おじさん、ポケモンの事なら何でもするんですよね? 作:石転法師
なんでも屋のおじさんがマルマインを盛大にぶっ飛ばしていた頃、彼女が立っていたのはパルデアの大穴を一望できる絶景のポイントだった。
デビューしては引退し、増えては減ってを繰り返してとっくに飽和状態に達している配信者業界。彼女はそのカテゴリで中の下ぐらいのポジションまでじわじわと伸び始めていた人物だった。
「いつでもどこでもアローラ~! どーもみなさん、ヒメカちゃんで~す!」
配信モードをオンにしたスマホロトムに手を振って、満面の笑顔を浮かべる。
アローラ地方から移住してきた彼女は、南国の生まれに見合った天真爛漫で好奇心が強い性格である。自然豊かな諸島で育った影響で名所巡りを好み、その光景を視聴者と共に楽しむスタイルで評価を得ていたのだった。
「今日はこの、パルデアの大穴を上から眺めてみたいと思いまーす! いやいや、だいじょぶだいじょーぶ! うちのポケモンちゃんだって強いから~」
彼女の横には、人が余裕で入れる大きな籠の取り付けられた風船ポケモン、フワライドが居た。つまり気球から眺めてみようという企画である。
しかし、どんなに人気者となっても、視聴者の声に耳を傾けない配信者は落ちていくものだ。当然のように立ち入り禁止区域だよ、危ないからやめようよ、等のコメントが流れるが、空の上だから平気だと楽観的に考えていた。
だから彼女も見事に落ちた。知らなかったのだ。シンオウ地方のチャンピオンも切り札として愛用する強力なドラゴンポケモン、ガブリアスが大穴上空を飛び回っていただなんて──。
「だいもんじ!」
『ヌメッ!』
アーマーガアの嘴が頭に突き刺さる、まさにその直前! ヌメルゴンの放った炎は間一髪で胴体に着弾して事なきを得た。
「君ね、ここは立ち入り禁止なんだけど知らないの?」
「お、おじさぁん~~~……!」
顔、プラス1点。声が綺麗、プラス1点。ついでにスタイルも良い、プラス1点。そして俺をおじさんと呼んだ、マイナス500点。
そんなマイナス497点の少女が地べたからうるうるとした顔で俺を見上げる。
「覚えときな、アーマーガアみたいな一部の鳥ポケモンはキラキラした物を好むんだよ。そのイヤリング、耳ごと引き千切られていたかもな」
「いっ……!」
少女は一転してギクッとした表情で耳を抑える。しかし外す気は無いらしい。まあこの娘は全体的にキラキラしているので耳だけじゃしょうがないのだが。
オレンジがかった茶髪のツインテール。アクセサリーびっしりのセーラー服。いかにも遊び回っている見た目だが意外と脚はしっかりしている。スポーツをやっているか、歩き回るのが好きなのだろうか。
「とりあえず上に戻るぞ。怒られるのは後でたっぷりな。まあ俺もそっち側なんだが……」
「あの、落ちた時に足挫いちゃって、立つのがつらいんですー……」
「あー……そういう事かい。よく生きてたな」
「ぶつかる寸前でフワちゃんが頑張ってくれて……」
よくよく見渡してみれば少し上には籠と、アーマーガアの巣らしき物がある。たぶんそこに落下して最小限の被害で済んだが恨みを買ってしまったのだろう。幸運でもあり不幸だった。
「……って、お、おじさん後ろー⁉︎」
「チッ、ジュウゴ!」
見てからじゃ遅い! 振り向く前に反射でポケモンを出す。何かが分からないなら総合的にタフな、ガチグマ!
