「美々子と菜々子だったか……夏油の世話になるのだな?」
総監部の最奥に3人の来客が来ていた。
1人は高専の皆の尽力により落ち着いた夏油傑、そして美々子と菜々子の2人。計6人での面談だ。
「夏油様以外は嫌」
「うん」
「ならば戸籍を何とかして親子にするしかあるまい、非術師の養護施設は悪影響にしかならぬ。喧しい外野への多少の対策にもなる」
「その通りかと」
「俺も同意見だ。夏油は年齢毎の女児用のマニュアルを読み込む事だ、中途半端に投げ出せば双子は精神に再起不能の傷を負う。一生見守る覚悟を決めろ。」
「勿論です。幸い九十九元特級を悟が捕まえたので家族としての時間も確保できますので」
トントン拍子に双子の将来が決まるが、双子も予め聞かされていた内容と相違ない事を自分たちで確認して理解している。
「呪術師に対する差別は昔から存在する故に保護の規定も定めておる、一軒家に夏油と暮らし徐々に世間に関わるのがいいだろう。補助金は毎年出るが贅沢できる程ではない、すまぬな」
「いえ、過分な程だと恐縮しています。贅沢をしたいなら娘の為に私が稼げばいい話ですから……一軒家に私の両親を引き入れる事は可能でしょうか?」
夏油の意外な提案に長は言葉が詰まる。たった数日のカウンセリングで憎むべき非術師である両親を安全性の確保できる場所に招こう等と考える程に精神が安定しているとは思いもよらなかったのだ。
「……それは、問題無いのだな?」
「はい、悟に殴られて夜蛾先生と話して思い出しました。私は両親のような善良な人を護る為に呪術師に、そしてゆくゆくは蝶様の代わりになりたくて術式を磨いてきたことを思い出したのです。」
非術師の両親に関しては問題無いだろう、見えない物が見えるという息子をありのまま受け入れた夫婦なのだ。
問題はこちらだ。
蝶とは天与呪縛によって日本全土を術式範囲とする『呪霊操術』の使い手、夏油は圧倒的な才能により精密操作こそ多少劣るが、何の縛りも無く蝶と同じ事ができるポテンシャルを持っている。
「…そうか……ああ、蝶の300年は次の世代に……感無量だ」
「300年!?そこまでの献身を蝶様は」
「ああ、それも早期に魂を変質できる術式を手に入れていたからな。戻ろうと思えば戻れた上に他の明らかに酷い天与呪縛負わされた者らの呪縛を解く為に呼び付けては解いてを繰り返す献身ぶりだ。」
自己を顧みない聖女の如き精神性は呪術界では変人扱いだが、夏油にはひどく眩しく見えた。
故に同じ術式の自分が肩代わりするのだ、精密操作の部分は現代の科学の発展具合ならもしくは、等と五条悟と真面目に話し合っていた。
害脳の洗脳と非術師の醜さで怒りに我を忘れ一時期に忘却していただけで、夏油傑とは善人なのだ。思い出してしまえば一直線に心から目指すと決めた目標に進むだけである。
「確かに夏油君になら任せられる……こんな日が来るなんて……私は何をしたらいいんでしょうか長様」
「フハハッまだ先の話しだ。蝶の身体を完璧に治すなら今代の『人が人を恐れる』事で生まれる呪霊が欲しい、魂に関する術式を持つヤツを夏油が捕まえる頃には夏油も肉体的にも呪術的にも全盛期だろうからな。不滅を付与すると成長しないのが欠点だ」
「つまり全て私次第という事ですね?魂に関する術式持ちの呪霊を取り込むまでに全盛期に至り、しっかり捕獲して蝶様の代わりになり得るという実績と実力を示せと、勿論やってみせますよ」
不敵に笑う夏油は数日前の窶れた姿が嘘のように気力に満ち満ちていた。
そして拳を握り決意表明をした直後に長が夏油にこっそり近づき、ちょいちょいと手招きして離れた場所に呼び寄せる。
双子は蝶に任せるようだ。
「蝶の天与呪縛は子宮も奪われてる、だから女を捨てたと公言しているが…儂は蝶に女として一般人としての幸せを甘受させたい。今の呪霊の術式だと内臓の修復は日常生活復帰レベルで妊娠は可能だが出産が不可能だ。だが人口が増えるにつれ強くなる呪霊の術式なら、儂の長年の勘によればいけると思っとる。」
「お任せください、私は必ず遂行しますが……少し疑問が」
「なんだ?」
「蝶様のお相手が亡くなる時に蝶様が死を選んだ場合はどうするおつもりでしょうか」
「ああ、『不滅』は老化もするから脳の老化をさせない為に20年間隔で自決してる。普通に老化するから夫婦仲は問題無いとして…術式対象外にすれば積み重なった時間が開放され灰になって終わりだ。真の不滅は儂のみ、仮初の不滅たる蝶の死は儂が選ぶという傲慢極まった術式だ。」
「傲慢かどうかは私には判断出来ませんが、蝶様は普通の女性としての幸せを掴めるのですね……300年の対価としては安過ぎますが」
「フハハッ蝶に美々子と菜々子3人の女の為に頑張る男、夏油貴様最高にカッコいいな。数日前が嘘のようだ」
「私に巧みな話術で非術師のネガティブキャンペーンを数十時間流し込んだ害脳は許しません。悟…五条も怒っていたので私同様参加すると言っていました。」
「安心せい、害脳の居場所は捕捉済みよ。お前は大戦力として頼りにしておる、駆除作戦の為の会議には呼ぶ故、楽しみにしておけ。」
「……ありがとうございます。その際には全身全霊を賭けて任務を遂行し、必ず生還する事を約束します」
2人がコソコソと話している場所から離れた所では、双子が見た目が若い優しそうなお姉さんの存在しない右腕に触れて痛くない?大丈夫よと微笑ましい会話をしているのを『転送』の術式を持つ展来が残った片目で見守っていた。