おじさん、ポケモンの事なら何でもするんですよね?   作:石転法師

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クマが大好きなおじさん、キタカミを行く


ガチガチパニック!(3)

「うぁー、ここもザ・大惨事って感じですねー……」

 ヒメカの中では「ザ」を付けるのがマイブームなのだろうか。それはどうでもいいが実際酷い有様だった。

 最初に見たリンゴ農園では木が倒れて果実とカジッチュが散乱しており、俺達がキタカミに来るほんの少し前にやられたというこの作物倉庫も、壁は凹み扉をむりやりこじ開けたような跡が残っていた。

「ここまで積極的に人間のエリアに入ってくると、駆除要請も当然か」

 駆除依頼自体は珍しくもない。町の廃棄物に惹かれて集まったベトベターやヤブクロン等の有毒なポケモンをどうにかしろ、とか。しかしヒメグマ系列のポケモンは基本的に人里離れた森を縄張りとし、そこを離れる事は滅多にないはずだ。

「一応、人やトレーナーのポケモンがケガしたりとかは無いみたいだけど……」

「そうなるのも時間の問題だろうな」

 こうまで金銭的被害が出たら力ずくで止めるに決まっている。勝てればいいが、簡単に勝てたら俺なんか呼ぶまい。

 

「ところで俺は一つ気付いた事があるが、お前はどうだ?」

「うーん、そうですねー……」

 問われたヒメカは一口齧られたキャベツや芋などが転がった倉庫内をきょろきょろと眺めて歩き回った。

「あ、うんちがない?」

「……まあ、俺の方と近からず遠からずか。食い物目的ではなさそうって事だ」

 ガチグマは見ての通り体が大きいので食事も大量だ。俺が放牧しているのも、その辺の木の実である程度食い足してほしいからだったりする(もちろん人のゴミは漁らないように躾済みで)。これだけ食料が落ちていたらその場で食い貯めするとか巣に集めるとかしそうなものだが、ほんの一部をおやつ程度に食べてその場を立ち去ったように見えるのだ。

「たしかに、これだけ大自然なのに、食べ物が足りないから人の所に来ちゃったなんておかしいかも」

「特定の何かの味を覚えてそれ目当て……ってケースもあるけどな。例えば、人の肉とか」

「う……」

「人の被害が無いからこのアカツキは違うだろうがな」

 しかしガチグマでは無いがそういった事件も実際に記録されている。人に友好的なポケモンも数多いが、飢えた肉食生物にとって他の生き物は等しく食える肉でしかない。

 そして雑食の頂点である人間が、あれは食うなこれは食っていいなんて他の生物に言う資格は無いのだと思う。無論、自分が食われそうになったら抵抗させていただくが。

 

「捕まえられたら、ちゃんと懐いてくれるといいね」

「その為にもまたたっぷりおやつを買っておかないとな」

 

 

 さて、ここに居ないのは確定なのだから、推察は歩きながらだ。

「ジュウゴ、この倉庫に残ってるアカツキの匂いを追ってくれ」

 嗅覚の強い同族、アカツキではないガチグマをボールから解放した。

『この女の子のにおい、わかった。それとここの野菜、たべてもいい?』

 ぐおんと返事をしたガチグマが、辺りに散らばった野菜を見つめてぴたりと止まる。セルフでおあずけが出来るなんて、手前味噌だがとても賢くて可愛い子である。

「んー……食べ残しなら良いか。良いよな?」

「こういう時だけ私を巻き込もうとしないでください。まあ捨てちゃうだろうし良いと思うけど」

 ヒメカもそう言うのでこっそり頂くとする。ガチグマに食われた物をガチグマが食うのだから被害は変わらない。食いかけの野菜を指差してやると、ガチグマは大喜びで飛びついたのだった。

 

 

「……じゃあ、お腹が空いてるんじゃないとしたら? ただ暴れたいお年頃?」

「ガチグマまで成長するような歳でなあ……」

 いい歳して反抗期、まるでどこぞのなんでも屋の男のようだ。だとすると気が合うかもしれないが、期待はしないでおく。

 そして俺の方のガチグマはというと、鼻をふんふん鳴らしながら自信満々に里の西へと進んでいた。以前発見されたのは北東の森らしいが、西。まあ別個体が同じ場所を縄張りにする保証なんてどこにもないだろう。

 しかしこの原っぱをどこまで歩く事になるだろうか。途中に何の建物も無いから補給が面倒そうだ。

 

「おじさん、後ろ! アリアドスが来てる!」

 そうこう話している内にまた野生のポケモンが数匹近寄っていた。大自然のせいかさっきからよく虫ポケモンに絡まれる。

「はあ、何でこの地方には虫よけスプレー売ってないんだよ……ジュウゴ、いわなだれ!」

『ぐがあむ!』

 ガチグマが地面を剛腕で叩き付けて岩塊を生み出す。これを見たアリアドス達は受けたらヤバいと本能で悟ったか、あっという間に逃げてしまった。

 

