おじさん、ポケモンの事なら何でもするんですよね? 作:石転法師
(18日にアクセス数が急増してたのですがどこから来たのですかね…?)
「いやごめん、ウソウソ。ネモ君に頼むから、君は来なくていいから」
この言葉を聞いたボタンは、拳を思いっきりテーブルに叩き付けた。
「もう、ホンットふざけんなし! なんですかオモダカさんまで一緒になって!」
「ごめんなさい。ついウノさんのおふざけに付き合っちゃいました」
打ち合わせ無し、1秒程度の間しか無かったのに瞬時に合わせてくるとは、流石リーグの代表なだけあって頭の回転が速い。
「……だがね、一度君とは一緒に戦ったけど、バトルが強くて賢くて聞き分けが良い。それは君も条件を満たしているとは思っているぞ」
「いや、そんな事言われても、私は行きませんから!」
「もちろん、それがまともな考えだとも。では改めて、よろしく頼むよ、ネモ君」
「なーんか素直にハイって言いづらいんですけどー……」
俺も流れを完全にぶち壊した事は悪いと思っている。しかしこのボタンという女子、普段が無愛想なものだから何か感情を揺り動かしたくなるのだ。それがウザいと言われれば全く反論できないが。
「ごめんね、このおじさんたまに変な事言うから。ネモちゃん、私と一緒に頑張ろうね」
「ヒメカさん、よろしくお願いします!」
まあ女子のケアならどうせヒメカの方が適任だから、俺はいい加減でいいやというのもある。これも俺からの信頼の形だ。そういう事にしておく。
「あー、一度ふざけておいて申し訳ないんだが……ボタン君にも一つ頼みがあってな」
「あ? なに?」
目が怖い。完全に俺を父親とかと同類の蔑みの目で見ている。
「その、ミモザ先生の所在を見張ってほしくてね。実際に催眠術が使われた時に学園内に居たら、もうシロって事になる」
「うちだって都合があるし、ずっと見張るとか無理なんだけど」
「君、スター団とかいう騒がしかった連中のボスなんだろ? その子らにもさり気なく頼んだり」
「むむ……命令はしないけど、お願いなら、出来なくもないけどさあ……」
俺も少し聞いた程度だが、パルデアの一部地域通行止めはボタンの本意ではなかったらしい。そこを触れてみたら思ったよりも効いたようだ。
「……せっかくセルクルタウンまで来たんだ。カエデさんの所の洋菓子、食いたかったら買ってくるぞ?」
「おっ、奢ってくれるなら食べます……けど、それとは全く関係ないけど、ミモザ先生の見張りは引き受けてもいいですよ」
交渉成立。ただ、この子は菓子で釣らなくても何だかんだ引き受けてくれた気はする。しかし働きには対価をちゃんと払うのが後々揉めないコツだ。
「おじさん?」
そして横から、俺を指でつんつんと突いてくる子供が一人。ヒメカがキラキラと物欲しそうな目で俺を見つめてくる。
「……お前は大人なんだから自分で買え」
「そう言われても給料安いですしー。さっきだって自分から2万も値引きしちゃうしー」
「昨日だが、お前おだんごしんじゅ3つぐらい懐に入れたよな?」
「ちっ、見てましたか」
まあ安いのは悪いと思ってるからそのぐらいのネコババは何も言わない。逆に俺も一昨日はほしのかけらを大量に拾ったが、ヒメカには何も言っていないし。
「では、生徒にも助力を願いますが、今回の仕事は受注しましょう」
「よろしくお願いいたします。生徒の無事は勿論ですが……なんでも屋さんのお二人も、くれぐれもお気を付けて」
オモダカと互いに頭を下げ合った。
どう転ぶか分からない厄介な案件だ。今は催眠自体が勘違いだったと願うことにする。
繊細な捜査となれば下準備も要るだろう。さて何日かかるだろうか。
「がんばろうね。今回だけは行き当たりばったりじゃダメですよ!」
「あのな、いつもも行き当たりばったりじゃなくて、臨機応変で柔軟な対応を現場で決めるだけであって」
「おじさん、頭も表情も体も硬いじゃん」
「この、ふにゃふわ女がよ……」
ヒメカとのどうでもいいやり取りはどうあれ、今回は催眠対策が鍵となるだろう。幸い、ポケモンが大量に増えた今なら手段も豊富だ。不眠に、清めの塩に黄金の体。最初から眠っているポケモンもいる。根性を発揮しておくのも良いだろう。
「まあ、対策ポケモンはこれから決めるとして、とりあえず確定事項はあるよな?」
「な、なんですか?」
ヒメカに向けてにっこりと笑顔を見せる。失礼にもこいつは露骨にドン引いたが。
「これはジムチャレンジのついでにどうですかって振られた仕事だ。つまり本命はお前のがんばりにある」
「そうかも……そうなの?」
「ここまで来たらもうはっきり言うが、ジム制覇なんてただのチュートリアル、通過点に過ぎねえんだよ。躓くようならウチには要らん!」
「つまずく人、結構いるのに……」
確かに昔は場違いなスターミーとかミルタンクでコケる奴も居たが、今は配慮でうるさい世の中だからか難易度も甘々だ。レベルと相性さえ気を付ければ負ける要素は無い。
「とにかく、ジムで負けて嫌な気分なまま仕事をされたら、勝てる催眠にも負ける。となれば、やる事は……」
「特訓ですね!?」
ネモが爛々とした目で飛び出してきた。正確に言うと体はちょっと前に出ただけだが、何か熱とかオーラが飛び出ている。
「おお、手伝ってくれるかい? 感謝しろよ、このレベルのトレーナーがレベル上げを手伝ってくれるなんて激レアの幸運だぞ」
「え、え?」
まだ状況を飲み込み切れていないヒメカだが、もう手遅れ。一度燃えだしたネモが簡単に鎮火できないのは、さっき9連戦した俺も分からされている。そしてオモダカは、その様子を仏のような笑顔でただ眺めていた。
「安心してください! ちゃんとヒメカさんのレベルに合わせたポケモンを出しますから!」
「あ、ありがとうございます? じゃなくて、ちょっとおじさん!? ボタンちゃん!?」
「あー……これがザ・ネモなので、がんばってください。私はなんでも屋さんにスイーツ奢ってもらうので」
「ずるいッ……!」
ヒメカが遠ざかる俺達を裏切り者と睨んでいるが、約束だから仕方ない。こいつの事だからついでにケーキの一つでも買ってくれば一瞬でご機嫌になるだろう。
「せっかくです。私もカエデさんにご挨拶してきますか。絶品のお菓子もいただきたいですし」
「あの人も、貴方がそんな格好で来るとは思わないでしょうねえ……」
「ふふ、それも含めて楽しみですね」
セルクルタウンの中心に向かう俺達3人。その後ろでは、ネモとヒメカのウッキウキで必死な声が響いていた。
「じゃあ行きますね、私はケンタロスで!」
「ううー……! フワちゃん、がんばって!」
野生のポケモンよりも、ああやって強いトレーナーと戦うのが一番の経験になる。まあ、ポケモン以上にメンタルが叩き潰されないかの心配はあるが、そこはヒメカだしたぶん大丈夫だろう。
ヒメカがひーひー鳴かされていた数日間、俺はベイクタウンを偵察しながら(自分にしては)計画を練りに練った。ネモのバトル欲がやっと満足したのを頃合いに、いよいよ俺達は催眠誘拐犯を炙り出しにジムチャレンジへと臨むのであった。
なお、この時点で既にヒメカは真っ白になりかけていたのだが。
次回、やっと現地での催眠バトルが起きたり起きなかったり