おじさん、ポケモンの事なら何でもするんですよね?   作:石転法師

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ついに変態がその姿を現したのであった


催眠なんて効くわけないわ(7)

「なんでも屋さん! あの子、人の言葉を話していますよ!」

 ネモが大興奮の顔でサーナイトを指差した。どうやら俺の空耳でなく、皆が人語に聞こえたようだ。

 

「ふむ。伝説級のポケモンとか、ニャースが喋っていた件ならあるそうだが……」

 しかし百年規模でポケモン研究がされている中でわずか数件という、超々レアな個体である。エスパーポケモンで不定形の人型というのを加味すれば出来るのかもしれないが。

 しかしそんな事よりもこいつの最大の特徴だが、謎の青色の光を纏っている。そのせいかアローラのぬしポケモンやヒスイのオヤブンに匹敵する威圧感があった。

「お前がネモやナンジャモに催眠をかけたのか?」

『サイミン? ワタシは、シンのアイにメザメさせたダケ。キッカケをアタエタにスギナイのデス』

「人の言葉がお上手なもんだな。いったいどこで学んだ?」

『ユリのマンガやアニメをリカイするタメ、ナガいトキをカケてベンキョウしまシタ。コレもシンのアイのタメ……』

「オ、オタクの鑑じゃん……」

 確かに覚えた動機だけならナンジャモの言う通りかもしれない。しかし実際にこのサーナイトがやらせた事は何だっただろうか。

 

「それで、二次元で学んだ真の愛ってのが嫌がる相手を押し倒す事か? しかし、これで納得した。道理でラルトスを使って遠隔催眠できたわけだ」

 同族であるサーナイトなら、各地のラルトスと共鳴して自身の催眠術を強化なんて事も出来たりするのだろう。それでやる事が、女を昂らせるだけだったわけだが。

「なんじゃナンジャ? 流れぶった切ってゴメンだけどボクにも詳しく!」

「あのサーナイトがお前や他の女も催眠術でおかしくしてる! 後は終わったら言うから怪我人は大人しく休んでろ!」

「りょ」

 怪我を負わせたのも俺なのだが、それでナンジャモも納得したのであとは単純だ。あのサーナイトを捕まえて片っ端から催眠術を解かせれば、事件は解決!

 

「おじさん、待って。確かにただの催眠術じゃないかもしれない。さっきまでリップさんと戦ってたんだけど、いろいろとおかしかったの!」

「む。要点だけ、簡潔に頼む」

「ドラパルトが追い抜かれたり、ねこだましが失敗したり! それでもなんとか勝てたけど!」

 見ていない部分でそんな事があったと。つまり、どういう事か。

 俊足のドラパルトを追い抜けるポケモンなんてリップは持っていたか、そしてねこだましが失敗する要素。瞬時にデータを脳に巡らせ、俺とネモはほぼ同時にそれぞれの結論を出した。

「クエスパトラがかそくしたか?」

「相手がリキキリンだった? それとも2ターン目以降に使いましたか?」

「どれも違います!」

 ポケモン自体の要素で思い浮かぶのはそれだった。そうでないのならば、あとはもう一つしかない。

「えーと、なんかありましたよね!? エスパーの技でそれっぽいの!」

 そう、ヒメカも辿り着きかけていた、エスパーポケモンならではのそれだ。再び二人同時にそれぞれの答えを出した。

 

「トリックルーム!」

「サイコフィールド!」

「そう、それそれ!」

 

 素早さによる行動順番を逆転させるトリックルームに、先制技の発動を封じるサイコフィールド。それらが発動していたという事になる。

「だが、それなら使われた事ぐらい分かるだろ……」

「リップさんも私も使ってないんです。だけどリップさんはこれが普通でしょ?みたいな顔してて言いづらくて……!」

「まさか、催眠の定番、常識改変……?」

 言われて空を意識してみると、確かにうっすらだが違和感があった。

「ゆがんでますよね? おかしいですよね? 何かが! ベイクタウンの!」

「ああ、言葉まで完全にトリックルームだ!」

 ほんのりぐんにゃり桃色がかっているような。急にならともかく、これにゆっくり変化させられたら住民だって気付けるわけがない。

 

