DATE A LIVE Variante spirit   作:レゾリューション

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第4話

明那は、あの地獄のような訓練を乗り越えた翌日から、無事に来禅高校へと入学した。

 

初日から特に問題も起こさず、なんとか平穏な一日を過ごせた――と思っていた矢先、昼休みに担任から呼び出しを食らった。場所は、よりにもよって物理準備室。初日にやらかした覚えはない。だが呼び出された以上、行かないわけにもいかない。

 

(……ていうか、なんで物理準備室?)

 

不穏な空気を感じつつ扉を開けると、そこにいたのは――

 

「……司令官殿?」

 

見覚えのある赤いツインテールの少女、五河琴里。そしてその傍には、士道と村雨令音の姿もあった。

 

「何で司令官がうちの学校にいるの?」と明那が問いかけると、琴里は軽く肩をすくめた。

 

「士道の次の訓練の説明よ。明那にも一応、見てもらうつもりでね」

 

そう言われ、部屋の隅にあった椅子に明那は腰を下ろした。ついでに横にいた令音にも疑問をぶつける。

 

「てか令音さんまで何してんの?」

 

「……あぁ、言ってなかったっけ? ここに先生として来たんだよ。教科は物理、二年四組の副担任も兼任してる」

 

「前にいた先生は?」

 

「彼はね……遠いところに行ったよ。とても、とても遠いところへ……」

 

「さらっと不穏なこと言ったな!?」

 

その会話を流すように、明那の視線は室内の大型モニターへと向いた。

 

「で、そのモニターは何? どう見ても学校の備品じゃないよね?」

 

「士道の訓練に必要な設備よ。学校の物理準備室をちょっとカスタマイズしただけだから、気にしないで」

 

(気にするなって言われても……完全に秘密基地なんだけど)

 

そんなこんなで、ようやく話が本題に入る。

 

「さて、士道。次の訓練なんだけど――」

 

「まったく気が進まないけど、なんだよ」

 

琴里がちらりと令音を見ると、令音はすでに手元のコンソールを操作していた。机の上のスクリーンに学校内の映像がずらりと映し出される。

 

「ふむ……そうだね、まずは無難に彼女なんてどうかな?」

 

令音が指差したのは、明那と士道の担任――岡峰珠恵教諭。通称タマちゃん。

 

「で、俺にどうしろと……?」

 

「うん。岡峰教諭を口説いてきて」

 

「……はあああああ!?」

 

あまりの無茶振りに士道の声が物理準備室に響き渡る。

 

一方の明那はというと、椅子の上でちょっと姿勢を崩しながら心の中でツッコんでいた。

 

(いや、マジかよ……誰が得すんのそれ?)

 

どうせ結果は『私と五河君は教師と生徒の関係なのでごめんなさい』とかそんなオチになるに決まっている。

 

「本番ではもっと難物に挑まなきゃならないんだから、それに比べたらまだマシでしょ」と琴里。

 

「……そりゃ、そうだけどさ!」

 

令音もさらっと追加する。「岡峰教諭は真面目な性格だし、情報が外に漏れる可能性は低い。まあ、君がどうしても嫌なら、女子生徒に変えてもいいけど?」

 

「……先生でお願いします……」

 

士道の心が折れる音が聞こえたような気がした。

 

「さて、それじゃあこれを使ってもらおうかしら」

 

琴里が言うと、令音がポケットから何か小さなものを二つ取り出した。見た目は小さく、耳に埋まるくらいのサイズだ。

 

「……それ、何?」

 

明那が目を細めながら尋ねると、琴里がにやりと笑って言った。

 

「超小型インカム。これで私たちとリアルタイムで連絡が取れるようになる。音声を綺麗に聞き取ってくれるわ、あと小型カメラも配置してリアルタイムで場所が分かるようになるわ」

 

「まさか……デート中に逐一報告させるつもりじゃ……」

 

「その通り」

 

琴里が即答し、士道が「やっぱりか……」と額を押さえた。明那もやれやれといった様子で溜息をつく。

 

「えーと、それってつまり……私もつけるの?」

 

「もちろん。君にも観察役としてリアルタイムで士道の動向をチェックしてもらう。ついでに的確なアドバイスも期待してるわ」

 

「アドバイスって……恋愛経験ゼロの人間にそれ言う?」

 

「大丈夫よ。ゼロが一になればそれは“初恋”って言うんだから」

 

明那がなんとも言えない顔でインカムを受け取り、渋々耳に装着する。

 

「……なんかすっごく、罠にかかった感じなんですけど」

 

「気のせいよ」

 

