで会ってなかったけど、元気そうで良かった良かった!」
「ジャモちゃん、最近は……パシオだっけ? あっちにも行ったりで忙しかったもんねー」
二人はジムチャレンジで戦って以来友人の関係だ。同業で歳が近い事や「とある共通の話題」もあり、現在まで交流が続いているのだった。
「聞いたよ~? ライム氏のジムチャレンジにも勝ったって、絶好調じゃーん!」
「そう、バッジ6個目! これも皆様のおかげでございま~す」
「ケンキョー! だけどそこが素敵~!」
イェーイと両手タッチで喜びを分かち合ってはしゃぐ。そんな女の子同士の仲睦まじい姿に、群衆の一部も目を引かれだしたようだ。格好こそ地味にしていても顔が良いからどうしたって注目されてしまう。絶世の美女はツライぜ……とはナンジャモの弁。
「うぉっとと、今はお忍びの姿だった。話は移動しながらにしよかー」
「そうだね。こっそり、静かにね」
二人とも口の前に一本指を立てた。そんな互いの姿が面白かったか、ニシシと悪戯な笑みを浮かべながらセルクルタウンの外れへと歩き出すのであった。
『グルルァン!』
鈍重そうな見た目からは想像できない、木々の間を縫うように飛来する爆速の突進。避けるなんて不可能、ならば受け止めるしかない。
「ふん、ぬッ!」
体を前傾させて両手を前に。勿論真正面からぶつかったら体中の骨がへし折れるだろう。だから、側面からの力と体の捻りを使って可能な限り斜めに逸らす!
『カッ⁉』
成功!
カイリュー側も信じられなかったか、驚愕の声を上げて斜め後ろにすっ飛んでいく。もっとも、成功といっても衝撃を全部逸らせるはずもない。俺自身も胴体に走る痛みにうずくまる羽目になった。
「あー……しんど」
『リュゥー……!』
『ドラァ~~……!』
カイリューが大慌てで俺の下へと戻ってきた。続いてのっそのっそと全力で駆け寄って来たのは俺の手持ちの一体であるヤドラン。いやしのはどうと言う、相手の体力を回復する技を覚えられる。だから今回の訓練の為に控えさせておいたのだ。
「はー、効くわ……ありがとな」
『ヤァン、ヤン』
俺はどうも野生のポケモンからダイレクトアタックされがちな星の下に生まれてしまったらしく、いつ狙われても自力で凌げるように日頃から訓練していた。世の中には10まんボルトを喰らって平然としている子供もいるらしいが、俺もいつかその域に達するだろうか。
ポケモンに極力関わらない生活をすれば良いじゃんと言われた事もあるが、特に怪獣系のポケモンを愛するマニアとして、彼らから離れる気は全く無い。
「み、皆の者。ご覧になっただろうか……! 今、衝撃の映像が流れました……!」
唐突に不吉な声がした。幻聴と思いたかったがそうではない。これは間違いなく俺の嫌いなあいつの声だった。
「うーん。このおじさん、相変わらずめちゃくちゃな事してますね~」
がさがさ鳴らして草むらの中からひょっこり飛び出してきた二人の人影。
まず一人はもう見飽きた顔のヒメカ。俺が自営業で適当にやっている「ポケモンなんでも屋」で、バイトとして適当にアシスタントをしている女だ。
そしてもう一人。頭が水色とピンクでコイルのおかしい奴、以前いろいろと因縁が有って、会えば大体面倒な事になるから極力関わりたくない女、ナンジャモ。出てきた時の台詞から、もう既に面倒なのは確定している。
「……おい、これ既に配信中か?」
「いんや、無許可だから一応録画にしてるよん。ウノ氏が暴れて放送事故起こしたらボクの首も飛びかねないし~」
そこまで分かっていたら許可を取ってから来いと、そして許可なんか出すわけがないからこうしているのだろう。もう暴れていいだろうか。
「おじさんストーップ! とりあえずボールから手を放して。良い画が撮れそうだったからついカメラを回しちゃったのは謝ります。でもでも、ジャモちゃんと二人で来たのはちゃんとワケがあるので、まずは話を聞きましょう、ね?」
いつになく真面目な顔で俺の顔を見ている。ヒメカだけでなく、ナンジャモまで。そうなると俺も頭ごなしに怒りづらいというものだ。