「なんでも屋さん、つまりこういう事ですか。うっすらと張ったサイコフィールドで強化されたトリックルームが、町の女の子達を……」

「おそらくな、そこに催眠術もプラスして性的嗜好が逆転するように誘導しているんだろう。女が同性好きになるように」

「でも、私のゴウカザルはねこだましが使えましたよね?」

「確かに。って事はあの辺りが境界だな。ちょうど町全体がすっぽり覆われる感じでサイコフィールドがあるのか」

 そんな広範囲にサイコフィールドとトリックルームを同時展開できるこのサーナイトは、間違い無く高レベルの強力なポケモンだ。テラスタル洞窟の主に匹敵するかもしれない。

「……ついでに、私がバトルしたくなったのはなぜでしょう?」

「それは、ネモ君だからかな……」

 恋を意識した事が無いか、それ以上にバトル愛が強すぎて逆転した事すら分からないか。とにかく禁断の愛を破ろうとした結果、今はやるべきでないバトルを挑んできたのだろう。ネモだから。

 そういう視点から改めて思い返すと、実際この町は妙に女の子のペアが多かった。全てはこの変態サーナイトの仕業というわけだ。いや、ごく一部ナチュラルも混じっているかもしれないが。

 

『……ホウ、オドろきマシタ。ワタシのユリサイコルームのシクミをカンペキにミヌくトハ』

「つまり、サーナイトの目的は女同士をいちゃいちゃさせたいだけ……?」

『タシかに、ソのコウケイはヨいモノデス。シカシ、ワタシのノゾミはジンルイのカイカク。ニンシキのアップデートをオコすコト……!』

「改革、アップデート、女の子同士で……」

 ネモが俯いて考え込んでしまった。バトルが絡まない根の部分は真面目で優しいのだろう。このサーナイトは悪なのか、トレーナーとしてどう対応するべきなのか。生の百合を見せられた動転も相まって事態の対処に迷っていた。

「ふん、ポケモンはメタモンがいるからいいけどな、人類が全部同性愛者になったら普通に絶滅するっての。お前がやってる事は普通に破壊工作! 叩きのめして性癖から叩き直してやる!」

 しかし、話は単純だ。黒幕は判明したのだからぶん殴って捕獲してオモダカに突き出すのみ。サーナイトの性癖なんて知った事ではない。

「そう、ですね! バトルです!」

 ネモも我を取り戻した。いくら場を支配できる強力なエスパーポケモンでも、俺とネモを同時に捌けるものか。尊さに釣られてのこのこ出てしまった迂闊を悔やんでも、もう遅い!

 

『アマい!』

「し、っ……!?」

 しかし、身構えた所にサーナイトの目が光る。体が、動かない。

 これは金縛りか、催眠の一種か、どちらにせよ俺達の体は一瞬にして固まってしまったのだ。

『トウトサをホジュウしたワタシのパワーはイマやムゲンダイマックス。コのテイド、ラクショウです』

 複数へ同時に作用する催眠技など、もはや悪夢を見せる伝説のポケモンに匹敵している。ポケモンが本気で人に害を成そうとするとここまでタチが悪いとは。

 迂闊なのは俺の方だった。サーナイトが自分から出てきてずっと余裕で居たのも、一匹で切り抜ける自信があったからではないか。

 

『……アナタ、サキホドもハナゾノをフミアラしマシタね。オトコはハイジョ……とイイたいデスガ、ワタシはヘイワシュギなのデ、ソコでオトナしくミテいなサイ。ソレはソレでヨイモノですカラ』

「ちっ、合意が無かったらあれは普通に婦女暴行だっつの!」

 しかしポケモンにとって人の法律など理解する価値はない。つまり聞く耳など持っていやしない。

 サーナイトが両腕を広げる。その周辺の空間がぐにゃぐにゃと歪み出す。

 これは例のトリックルームとサイコフィールドの複合か。もしや町全体を覆わせていた力をこの付近に凝縮しているのか。

『ツギに……チャパツのオジョウサン、アナタです』

「わ、私!? だよね!」

 今度はサーナイトの眼光がヒメカに向かう。咄嗟にボールを取り出して対抗しようとするヒメカだったが、その腕を、ナンジャモが掴んだ。

 

「ジャ、ジャモちゃん!?」

「ダメだよ……大人しく、大人の階段登ろ……」

「ま、また催眠かかってるぅううう!」

 何かもうついでぐらいの雑さでナンジャモもやられていた。もう一度ぶっ叩いて何とか出来ればいいが、縛り付けられた我が身では何ともしようがない。それにこれ以上叩いたら流石に命に関わりそうで、たとえ奴でも気が引ける。