『グ、マァ……』
しかし賭けには失敗した。頭よりも大きな拳が脇腹にめり込む。
背後に居たのはさっき落としたばかりで俺に怒りが向いているハリテヤマっぽい奴、テツノカイナ。ヘイラッシャ並の耐久は本当らしく、ギャラドスの地震一発では仕留めきれなかったのだ。
「やり返せ、ぶちかまし!」
弱点を突かれても闘志はまだ折れず。ガチグマの丸太のように太い腕が叩きつけられたテツノカイナは、今度こそ動く気力を無くしたのだった、が。
「ハアー……俺ってこんなのにしかモテないんだよなあ」
テツノカイナのわんこそば。おかわりの拒否権なんて当然俺には無い。
ガチグマも今のでだいぶ消耗させてしまってもう出せない。何とかギャラドスで飛んで逃げたいのだが、今出せば雷パンチかワイルドボルトでも喰らうのがオチだろう。ヤバソチャを置いてきてしまった今、他の何かで隙を作れればいいのだが──。
「君、何かいいポケモン持ってるか! 電気と格闘に強いやつ!」
「え⁉︎ えーと格闘に強いのは……⁉︎」
「ゴースト、飛行、エスパー、フェアリー、虫! あと毒!」
「い、いる! ドーちゃん!」
「よし、偉い!」
少女が出したのは地面、毒タイプのドオー。少々物理耐久には不安だが上出来の選択だ。
「あ、でも私のドーちゃんレベルが足りなくて地震とかないですー……!」
「あくびは!」
「あ、ありまぁす! ドーちゃん、あくび!」
『どぁあああああああぁお!』
ドオーが、人なんか丸呑みに出来そうな大口で豪快に声を響かせる。普通の攻撃ならレベル差で弾き返されるだけだが、この手の搦手なら関係ない。レベル100でもレベル1のあくびに誘われて寝るのがポケモンだ。
『ス、リ……』
上手くいった。テツノカイナ達はうとうとし始め動きが鈍っている。ギャラドスを繰り出すなら今だ。
「スギヤくん、上に戻るぞ! 君、乗れるか⁉︎」
問われた少女は足首をさすりさすり俯く。
「片足じゃ無理かも……」
「だろうな! しょうがねえ、セクハラとか訴えるなよ!」
背を向けて、しゃがむ。四の五の言ってる余裕も無く、少女は俺の肩にのしかかって体重を預ける。最近はただ座っているだけでも不満を言い始めた腰に気合いを入れて立ち上がり、おんぶ完了だ。
「……おじさんさあ、こういう時ってお姫様抱っことかしてくれるもんじゃないの?」
「されたいのかよ。それじゃ完全に両腕が使えなくなるだろうが」
「そうですねー、そうですけどー……ってアレなんかビリビリしてない⁉」
「ん、そりゃ電気タイプなら……いや電気か!」
失念していた。電気タイプの技には眠りへの対抗手段を備えた技が一つだけあったのだ。
『エレェエエエエ!』
エレキフィールド。
電磁場を発生させる事で電気タイプの技を強化し、副次効果で眠りの状態にもならなくなる変化技だ。
さらに悪いことにエレキフィールドが発生した瞬間、テツノカイナ達が活性化したように見える。もしかしてそれに関連した特性を持っているのか。
『フンッ!』
テツノカイナがドスンドスンと四股を踏む。エレキフィールドからパワーを得たポケモンが、三角形の肥満体型からは信じられないダッシュでギャラドスに迫る。バチバチと放電するほどの電気エネルギーを蓄えた拳の一撃、受ければギャラドスは一発で瀕死となり、飛んでの脱出は絶望的だ。
「じならし!」
『ドッ!』
そうはさせないと少女がドオーに足止めを命じる。足元を崩された相手の動きが鈍るが、それもほんの一時凌ぎに過ぎない。返しの拳がドオーにめり込み、吹き飛ばす。格闘の技は毒タイプに効きこそ悪いが、レベル差の前では軽減もあまり役に立てなかった。
「ドーちゃん、ありがと……」
「無茶をさせて悪かった。本当に感謝する」
少女はボールにドオーを戻してそっとなで上げた。一発だけだが本当によく頑張ってくれた。この1ターンがあれば十分に切り替えせる。
「ちょっと片手使うぞ! 頑張ってしがみついてろ!」
太ももを支えていた右手を解き、ポケットに突っ込む。少女は一言も文句を言わずに浮いた右足と両腕でぎゅっと俺を締め上げた。
「温存しといて良かったな、行くぞ!」
『ギャアス!』
パワーアップにはパワーアップを! 野生のポケモンには出来ない芸当を見せる時が来た。
ギャラドスに接触させたのはキラキラと神秘的に輝く特殊なボール。そこから放たれる光が体を結晶化させ、新たな姿へと生まれ変わらせる。
ドオーを突破したテツノカイナがこちらに敵意を向け直し、拳にバリバリとエネルギーを充填させる。だがもう遅い!
変化するのはギャラドスのタイプ。水と飛行が結晶の力で全くの別物へと切り替わる。そして俺のギャラドスのテラスタルタイプとは──。
『ナッ⁉』
「残念、電気は全く効かねえんだな」
電気にメタを張った、地面。
飛行タイプの弱点を完全に切り返す為の選択だ。そうなれば今度は格闘タイプの技が通ってしまうが、そうなる前に決める!
