「甚爾」
「おう」
呪術師にとっては目視しなければ何も無いと認識する男は、長の一声に応えて磨き上げた技術によって音もなく現れる。
「禪院は直毘人が完全に掌握して馬鹿はさせねぇが、問題は加茂だな。加茂憲倫名乗ってた害脳の影響が残ってやがる」
甚爾はガリガリと頭を掻きながら心底嫌そうな顔をする、生まれて十年も居なかったが虐げられた経験から御三家とやらが嫌いで仕方ないのだ。
「直毘人は優秀だ、汚点であった扇とやらも一声かければ斬首した。双子の片方は伏黒甚爾の後継ぎに成り得たからな、鬱陶しい柵は切るに限る。これからは直毘人が治めていく事、甚爾と真希を誕生させた事、この二つで禪院という家の価値は五条家以上だ」
長は真希の可能性を示唆した瞬間から騒ぎ出し、妹の真依を必要もないのに殺そうとした禪院扇を何とかしろと直毘人に命じた。
直毘人は命令を受けた即日に呪具での斬首にて死刑を執行した。騒ぐ輩も何名か居たが総監部からの通達だと言えばアッサリと死体を片付けはじめる始末、ただ自分たちが同じ目にならない為の抗議だった。
扇の人望の無さに危機感を覚え、性格の歪みが酷い息子の態度を改めさせたらしい。
「で?加茂はどうすんだ?」
「解体する」
「長様、次期当主は加茂憲紀少年ならば賛成いたします。」
「俺も解体に賛成だ。甚爾が再三調べに調べてコレだ、加茂に長は48回も改善しろと呼びかけていた。実家とはいえ自業自得だ……俺もペナルティを負うべきだ」
「お前は捨てられた上に加茂の分家の分家出身だろうに何百年前の話だ……負うべき罪など無いわ」
『不滅』の術式を持つ長は自身の選択が私利私欲でないかを本来なら不必要なレベルで恐れる。故に大きな決断の際には必ず側近達と、更に難しい選択だと判断したら関係の無い人間をランダムに連れて来て意見を出させ、1人でも筋の通った反論があれば再考すると決めている。
今回は最早猶予を与えに与えた末の事であるので側近3人が、それも捨てられたとはいえ大切な者も居た生家の者が自身も罰を受けつつ解体すべきと言われれば是非も無い。
「新御三家の一角は儂と側近で5家、直毘人と悟でそれぞれ4家を合わせて13家を合併して新御三家の一角にするのが妥当だな……直毘人には政治的な力と資産持ちの使える家を、悟には術式と実力で使える家をリストアップさせる。悟は六眼で識別できるから簡単だが……直毘人には多少なら禪院の得になる家の人員を上層に組み込んでも良しとするか」
「我らの選定の基準はどうします?」
「あー姉御の言った使える加茂と金さえあれば加茂に対抗できてた家が4つ、調べさせられたわ。一ヶ月もかかったから嫁が心配してる」
「儂らのはそれでよかろう。甚爾は御苦労だった、任務の達成に嫁の心労と子の寂しさ……諸々含めて儂の資産から本来の20倍の金と半年の休暇をくれてやる。仕事は真希の訓練と育成を兼ねたもので誤魔化しながらやる、気にせず家族の時間を楽しむといい」
「ありがとよ親父……長」
伏黒甚爾は幼少から長に付いて回り、実の親など呪力を持たないと判明してから会ったことなく、長は側近に気安く接する事から口調が荒くとも態度が悪くとも受け入れられる様は家族のようで
故に何度かこうして不覚にも親父と呼んでしまう。
「フハハッ孫によろしくな甚爾」
「あークソっ!緊急事態には喚べ!じゃあな!」
うっかりソニックブームを生み出しながら言い逃げをする甚爾に手を振りながら朗らかに笑う
長は、青年に見える容姿でもやはり永き時を生きる老爺だった。
加茂家は総監部にベタベタに癒着しているのが原作の公式設定なので、癒着できない総監部になった場合は分家や傘下に無理難題を押し付ける害悪になりました。多分呪詛師も利用してるという想定。