「……オーケーを出すまで今撮ったのネットに上げるんじゃねえぞ。それで、話は?」
俺もまだ体を痛めつけたばかりだ。カイリューとヤドランをボールに戻し、キャンプテーブルの簡素な椅子にどっかり腰掛ける。
二人も向かいの席に座り、憮然とした顔でヒメカがこう切り出すのだった。
「……セルクルタウンの近くにヤバいトレーナーが居るって噂があるの、知ってます?」
「いや、初耳だが……俺って言いたいのか?」
「イエスだね」
ナンジャモは腹の立つにやけ面で俺の問いを肯定した。俺が不審者扱いされているのがよっぽど愉快か。自分だって大概不審者みたいな格好のくせに。
「ちっちゃい小屋の周りにめちゃくちゃレベルの高そうなポケモンがうろついてて怖いって。トレーナーが放任してるからいつか襲われるかもってちょっと問題になってるらしいんですよ」
「……あー、レベルの高いトレーナーだろ。カエデさんじゃねえか?」
「カエデ氏は放し飼いにしてないっしょ。ウノ氏だよ、ウ・ノ・氏! そこにあるじゃん、いかにも自分でクラフトした感が漂ってるちゃっちい小屋も!」
無理のある擦り付けなのは分かっていたが、一瞬ぐらいは現実から逃避したい気持ちを分かってほしい。
ベッドと収納棚と、飯食ったりパソコン見るためのテーブルぐらいしか無い小屋に住んでいて、バンギラスやガチグマなど、育てたポケモンを物拾いの金策の為に放し飼いにしている。そしてセルクルタウン在住。そんな奴、まあ俺に違いない。
「……そうか、そんじゃまあ、引っ越し時か」
のんびりできるいい町だからと近い所に住んだのが良くなかった。放牧して金策を止める気はないので次はチャンプルタウン辺りでもっと遠めの場所に。
「とか言うと思ったけど、そんな事しなくていいじゃんとも思ったのが私達なワケですよ」
「私、達だって? お前もか? どういう風の吹き回しで」
「どういうって、ボクのヒメを預かってるんだからさー、ちゃんとしてもらわないと困るじゃん?」
「要するに誤解されたままなのはイヤって事ですよ。言わせないでください」
なるほど、だんだんと話が見えてきた。つまりこいつらは危険人物への突撃インタビューという形で俺をネタにして動画を作ろうとしているのだ。
「……放し飼いのカイリューと生身で戦ってるヤバいトレーナーの画が撮れたんだろ。誤解でもなんでもなくねえか」
「ここから何かこう、いい話に持ってくのがボクらの腕の見せ所さんでしょ?」
「それと今回の動画についてなんですけど、大事なお話もあるんです」
ヒメカが真剣な顔でぐいっと前に乗り出した。そうなると、俺も目を合わせて聞かざるを得ない。
「私のアカウント停止、解けたんです」
「……ほう」
そもそもヒメカが配信を止められた理由は、立ち入り禁止の危険区域なエリアゼロ付近で面白半分に撮影を行った挙句、事故で落ちてしまって関係者各位に迷惑をかけたペナルティだったか。そしてナンジャモと一緒にカメラを回しながら出てきたのだからそういう事になる。
「ヒメも反省してるし、ウノ氏と一緒にリーグの人の手伝いもしてあげてたわけじゃん。そこに、ボクの口添えもあって解いてもらったんだよ」
特に「ボク」の部分にアクセントを置いて、ナンジャモは誇らしげにドヤる。そこはどうでもいいが、つまりヒメカがまた配信業を再開するならば。
「なんでも屋のお手伝いは止めませんよ」
「止めないのかよ。配信業に戻ればいいじゃ……」
「それをいつまでもやれるワケないのにって言ってたよね、昔のウノ氏」
「む……」
それは確かにそう。ナンジャモだって若いから許される今のキャラを中年になってもやらないだろう……やらないはずだ。
「動画配信はこっちのお仕事をしながらでもできるよね。だって、おじさんもほとんど暇だぞって言ってたんだから」
「まあ、言ったな」
金は換金アイテムを集める方が遥かに稼げる。なんでも屋はいい歳して無職の物拾いって肩書きがきついってのが一番の理由だ。