「地震‼」
さっきのタイプ不一致ではない、正真正銘地面タイプの地面技。これにはさしものテツノカイナ達もひとたまりもなく、ふらふらと倒れ込んでいった。
『カッ!』
否、まだ一匹。
「うそぉ、まだ動けるの⁉」
さっきのエレキフィールドを使った因縁の個体だ。どうやら特等に丈夫な個体だったようでまだギリギリ動けるらしい。怒り心頭の強烈な張り手がギャラドスを襲う!
「……が、瀕死のポケモンを止めるにはこいつが一番だよなあ!」
それがポケモンと称される相手ならば抗うことは不可能の足止め手段、それ即ち捕獲以外にあり得ない。
モンスター、いやこのレベルならハイパーボール! 光となったテツノカイナはボールの中に封じ込められ、カチっという音と共に俺への恭順を示した。
捕獲完了。テツノカイナ、非常に頼もしい相棒となってくれるだろう。後で没収されなければの話だが。
「た、助かったあ……!」
少女が俺の肩でほーっと息を吐く。俺も安心と同時にこの娘の重みだけを集中して感じ取れるようになった。つらい。
「……ちょっと、テラスタル出来るんなら最初からしてくれば良かったじゃないですかー!」
そんな俺の気も知らず、傷んでない方の足を使って俺の脚をぽすぽすと蹴ってくる。
「他が揃いも揃って格闘に弱いんだよ。ギリギリまでギャラドスのタイプを変えたくなかったんだ!」
今回は電気タイプも付いてきたから不利を取っただけで、本来は格闘や地面タイプの相手が仕事なのだ。そうやっていつも苦労をかけている、俺がガキの頃からの相棒だ。
「……でも、本当に助かりました。ありがとうございました」
「うん、よし。じゃあ今度こそ上に戻るぞ。あっちが一番大変だからな」
ゲート付近ではまだまだアオキとヤバソチャが奇妙なパチモン集団と戦っている。そちらに加勢すべく、光り輝くギャラドスの背に二人で跨り上へと昇るのだった。
「……この度の加勢、誠に感謝申し上げます」
アオキは深々と頭を下げた。
彼の所に戻ってからの話はあっという間だ。地面タイプと化したギャラドスが参戦して戦力は倍増。その威嚇の前に戦わずして逃げ出すポケモンもいたりで、すぐにエリアゼロの騒動も収まったのだった。
「いえ、こちらこそ指示を無視して申し訳ありません」
こちらも同じぐらいの角度でお詫び申し上げる。
現在はあの少女をジムの医務室に預け、アオキと報酬の話に入っていたところだ。立ち入り禁止のエリアゼロへの侵入、そしてそこでのポケモン捕獲。事態収束の為とはいえ、アオキの監督責任まで含めて非常に面倒な話になるのは明白だった。
「実は先程、上司から連絡がありまして」
「アオキさんもですか。実はこちらにも」
それぞれ社用携帯とスマホロトムを取り出して画面を見る。俺は怒られるだけだが、アオキは怒り、怒られねばならない。悲しきかな中間管理職。
「……なんでも屋については経費を認めないとの事。まあそれはそのつもりだったので構わないのですが、事態の対処についてはもっと上手くやれたはずだから改善案を提出しろ、だそうです」
「まず使える人員を増やせよって話ですがね」
しかしそれは上に言ってはいけない禁句である。言えば余計に怒られるだけだ。
「……こちらも。アオキへの助力には感謝致します。ですがエリアゼロへの立ち入りは許可できず、監督者として貴殿への正式な報酬は認められません」
タダ働き。それはまあ覚悟していたので別にいい。どうせ、安い金での日雇いなのだ。マルマインを追い払った分だけ貰えれば十分だ。だがメールにはまだ続きがある。
「そしてエリアゼロで見たものは一切他言無用。万が一そこのポケモンを捕獲していた場合は…………リージョンフォームと言い張り、これもエリアゼロで捕獲したとは他言無用でお願いします、だそうですよ」
アオキと二人、ほっと肩を上下させた。要するに危ない所を助けてもらった点を加味してお咎め無しという事だ。アオキの上司の事はいかにもガッチガチの石頭だと思っていたが、存外に寛大な措置も出来る人物だったらしい。
『ロトロトロト!』
「……いや、追加のメールです。今回の働きを評価して、私も個人で依頼をするかもしれません。その時はよろしくお願いしますね。オモダカ。だそうで」
「……頑張ってください」
「いや、アオキさんも頑張ってください」
