おじさん、ポケモンの事なら何でもするんですよね?   作:石転法師

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新人ちゃん教育回


なんでも屋さんとナンジャモさん(1)

「やっぱり思ったんですけど、氷タイプって相性関係酷くないですか?」

「それは同感だが、そういうもんなんだからしょうがないだろ」

 

 新人アルバイトが俺に向かって文句を垂れる。しかしポケモンの神様がそう決めてしまったのだから受け入れるしかない。

 彼女の名はヒメカ。少し前の仕事の際に、偶然助けた縁と恩で俺を手伝うと言い出した、アカウント停止で無職になった配信者である。見た目は若々しいが普通に大人だ。

 俺はポケモン関連のトラブル解決を仕事とするなんでも屋をやっているのだが、それに関わるならポケモン知識は欠かせないと新人教育中の次第。今はキャンプテーブルで向かい合ってタイプ相性を纏めたペーパーをヒメカとにらめっこさせていた。俺もたまに曖昧になるくらいややこしいのだが、覚えておかないと適切な対処が出来ない。

 

「でも、そうやって見るとおじさんのポケモンちゃんってその辺りちゃんと考えて選んでるんですね」

 ヒメカはキャンプエリアで放牧中の俺の手持ちを見回した。

 バンギラス、ギャラドス、ヤバソチャ、ガチグマ、炎のケンタロス、そして鋼の殻付きヌメルゴン。他にもキュウコンやジバコイルにイダイトウ、ラウドボーンに加えて先日捕まえて調整中のテツノカイナ等まだまだいるが、今の6匹はこれだ。

「前提として大きくて強そうってのがあるけどな。そこのカバーで苦労してるが……」

 明らかに小さくて浮いているヤバソチャなんかはその部類だ。何しろうちの重い子は揃いも揃って格闘に弱い。

 

「……仕事、あんまり来ませんねえ」

 ヒメカはテーブルに頭を乗せて足をぷらんぷらんと揺らした。

「だから言ったろ、大した仕事は無いって」

 そもそも何か困ったことがあったとして、金を払ってなんでも屋を呼ぼうという発想に至る人間がどれだけいるだろうか。始めるきっかけとなった人物の協力でビラぐらいは町の一部に貼っているが、はっきり言って胡散臭さの極みだ。

 ヒメカを助けてやった日ははっきり言って特異点レベルのレアと言って良い。

「もうあの日の熱も冷めてきたんじゃないか。他の仕事探しても良いんだぞ」

「甘いですねえ。私はこう見えても焼けイシツブテ並みに熱が逃げない女と言われてるんですよ」

 誰からだ。たぶんその場のノリで言っただけだろう。

「それに、熱が冷めたらどうなると思いますか?」

「どうなるんだ」

「こうなるんですよ」

 この女は両手の指で自身を差してニカッと笑った。

「冷めてるじゃねえか。大喜利じゃねえんだよ」

 しかし仕事が無いのだから今は研修ついでにヒメカと漫談をするしかないのである。じゃあそれすら居なかったらどうするのかと聞かれたら、物拾いか借家に帰ってだらけるかなのだが。

 

