彼氏持ちヴァーチャル配信者のエミリーは炎上する   作:カツカレーうどんパンマン大盛

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01 彼氏持ちの設定のくせに彼氏が居なかった奴

 

 俺の勤めている事務所に所属する配信者が炎上した。

 それも、燃やされたようなものでも、ぼやのようなものでもない、割と強めの炎上である。

 

 理由は、リアル彼氏のいる陽キャ系ヴァーチャル配信者であるエミリー・グレイアントに彼氏が居ないことが判明したから……というものだ。

 

 彼氏の居る設定じゃ無く、ガチで居るという体で売っていたので、なんこめっちゃ燃えている。

 

 実は居た……で炎上したならともかく、実は居なかった……でも炎上するんだな……と現実逃避したい気持ちだった。

 

 何故かというと、今日は平日の休み、厳密には有給で買い出しやら役所やらと用事を済ませた後に……映画でも見ちゃおうかなと休日を満喫していたところだったからだ。

 

 炎上は仕事場からの電話で知って……会社に向かう電車内のスマホで調べている最中だったりする。

 

 おさらいを軽くしておこう。

 

 エミリー・グレイアントは人間とエルフのハーフで、人間の彼氏が居る21歳の女性で、人間社会には勉強も兼ねて遊びに来ているという設定だ。

 

 中身は高校中退の17歳の女性で、引きこもりだけど根明の陽キャというギャップ持ちで、それを武器に面接を突破した剛の者でもある。

 

 ちなみに彼氏は居ない。彼氏役のCVは予算が出なかったので社員の俺がしょうが無くやっていた。手当は勿論無いので役得とかはみじんも無い。

 

 でも、なんでバレたんだろうな。

 普通そういう内部事情なんて告発でもするか、誰かが流さない限り出るはずが無いんだけど……。

 

 パッと考えてもメリット無い気がするんだよな。

 エミリーは登録者16万人と事務所内で2番人気の配信者だ。燃えたら損しかしないよなあ。

 

 事務所に着いたが緊急で行う事は済んでいた。

 謝罪文も出したし、エミリー本人からも謝罪と反省の文章をSNSと配信サイト内に投稿済みである。

 

 俺が謝罪しても意味ないしなあ。んん、……なるほど。

 俺が呼ばれた理由はあそこでくたびれているエミリーのマネージャーに代わって本人から原因、というか心当たりが無いか聞いて欲しいということね。

 

 やたらフットワークの軽い社長から仕事を引き受けたので、マネージャーからこういう時の連絡先を聞いて、SNSで1対1の対話を行っていく。

 

 ……全然会話にならないので家に行くことになった。

 電車と徒歩で1時間である。

 

 エミリーは一人暮らしだ。

 東京に近い千葉の端っこに住んでいる。

 

 親元を離れた理由は単純にアクセスの問題らしく、実家はグンマー……ではなく、群馬の方だとか。

 

 エミリーとの連絡はすいませんを連打する相手に何か買っていこうか、とか怒らないし、そういうのじゃないよ、と宥めたりと精神状態の不安定さがとにかく心配になるような感じ。

 

 エミリーは今まで炎上起こしたことも無かったし、それを自慢に思っていた節があるのだ。

 だから、なんというか。

 

 もう一度配信を再会出来るだろうか。

 多分ファンとしては、謝って欲しいと本気で思ってはいないと思うんだ。だって、配信で彼氏のことを喋るのが3、4回に1回くらいしか無いんだ。

 

 多分ファンクラブ加入者は設定の一つくらいにしか思っていない。そこら辺の意識のすりあわせを、データの収集とかアンケート、見える数字として纏めておけば良かったな。なんて、彼女の家へと繋がる最寄り駅からの道を歩きながら思った。

 

 家はてっきりアパートだと思っていた。

 部屋番号が書かれていないなと思っていたが、しっかりとした一軒家だった。

 