琴里が満面の笑みでそう返すと、士道の方にも同じくインカムが手渡された。彼も諦めたように装着し、軽く耳をトントンと触れて確認する。

 

「……聞こえるか?」

 

「バッチリよ。こちら司令部、五河琴里。ただいまより恋愛作戦を開始する」

 

「……頼むからそのテンションで続けるのやめてくれ」

 

「却下。ついでに言うと、これからはどんな恥ずかしいセリフも全部こっちに筒抜けだからね」

 

「マジでか!?」

 

士道が顔を赤くしながら叫ぶのを、明那は横目で見つつ苦笑いする。

 

(……黒歴史製造機がまた一つ)

 

こうして、士道の“教師口説き作戦”は、見事に包囲監視体制のもとで始動することとなった。耳元実況付きで。

 

 

誰も頼んでいないロマンス訓練の新たな幕が上がる。

 

来禅高校、昼休みの物理準備室にて。

 

 

 

 

 

 

士道は、物理準備室を出るや否や、一直線にタマちゃん先生──岡峰珠恵のもとへ向かった。

もちろん、任務である。

……いや、任務にしても内容が重すぎる。転校初日に生徒が先生を口説く任務ってなんだ。

 

最初こそ士道も緊張していたが、いざ話してみると

 

 

意外にも、先生の反応はノリノリだった。

そして会話は、予想を遥かに超える勢いで加速していく。

 

「五河君、血判状って知ってますか? 私、それ作ろうと思ってるんです。えっと、美術室に彫刻刀あったはずだから借りてきて──」

 

(え、ちょっと待って。こっちは演技、そっちはガチ……!?)

 

士道が冷や汗をかく間にも、先生は超本気モードで将来設計を語り始め、ついには「うちの両親、紹介しましょう!」などとノリにノッてしまう。

 

士道、即・撤退。

 

命からがら逃げ出した士道は、廊下の角で人影とぶつかった。その相手は、あの無表情ガール、鳶一折紙だった。

 

少し前に明那が死力を尽くして戦った少女。普通の女子高生というより、職業:無慈悲な戦闘兵みたいなオーラを漂わせている。

 

しかし逃げ道はない。訓練は続いているのだ。

インカム越しには、明那・琴里・令音の視線がしっかりモニタリング中。

 

(くそっ……行くしかねぇ!)

 

腹を括った士道は、なぜか最初に出た言葉が――

 

「そ、その……制服、似合ってるな」

 

だった。なぜそこを褒めたのか自分でもわからない。

が、鳶一は「ありがとう」とだけ返し、やはり表情ひとつ変えない。

 

士道は、インカム越しに明那・琴里・令音の三人に見守られながら、例によって訓練用の“セリフ”を口にする。

 

「お、俺……実は……お前の体操着の匂いを嗅いでるんだ……」

 

モニター前の明那が、目をむいた。

 

(おいおい!? 開幕から飛ばしすぎじゃないの!?)

 

士道はなおも続ける。

 

「それに……実は、ずっとお前のことを見てたんだ……体育の時間とか、放課後とか……!」

 

(やめろォォォ!!! それは一発レッドカード!! 警察呼ばれるやつだってば!!!)

 

明那が思わず叫びそうになる中、鳶一折紙はまばたき一つせず、ただ一言。

 

「……私も、嗅いでいる」

 

「……え?」

 

士道、フリーズ。

 

「……私も、見ていた。あなたのロッカーに、隠しカメラを設置したことがある」

 

「は……?」

 

士道、ガチ硬直。

 

明那はもうツッコむどころじゃなかった。口元が引きつって笑いも出ない。

 

(……何この会話。ホラー? それともラブコメの皮被った通報案件?)

 

明那はモニター越しにガチでドン引きした。琴里は面白がりすぎてモニター前で腹筋崩壊、令音は「データとしては有用」と淡々と記録していた。

 

 

一方、士道はカクカクと動き出し、ロボットのような動きで鳶一に向き直った。

 

「……えっと、その……じゃ、じゃあ……」

 

顔は真っ赤、汗はダラダラ、目は泳ぎ、声は裏返り――それでも、言う。

 

「俺と……付き合ってみる、か……?」

 

鳶一はしばし沈黙した後、こくんと一度頷いた。

 

「えっ、えっ……マジで? 本当に? 嘘じゃない? ドッキリとかじゃなくて??」

 

パニック継続中。

 

だが、鳶一折紙は首を横に振った。

 

「私は本気。五河士道、あなたを観察し、記録し、保存し、そして愛する覚悟がある」

 

「……観察と保存の間に、軽く恐怖感じたけど!?」

 

士道に向かってある物を差し出した。

 

「……これ、あげる」

 

