おじさん、ポケモンの事なら何でもするんですよね?   作:石転法師

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百合好きざこざこサーナイト、果てる。


催眠なんて効くわけないわ(9)

『ワタシはムカシから、オンナのコがダイスキだったノデス……』

 細長い足で綺麗に正座したサーナイトは、いかにも深刻そうなトーンでぽつりぽつりと語りだした。

 

 各地のラルトスを回収しつつ、場所は移ってベイクジムの医務室内。というのも、俺のエルレイドが殴った頭を冷やしているナンジャモもだが、それ以上にヒメカが高熱を出していたのだ。

 サーナイトがムキになってサイコウェーブを当てていたから頭がオーバーヒートを起こしても何ら不思議ではない。そこでリップのご厚意に甘えてベッドを借りている。

 

『デスがワタシはオクビョウなセイカクで……アノトキはコエをカケるコトもデキませんデシタ』

 まだ一応逃げ出さないようにリップのかげふみゴチルゼルが付いている。しかしこのサーナイトはヒメカが寝込んだ罪の意識で自ら医務室まで同行していた。

 念の為捕獲するのが一番ではあるが、まあその、こんな変態ポケモンの主人になって大丈夫かと保留にしているのだ。

 

「あの時っつーのは、ラルトスかキルリア時代って事か?」

『ハイ。ソウしてオモイをツノらせたママ、サーナイトにシンカするトコロまでセイチョウしまシタガ……ソノコロにはジブンがオカしいコトはジカクしてイマした』

「……人間の女同士を絡ませる性癖に?」

『イエ……メスのワタシがメスをスキになるコトデス』

 

「ん?」「お?」「あら?」「ほえ?」「……え?」

 

 怪我人と病人を含めた俺達5人は、一斉にとんでもない間違いに食いついた。

『……ドウしまシタ?』

「どうしましたじゃないよ。お前はオスだろう?」

 

『…………エ?』

 

 こっちが本当に『え?』だ。どうやらこのサーナイトが奇行に走った理由がうっすら見えてきた。根本的な部分から間違っていたのである。

 

『イヤイヤ、ワタシはサーナイトですヨ? オスはエルレイドで、メスはサーナイトにナルのでショウ?』

「めざめいしを使ったオスのキルリアだけだ。そうじゃなきゃ、オスもメスもサーナイトに進化するんだよ」

 確かに、サーナイトはその見た目からメスに拘るポケモンオタクも多く、オスだからという理由だけで捨ててしまう心無いトレーナーすらいる。エルレイドの存在も相まってメスのイメージは強いが、しかしオスのサーナイトだからって何も恥じる事は無い。

 

『……タ、タシカに、サキほどアナタのマニューラにもドーテーとイワれまシタ。タダのザツなワルグチとオモッタのですガ……』

「あー……すまん、そんな事言われたか。そうか、俺達は画面上で雌雄も判別できるが、お前は野生だから分からなかったんだな」

 人の男女は股にアレがぶら下がってるかで判別できる。しかしポケモンはなんかいつの間にか生えてくる謎のタマゴで増えるので生殖器が無い。カバルドンなどやたら分かりやすく違う例もあるが、サーナイトのように雌雄で全く同じ見た目のポケモンが大多数なのだ。

「そういや、俺の心は読んでいたようだが、ヒメカの行動は予測出来ていなかったよな。それって男の気持ちしか分からないからじゃないか?」

『カ、カモしれマセン……』

 俺だって男と思って30年生きてきたのに急にお前は女だ、なんて宣告されたら受け入れるのに1週間は費やしそうなものだが、このサーナイトは暴れもせず大したものだ。

 いや、元の性癖が性別で後押しされたからこそか。

 