 誰か、外からの助けがあれば。これだけ騒いでいればリップとかが異変に気付いて来てくれないだろうか。

『フフ。タスけをキタイしてイルようデスガ、ムダですヨ。このタカダイのマワリはユガんでイマス。ナゼかダレもオカシイとオモいマセン。フシギでショ?』

「こいつ、人の心まで……!」

 読心術まで使えるとなると本当に隙を見出せない。今この状況においては完全に無敵のポケモンだ。

 しかし、そうなると、どうしても気になる点が一つ。それはサーナイト自身もよく分かっている事である。

 

『……シカシ、ヤッパリオンナのコでアナタだけ、サイミンがキイてイマせんネ。ジツはオトコだったりシマせんカ?』

「私は、女の子だけど!」

 そう、ヒメカだけは未だに催眠にかかっていない。俺もネモも動けず、ナンジャモはまたヒメカに色目を使っている中で、まだいつものままだ。そもそも催眠術は4割で失敗する技であるから、ずっと幸運を引き続けているだけかもしれない。しかしこの異様な空間内でそれが有り得るだろうか。

『ワタシにもプライドがアリます。アナタもシンのアイにメザめナイとキがスミません。サア、ワタシのメをミナさい……!』

「目覚めちゃぉ……」

「うぅー……っ!」

 ヒメカにサーナイトの紫色に光る眼が迫る。目を逸らそうにもその顔はナンジャモにがっちりと掴まれていて一人ではどうしようもない。

 何とか、右手だけでも動かせれば、この状況を打開する手段が一つだけあるというのに。

 何とか動け。動け、動け──。

 

「う、う……」

 しかしその願いも虚しく、ヒメカの体は電源が切れたかのようにがっくりと崩れ落ちた。

『……フウ、ワタシもカルくメマイがシマシたが……オチたヨウですネ』

「ヒメカ! おいッ!!」

 大声で呼び掛けるがヒメカは固まったまま。

 何ということだ。俺にはもうヒメカとナンジャモの濡れ場を見せられるだけの、地獄の未来しか待ち受けていないのか。

 

「ヒメぇ……」

 そんな俺の絶望への追い打ちか、ナンジャモが蕩けた顔をヒメカに摺り寄せる。

 そしてそれに呼応するかのように、ヒメカがむっくりと体を起こした。

「ジャモちゃん……」

 ヒメカは虚ろな顔のままナンジャモの両肩に手を置き、ぐっと力を込めて握った。

 ああもう、この先ナニをするかはネモだって分かる。だってもうさっきから真っ赤な顔で食い入るように女二人を見つめるだけだ。完全に場の雰囲気に飲まれていた。

 

 

「ごめんね」

 

 

 ところがヒメカは、ナンジャモの体を突き飛ばしたのだ。

「え?」

『エ?』

 ナンジャモも、催眠をかけたサーナイトも呆気に取られていた。勿論、後はねっとり絡み合うんだろうなと思っていた俺もである。

 

「私、ここ何日か一緒に特訓してる間にね、気付いちゃったんだ……本当に大事な人……」

「特訓って……おいまさか……」

「え、え、え!?」

 その予想を答え合わせするかのように、立ち上がったヒメカはふらふらと、しかし着実にこちらへ近づいてきた。そう、俺とネモの居る方にである。

「ちょ、ちょちょちょ! 確かにヒメカさんは良い人ですけど私、あの、心の準備とかもっとお友達として一緒の時間とかが大事と思ってて、あと実はちょっとあのそういうの良くないと!!」

『エート、ヨソウガイでしタガ、ソレもアリですネ』

「あの、ボクの立場は……」

 完全に対象外だと油断(?)しきっていたネモの慌てようは半端ではなかった。しばらく別行動の間に二人の仲がそこまで進展していると思わなかった俺も思考がパンク寸前だ。何かもう、ここからどう打開するかとか考えるのも疲れてきた。

 

「だから……ちょっと強引かもだけど、良いよね?」

 ヒメカは膝を地面に付けて、せっかく留め直したブレザーのボタンをまた外してしまう。

 その様子にぷるぷる震えるしかないネモと目を合わせたヒメカは、にっこりと微笑んで──。

 

 

「大好きだよ、キョウジくん……」

 急にこちらへと向き直ったのだ。

 

『ヘ?』

「え?」

「ん?」

「ッッ~~~~~!?」

 

 甘い声で俺の名を呼んだヒメカが、まだ動けないのを良い事に俺の体に覆い被さった。




今更ですがおじさんのフルネームはウノ・キョウジです
よろしくお願いします
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