おじさん、ポケモンの事なら何でもするんですよね?   作:石転法師

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キタカミの里から帰還したおじさん達はまたポケモン放牧不審者に戻っていたのだった


催眠なんて効くわけないわ(1)

「……つまり、ハルトが捕まえたアカツキを追いかけて、新しいアカツキが来ちゃってたと」

「そゆこと。愛のパワーって凄いよね~」

「……で、今その女の子の方はなんでも屋さんが持ってるガチグマの方に夢中、と」

「うん、そゆこと……」

 

 ヒメカは苦笑いをボタンに向けた。

 当人(熊)が満足しているのだから何よりなのだが、こうもあっさり心変わりされると元のアカツキの方が哀れというものだ。

 ファッション女学生のヒメカが助手を務めるポケモンなんでも屋。つい先日キタカミの地まで遠征に行き、その際に情報提供者として頼ったのが、ピクニックテーブルを挟んで向かいに座っているボタンである。こちらはファッションではなく本物のパルデアの学生だ。

 現在はそのお礼として、キタカミ土産の色が毒々しい餅とお茶を楽しみながら談笑をしていたところだった。

 

「それよりなんですけど、ヒメカさんずっとニヤニヤですよね。何か良いことあったり?」

「え? いやだなあ、分かっちゃうかー。しょうがないからボタンちゃんには教えてあげちゃおうかなー?」

「んや、別にそこまで聞きたくないです」

 若干気味悪がって引いていたボタンだが、お構いなしにヒメカは語った。

 なんでも屋の男から晴れて助手と認めてもらったこと。そして男から乞われて(言わせて)他の地方にも付いて行くと決めたことを。

 

「……はあ、良かったですね。っていうか最初からそういう関係だと思ってましたけど」

「ふふー、おじさんって照れ屋さんだから」

「そしておじさん呼びも変えない、と」

「んーまあ、名前は聞いたんだけどね、照れちゃうから。私も」

(どいつもこいつも色ボケかよ……)

 熊も人も色恋沙汰の中、過剰なまでのイーブイ愛を拗らせるしかないボタンは内心で毒を吐いた。

 もっとも、陰の集団の中で団長をやっている彼女は、その気になればいくらでも相手が見つかるはずである。あまりにも距離感がおかしい身内のせいで無意識に男を遠ざけてしまうのかもしれない。

 

 さて、そのおじさんことなんでも屋の男であるが、談笑する二人から少し離れた所で激しい火花を散らしていた。

 強いと噂のなんでも屋の所にボタンが行くと聞いて、是非とも戦(や)りたいと燃えに燃えて強引に同行してきた一人の少女とである。

 

 

「ジャラランガ、ボディプレスだよ!」

「ボー、りゅうせいぐんだ!」

 空から飛来する大量の隕石群。当たれば即死、だがジャラランガはそれを間一髪で避けてボーマンダに肉薄した。

「チッ! こんな時に……!」

 当たれば確実にこちらの勝ちだったろう。しかし幸運の女神は同性が好みなのか、相手の方に微笑んだ。

 ジャラランガの硬い体を叩きつける全力の格闘技。先に鋼へテラスタルしていたのが仇となり、ボーマンダはどさっと地面に落ちた。

 

「……そこまで!」

 ジャッジが手を上げる。お互いに6体同士の全力勝負で、最後の1体まで出し合う総力戦だった。運に負けた感はあるが、それを承知で選んだ技でもある。負けは負けと、受け入れるしかない。

「……あ、危なかったぁ~! 対戦、ありがとうございました!」

 少女は勢い良く俺に一礼した。こういう気持ちの良い相手だと不思議と悔しさも軽減されるものだ。ものなのだが。

「本当に君は強いな。だから、もういいだろう?」

「そんな! 今のは運で勝ちを拾っちゃった5勝目ですから、次はなんでも屋さんの5勝目ですよ!」

 そう、現在俺の4勝5敗。この戦いは既に9戦目なのだ。この子のバイタリティは若さで済ませるにはあまりにも余りある。

 

「お兄さんもう歳だからそんなに持久力ないの。そろそろそっちの御姉さんも待ちくたびれたんじゃないかな」

「いいえ? 今日は休養日ですのでいくらでもお付き合いしますよ」

 審判役を買って出ていた女性は、笑顔のまま俺を追い詰めに来た。やはり普段から部下の扱いがアレなだけにサディストの一面が隠し切れないらしい。

「……俺のポケモンが休ませろって言ってる気がします。なのでここまでで」

「おやおや。それじゃあネモさん、一度休憩にしましょうか」

「うー、しょうがないかあ。またバトルしましょうね!」

 

 本当にエネルギッシュな女の子だ。俺も世間的にはポケモン廃人の部類とは思うが、本物のバトルジャンキーには気持ちで勝てないと分からされた。

 それはともかく、このネモという少女は今回の来訪において本命でもなんでもない。

 ヒメカがアカツキの件でお礼したいとボタンを呼び、たまたま隣に居たネモが勝負したさに同行。

 さらにたまたま俺への要件があったこの女性が、じゃあ3人まとめて行きましょうと決めてこのような形になったわけだ。

 チャンピオンランクになるほどだから闘争心が強いのは理解できるが、このネモという子はそれにしてもそれにしても。

 

