おじさん、ポケモンの事なら何でもするんですよね?   作:石転法師

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結局ナンジャモのせいで面倒な依頼が入ったおじさんは、ウキウキでキタカミの地に降り立つのであった。


ガチガチパニック!(2)

「うわぁ凄い……まさにザ・田舎!って感じの田舎ですねー」

 ヒメカは都会に初めて出てきた田舎者のように興味津々な様子でのどかな田園風景を見渡した。かく言う俺も失礼ながらこんなトラディショナルな田舎が残っていたかと感動すら覚えたものだが。

 キタカミの里。アカツキのガチグマという非常にレアで狂暴なポケモンに困っていると、ナンジャモの動画を見て頼みましたという女性からの依頼で飛んで来たのがここというわけだ。

「せっかく乗せてくれたユーリには悪いが……やっぱり体はしんどいな」

「でしたねえ……まだ縛った跡が残っちゃってるなあ」

 どうやってここまで来たかというと、カイリューだ。いつものギャラドスでは流石に遠すぎて遅いので、地球を16時間で1周する神速の飛行スピードを持つ彼女に頼らせてもらった。ただ捕まってるだけじゃ振り落とされて死ぬので、俺達二人の体をぐるぐる巻きに縛り付けてきたわけだが。

 ついでに、ずっと頑張ってきたギャラドスにはしばらくファームでのんびりしてもらうのも良いだろうか。

 

『おお……懐かしきワタクシの故郷ではございませんか!』

 

 ボールの中からでも豊かな自然の匂いを感じたか、飛び出てきたのはヤバソチャだ。体の捻りでお茶を撒き散らして喜びを表現している。気持ちは分かるのでまあ好きにさせておく。

「ホウジちゃんもテンション高いのは……そっか、キタカミの里に生息してるポケモンだからだね」

「ああ、新発見の噂を聞いて以前ここで捕まえた。その時はアカツキの話なんて聞かなかったが……」

「だよね。聞いてたらおじさん、絶対捕まえに行ってたでしょ」

「否定は全くしないな」

 今も手持ちにいるガチグマは俺のお気に入りの1体だ。ただでさえゴツいビジュアルと可愛らしさが同居した素晴らしいポケモンなのに、その特殊個体が居るという。本来なら遠出すぎて絶対断る依頼だが、是非にと引き受けさせていただいた。

 

「そういえば、今更なんだけど……」

 ヒメカはタイヤが積まれた田舎特有の謎オブジェにすとんと腰掛けた。俺も短時間の高速フライトが堪えたのでコンクリートブロックに尻を置く。衛生面は最悪だろうがどうせ俺自体がヨゴレだし良いだろう。

「そもそもおじさんが持ってるガチグマも他で見ないですよね。いったいどこで捕まえたんですか?」

「本当に今更だな」

 しかしある程度知識が付いたからこその疑問でもあるのだろう。例えばジムリーダーのカエデさんは虫タイプの他にヒメグマも使うが、手加減無しの時でもリングマ止まり。ガチグマまで進化させる方法は未だに見つかっておらず、野生での出現報告も無い。

「まあ……お前には言っても良いか。変な話をするが、聞くか?」

「あ……! 聞きます、聞かせてください!」

 ガチグマの謎への興味か、あるいは俺の一言が嬉しかったか。ヒメカはキラキラした目で俺の話を促した。

 

「実は……記憶に無い」

「んえ?」

 期待させていきなりこれ。間抜けな声も無理からぬ事か。

 

「あの殻が付いているヌメルゴンもそうなんだが、昔のシンオウ地方に居たという話を聞いて、なんとかならないかとめちゃくちゃしたのは覚えてるんだが……」

「めちゃくちゃって、例えば?」

「扉に向かって波乗りをしたり、道具の13番目でセレクトビーとかそういうやつだ」

「せれくとびー……?」

 ヒメカが何言ってんだこのおっさんと怪訝な表情を浮かべたが、事実なのでそう答えるしかない。

「何言ってんだって感じだけどとりあえず最後までお願いします」

「と言っても、ほぼ終わりだ。めちゃくちゃしてる内に、真っ暗な空間に入り込んだと思ったら意識が吹っ飛んで……気が付いたら服がボロボロになってて、ガチグマやヌメルゴンが手持ちにいた」

「う、うーん……」

 流石に何もかも嘘臭すぎるか、腕を組んで考え込んでしまうが無理もない。逆に俺がヒメカからこう聞かされたら絶対に信じないと思う。何しろ俺自身もどこまで本当か自信が無いのだから。

 