「……つまり、オスなのにメスだと思い込んでたお前は、メスが好きな自分を異常者と思い込んで?」

『オンナドウシがアタりマエのセカイにナレば、ワタシはオカシいとオモわれナイハズ、ト……』

「半分だけじゃダメだろ。男の方はどうでもいいのか?」

『ベツに、ミタくナイですシ……』

 聞いておいてなんだが、その意見には俺も大いに同感であった。

「そもそもだけど、百合作品が好きなのってだいたいオトコノコの方だよね」

「そうよねえ。女性が好きなのは耽美な殿方同士の……派閥があるので深入りはやめましょうか」

「ウム、無難ですぞリップ氏」

 性自認の思い違いで童貞を拗らせたサーナイトの暴走。簡潔に述べればこれが事件の真相である。

 そう考えるともしや、このサーナイトの纏っていた異常な青いオーラはマジカル童貞パワーだったのか。35歳を過ぎた童貞は魔法使いになるなんて冗談もあったりしたが。

 

 

『……ソウでしタカ。ワタシはドウドウとオンナのコをスキってイッてヨカッタのデスネ……』

「いや、ヘテロでもホモでもな、そういうのはわざわざ宣言しなくていいんだぞ? 好きなら好きで無言で堂々としてりゃいいんだよ」

「でもウノっちさー、ヒメに詰め寄られた時はうだうだで全然堂々としてなかったじゃん」

「あーあー催眠されてた間の事なんて知らん。ジャモは大人しく頭冷やしてろ」

 誰が誰を好きとかじゃなくて、今は性癖の話をしているのだ。そのヒメカも熱か恥ずかしさか、耳まで赤くして枕に顔を埋めているし、あまり蒸し返すものではない。

 

『ソノ、イロイロと、モウしわけアリマせんデシタ……』

 既に申し訳ないと思っているからここで正座しているのだが、サーナイトは改めて土下座の姿勢を取った。ポケモンながら深々と綺麗なものであった。

『ハンセイとシテではナイですガ、コレもナニカのエン。ワタシをオナカマにクワえてイタダけマスカ?』

「俺の、仲間にか? 女のトレーナーの方が良いんじゃないか?」

『モチロン、ソレでもカマいまセンガ……』

 ちらりと、女性陣の顔色を伺う。何しろ人語を喋る貴重なポケモンだ。欲しがる人は多いと思うのだが──ネモも、ナンジャモもリップも、俺に向けてにっこりとどうぞどうぞとのジェスチャーを取っていた。気の毒だがまあ、当然であるか。

 

「うん、実は俺もぜひお前の力を借りたいと思っていたんだ。これからよろしく頼む」

『カンシャします。ワタシのゴシュジンさま』

 サーナイトの頭にボールをこつんと当てる。吸い込まれるように彼が飛び込んだボールは、本当に一つの揺れも起きること無くスンと大人しくなった。

 

 

「これにて、一件落着~……で、良いんですよね?」

 医務室という場所を考慮してか、ネモは控えめに拳を掲げて俺の顔を伺ってきた。

「ああ、その通り。っていうかそうあって欲しいな。今回は本当にどっと疲れたよ」

「私、いきなり催眠にかかるしあんまりお役に立ってなかったですよね……自分から行きたがっておいて、情けないです……」

「俺だって似たようなもんだよ。そっちのジムリーダー二人も居なかったら終わっていたかもしれないな」

 ラルトスを集めた事で共鳴を引き起こし、事態を一気に危険なものにした俺が一番の戦犯となり得ていた。結果的にはそれがサーナイトをおびき寄せる結果にもなったのだが、本当に綱渡りだったと言える。

「ほほー? ウノっちが素直に感謝するとか珍しいじゃん。これは奢りも期待していいよね。ねーリップ氏~?」

「ふふ、何事もホドホドにね。暴飲暴食のツケは確実にお腹へのしかかるわよ?」

 ナンジャモがしれっとリップまで奢りの対象に加えているが、それはまあいい。この人が咄嗟にかげふみを出してくれたのが一番の決定打だったのだから、むしろ奢らせてくださいと頼むのが筋であろう。