「……さて、思いっきり話がぶった切られましたけど、今日はどんな厄介な案件で?」

 いつものピクニックテーブルの向かいに座った女性は、まるで子供を見るような目でクスクスと微笑んだ。

「あら、心外です。私がそんな面倒臭い女みたいに。こんなに楽な格好で来たんですよ?」

 オレンジ色のアロハシャツに、ベージュの短パン。確かに楽だが、この女性の正体がよりにもよってだから大問題なのだ。

 その名もずばり、オモダカ。

 ポケモンリーグの最高責任者であり、たまに一緒に飯を食う仲のぐうたらリーマン・アオキの上司でもあった。

 確かにラフと言えばラフだが、南国でもないパルデアでは浮きに浮いていて、これを見せられた俺の気の重さも察してほしい。

 

「んじゃあオフって事で面倒は省いてフランクに行きますか。ホウジ、お茶淹れてやって」

『ははっ、お任せあれ!』

 ボールから飛び出たヤバソチャが、体をぐるぐるとねじって緑色の液体を絞り出す。初見の人はだいたいドン引きするが、ちゃんと普通に飲めるお茶である。まあ、本気で怒った時は普通に命を吸い取る液体になるらしいのだが。

「ありがとうございます。それでは率直に……なんでも屋のウノさんに頼むべきと判断した事件があって来てしまいました」

「はい、分かりきってます。まあきっと受ける事になるんでしょうから遠慮せずどうぞ……いや」

 チラリと、横に座るネモを見た。強いのは十分に分からされたが、大人同士の仕事の話を子供に聞かせていいものか。

「あ、ごめんなさい! 私は席を外した方がいいですよね?」

「待ってください。これはネモさんも同席していただいて構いませんよ。それにあちらの子達も」

 あちらと言うと、2戦目ぐらいまでは俺が勝った負けたでキャーキャーはしゃいでいたが、3戦目からは興味を失ってどこかに行ってしまったヒメカとボタンの二人だ。

 ネモがあまりにも強烈すぎたせいですっかり忘れていたが、彼女らはいったい何をしていたのかといえば。

 

「……確かになんでも屋さんも普段は静かだけど、見た目はカラテおうとかやまおとこじゃん。うちのオヤジも濃くてウンザリで、もっとスマートなタイプがいいです」

「それならペパー君とかどうなの? カッコいいしおまけに料理上手!」

「あー……アリかナシかで言えば全然アリだけど、うち結構無神経な事言っちゃったし、ペパーならもっと良い女の子いるはずだし……」

「ボタンちゃんだって可愛いよ! それに機械に強いとか良いトコいっぱいあるんだからもっと自信持って……」

 

 普通に女子の恋愛トークを楽しんでいたようだ。

 俺がやまおとこと同列にされていたのは引っかかるが、あまり追求したくないので何も聞かなかった振りをする。

「そこの女衆こっち来い。真面目な話すんぞ」

「あ、やっと? バトル長かったですねー」

 立ち上がり、大きく伸びをし、自身のテーブルから椅子を運んで俺の隣に座る。特に狭いわけでもないのだが、ヒメカは最初に椅子を置いた位置よりほんの少しだけ、俺の方に近付けた。

 次いでボタンもオモダカの隣に。5人中4人が女で若干居心地が悪いのは諦めるしかないが、今日のヒゲ剃りをサボっていたのは少し後悔だ。

 

 

「……時にヒメカさん、先日はライムさんに勝ってジムバッジの6個目を手にしたとか。大したものですね」

「そ、そんなあ、全然大したことないですよー。師匠が良いだけですから!」

「いや、凄いですよ。うちなんか雪山って考えただけで部屋から出たくないです」

「師匠さんは本当に強かったです! ヒメカさんもいつか勝負しましょうね!」

「いやいやいや……」

 パルデアの本物の学生とその理事長から褒められ、パチモン学生のヒメカはポケモンよろしく一段階小さくなっていた。

 一応はその師匠の立場としても悪い気はしないのだが、それより気になるのはオモダカがそれを切り出した理由だ。

 

「……7個目のバッジに関係があったりしますか?」

「おや、ウノさんもせっかちですね。確かにその流れを想定していましたけど、もう少しお話を楽しみませんか?」

「私もまあまあ推理ごっこが好きなもんで、すいませんね」

「ふふ、ではそんな名探偵の貴方に是非とも調査していただきたい件があります。次はベイクタウンに行くなら丁度良いかと思いまして」

 レベル順で言えば7個目のバッジはベイクタウンのリップから貰う。いつものフィールドワーク(物拾い)でそろそろチャレンジしても良い強さにはなったが、俺にとってはこの付き添いも仕事なのだ。仕事のついでに仕事を頼むのはぶっちゃけ勘弁してほしい。

 

「……まだ事件と呼べるような事件ではありませんが、気になる報告をうちの教員から受けています。ベイクタウンに居るはずの生徒がいつの間にか居なくなっていたと」

「それって、行方不明ですか!? 普通に大事件じゃないですか!」

 ヒメカがぐいっと身を乗り出す。しかしオモダカは口の前に指を立てて「静かに」と宥めた。

「いいえ、消えた生徒は1~2時間で普通に帰ってきたのです。その時は単に何かの用でふらっと出歩いただけだと思っていたそうですが……」

「そうではない、と?」

「それが数日の間に何人も連続で発生したのです。しかも生徒だけではなく、ベイクタウンの住民でも数名。それも消えたのは決まって女性のようで」

 女限定の短時間失踪。便秘でトイレに籠城してただけじゃねえかと言いたくはなるが、それならオモダカもここには来ないはず。

 

「題するならば、エスパーポケモン女性催眠誘拐事件。そうなる前に阻止してくださいますか?」

 思った通り、推理ごっこなんて口走ったのを後悔するような難事件がオモダカの艶やかな口から飛び出したのであった。




催眠?
ありえないわ
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