 綾峰(あやみね)、彼女の名字が書かれたネームプレートの下のインターホンを押す。

 着いたことはSNS経由で伝えてあるし、彼女とは事務所でたまに会うので面識は一年以上はあるけど……。

 

 

 「入ってください」

 

 ドアから、自信の無さそうな、しょげた感じの彼女が出て来て中へと戻っていった。

 

 おじゃましますと小声で言って、僕は彼女の家へと入ることにした。

 

 いつも事務所で会うときはメイクもしていて服装もしっかりと着たところしか見ていなかったが……すっぴんでジャージ姿は初めて見た。

 

 まあ中には毛玉の出来た年季の入ったスウェットで事務所に来る弊社所属の配信者も居るのだ。

 それに比べたら今の彼女でもまだマシと思ってしまう。

 

 「あの、わたし……」

 

 彼女は本当に別人かのように、言い淀んで……言いたいことを言えずにいた。

 

 「あの格好なら喋れますか?」

 

 彼女の原点。

 エミリー・グレイアントは彼女の持ち込みでもある。

 

 つまり、彼女は事務所で生まれたヴァーチャルな配信者ではなく、エミリー・グレイアントとして事務所に所属しに来たのだ。

 

 彼女は普段からエミリーとして生きている。

 それが一番近い解釈だろうか。

 

 だからこそ、彼女は今、何物でも無い。

 綾峰(あやみね)、流美(るみ)としてここに居る。

 

 「今の私は……エミリーにはなれません」

 

 「どうして、ですか」

 

 エミリーとして生きるのに、彼氏という存在はそんなに大切なのだろうか。僕には分からない。

 理解が足りないんだ。エミリー・グレイアントという存在、その存在の詳細な設定を知らない。

 

 「エミリーがふっと……わたしから離れちゃった」

 

 「離れる、ですか」

 

 死んだ、とか、壊れた、でもない。

 離れたというのは普段どう使っていたっけか。

 

 「エミリーのノートを見返しても、エミリーの格好をしても……エミリーが降りてこないんです」

 

 ああ、なんというか。

 彼女は役に、キャラクターに成り切るような……そのものが憑依、乗り移るようなタイプなんだ。

 

 だから、炎上のショックで、エミリーを演じきれなくなった。文字通り……離れてしまったのか。

 

 「ええと、そうだな。

 僕はお芝居とか、そういうのに疎いから……上手く言えないんだけど、質問……してもいいかな」

 

 「……はい」

 

 エミリーが離れた。なら……近づける方法があればいい。

 

 「一番最初にエミリーと近寄ったとき、あなたとエミリーの始まりを聞いてもいいかな」

 

 「始まり……エミリーとの最初、ええとノート……」

 

 彼女はふらっと立ち上がると、棚から色のあせたノートを取り出した。何処にでも売っているような、学校で使う線の引かれた緑のノートだ。

 

 「エミリーとの始まりは何処だっけ……名前も容姿も、どうやって決めたんだっけ……分かりません」

 

 更に落ち込ませてしまった……。

 ヤバイ、顔の角度のせいだけど……本当にハイライトの無い目をしている……。

 

 「じゃあさ、エミリーの格好をし始めたのは何かきっかけとか……」

 

 「格好は……何だっけ。誰でもない私になりたかったから?」

 

 「それは、どういう……」

 

 彼女はついには床に寝転んでしまった。

 放置するとマズイ気がするなあ。

 

 それにしても、彼女のノートに書かれた絵、どっかで見たことあった気がする。

 

 緑色の服、エルフ、金色というよりは小麦色の髪、黄色の目……ああ、そうだ。

 

 「あー、そうか、緑の魔女、エミリアだ」

 

 懐かしい。あれは、あの子の書いた絵に似ているんだ。

 ま、今は関係無いけど、思い出せるとスッキリするなと床の彼女をどうしようと視線を向けると……凄く目が合った。

 

 「何処で……それを???」

 

 「え、ああ、妹の書いた絵?」

 

 そう答えると、ガバッと彼女が起きた。

 いや、その起き上がり方めちゃくちゃホラー系のやつじゃん。

 

 「妹……ですか?」

 

 「そうだよ」

 

 「〇〇〇ちゃんですか?」

 

 「あー。なんかそう呼ばれてたかも」

 

 てことは、あれか。

 昔の友達だったとか……?