「……夢の中でポケモンを捕まえたとか? そんな事ある?」

「それは、あった。カイリューのマルチスケイル特性とかな、そういうのを欲しがった奴らはみんなで同じ悪夢を見たもんだ」

「あーそっか、夢特性って呼ぶ理由のやつ……」

 今となっては良い思い出……にはならない。やっぱりもうアイスを積んだりとかそういう苦行はやりたくない。

「まあともかく、覚えてないんだ。覚えてないが手持ちに入ってるからヨシとして、可愛がって今に至る」

「ポケモンと一緒だと不思議な出来事も慣れちゃいますかー……」

 そういう事だ。世の中には人間の理解を超えたポケモンも数多い。気が付いたら手持ちに入っているポケモンもいるかもしれない。

 

 さて、話はこれで終わりと、ヒメカは立ち上がってスカートの汚れをぽんぽんと払った。

「じゃあ野生のガチグマとは今回が初対面って事ですね。行きますかー」

「そうなるな。行くか……の前に」

 ヤバソチャを出しっ放しにしていたのを思い出す。どうしたっけと辺りを見回せば、いつの間にか茂みに紛れてすやすやと寝息を立てていた。起こすのも悪いのでそのままそっとボールに戻し、依頼者との待ち合わせ場所である公民館前のポケモン回復サービスへと一路向かうのであった。

 

 

「おー、ガタイの良いお兄さんとブレザーの女の子。やば、動画と同じっすねー」

 そういえば、こんなだった。いつもスマホを弄っているヤンキー風味の姉ちゃんが受付で、それが妙に印象に残るのがキタカミのポケモンセンターだ。その彼女が今回の依頼人なのだ。

「この度はご依頼いただきどうも。わざわざパルデアに居る私を呼ぶほどの難物ってわけですか」

「まあ私っていうか里全体からの依頼なんですけどー、そんぐらいヤバいヤツっすよー。農園がぶっ壊されてリンゴが全部ダメになったりとか」

 それほどのヤバさならもうちょっと緊張感のある話し方にしてほしいのだが、回復サービスにはいろんな客が来るから心もスレてしまうのだろうか。

 

「……実は、ガチグマなら私も持ってましてね。これとは違いますか」

 ボールのままヤンキー姉ちゃんにガチグマを渡す。そのままパソコンで詳細を見られるはずだ。

「むしろこっちを初めて見るわー。アカツキは額の月が赤くてもっとグワーって感じっすー。二足歩行で歩くんで」

「ぐわー……」

 ヒメカはぐわー感を想像で再現しようと両手をうろうろさせた。それは放っておくとして、思った以上にモンスターらしいモンスターのようだ。

 

「一回は捕獲されたとメールにありましたが、捕まえた人はこの里に?」

「いやー、回復してあげた時に話したんだけど、林間学校で来てた学生ですかねー。お兄さん達と同じパルデアの子っす」

 それを聞いて、俺には何か覚えがあるような気がした。パルデアの学生といえば少し前にも依頼を受けていた、その時だ。

「あの、ペパー君とボタンちゃんの友達? めちゃくちゃ強いからテラスタルレイドでも呼びたかったけど、林間学校に行ってるとか言ってましたよね?」

「それだ。たぶん絶対その子供だろう」

 たまに、いるのだ。トレーナーになるや瞬く間にポケモンリーグを突破し、片っ端から貴重なポケモンも捕まえていってしまうご当地天才キッズが。

「じゃあボタンちゃんに聞いておいてもらいますか。詳しいデータがあったら教えてーって」

「データがあるに越したことはないな。一応頼む」

 ヒメカの奴、いつの間にかアドレスを交換していたらしい。恐るべし女のネットワーク、いや俺が人との絡みが無さすぎるだけか。

 

「住処ですけど、里の北東の森が怪しいかなー。前のもそこに居たらしいんでー」

「情報提供に感謝します。とりあえず、被害に遭ったって話のリンゴ農園にでも行ってみるか」

「そうですねー。何か手がかりが残ってるかもだし……うんちとか」

「こら」

 まあしかし、汚い話だが食うだけ食ったら出すわけで、もしその痕跡が残っていたら臭いで追跡するのも簡単だろう。何しろこちらには嗅覚に優れた同族もいるのだから。

「よろしくおなしゃーす。謝礼は里の募金から出させてもらうんでー」

 たぶん額には全く期待できないがそれはいい。アカツキさえ捕獲できれば俺の中ではチャラだ。

 アカツキのガチグマ捕獲駆除、仕事開始。闇雲に探すよりまずは行動域を探るべく──。

 

「ぶっ飛んで来たからお腹空いてないです? あそこにりんご飴の屋台がありますよ」

 里の名産品であるりんごを丸ごと使った菓子で、まずは腹ごしらえをする所から始める俺達であった。




私もバグ技で笑ってた世代でした
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