「えっ? な、なにこれ?」

 

鳶一折紙の制服姿を、様々な角度から撮影したプロマイド写真だった。しかも10枚

 

「制服が似合ってるっていったから」

 

 

 

インカム越しに爆笑してる明那と琴里の声が聞こえる。

 

令音だけは冷静にこう呟いた。

 

「……彼女、本物だね」

 

 

 

「ウゥゥゥゥゥゥゥーーー!」

 

耳をつんざく空間震警報が校舎中に鳴り響いた。まるでサイレンに追われるように、廊下では生徒たちが逃げ惑う足音がこだまする。

 

「……またかよ」

 

士道と明那が顔をしかめるのはほぼ同時だった。訓練だの口説きだのでバタバタしていたのに、今度はガチの精霊案件である。

 

そして数分後、ふたりはフラクシナスによって回収された。

 

今回出現した精霊は――《プリンセス》。

場所は、よりによって来禅高校。明那が転校してきたばかりの、この学校である。

 

 

 

 

 

 

明那達が次に目にしたのは、空間震によって半壊した校舎だった。壁は崩れ、窓は砕け、教室だった場所には大穴が空いている。

 

(……転校初日でコレって……どんな不幸体質なの私...)

 

「俺なら……やれる」

 

そう士道は鼓舞していると、横から明那が声をかけた。

 

「士道、そんなに身構えるなって。私がついてるんだから」

 

少し笑ったその表情に、士道はほんの少しだけ気持ちを落ち着けた。だが、次の瞬間、耳元のインカムが不穏な空気を打ち破る。

 

『そうよ、自信を持ちなさい士道。大丈夫、あなたにはフラクシナスが誇る――“精鋭”メンバーがサポートするわ』

 

琴里の声が、インカム越しに響く。

 

「……“精鋭”メンバー?」

 

「いや、そんなメンバー居たっけ?」

 

士道と明那が同時に疑問を口にした瞬間、琴里が続けた。

 

『改めて紹介するわ!

結婚5回を経験した恋愛マスター、《早過ぎた倦怠期(バットマリッジ)》:川越!

 

夜の女性たちに圧倒的人気、《社長(シャチョ)さん》:幹本!

 

100人の嫁を持つ男、《次元を超える者(ディメンション•ブレイカー)》:中津川!

 

恋のライバルにだけ不幸を呼ぶ、午前二時の女《藁人形(ネイルノッカー)》:椎崎!

 

そして、愛が深すぎるが故に法律で接近禁止にされた女、《保護観察処分(ディープラヴ)》:箕輪!』

 

「……」

 

士道はインカムを一度外そうかと本気で考えた。というかもう、現実からログアウトしたい。

 

「急に……帰りたくなってきた……」

 

ぽつりと呟く士道。その隣で明那は、

 

「私、今日撮り溜めてた仮面ライダー鎧武観る日なんで……帰っていいすか」

 

と完全にやる気を失っていた。

 

『大丈夫。みんな、頼りになる人たちだ』

 

令音がフォローするが、その口ぶりもなんだか投げやりで説得力がなかった。

 

……果たして、この“精鋭部隊”で本当にプリンセスを攻略できるのか。

 

誰よりもまず、士道の心が折れそうだった。

 

 

「大丈夫、士道なら一回死んでも、すぐニューゲームできるから」

 

その言葉を、琴里──司令官は実にさらりと口にした。

 

口調もテンションも、まるで「今日の夕飯カレーらしいよ」くらいの軽さだった。

 

明那は一瞬、自分の耳を疑った。

 

(……今、なんて?)

 

思わず隣の士道を見るが、当の本人はすでに諦めたような顔で空を見上げている。どうやらあの物騒なセリフは、聞き間違いなどではなかったらしい。

 

(気のせい……だよな?うん、気のせいってことで……)

 

心の中でそう願いながら、明那はそっと目を逸らした。

 

ただでさえ意味不明な恋愛訓練に空間震、ついでに精鋭(?)部隊に無茶ぶりされる日々。その上、命の扱いまで軽くなったら、彼女の胃袋が先に限界を迎えそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

プリンセスが出現した場所は、よりにもよって、明那と士道の教室だった。

 

場所の特定に手間取ることもなく、二人はすぐに目的地へと向かっていた。教室で空間震とか、もはや「またかよ」感が強すぎて、誰も驚きやしない。

 

明那は念のため、すでに〈プリンセス〉の姿に変身していた。戦闘はいつ始まるかわからない。鏖殺公(サンダルフォン)もすでに顕現済みである。

 

……が。

 

「……重ッ」

 