何しろこちらには弱みが有る。どんな無茶振りが来るのか、俺たちには苦笑いを浮かべるしか出来なかった。
「では、マルマイン対処の件はこれで。それと……良い時間ですし、食堂でも行きませんか。私個人の感謝の気持ちで、奢りますよ」
「アオキさんとっすか? それは……良いじゃないですかぁ」
疲れた体には美味い飯、美味い飲み物。それにいい風呂まで付いてくれば最高だ。仕事なんて半分は一日のご褒美の為にやっているようなものである。空っぽの一日でただ生きるために食うなんて虚しいだけなのだから。
「……ふっふっふ~、聞こえちゃいましたよ? ご飯行くなら私もお供させてくーださい!」
聞こえてしまったらしい。あのお騒がせ少女が包帯を巻いた足でひょこひょこ歩み寄ってきた。聞こえたからってそこに割って入れるのが若さである。俺には無理だ。
「……ヒメカさん、でしたか。貴方も私の上司から厳重注意が来ているはずですが、大丈夫なのですか?」
「今回は本当に運良く助かっただけ、次は無いと思いなさい。ってめっちゃ言われちゃいました。そんな落ち込んだ時には美味しいご飯じゃないですか」
「……そりゃ、違いないな。アオキさん、一人追加しても財布はオーケーですか?」
アオキは無言で背を向け、鞄から財布を取り出すとお札をペラペラ数えだした。
「お手柔らかにお願いします」
「あはは! だいじょーぶですよー。私、こう見えて結構お金持ってるんでぇ、自分の分は払いますから~」
まだ子供なのにこの物言い、自信の持ちよう。光タイプに育つ人間というのは大体実家が金持ちのケースなので、きっとこの娘もそうなのだろう。
「おいおい、それじゃ俺もアオキさんに奢ってもらっちゃ悪いじゃないの。じゃあ三人でワリカンって事にしますか」
「それはちょっと……大変助かります」
いつもカウンター席でもくもくと孤独のグルメを楽しんでいると評判のアオキ。
そんな彼が、ごつい男とまだ年端も行かない美少女の三人でテーブル席に座っていたらしい。この奇妙なスリーショットはチャンプルタウンのちょっとした噂話として広まったそうだが、その翌日には街を離れる事になる俺にとっては何の関係もない話だった。
それから、数日。
今日もキャンプエリアで日課の体操だ。
何時あのおっかないアオキの上司から仕事が来るかと戦々恐々していたが特にそんな事もなく、失せ物探しや素材集め等の簡単な依頼で日銭を稼ぐ毎日が続いていたが、まあそれでいいのだ。ちょっとした仕事をして、ちょっと人から感謝されるだけの人生が俺には合っている。
あとは無条件に野生のポケモンに嫌われるのさえどうにかなればいいのだが、もしかしてとは思うが、加齢臭的な何かが原因なのだろうか。いやまさか。
「おーじーさんっ。何やってるの? そういうシュミ?」
「いや、別に……って君は。よくここが分かったな」
汗ばんだ自分のシャツをくんくんと嗅いでいたところに声をかけてきたのは、数日前の大トラブルで助けたあの少女だ。食事の席でせがまれたのでアドレスを教えはしたが、まさか直に来るとは。顔を合わせての依頼は断りづらいから苦手なのだが。
「スマホなら位置情報も見れるんですよ?」
「マジかよ。プライベートもへったくれもないな」
「設定でオフに出来るから、気になるなら変えといた方が良いですよ」
「そうする。それで、足はもう良いのかな?」
「それはもう、バッチリです!」
聞くまでもなく両足でしっかりと立っている人に聞くのは愚問だろうが、社交辞令というやつだ。
それより大変だったのは彼女の配信業だろう。聞けば配信中にガブリアスに襲われて落ちたとの事。配信中に死亡だの奇跡の生還だのでニュースになっていても全然おかしくはない。
「それでー、今日はおじさんにお願いがあってー……」
「待て、何かいかがわしいからもうちょっと言い方に気を付けてくれ」
「そうですか? とにかく、これをお願いします!」
そう言って少女が手渡したのは、一枚の紙だった。
顔写真、名前、学歴、自分のアピールポイント等々。これは間違いなく、俺が見るのも嫌な物の一つである履歴書だ。
「バイト、させてほしいなー……なんて」
「は?」
素で声が出てしまった。流石に失礼だとは思ったが出てしまったものは取り返しが付かない。
「いやまあ、私のチャンネルはもの凄く話題になったんですけどー……大穴に入っちゃったって事で大炎上しちゃって、ポケモンリーグからも正式に怒られて、危険行為のペナルティとしてアカウントが止められちゃいましてー……」
