おじさん、ポケモンの事なら何でもするんですよね? 作:石転法師
――私はガチグマである。名前はどうでもいいが人間は私をアカツキとそう呼んだ。
私の思い出は最初からろくなものじゃなかった。タマゴから生まれたばかりでいきなり人間から捨てられたのだ。
もうボックスがいっぱいだからとか、3ブイ程度はもういらない、だとか言っていたのはぼんやりと覚えているが、それももうどうでもいい。
同じタイミングで私の他にもう一匹の男の子も逃がされていた、そっちの方が重要だ。
捨てられた者同士で、人間がリングマと呼ぶ姿に進化するまで、あいつとは食事も寝る場所も一緒で生き抜いてきた。
私のダーリン。あいつはそう言われるのを嫌がっていたけど、きっと照れ臭かったのだろう。何と思われようとあいつが私の運命の相手に決まっている。
なのに、あいつは私を置いてどこかへと旅立ってしまった。
俺にはもっと強い姿があるってずっと言っていたから、それを探しに行ったのだろう。でもそれは私と離れてまで求めるものなのか、私には理解できない。
だからもちろん匂いを頼りに追いかけて、追いかけて、追いかけて、辿り着いたのがこの暗い森の中。あいつの匂いがいっぱいで、匂いもここで固まっている。だからこの辺りのどこかにいるはずだ。
毎日、毎日、大声であいつの名前を呼んで歩き回った。昼間は人間の縄張りの方まで出て行って、夜はあいつの匂いがする泥の上で眠った。
会えたところで、もうあいつは私なんてどうでもいいのかもしれないけれど、それならそれで5発ぐらいぶん殴っておけばいい。とにかく会わない事には先に進めない。
そんな生活の間に気が付いたら体が大きくなっていて、大声を出すだけで木や建物が吹っ飛ぶようにもなっていた。もしかしたらこれがあいつのなりたかった姿なのかもしれないけど、再開以外私にはどうでも良かった。
そんなある日、奴は来た。
私が倒してしまった木の間から、オオタチのように体を細めてすり抜けて。
あいつでもない、私でもない、だけど同族を引き連れた男が。
「これが、アカツキのガチグマか……! 良い……!」
なんか分かんないけど、頭の中で声がしたような気がした。こいつはぶっ飛ばしていい人間だからぶっ飛ばせ、と。
「暴れるなよ……そう、いい子だ……」
決定。こいつはなんか気味が悪いからぶっ飛ばす。
――ロトロトロト、ロトロトロト……!
『おじさん、アカツキに会った? 会ったよね?』
「ああ? 今会ったからいいが、潜伏中に掛けてきたらブチ切れる所だぞお前」
男の体から変な板が飛び出て、違う人間の声がする。男はなぜかそれと怒りながら話している。
『ごめんなさい。ズームでおじさんだけ見えたんだけど、何か手の動きがキモかったから……』
「ん……そうか……」
不気味にぐにゃぐにゃと動いていた男の手が落ち着いた。荒かった息も少しゆっくりになった。
「……今からそっちに連れてくから、心の準備をしておけ」
『わかりました。電源は切らないでくださいね』
男の後ろに居た緑色の小さいやつが弾むように前に出てきた。どうやらその貧弱そうな体で私とやる気らしい。
面白い。私は男の前にこの小さいのを叩きのめしてやると決めて、後ろ足で立ち上がった。
「ホウジ、ちからをすいとる!」
「ははっ!」
男の命令で手下の緑色が体を光らせた。そいつは私に何かを振りかけたようだ。
だけど、それが何だ。
「ガアッ‼」
確かに力が抜けていく気はするが、私の大声の前では無意味だ。
「ヤバッ⁉」
「んなっ……!」
緑色も男もまとめて吹っ飛んだ。そのまま叩き付けられて伸びるかと思ったら、男は上手く受け身を取って立ち上がる。
「ハイパーボイスの、特殊型……⁉ しかもゴーストに当てた……きもったまか……」
何かぶつぶつ言っているが関係ない。動いているなら動かなくなるまで痛めつけるまで。
あいつの事を考えると目の前が真っ赤になる。額の辺りに熱が集まってくる。この姿になってから目覚めた私のとっておきだ。
「……また何かやべえ。ホウジ、一度戻って……!」
『おじさんちょっといい⁉ やっとボタンちゃんが友達と繋がったって! あのね、アカツキの必殺技が……』
「ああ? それがたぶん今撃たれるやつだ馬鹿野郎!」
「カッッ‼」
光は男に向けて真っ直ぐ飛んだ。そのまま行けば、体を貫いて死ぬ。
だけどその前に、緑の小さいのが立ちはだかった。
「やっ……ば……」
小さいのは器だけの姿になって地面に落っこちた。
「ホウジ……すまん!」
男は小さいのを丸い物の中に戻す。まだ丸い物は持っているから次が来るかと思ったら、男は私に体を向けたままでじわじわと後ろに下がりだした。
『何か赤いのがビーっと光ったけど大丈夫⁉』
「大丈夫じゃない! 今から逃げる!」
『それがたぶんブラッドムーン! ノーマルのデカハンマーみたいな特殊技らしいです!』
「ああ道理で強いわけだ! そっち行くから目印出しとけ!」
『はい!』
空に雷のような光がバチバチと鳴りだした。男はそれを見て全力でそっちに駆け出す。木が倒れてて私でも歩きにくいのに、ひょいひょいとルカリオのように軽く飛び越えていった。
人間にしてはなかなか鍛えているようで、倒し甲斐がある。どうせこの男は放っておいても戻ってきて面倒そうだ。だから私は、こちらから行ってやる事にした。
見られていたせいでおじさんの痴態は回避されました