「今回、めっちゃポケモンが寄ってきますねえ」

「田舎だからヨソ者には厳しいのかもしれんな。何なら、お前は里で待機してていいぞ」

「は? 何でそういう事言うんですか?」

 ヒメカは一瞬で表情を険しくして下から睨み付けた。

「いや、道中巻き込まれて無駄に怪我するのも嫌だろうと。せっかく来たんだから動画撮ってたって……」

「ケガなんて自己責任です! おじさんこそ、結構うっかりしてるんだから私も注意しておかないとダメじゃん!」

 確かに今も先に気付いたのはヒメカだ。俺だって注意はしているが、真後ろだけはどうしても気付かない事もある。

「分かった、分かったよ。お前にも何度か助けてもらってる。余計な気遣いをして悪かった」

「……いや、心配してくれたのは嬉しかったですけど」

 ヒメカの表情がふっと柔らかくなった。

「でも私は助手なので、最初から最後まで付き合いますよ」

 そこまで覚悟を決める仕事ではないと思う。しかし、俺だってその気持ちを無碍に扱う気はない。

「そりゃ、ありがとよ。別に特別手当とかは出ないけどな」

「ふふーん、物拾いおじさんには最初から期待してませーん」

 その心意気に素直に感謝して、俺達は再び草原を西に向けて歩き出す。

 

 キタカミの里はパルデアと同じようにぐるっと一周して帰って来れるようになっている。西に行ったら北へ、北へ行きついたら東へ。東に行ったら、その先は森だ。

 結局、以前のアカツキが居たという北東の森の近くまで、長々遠回りをして辿りつく事になった。

 そして、俺達はそこでとんでもない光景を目の当たりにする。

 

「うっそぉ……めっちゃくちゃ……」

 へし折れた大木に、地べたに転がる野生のポケモン達。森は壊滅状態だったのだ。

 そしてその奥深くからは、聞き慣れたガチグマの声によく似た特大の叫び声が響き渡っていた。

『あの子のにおい、すごい。この奥にいるよ』

「ジュウゴ、森の中か? そうだろうな」

 ぐおんぐおんと鳴き声で教えてくれるが、流石に鼻が利かなくても分かる。ビリビリと震える空気でヤバい雰囲気は十分感じていた。

 

「ヒメカ、ここでキャンプを張っておこう。いきなり森の中で襲われたらマズい」

「わ、分かりました。みんな、出ておいでー」

 フワライド、マスカーニャ、ドオー、デカヌチャン、クワガノン、ラプラス。改めて見るとなかなかのメンバーだ。後はトレーナーとポケモン双方のレベルが上がればチャンピオンランクも夢ではないか。俺から言わせると、ちょっと破壊力が物足りなくはあるが。

「今日はここで野宿ですか? それなら木の実とか集めてくるけど」

「いや、俺は奥に入ってアカツキをここに誘導する。お前はフワライドで上空に居てくれ」

「誘導って……それめっちゃ危なくないですか⁉」

「だが、こんな薄暗くて木も倒れまくりの中で戦う方がもっと嫌なんでな」

 足を取られる。ボールも投げづらい。ポケモンバトルは平らな地面でやるべきだ。

 それに目標はアカツキだが、こういう環境だと草やゴーストタイプ等の搦め手が強いポケモンの住処にもなりやすい。それがバトル中に横やりも厄介なのだ。

 

「……分かりました! 私は何かおかしな事があったら電話ですね?」

「そういう事だ。ああ、電話といえば……ボタンからメッセージはあったのか?」

「あー、ちょっと待ってください。えっと、あんにゃろー既読も付けてない、だって。寝てるのかな……」

「学生が昼間からか? いや、ポケモンが強い奴は大体おかしいからな……」

「そうですね」

 アカツキの情報は得られなかったが仕方がない。どうせ俺の人生は行き当たりばったり、アカツキの事は拳の語り合いで知ればいいのだ。もちろん、流石に死ぬので俺自身の拳ではないが。

 

「そんじゃあ行ってくる。お前もヤバいと思ったらすぐ逃げる気で居ろよ」

「うん。おじさんこそアカツキに会ったからって興奮しすぎないでよ」

 確かに、俺にとってはそれが一番危険かもしれない。ゆめゆめ忘れないように今の言葉を心に留めておく。

「ホウジ、後ろを頼んだぞ」

『殿軍ですな。お任せあれ!』

 アカツキもノーマル・地面なら、やはり草・ゴーストのヤバソチャが最適だろう。この子に背中を任せ、俺はワクワクを懸命に抑えながら森の奥へと踏み込んで行くのであった。




次回、クマに大興奮のヤバいおじさん、果てる
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