「いわゆる、アカバンってやつか……」
まあ当然の処置だろう。それでフォロワーってのが増えるのなら、今頃はみんな大穴にダイブしている。そんな事になったらアオキの胃が死ぬだけだ。
「だから配信業はしばらくお休みだけどお仕事はしなきゃで。私、いろんな所に行くのが好きなんです。だから、おじさんと一緒にお仕事したら楽しいかもー、って」
「そりゃ仕事柄、いろんな町には行くけども。俺一人でやってる仕事に君を雇っても責任がだな。だいたい君はまだ若いんだからこんな……って?」
改めて、履歴書に目を落とした。
顔写真、写りが良い。名前、ハナゾノ ヒメカ。そして生年月日の欄。てっきり18前後だと思っていた彼女の年齢は。
「お前子供かと思ったら余裕でハタチ超えてんじゃねーか! その年でミニスカートの学生服なんて着て良いと思ってんのか! 犯罪だぞ犯罪、何かの!」
「なんですかそれ、めっちゃ失礼なんですけど! ファッションに年齢なんて関係ないし、こういう格好の方が視聴者にもウケるんです! そっちこそ年を理由に地味な格好してるんだろうけど、それだから心もおじさんになっちゃうんだよ!」
「おじさん言うな! お前とはまだ7つしか離れてないっつーの!」
「え? 何だ、おじさんまだ全然若いんじゃん。顔がバンギラスみたいにゴツゴツしてるから老けて見えるのかも。とりあえず無精ひげは剃った方がいいよ?」
「む……」
年甲斐もなく、いや俺はまだ全然若いはずなのだが年下と言い争って情けないと思い直す。それにバンギラスに似てるは、結構嬉しい。それにしても服装と気持ちだけでここまで年を誤魔化せるとは、女って恐ろしい。
「……私を助けてくれた時のおじさんはとても格好良かったです。恩返しで、お手伝いさせてください。とりあえずお試しじゃ、ダメですか?」
「確かに、もう一人だけ手が有ればと思ったこともあるが……はっきり言うけど儲けなんか全然無いぞ?」
「じゃあその分いっぱいお仕事すれば良いって事ですね! 頑張っちゃいますよ!」
少女、もとい少女じゃない女、ヒメカは両手を大きく振り上げた。まだ働いても良いなんて一言も言ってないのだが、もう話が進んだ体で会話をされている。
「そもそも仕事だって何時来るか分からないから、雇っても申し訳なくて……」
「じゃあ暇な時は落ちてるもの拾ってお小遣い稼ぎすればいいですね! おじさんのポケモンちゃんもそうしてくれてるんでしょ?」
「お前の家、結構裕福なんだろ? こんな人生リタイアした男と一緒に仕事するより他にいろいろと……」
「くどい!」
自分が雇われる立場なのを分かっているのかいないのか、とにかくヒメカは俺にビシッと指を差して顔を近付けた。
「正直に答えてください。私が横に居てくれた方が嬉しいですよね?」
「…………まあ、うん」
正直に言えば、そうなる。男なんてそんな単純なものである。
「はい、決まりですね! それじゃあおじさんの事はどう呼べばいいですか? 社長は……会社じゃないか。所長? 隊長?」
「長って程の規模でも無いな。いつもなんでも屋としか呼ばれんし」
「おじさんのお名前、ウノさんって呼ばれてましたよね? じゃあウノっち? ウノちゃん? それとも……ウノくん?」
何故この流れでそんな馴れ馴れしい呼び名が出てくるのか、やっぱり俺とは真逆の思考回路の人間を雇うのは失敗だった。
「あー、ちょっと照れましたね。じゃあウノくんで!」
「好きにしろ……」
「……と思ったけど、やっぱり変な感じなんでおじさんにします」
「勝手にしろ!」
(……私も照れちゃうもん)
ヒメカの口が何かを呟いたように見えた。まあおそらく、聞くまでもない話なのだろう。
「そういうわけでー、これからよろしくお願いしますね、おじさん?」
やっぱりこの女はマイナス490点だ。
これからはこれと一緒に仕事へ向かうと思うと今からため息が止まらない。
しかし、それと同時にどう転ぶか分からない刺激的な毎日が来るのかと思うと、年甲斐も無く内心わくわくしている俺がいるのもまた事実なのであった。
おじさんに可愛い助手が出来た所で今回は終わります。
次回は助手ちゃん周りの話になるかもしれません。
ここまで見てくれてありがとうございました。