当然のことながら、サンダルフォンはとんでもなくデカくて重い。初手からずっと手に持って走るには無理がある。間違いなく腕パンパンになるレベル。

 

どうしたもんかと思っていたその時だった。

 

ふと意識を向けると──剣が、ふわりと宙に浮いた。

 

「……あっ、浮いた。なんで?」

 

ツッコミどころ満載だが、もうこの世界の理屈にいちいち付き合ってるほど、彼女の心は繊細じゃない。

 

「……まぁ、いいか。浮いてくれるならそれで」

 

もはや明那の中で、「物理法則」よりも「気合とノリ」のほうが信頼できるらしい。なんやかんやでだいぶ慣れてきた感は否めない。

 

 

教室のドアが静かに開かれた。

 

その音に反応するように、教室の中央──割れた窓から差し込む光の中に佇む少女が、手をかざす。そして次の瞬間、鋭い衝撃波が明那たちに向けて放たれた。

 

だが、明那は動じない。構えたサンダルフォンを前に出し、迫る衝撃を一刀で受け止めた。ギン、と金属音のような鈍い響きが空間に残る。

 

「落ち着いて。こっちはここでやり合うつもりはないんだけど?」

 

彼女の声は穏やかだったが、剣を構えたまま、油断はしていない。

 

光の中に立つ少女──〈プリンセス〉は、明那をじっと見つめていた。否、睨むように。そして、疑問を投げかける。

 

「……何故。お前は、私と同じ姿をしている?」

 

その問いに、明那は少しだけ眉を上げた。

 

確かにその姿は、そっくりだった。シルエットも髪型も、まるで鏡に映したようだ。

 

だが、答えるのは今ではない。

 

明那はちらりと後ろに立つ士道を見ると、ふっと口元に笑みを浮かべ、剣を一度地面にトンと立てて言った。

 

「その質問には追々、答えてあげる。ただしまずは、彼、五河士道と私、霜月明那に敵意がないことを理解してからね」

 

彼女の言葉に、プリンセスの眉がピクリと動く。だが、攻撃はしてこない。

 

会話の主導権は、今、明那と士道へと渡された

 

士道は、〈プリンセス〉へと一歩踏み出し、口を開こうとした。

 

「俺は」

 

だが、彼の言葉は少女の鋭い視線に遮られた。まるで心の奥を見透かすような睨みだ。

 

「……何が目的だ?」

 

声は低く、冷たい。あの時、映像で見たよりもさらに暗い表情をしていた。

 

それでも士道は怯まなかった。彼女の目を真っ直ぐに見つめて、静かに問い返す。

 

「…なら、どうしてそんな顔をするんだ?」

 

「なに?」

 

「俺は何もしない。ただ、君に会いに来ただけだ」

 

その言葉に、プリンセスの眉がぴくりと動いた。警戒を解く気配はない。

 

「嘘だ。今までの人間は私を殺そうとしてきた」

 

「少なくとも俺たちは、君を傷つけたりなんてしない。絶対にだ」

 

士道の語気が少し強くなる。その真剣な眼差しに、少女は戸惑いの色を浮かべた。

 

「……何のためにだ」

 

「君のことが気になるからだ」

 

短く、だが揺るぎない言葉。それが少女の心に確かに届いたのか、彼女の表情が少し揺らぐ。

 

「……」

 

そして、士道はもう一歩踏み込んで言った。

 

「俺たちは、君にそんな悲しい顔をしてほしくない。誰が何と言おうと、俺は君を否定しない」

 

「───」

 

少女は目を見開いた。まるで、今の言葉が信じられないように。

 

誰にも、そんなことを言われたことがなかったのだ。

 

「シドー…と言ったな。お前たちは、私を否定しないのか?」

 

「当たり前だ」

 

その即答に、少女は目をそらしながら──だが頬を少し赤らめて、むくれたように言い返した。

 

「ふ、ふーんだ。そんなこと、信じるか、バーカバーカ」

 

それでも士道は変わらず、真っ直ぐに彼女を見つめていた。

 

少女は一瞬たじろぎ、それから腕を組んで少しそっぽを向く。

 

「……だ、だが今までの奴らとは違って、シドーはまともに話が通じるやつだからな。この世界のことを知るために、や、やむを得ずお前を利用してやる。……特別にな」

 

その言葉を近くで聞いていた明那は思わず口に出しかけた。

 

(……新手のツンデレ?)

