DATE A LIVE Variante spirit   作:レゾリューション

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戦闘描写はやっぱり難しい


第3話

「……疲れた」

 

明那は深いため息をつきながら、ぽつりと呟いた。その言葉には、全てが詰まっているようだった。

 

ちょうど何日か前から始まった、地獄のような訓練。その一部始終を思い返すと、もはや他に口にできる言葉が見つからなかった。

 

なぜこんなことになったのか。彼女の思考は自然と昨日の出来事――いや、もっと正確には、あの無茶な訓練の始まりまで遡っていく。

 

ちなみに、「回想シーンが嫌い」な読者がいるかもしれない。だが残念ながら、これは我慢してもらうしかない。作者(と明那)の都合である。

 

 

 

 

 

 

 

司令官•五河琴里の説明によれば、五河士道には精霊の力を「封印」する特殊な能力が備わっているらしい。だが、その封印にはある条件が必要とのこと。それがデートして、デレさせることだった。

 

この説明を聞いた明那は、思わず眉をひそめた。

 

(いやいや、なにそれ。どこのエロゲ……?)

 

常識的に考えて、精霊の力を封印する方法としてはあまりにも斜め上すぎる。「誰かに好かれることで世界を救う」などという設定、下手すればギャルゲーの主人公ですら「荷が重い」と言い出しかねないレベルだ。冗談抜きで、いつか誰かに背後から刺されてもおかしくない。

 

(……まぁその時は骨くらい拾ってやるか)

 

そんな無茶な役目を背負わされた士道は、現在ラタトスク本部にて恋愛シミュレーションによる訓練を受けているらしい。しかもその訓練内容がまたひどい。選択肢を間違えるたびに、かつての黒歴史が漏洩されるという、人格形成に重大なトラウマを残しそうな仕様付きだ。

 

明那は、そんな話を聞きながら思った。

 

(……後でどんな訓練か見せてもらおう。ちょっと、いや、かなり楽しみ)

 

 

 

 

 

 

そして――ずいぶん唐突ではあるが。

 

明那は〈ラタトスク〉の戦闘員として、雇用されることになった。無論、給料も出る。その事実を告げられたとき、彼女の第一声は「え、振込? 手渡し?」だったが、それはさておき。きっかけは、彼女が気絶している間に行われた調査だった。

 

回収後、フラクシナス内部で彼女の所持品は厳重に検査された。その中でも特に注目を浴びたのが、あの奇妙なベルト――ディケイドドライバー。

 

外見はただのおもちゃでありながら、どこか霊装にも似た異質さを持つ装置。解析班が各種スキャンを行った結果、検出されたのは――精霊反応。

それも、既存のどの精霊とも一致しない、独立した波形。だが不可解な点があった。試しにラタトスクの技術員が装着を試みたところ、ベルトは完全に沈黙したのだ。ただの金属の塊のように反応しない。

 

ところが。明那が手に取った瞬間だけ、明確に起動反応を示す。まるで所有者を選んでいるかのようだった。その結果に、ラタトスク上層部は即座に結論を出した。

 

未知の精霊反応を持つ装備に専用使用者。そして高い戦闘能力。野放しにしていい存在ではない。もっとも、それは排除を意味しない。

 

ラタトスクの方針は一貫している。精霊を殺すのではなく救う。だからこそ、明那の扱いは“管理対象”ではなく、“戦力”という形に落ち着いた。彼女自身もまた、条件を聞いたうえで頷いた。精霊が無闇に討伐されるのは、本意ではない。

 

戦場で何度も見てきた光景だ。恐怖と誤解の果てに、命が奪われる瞬間。

それを止められるなら。多少こき使われるのも、悪くない。そして何より――

 

「士道のサポートねぇ」

 

小さく呟きながら、明那はモニター越しに五河士道の姿を眺める。精霊を攻略し、デレさせ、キスで封印する少年。戦闘員不足という現実的な理由もあったが、彼の周囲で何かあれば即座に対応できる存在は必要だった。

 

前線で暴れられる人材は、貴重だ。かくして霜月明那は〈ラタトスク〉戦闘員として、新たな立場を得たのだ。

 

その発表の翌日、彼女は施設内の地下深くへと連れて行かれた。無機質なエレベーターが静かに降下し、やがて扉が開いた先に広がるのは、コンクリート打ちっぱなしの殺風景な訓練場だった。

 

待ち構えていたのは、相変わらずチュッパチャップスを咥えたままの五河琴里――司令官である。

 