「君だってサーナイトのサイコパワーを枯らすのに貢献しただろう。俺はトドメを刺したし、ヒメカは……あいつが居なきゃみんな催眠されたままだった。みんな頑張りましたでヨシとしようや」

「……ありがとうございます! 必要だったらまたいつでもお手伝いに呼んでくださいね!」

 この子を呼ぶとなるとまた今回のような面倒な事件確定か。当分はそんなものが降りかかって来ないように祈るとする。

 

「……15時30分、お仕事終了だ。ネモ君、先に戻って理事長様に軽く報告してくれるかい」

「分かりました! なんでも屋さんは……ヒメカさんですね?」

「まあね、こいつがまだ寝てるから。君もまた急にバトル衝動がぶり返すかもしれんし、気を付けて帰るんだぞ」

 まあ、その衝動は催眠が全く関係無い可能性も大いにあるのだが。

「ヒメカさん、今日はおめでとうございますと、お大事に。またバトルしましょうね!」

「……うん。ごめんね、ありがと……」

 やっぱりか細いの声のヒメカに気を遣ってか、ネモはそれ以上の事は言わずに俺に一礼をしてから退室した。

「それじゃ、私もジムのみんなを見に行くから、ウノちゃん達はゆっくり休んでいってね」

 リップもこちらに手を振って優雅に立ち去っていく。やはりどこまでも格好の良い女性である。彼女のような人物に選ばれるパートナーは一体どれ程の高レベルなのだろうか。いや、案外逆にヤドンのようなタイプなのかも。

 

 さて、残るは俺とヒメカにナンジャモだけ。ナンジャモだって多忙なのだからコブぐらいなら帰ってもいいだろうに、まだ留まる理由はきっと俺と同じだ。いや、むしろここで帰るようなら見損なっていたところか。

「ヒメ……」

 ナンジャモがぽつりとその名を呼ぶ。呼ばれたヒメカは相変わらずうつ伏せで顔を見せないままだ。

 触って実際に熱かったのだから発熱は間違いない。しかし今のヒメカの状態はただそれだけじゃないと思った。ならばと、早速その能力に頼りにボールを放り投げる。

『おヨビですカ。イエ、ヨんだリユウはアキらかデスネ』

 熱を出させた張本人のサーナイトが、紳士らしくゆったりとお辞儀してヒメカに一歩近づいた。

「察しの通りだ。今のヒメカはただ熱を出しているだけなのか? それに、催眠が効かなかったのも気になってな」

『フム……そうイイつつ、ゴシュジンさまもウスウスはキヅいてイルようデスネ。ワタシも、アマりタニンにイイふらすモノではナイとオモいマシタので』

 テレパシーは相変わらずで、話が早くて助かる。催眠が効かない理由はポケモンの眠り対策がそのまま適用できるとして、あとは熱暴走の方がいつ治るのかの問題になる。

「えっと? 内緒の話をするんならボクもジャマになるヤツ?」

「……お前は、別にいいよ。今更他人ヅラする方が失礼だろ」

「そっかそっかー、ウノっちもようやくボクのありがたみを理解したかー……ありがとね」

 ニシシといつものおかしな笑い声を漏らすが、今はそんなナンジャモのおかげで空気がドン底にならずに済んでいるのだ。ヒメカの親友という意味で他人ではないし、俺にとっても……まあ腐れ縁という事にしておく。だから今はこの場に居て欲しい。

 

『デハ、ネツのホウからハナしマス。ケツロンからイウと、ヒメカさんハ、メザめてイタのデス』

「目覚めたっていうと、催眠に? それとも……同性愛に?」

『ソレもイイですガ、ザンネンながらチガイます』

 反省してもやっぱり百合好きなのはそのままらしい。まあそこは趣味なので、悪事を働かない限り好きにさせておく。

 ともかく、では一体何に目覚めたのかと、サーナイトの次の一言に集中した。

 

『ヒメカさんハ、エスパーにカクセイしたのデス』

 その言葉はヒメカ自身も予想外だったようで、ようやく顔をこちらに向けてくれたのだった。




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