おじさん、ポケモンの事なら何でもするんですよね?   作:石転法師

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やっとこジムバトル


なんでも屋さんとナンジャモさん(5)

「……という事で、この子はナンジャモさんのコイルにガチ恋しちゃってたそうです」

 場所は戻ってハッコウシティ北東、撮影無しのプライベートだからと指定された灯台の下。ナンジャモの定位置に戻ったコイルもどきに、感動でも何でもない再会を果たした寝取られコイルは涙してすがり付いた。

 

「ムムム、そうだったのかー……なかなか見る目のあるコイルじゃないか」

 やはりコイルは奴のコイルと合体したくて堪らないようだが、今回はがっちり本体と接続されていて取れないらしい。あの頭はどうなっているのだろう。

「それでなんですけど、引き離すのもかわいそうですし、このコイルを貰ってくれませんか?」

「なぬっ、良いの? ヒメカ氏が捕まえたんでしょ?」

「大丈夫です! コイルは何か、あっちのおじさんが何匹も持ってるそうなので」

 そう、何匹もボックスに預けている。理由はガチ勢なら説明不要だろう。

「ふーん……じゃあせっかくだから、ボクからはこの子を差し上げちゃおう! 交換ってコトで!」

「あっ懐かしい! 私の故郷でよく見た子じゃないですかー!」

「そそそそ。ヒメカ氏ってアローラ出身なんでしょ?」

「ううう、知ってたなんて……感激でもう死んじゃいそうです」

 ナンジャモが替わりに寄越したのはデンヂムシ。アローラで最初に発見されたポケモンだが、最近になってキタカミという地方のド田舎でも生息が確認された。電気のジムリーダーとしては持っていて当然、といったところか。

「そういえばさっき、かみなりの石を拾ってたんですよ。使っちゃおうかなー?」

「いいじゃんいいじゃん! クワガノンは強いぞー!」

 そのかみなりの石、間違いなくさっき俺が投げた物なのだが、無いと思ったらあいつがちゃっかり拾っていたらしい。金持ちらしい陽気オーラを放っていながら、思ったよりも抜け目ないというか貧乏性というか。

 とにかくヒメカ5体目の手持ちとしてクワガノンが加わるのだった。

 

「……で、何であっちのおじさんは崖で一人たそがれてるワケ?」

「あー、あっちのおじさん、恥ずかしがり屋ですから」

「おい、おじ! 怒らないからこっち来い!」

 呼びつけ方が既に喧嘩を売っているのだが、わざわざ余計に怒りを煽る事もないのであっちに行く。行ったところで案の定、その目は俺を睨み付けていた。

「先に言っとく。探してきてくれて、ありがと」

「はい、そりゃどうも」

「……おじさんさあ、違いますよねえ? そもそも出会うの分かってて私のジム挑戦にも付き合ってくれたんでしょ? ごめんなさいするチャンスだと思ったんじゃないですか?」

「ぐ……」

 図星なので情けないことに全く言い返せない。1対1じゃまともな会話になる気がしなかった。ヒメカという緩衝材が必要だったのが正直なところだ。

「急に音信不通になったのは、悪かった」

「ホントだよ。こっちもムチャ振りしすぎたのはゴメンだけどさ、連絡ぐらい取らせてよ。キミ、襲われ体質だから本当にどこかで死んでないかと心配した」

「……本当に、申し訳ない」

 ゆっくりと頭を下げる。聞こえるのは波の音だけ、ほんの僅かだが静かな時間が流れた。

 

「……はい、仲直り!」

 ヒメカがパチパチと小さく拍手をする。

「本当にすみませんねえ。うちのおじさん、ちょっと困った人で」

「いえいえトンデモない。ヒメカ氏も大変でしょー。何ならボクのアシスタントに乗り換えない? また配信したかったら上にも掛け合ってあげちゃうよん」

「ななな⁉︎ それはとっても光栄な話ですがー……」

 チラリ、一度見。チラ、二度見。チラチラと俺の顔を窺っている。

「辞めやすいからバイトなんだろ。そっちが良いならいいぞ」

「あーあー言うと思いました! これだからこのおじさんはもう!」

「そうだぞウノ氏テメー! オトメゴコロってもんが分からんのかー!」

 生憎と俺を見てオトメを感じる奴には出会った事がない。どちらかと言うと圧倒的に男にモテそうと言った奴は居たが、その発言をした奴にはケンタロスのインファイトをぶち込んだ。

 

「こうなったら仕方がありません。ナンジャモさん、ポケモン勝負です! 私が勝ったらジムバッジと、この話は無かったことに!」

「よっしゃ、バッチコーイ! ボクが勝ったらヒメカ氏はボクのモン! そしてウノ氏はドゲザの刑に処す!」

「はい?」

 さっきヒメカを置いてきぼりで話が進んだ意趣返しなのか、ジムの挑戦で勝手に俺の恥が賭けられてしまう。この勝負は一体俺に何の得があるのだろう。

 

「じゃあ、行きますよ。早速ですが頑張ってもらいます。クワガノン!」

「ニッシッシ……こっちも行くよ、タイカイデン!」

 片や電気を帯びたクワガタムシ、片や電気を帯びた鳥。虫対鳥で、一見ヒメカ側が不利なようだが電気タイプのおかげでそうでもない。だがそんな事より、ジムリーダーとして見た時のナンジャモが問題である。

「……タイム! おい、そこはカイデンだろ。バッジ2個の相手に出すポケモンじゃないぞ」

「シャラーップ! 初手クワガノンの相手にそんな舐めプ出来るか! ウノ氏にゲザらせるチャンスは逃さんぞー!」

 そのままならはっきり言ってヒメカでも楽勝のレベルだったが、どうも俺のせいでムキになっているらしい。いつもと違ってプライベートなジム戦だからかやりたい放題である。

 ただ、タイカイデンの進化レベルはそこまで高いわけではない。流石にあいつもエア視聴者が興醒めするような無理ゲーにはしないだろう。

「想定より厳しい戦いになりそうだが、イケるか?」

「……アドバイスぅ、お願いできますか?」

「だとよ。おい、助言は良いのか?」

「構わーん! ウノ氏のブレインなんてボッコボコに叩き潰してやんよ!」

 俺を脳死させる気ならますます黙って見てはいられない。ヒメカの後ろに回り、クワガノンのステータスを確認する。デンヂムシまで育てていただけはあってちゃんと技も揃っているようだ。これをあげたのだからナンジャモの感謝も相当だったのが分かる。

 

「準備はヨシ? では改めて……ナンジャモ、行くよ!」

「はい、よろしくお願いします!」

 ヒメカの手持ちは5体、それに合わせてナンジャモも5体のハードモード。

 新人への指導も仕事の一環である。ヒメカを勝利に導くのが俺の役割だ。

「クワガノン、ねばねばネット!」

「そうはいかぬぞ、おいかぜじゃー!」

 バトルフィールドに糸が乱れ、風が吹き荒れる。

 ヒメカ以上に俺の方が負けられないジムバトルが今始まるのだった!




そこ、体良くコイルを厄介払いしたとか言わない
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