「明那、あんたにはこれから訓練を受けてもらうわ」

 

琴里は唐突にそう告げた。

 

「どんな訓練? まさか恋愛シミュレーションとかやらされるわけじゃないよね?」

 

冗談めかして返す明那に、琴里は笑み一つ浮かべずに告げる。

 

「訓練の内容はシンプルよ。ひたすら敵を倒し続けてもらうわ。通称、《ブラッディ・パレス》」

 

そう言って、琴里は備え付けの大型スクリーンを操作し、訓練の概要を映し出す。

 

「ここには101階までの階層が存在していて、それぞれに敵が出現する。敵を殲滅すれば次の階に進める。101階まで突破できれば訓練は合格。ただし、回復アイテムは持ち込み禁止。そして10階ごとにボスが配置されていて、特に80階以降は敵の強さが大幅に跳ね上がるわ」

 

明那はその説明を聞いて、無意識にため息をついた。

 

「うわ……まさかの物量型ハードモードじゃん……」

 

けれども、逃げ道はなさそうだった。司令官の表情からは、明那がこの訓練を回避する余地は一切感じられなかった。

 

 

明那は、訓練の概要を受けて戦闘装備へと変身した。しばらく待機していると、目の前の空間が歪み、敵が出現した――その姿を見た瞬間、彼女は叫んだ。

 

「ちょっと待って⁉︎ 何あの敵⁉︎」

 

それはまさしく“悪魔”と形容するにふさわしい外見だった。ねじれた角に裂けた口、体中に生えた異形の手足、そして血走った目。人の形はしているが、そこに人間性の片鱗は微塵もなかった。

 

背後から声が届く。

 

「言い忘れたけど、敵は“悪魔の見た目”に設定してるわ」

 

涼しげな声で琴里は言った。

 

「なんで⁉︎」

 

明那は思わず叫び返す。

 

「敵の外見に怯えて動けなくなるようじゃ意味がないでしょ? これはそのための訓練でもあるのよ」

 

言われてみれば一理ある。だが納得できるかといえば、別の話だった。

 

(いや、リアルすぎるって……これ、ゲームで出した方が売れるんじゃない?)

 

そんな文句を胸中でこぼしつつも、明那は訓練に身を投じた。

 

最初の階層に出現する敵はまだ扱いやすい。だが、問題は10階ごとに登場するボスだった。とにかく強い。明那自身の体力にも限界がある上、変身状態を維持するだけでも消耗が激しい。しかも、敗北すれば容赦なく1階からやり直し。精神的な負担は凄まじいものだった。

 

さらに明那が音を上げかけた時、追い打ちのように導入されたのが顕現装置(リアライザ)だった。

 

「これは物理法則を歪めて、魔法を再現する装置よ。それと休眠ポッドを併用すれば、訓練時間を限界まで圧縮できるわ」

 

琴里は当たり前のように言ってのけた。

 

結果、明那は1日あたり最大300時間と言う矛盾した訓練を強いられる羽目になった。筋肉痛も疲労も無視できない。いくら技術の力があるとはいえ、心のどこかで明那は本気で叫びたくなった。

 

(……人の心とか、ないんか!?)

 

これが〈ラタトスク〉流の育成方針らしい。まさに“スパルタ”を超えた“スパルタン地獄”だった。

 

 

現実の時間で言えば、訓練開始から二日か三日が経過したあたりだった。明那はようやく、自分なりの戦い方というものを掴み始めていた。単に力任せに殴るのではなく、状況に応じてスタイルを切り替え、戦局をコントロールする。そうした技術と感覚を、自らの中で形にし始めたのだ。

 

まず彼女が生み出したのは、四つの戦闘スタイルだった。

 

移動に特化し、素早いステップで敵を翻弄する

《トリックスター》

剣技に重きを置き、圧倒的な近接戦闘力を誇る

《ソードマスター》

銃火器を駆使し、射程の優位を活かす

《ガンスリンガー》

あらゆる攻撃を受け止め、跳ね返す

《ロイヤルガード》

 

それぞれのスタイルは単独でも強力だったが、明那はこれを状況に応じて即座に切り替えられるよう訓練を重ねていた。

 

技もまた次々と生まれた。敵を斬り上げ、上空へと打ち上げる《ハイタイム》。そこから一気に急降下し、敵の頭部へ強烈な一撃を叩き込む《ヘルムブレイカー》。さらに、地上では爆発的な加速で突進し、強烈な突きを放つ《スティンガー》。いずれも瞬発力と破壊力を兼ね備えた近接戦特化の技だった。