 

シリアスな場面にはあまりにも場違いなツッコミだったが、ぐっと飲み込む。

 

そして少女──プリンセスは、ふん、と鼻を鳴らして小さく頷いた。

 

「うんうん、大事。ちゃんと利用する。……だから、勝手にどっか行ったりするなよ?」

 

ツンツンしつつも、どこか不器用な優しさをにじませる言葉だった。

 

 

士道は、ふと気になっていたことを口にした。

 

「そうだ。君の名前は?」

 

今まで皆が“プリンセス”と呼んでいたが、それはコードネームのようなもので、本当の名前じゃない気がする。本人も納得してるならそれでもいいのかもしれないけど──やっぱり、ちゃんと名前で呼びたかった。

 

少女、プリンセスは、少し考えるような顔をした後、あっさりと答える。

 

「名か。そのようなものは、私は持っていない」

 

「えっ……そうなのか?」

 

「だが、会話するには不便だな。シドー、アキナ。お前たちは、私を何と呼びたい」

 

その時、隣で様子を見ていた明那が、ぽんと士道の背を軽く叩いた。

 

「士道、彼女の名付け親になってあげなよ」

 

「お、俺が?」

 

突然の大役に、士道はちょっとだけたじろいだ。だが、プリンセスは黙って彼を見つめている。どこか、少しだけ期待しているような瞳で。

 

フラクシナスで《トメ》とアイデアが出たが明那が却下した。

 

(トメはないでしょ、トメは)

 

「と、十香」

 

士道がそう口にすると、少女──元・プリンセスはきょとんと首をかしげた。

 

「ぬ?」

 

「ど、どう……かな?」

 

彼は少し照れながら、それでも真剣な表情で答えた。しばらくの沈黙のあと、少女はぽつりと呟く。

 

「……それでいい」

 

その瞬間、名もなき精霊だった彼女に、ひとつの名前が与えられた。

“十香”。それが彼女の新しい名前となった。

 

「それで、トーカとはどのように書くのだ?」

 

素直に疑問を口にする十香に、士道は「よし」とうなずいて黒板へと向かう。そしてチョークを手に取り、丁寧に二文字――『十香』と書いた。

 

「こう書くんだ」

 

十香はそれをじっと見つめた後、自分もやってみると言わんばかりに黒板の近くへ行き、士道の書いた文字を指でなぞり始めた。

なぞった部分が削れ、黒板に不器用ながらも確かに『十香』と同じ形の文字が浮かび上がる。

 

真っ直ぐとは言えない筆跡。それでも、それは彼女の初めての「名前」だった。

 

 

「シドー、アキナ」

 

「「ん?」」

 

「十香。 私の名前だ。素敵だろう?」

 

「あ、ああ…」

 

「とても素敵だと思う」

 

 

突如として、校舎全体が揺れるような爆音と共に激しい衝撃が走った。

 

『士道、明那離れなさい!』

 

「な、なにが……!?」

 

まだ名付けの余韻に浸っていた士道が、思わず辺りを見回す。だが次の瞬間には、彼の視界いっぱいに明那の姿が飛び込んできた。

 

「士道!伏せて!」

 

そう叫ぶと同時に、明那は士道に覆いかぶさるようにして床に押し倒す。

 

直後、教室の窓ガラスが派手に割れた。その破片がキラキラと宙を舞い、向かいの壁にバシバシとぶつかって砕ける。そして乾いた金属音と共に、壁に小さな穴が開く。

 

「……銃痕?」

 

明那が低く呟いた。目を細めて外を睨む彼女の表情は、さっきまでの和やかな空気を一瞬で吹き飛ばすほど真剣なものに変わっていた。

 

空を見上げると多くのASTがいた。

それもガトリングやマシンガンを抱えて

 

(十香が出てこないから炙り出そうって算段ね....)

 

「早く逃げろ、シドー、アキナ。 このままでは同胞に討たれることになるぞ」

 

「何をしている? 早く…」

 

「知ったことか…! 今は俺たちのお話タイムだろ。あんなの気にすんな」

 

「それもそうね」

 

明那、士道、十香の3人は様々なことを話し合った。

 

その時、琴里から連絡が来る。

 

『士道、明那撤退しなさい、ASTが強行突破するかもしれないわ。士道、早くデートの約束をして』

 

さらに弾丸の雨が激しくなり明那は遂に行動を起こす

 

『明那、何する気⁉︎』

 

「ちょっとアイツらと戯れてくる」そう言ってサンダルフォンを片手に構え直した。

 

士道と十香が目を丸くする中、彼女は十香の肩をポンと叩いた。

 

「十香は少しこっちに寄って。アイツらが十香を見失った瞬間に私が出る」

 

「……わかった」

 

十香はすっと動き、明那の指示に従う。

 

次の瞬間、明那は教室を飛び出した。

 

「さて、派手にいきますか!」

 

 




次回から戦闘に入ります
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