おじさん、ポケモンの事なら何でもするんですよね?   作:石転法師

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おじさんちょろっとクズエピソード編


なんでも屋さんとナンジャモさん(3)

「じゃあ最初は、ナンジャモちゃんのなんでも屋だったんですか⁉」

 ヒメカは過去一番の驚愕した顔で俺の背中を揺さぶった。

 昔の俺はナンジャモの下でなんでもやらされていたと聞けば、大ファンとしてはそうもなるのだろう。それを差し引いても大げさな反応だが。

「……まあな。当時、バッジをコンプリートしたのにリーグの要職にも就かずブラブラしていた俺を、撮影のアシスタントにしようと目を付けたのが奴で」

 毎度毎度お世話になっているギャラドスの背に乗っての捜索中、その後ろにはしっかりヒメカもしがみついている。そうなると質問にも逃げようがない。

 

 俺がヒメカの指導者と知るや、ナンジャモは正式に挑戦権の課題をコイル奪還と決めてしまった。

 そもそもヒメカはアカウント停止されてしまったので、それを配信に出せばナンジャモにもペナルティの可能性がある。だからハッコウジム通常のテストは最初から出来ないのだ。

 あれよあれよと話が決まるまでほとんど置いてきぼりだったヒメカは、当然のように俺とナンジャモの因縁について問い詰めてきたのだった。

 

「配信を始めた頃のあいつは、売れよう売れようと今より圧倒的に過激路線でな。カイリューの破壊光線に耐えてみた、とか金の玉2000個持ち込んでレジの限界に挑んでみた、とか……」

「あー知ってます知ってます……え? まさかあの企画は全部おじさんも関わってたんですか!?」

「カイリューは俺が育てたし、金の玉はほとんど俺が集めた。おかげで金の玉アニキのあだ名を付けられかけた!」

 なお、本当に金玉ニキと呼んだバカにはバンギラスがでかい金の玉を投げつけてやった。タイプ一致威力195だ。

「……それで、いくらか分け前は貰えたんですか?」

「200万だ。それをなんでも屋の開業資金にした」

「にひゃく……うう~ん……」

 金の玉は1個5000円。それが2000個で1000万円。取り分にして8対2だ。まだノブナガとかが生きていた時代の農民でも七公三民。それより酷い巻き上げときた。

 ちなみに玉の集め方は内緒だ。何らかのアレに引っ掛かる。ちょっとだけ漏らすなら、メタモンをアレしてアレするのだ。これ以上は言えない。

「企画に使うポケモンが危険になるほどプロのトレーナーのサポートが必要になるだろ。暇人の俺はうってつけだったわけだ」

「……でも、嫌になっちゃった?」

「何でもするにも限度があるんでな。あと普通に酷使しすぎ」

 ヒメカには言わないでおくが、一時のアイツは明らかにおかしくなっていた。数字の為なら自分のポケモンすら犠牲にしかねない勢いで、流石にそれはトレーナーとして最後の良心で踏みとどまったのだが。

「それで言ったんですか。これからはナンジャモだけのなんでも屋じゃなく、みんなの為のなんでも屋になるんだー、みたいな?」

「まあ、そんな感じだ。それでもアイツの依頼を優先して受けるからと言いくるめて開業して、ある程度落ち着いたところで……」

「……ところで?」

 

「アイツのアカウントを全部ブロックして電話も着信拒否にした」

「ひどっ!」

 風の噂では当然のように荒れたらしいが後の祭りだ。それに過激路線があまり出来なくなった都合で今のスタイルに落ち着いていったのだから、怪我の功名というやつだろう。そういう事にしておく。

「そりゃナンジャモちゃんも怒りますよ。むしろよく顔出せましたね」

「じゃあやっぱり今からでも帰っていいか? お前のジムテストなんだしコイル捜索は自分でやってくれ」

「やだなあ、おじさんはそんな冷たい人じゃないですよねえ? 話はとりあえず見つけてからです!」

 まあ、これも仕事なのでそうなる。

 件の変なレアコイルはパルデア大穴方面、つまり西の原っぱへ飛んでいったとナンジャモは証言している。明かりが無くなればコイルの銀色の体は見つけづらいだろう。何としても日中に見つけなければならない。

 

 

「ユージ、何か引っ掛かったか?」

『コー…………』

 自身の体をレーダーのようにくるくると回すも、この渋い反応は当たり無しか。

 コイルを探すなら同族と連れてきたのは、コイル3体連結の最終形態、ジバコイル。コイルはコイル同士で集まる性質なので、近くに居れば何かしら反応するはずだ。ちなみに鋼が被っているのでヌメルゴンはお留守番してもらった。

「でも……見つかったとしてもレアコイルに進化しちゃったんですよねえ? 分かれて退化とかするんですか?」

「聞いた事は無いな。まあ、この際コイルが一つ増えても良いだろう。元々おかしい頭がもっとおかしくなるだけだ」

「まーたそういう事言うー! 可愛いじゃないですか!」

 それは素体が良いからそう思えるだけだ。仮に俺とかチャンプルジムのアオキにコイルが付いていたとしよう。悲壮感しかない。

「俺がバンギラスとかガチグマを可愛いって言っても誰も理解してくれない。人の感性なんてそんなもんだ」

「私は、怖かったですけど、おじさんのポケモンなら最近ちょっと可愛く見えてきましたよ」

「そうかい、そりゃありがとよ」

 可愛いか否かは置いといて、見つけたとしてもコイルを分離させられるかは重要だ。退化となるともはやポケモン博士の分野になる。出来たらオーキド何ちゃら賞まで貰えるんじゃないか。