 

四日目には、新たな力も開花した。

剣を逆手に構え、霊力を刀身に集中させて衝撃波を放つ《ドライブ》。その直後、さらに二連続で衝撃波を飛ばす《オーバードライブ》。これらは一対多数の戦闘でも力を発揮し、敵の群れを一掃する切り札となった。

 

ただし武器の問題もあった。剣一つでは対応しきれない局面もあり、彼女は新たに二刀流の双剣、そして籠手と具足の支給を受けた。これが思いのほか扱いやすく、汎用性も高かったのだが――問題は、彼女の使い方だった。

 

結果、双剣は柄から折れ、籠手と具足は衝撃に耐えきれずに破損した。

なお、籠手と具足を装備していた際に「昇竜拳」と称してジャンプしながら拳を突き上げたところ、司令官・五河琴里に厳しく怒られたのは余談である。

 

かつては見るだけで恐怖を感じていた“悪魔”たちも、今ではもはや何の脅威でもなかった。むしろ、明那は笑いながら挑発する余裕すら見せていた。

 

(私は、強くなっている――)

 

その実感が彼女の胸を熱くし、さらなる高みを目指して訓練へと駆り立てていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラタトスクの戦術本部、その中央モニターには現在進行中の訓練映像が映し出されていた。映っているのは、鋭い眼光でボス級の敵を睨みつける少女・霜月明那。その姿を、司令官の五河琴里と解析官の村雨令音は驚きをもって見つめていた。

 

つい最近まで戦闘の経験どころか、武器の扱いすら覚束なかった少女が、今や一流の戦士のように敵と渡り合っている。

 

時折見せる余裕の笑み、挑発とも取れる身振り。それは戦いの中に恐れを感じないどころか、むしろ楽しんでいるかのような雰囲気さえあった。

 

「……まさか、ここまで成長するとはね」

 

令音がぽつりと呟く。目の前の映像は、明那が訓練用ボスに向かって堂々と挑発を仕掛け、その直後に放たれた重い一撃を紙一重で回避し、的確な反撃を叩き込む場面だった。

 

反射神経、判断力、そして何よりも“余裕”かつての彼女には存在しなかった資質が、今はしっかりと備わっている。

 

「人間、時間をかければここまで伸びるとわね……もっとも、時間を極限まで圧縮できる装置と、それに耐えられる精神力があっての話だけど」

 

令音の言葉に琴里も頷いた。

「ええ。彼女にこれだけの戦闘センスがあるなんて、最初は想像すらしてなかったわ。それに、あの挑発。あれは自分の実力に相当な自信がなければできないものよ」

 

琴里の目が細くなる。

 

「戦闘中に油断すれば即死する相手よ? それでも明那の動きには無駄がないし、立ち回りにも隙がない。それどころか、余裕すら感じられるわ。あれは……間違いなく“使える”わね」

 

言葉の裏には、明那に対する評価の見直しがあった。たとえ訓練という条件付きであっても、彼女は現場に投入できるだけの力を手にしつつある。それも、短期間で。

 

「まあ……“ちょっとキツい訓練”の成果ね」

そう呟く琴里の横で、令音が肩をすくめた。

「明那本人は“全然ちょっとじゃない”って怒ってたけどね」

 

「……彼女って本当に一体何者なのかしら?」

 

琴里は、訓練映像に映る明那の姿を見つめながら、令音に問いかけた。

 

令音は手元の端末を操作しながら、軽く首をかしげる。

 

「……念のため調べてみたけど、特に怪しい経歴はなかった。普通の家庭に生まれて、普通の学校に通って、普通に……うるさかったらしいけど、まあ普通だね」

 

「“うるさかった”って何よ」

 

「中学の担任教師の備考欄に“元気がいい”“話し好き””煽り性能が無駄に高い”“昼休みに変な技の練習をしている”と書かれてたぐらい」

 

「どのへんが普通よ、それ」

 

琴里は思わずツッコミを入れたが、特別な血筋や改造人間の痕跡もない、ただの一般人──というのが現時点での公式な解析結果だった。だがその“ただの一般人”が、今やボス悪魔を軽やかに翻弄し、避け、叩きのめしている。

 

「強いて言うなら、女子にしては身体能力が高いくらいかな。50m走は男子顔負け、持久走は教師が息を切らすレベル」

 

「……今後に期待ね」

 

琴里は、理想的な“天才の正体”を期待していた分、少しだけ拍子抜けした様子を見せたが、それでも目はモニターを離さない。そこには、恐怖を感じるどころか笑いながら戦う明那の姿があった。