「おじさんはまだ私の事を半人前だと思ってるだろうけど、これを本業にしようかなって思ったんです。バイトから卒業して」
「……卒業ってのは、独立するって事か?」
「違いますよ。お前はまだまだだって、いつも私に言ってたでしょ」
「ウノ氏さー、そこでそれは無いでしょ。ボクがここに居るもう一つの理由、キミってたまに思ってもないくせにヒドい事言うからだよ」
いろいろと認めたくない部分はあるが、ハイハイで適当に済ませられる空気でない事は分かる。俺だって皮肉を言うのは好きだが心を傷付けたいわけではない。特に目の前の相手には。
「……まず、卒業なんてもんはない。なぜならこの仕事にバイトという形態はないからだ」
「え……じゃあ私ってどういう扱いだったんですか?」
「なんか自称バイトのアシスタントだ。だから勝手に助手でも何でも名乗ればいい。報酬の折半も変わらないし、もう戦力としてそれなりに頼っている」
「そ、そうだったんだ……!」
ヒメカのポケモンも殆どが最終進化まで辿り着き、数値で言うと平均40レベルを超えたか。そこらの野良ポケモンならもう余裕だろう。相変わらずタイプ相性は咄嗟に出てこないようだが。
「そしてなんでも屋自体も俺がいつまでやってるか分からんぞ。気まぐれで廃業するって言ったらお前も一緒に無職だ。分かってるか?」
「もうじゅーぶんに分かってます。ずっとポケモンばっかり追いかけてるいい歳の大人だって」
俺もポケモン馬鹿だが、やっぱりこいつも大概の馬鹿なようだ。真面目に生きろなんて自分を棚に上げて他人に言う資格は無い。この意思を曲げる事は俺には無理だ。
「はあ……おい、ナンジャモ野郎」
「うい、なんじゃこの野郎」
「その撮影の動画、俺も口出す権利はあるんだろうな?」
「オーケーだよ。ま、記念すべきヒメの電撃復帰コラボ動画にもなるわけだからさ~、変な編集なんかしないって」
俺がなんでも屋を始めた時も、良いパシリが居なくなるとぶつくさ言いながらビラ広告を作ってくれたのがナンジャモだ。自称人気インフルエンサーとして、コラボ相手のイメージが悪くなるような動画は作らないと思いたい。
「……そんじゃまあ、撮影はご勝手に。でも女二人のノリには巻き込むんじゃねえぞ」
「よっしゃー任せとけぃ! それじゃあヒメ、ちょっと離れたところからパーンで!」
「はい! おじさん……これからも、よろしくお願いします!」
「ああ……よろしく頼む」
ヒメカがぺこりと大きく頭を下げた。そしてナンジャモと共に木の陰へと駆けていく。あちらが肩を組んでどーもどーもとスマホに挨拶する中、俺はというととりあえずシャツを変え、サボっていたヒゲ剃りでもするかと小屋に戻るのであった。
『……という事で、セルクルタウンに潜む謎の鬼の正体とは!』
『この私、ヒメカちゃんもお世話になっているなんでも屋さんなのでした~!』
『ちょっと変わったヤツだけど、トレーナーとしてはメガトン級に強いので、困ったら相談してみると良いカモ!』
『私に会いたいだけの人もぜひぜひ! 1時間で3000万円です!』
『……ポケモンに関係のある仕事なら、3000円からお受けします』
『いいねとチャンネル登録はこちらをポチっとな! 皆の者、次回の動画もよろしく~!』
「……ほー。なあ、あの件だけど、この人さ呼んでみるのはどうだべ」
「いーんじゃないスかねー」
女は気だるい口調でそう答えた。人のスマホを勝手に覗きこんでるんじゃねえ。彼女は内心そう思っている。
「なんせ3000円だもんなあ。変な駆除業者よりお得だ」
「でもこーいうのって大体追加料金取られるもんスよー」
「まぁま、とりあえず聞いてみればいいべ。よろしく」
「ういース」
言い出しっぺのお前がやれよ、これだからスマホも持っていないオヤジは、と彼女は思っていた。しかし意見については賛成である。だからメール機能をタッチし、このような文面を記したのであった。
「アカツキのガチグマっていうヤバいのが復活してー」と。
ということで次回キタカミへ