『ご主人、ご主人』

 そんな何も実りの無い会話を続ける俺達の所に、ぐぉんぐぉんと喜びの声を上げて戻ってきたのは放牧していたガチグマだ。

『大きい骨埋まってた。食べられないからあげる』

「おお、きちょうな骨か。じゃあご褒美に……ほら、あまーいリンゴだぞ」

『わぁい、ありがと』

 ガチグマは丸々と実ったリンゴに大喜びでむしゃぶりついた。嗅覚に優れる彼こそがうちの捜索部隊のエースだ。そして可愛い。

 拾ってきた骨は化石マニアに良い値で売れる。こうやって小遣い程度は稼げるので仕事が無くても大して気にしていない。

「ジュウゴちゃん、偉いねー。私もよしよししてあげよっか」

『ガアッ!』

「うひっ⁉」

 覚えさせていないがこの迫力はまさにハイパーボイス。いきなり吠えられたヒメカは風圧で背中から倒れこんだ。

「こら、こんなんでも一応はうちの新人なんだ。もっと加減して吠えてやれ」

『こいつ、ずるい』

「加減じゃなくて吠えないように言って~……」

 背中の砂をぽんぽんと払いながらよっこいしょと起き上がる。ガチグマから言わせれば手が出てないんだから全く本気じゃないだろう。

「いきなり来た奴がずっと俺に付きっきりじゃな。あの子らも妬いてるんだよ」

 特に対抗心が強いバンギラスやヌメルゴンなどは今にも喉笛を嚙み千切りそうな目で睨んでいた。

「……そうなんだ。それは、うん。結構ショック」

「だからってポケモン使って追い出そうとは思ってないからそこは安心していい。襲うなとも言ってある」

 むしろこれのせいでヒメカから目を離せなくもなっている。そのせいで他の子が余計不機嫌になる。悪循環になりかけだ。そういう空気は早々に解消したい。

「うん、おじさんは自分の子達には優しいもんね」

「あー、それと……お前自身のトレーナーレベルの低さも原因だな。バッジはいくつ持ってる?」

「えーと、2個でした。あんまりそっちを頑張る気になれなくて」

「じゃあ8個全部取るのが一番だ。そうすりゃあの子らだって認めてくれるだろうよ」

 と、口で言うのは簡単だが、ジムの全制覇達成はトレーナーの1割程度しかいないのが現状だ。たまに異常な成長スピードで乗り越えていく子供もいるが、あれはポケモンの神が生んだバグみたいなものと思っている。

「……もう一回、頑張ってみようかな。そうしたらおじさんも私を頼りに出来ますよね?」

「どっちにしろこんな仕事してるんじゃないって言うのは変わらんぞ」

「でも、おじさんだってお仕事は嫌々するくせに辞める気はないんでしょ?」

「……大人ってのはそういうもんなんだよ」

「じゃあ私だって大人だからそういうもんですよ」

 そういうもんらしい。あんまり辞めろと言えば逆に意固地となって反発しそうなのでこの話は止めだ。大人ならこんなバイトじゃなく定職に就け、それはそのまま俺にもカウンターで返ってくるので攻められない。

 

「あー、良いこと思い付きました! おじさんは仕事が来るとイヤイヤしちゃうんですもんねー」

 そう言うヒメカはニヤニヤしていた。この時点でもうイヤイヤしたい。

「私のジム挑戦、お手伝いしてほしいなー……なんて。ダメ?」

「まあ、ダメだろ。自分の力で勝つからこそのジム認定だぞ」

 ジムバッジにはレベルの高いポケモンを従わせる力がある。少なくともそのレベルまで自力で育てられるからこそ渡すに相応しいのだ。

「おじさんのポケモン貸してなんて言いませんよ、言う事聞いてくれないし! でもアドバイスとか応援とかいろいろあるでしょ?」

「しかし、雇われ人が雇い主に金払うってのはな」

「それを言ったらボール工場の人はお金でモンスターボール買えないじゃないですか」

 ああ言えばこう言う。よくもまあその場でポンポンと例え話が出てくるものだ。

「……まあ、他の仕事も無いし良いか。新人研修の一環だから金は要らんぞ。お前が強くなれば俺にもプラスなのは確かだしな」

「イエーイ! おじさん最高~! 今度からおじ様って呼んでいい?」

「そういうグレードの上げ方はしなくていいの!」

 そこはお兄さんと呼ぶところだろと思ったが、その場合にエスカレートしたらこいつは俺をお兄ちゃんとかボクくんとか呼びそうである。だから現状維持でいい。

 

「……で、バッジは2個だったよな。嫌な予感しかしないんだがどこのジムだ?」

「えっと、カエデさんとアヴァンギャルドおじさんの所ですね。何が嫌なんですか?」

 レベル的に攻略順はそうなるからだ。タイプ相性で攻めやすい虫と草タイプのジム、それがスタート地点の東西に配置されているから挑戦者はまずその2つに行く。補足だがアヴァンギャルドおじさんは名前をコルサといって、自然派の芸術家だからか常時ハーブがキマってそうな男である。あまり会いたくはない。

 それはともかく、問題はその2つの後なのだ。

 

「次はどのジムに行こうと思ってる?」

「それはモチロン私達の憧れ、ナンジャモちゃんの所に決まってるじゃないですか!」

 分かり切っていてもため息が出てしまう。

 何が嫌って、俺は配信者という存在が残業の次に嫌いだからであった。




おじさんは年なので偏見が強くなってきているのです
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