 

「これだけ戦えれば……AST相手でも互角以上に渡り合えるかもしれないわね。精霊とも、もしかすると──」

 

彼女はそこで言葉を切った。

 

もっとも、ラタトスクは精霊との共存・保護を目的とした組織であり、武力による排除は本来の目的ではない。だがその“共存”を成し遂げるために、時に力が必要となるのも事実。

 

琴里は、再び画面を見つめた。訓練用の悪魔を見事な連携技で吹き飛ばした明那が、カメラに向かってガッツポーズを決めている。

 

(やっぱりただの一般人じゃないわよね、明那って……)

 

心の中でそんなひとことを呟きながら、琴里はカップに口をつけた。冷めた紅茶の味が、妙に現実的だった。

 

 

 

 

 

 

 

現実世界で何日が過ぎたのか──霜月明那には、もう分からなかった。

顕現装置《リアライザ》と休眠ポッドによる極限訓練の中で、時の感覚などとうに壊れていた。

 

ただ一つ、確かなことがある。

この訓練を突破すれば、ようやく現実に帰れる。

 

「ボスは10階ごとに、って話だったじゃん!?なんで90階後半から連投してくるのさ!」

 

泣き言を叫びながらも、明那は次々と現れるボスを打ち倒し、ついに最終階──101階にたどり着いた。

そこに現れたのは、意外な“敵”だった。

 

「……私?」

 

目の前に立つその姿は、明那自身。全く同じ顔、同じ装備、同じ気配。まるで鏡の中から出てきたかのような存在だった。

 

「最終階の敵は、君の戦闘データを元に構成された疑似存在だよ」

通信越しに令音の説明が入る。

 

「そう……自分との戦いってわけね」

 

深く息を吸い、剣を構える。

 

「──最後の戦い、いきますか!」

 

掛け声と同時に《スティンガー》で突撃。だが、相手も全く同じ技を繰り出し、剣と剣が正面から激突。轟音が鳴り、互いの攻撃は相殺された。

 

間髪入れず、明那は《ソードマスター》に切り替え、《ハイタイム》から《エリアルレイブ》《ヘルムブレイカー》へとコンボをつなげる。

だが、影は最後の一撃を両腕で受け止め、明那の勢いをそらした。

 

「ちょっ、受け止める!? 自分のくせに対応力高すぎでしょ!」

 

その隙に影がカウンターを仕掛け、強烈な蹴りを放ってきた。吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる明那。

 

だが彼女はすぐに起き上がり、今度は《ロイヤルガード》へ切り替える。

 

「防御特化も伊達じゃないんだからっ!」

 

影が剣を振り下ろすその瞬間、明那は防御に徹してガードブロウで反撃を加える。

鍛え上げた反射と勘が冴え、受け流しからの拳打ちを連続で決める。

 

距離が離れた瞬間、すかさず《ガンスリンガー》へ切り替え、二丁拳銃を抜く。

 

「ふふん、火力の暴力ってやつを見せてあげる!」

 

両手から霊力を込めた魔弾を乱射。影も《ガンスリンガー》で《ラピッドショット》を発動し迎撃してくるが、攻撃のタイミングと軌道に巧みに変化をつけ、相手の回避を許さない。

 

「どうした、同じ私なら分かるでしょ? こっちは一枚上だって!」

 

激しい銃撃戦の中、ついに影が銃を弾かれ隙を見せた。明那は即座に距離を詰め、剣を再び手に取り、《トリックスター》へとスタイルチェンジ。

 

「じゃ、決めに行きましょうか!」

 

斬り上げをフェイントに、剣を上空へ投げる。視線が剣に引き寄せられるその一瞬

背後へ瞬間移動し、左足で影の頭を蹴り上げる。

 

バランスを崩した影に向かって、落下してきた剣を右手で掴み取り──

 

「──これで終いだ!!」

 

全霊を込めた斬撃を振り下ろす。

 

同時に、影も《水面斬り》を放っていた。

だが、ほんのわずか──本当に刹那の差で、明那の剣が影を先に貫いた。

 

刃が命中し、影はゆっくりと崩れ落ち、やがて光の粒子となって消滅していく。

静寂が訪れ、剣を握る手に汗がにじむ。

 

そこに残されたのは、ただ一人──霜月明那だけだった。

 

終わった。

長く、果てしない地獄のような訓練は、ついに幕を閉じたのだった。

 

 

 




DMC要素は明那の技に絡んでいきます
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