 

「まあ、ちょっと試してみるか。ユージ、そこら辺の岩に向けてでんじほうを何発か」

『ジバッ!』

 連結して膨らんだ中央のコイルから帯状の強力な電磁ビームが放たれる。岩に命中したビームはバリバリと轟音を立てて飛散し、辺りに強い電磁波を撒き散らした。

「おじさん、神様のつもりですか?」

「天罰じゃなくて作戦だ作戦。これであの辺りがビリビリしだすだろ」

 効かなそうで、やってみると案外効果があるのはこの前の仕事でもそうだった。これであの一帯の磁力線が狂うかもしれない。そうしたら地上の磁場を利用して移動するコイルもおかしな動きをしだすかもしれない。その中に目当てのコイルもいるかもしれない。

 かもしれないばっかりだが漠然と探すだけでは集中が続かないので分かってほしい。現に何だなんだ、何が起きたと野生のポケモンが集まりだしている。

「あれっ!? あのポケモン……!」

 ヒメカが俺が探していた方とは逆の右側を指差した。ほら、やっぱり効果はあっ──。

 

「こっちに突っ込んできます!」

 全くそんな事もなく、人の分際で天罰を下そうとした俺への怒りか、鳥ポケモンのイキリンコが猛スピードで復讐に飛んで来ていた。

「申し訳ございませんがこれも仕事なのでご容赦……!」

 万が一ギャラドスまで感電したら命の危機のため、あえて鋼技のラスターカノン!

 弱点でないとはいえ、トップクラスの特攻を誇るジバコイルの一撃にはイキリンコも堪らず退散していってくれた。

 

「……お、じ、さ、ん~~~~?」

「まあその、すみません」

 やっぱり所構わず電磁砲を放つなんてガバガバ作戦では無駄に恨みを買うだけだった。今回は失敗だったがまあそんな事もある。気を取り直して次に行こう。

「俺のやり方が雑だったのは認めるが、新人バイト君には何か名案とか無いのかね。これは君のジムテストなのだが?」

「はい隊長、私はまだ新人で勉強不足でバイトの身でありますから、余計な事はせず隊長のご命令に従うのが一番お役に立てると思います!」

「では命令だ。今すぐに目的のコイルを連れてきたまえ」

「はい、それではまずコイルの居場所を教えてほしいであります!」

 無駄なやり取りであった。

 

「……ん? いや待てよ、そうだよ初歩の初歩だった。一度地上に降りるぞ」

 ギャラドスの威嚇で周囲を散らし、見渡しの利く小高い丘に着陸。代わりに呼び出すのは嗅覚に優れるガチグマだ。

「ジュウゴちゃんに匂いを辿ってもらうんですね。でもおじさん、ナンジャモちゃんの匂いがする物なんて持ってましたっけ? まさか、そういう趣味があってこっそり……あたっ!」

 アホ新人の額を小突く。これはパワハラではなく、5Sの一つであるしつけだ。勘違いしてはいけない。

「確かにアイツの匂いがする物はないがな、要するに人工的なフレーバーを探せば良いんだよ。さっきもおかしな匂いが漂ってたろ」

「おかしなって、おじさんはまだセーフですけどいつか加齢臭隠しに香水使い出すんじゃないですか」

「これでも毎日風呂には入ってるから大丈夫だろ、たぶん」

「はあ……」

 俺の未来なんて真っ暗に決まっているのでその先は考えない。大事なのは今である。コイルを探し出す事だ。

 

「ジュウゴ、何か不自然な匂いがあったらそっちに向かってくれ。水色とピンク色が思い浮かぶような奴だ」

 ガチグマが顔を空に向け、右に左に振り回す。鼻を最大限ヒクヒクと動かし、大自然の空気を目一杯吸い込んで頑張っている。

『ミントと、モモ? ヘンなニオイ、あっち』

 どうやら嗅ぎつけたようだ。ここから北、川の方に向かってガチグマが吠える。北と言えば採掘地帯で無数のトンネルが入り組んだ厄介な地形だ。そんな所に行かれたら発見はなおさら絶望的になる。

「でかした! 後でミガルーサの切り身やるからな。急ぐぞ!」

『いそぐ!』

 ガチグマがドスドスと重量感溢れる音を立てて猛突進し、俺たちはその後を追う。馬の鼻先にニンジンではないが、刺し身が食えると聞いた彼の走行スピードはポニータを思わせる俊足だ。途中の野生ポケモンなんぞはその勢いのまま跳ね飛ばし、いよいよ向こうには茶色い岩肌が広がる川岸に到達した、その時だった。

「あれっ⁉ あのポケモン……!」

 さっきも聞いたセリフだが、今度はぬか喜びではない。

 コイル、コイル、コイル、3体のコイル。その内の2体は水色とピンク色だ。間違いなくナンジャモのコイルを持ち逃げした犯人が川を渡ろうとしていた。この先に行かせるわけには行かない!

 

「ナカヌチャンだ!」

「了解です! ヌーちゃん、行くよ!」

『ヌチャア!』

 新人研修、実践編。

 ヒメカのジム制覇を目指す戦いの第一歩が今まさに踏み出されようとしていた。

 

 




このおじさん主役で大丈夫なのでしょうか
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