 でも我が家はずっと千葉で、群馬には行ってないけど……。

 

 「私、昔は千葉に住んでて、親が離婚と再婚で群馬なんです」

 

 ……なるほどね。

 

 「妹にノート借りてくるからさ、立ち上がれる?」

 

 「本物ならバッチリです」

 

 なんだかよく分からないけど、彼女の配信者人生に終止符を打ちそうな感じは無くなったようなので……ヨシ!というやつだろう。

 

 ちなみに、このあと妹に話をして、ノートを持った妹を親の車で送り届けて……感動の再会を見守るのかと思いきや、突如始まるレベルの低い口喧嘩。

 

 来客用の布団で寝る妹を放置して、俺は家へと帰った。

 明日は土日限定で妹の学校は無い。安心して放置出来る。

 

 帰ったら飯と風呂やらを済ませて、スマホの電源を落としてから趣味の時間を1時間ばかり堪能してから寝た。

 

 

 翌日、妹を回収しつつ、復活したエミリーも連れて事務所へと向かう。

 こういう事務所に土日なんて無い。というか土日は配信業としては頑張りどころと言って良いだろう。

 

 休止宣言をやりかけていたエミリーのゲリラ復活配信を事務所で行うことになり、事務所全体に熱が入った。

 

 妹はなんか付いてきたのでゲストとしてエミリーと一緒に居る。なんか配信にも2Pカラーのエミリーというか……緑の魔女エミリアとして出るらしい。

 

 ガチの素人出して良いの?と思うけど、なんか話は進んでいるので……俺は問題を棚に上げた。

 

 脳裏では偉い人がゴーサインを出したからヨシ!とヘルメットを被った猫がポーズを取っていた。

 

 

 「やあやあ、皆ーこんにちはー。エミリーだよ~!」

 

 放送開始と告知が同時というガチのゲリラ配信が始まった。

 流石事務所のナンバー2といったところで、復活のエミリーは危うげなく配信を進めている。

 

 オープニングトークというか、挨拶後の軽い雑談を適度にコメントに反応しながら捌いていく。

 しかも、炎上な対する攻撃的なコメントはスルーしつつ、それに対してちゃんとしたコメントは拾うバランス感覚は本当にレベルが高い。

 

 そうして、ある程度話したら炎上についても触れていく。

 「彼氏ネタについては、皆を騙していたようで御免ね。でも……彼氏のリー君は居るんだよ?目に見えないし、触れることも出来ないけど……たまに声が聞こえるんだから」

 

 コメントが爆速で流れていく。

 というか、やっぱりイマジナリー彼氏かよ!というコメントとか、それに近いコメントが多い。

 でもこれは問題の無いコメントだ。俺もそう思ったし。

 

 「彼氏の声って声優を雇ったんですか?いやいや、あれはリー君の声だよ。皆にも語りかけるリー君が見えたってことじゃない?」

 

 エミリーがコメントを読み上げつつ答えていく。

 人を勝手にイマジナリー彼氏にしないでくれ……と思いつつも、画面の向こうのエミリーはネタとして消化出来そうなパスを視聴者に投げていく。

 

 「思ったよりもアンチコメントとか、荒らしは多くないですね」

 

 社員の一部が荒らすようなコメントを消して回っている。急すぎてコメントを監視する人員もプログラムも組み無かったので全部人力のマンパワーコメント消去である。

 

 やはり最後はマンパワーっすわと同僚が血走った目で呟く。お前は徹夜してねーで寝ろよ……とは思ったが、ファンが信じずにどうする!と徹底抗戦とかいうヤバイハチマキをしている同僚から目を逸らした。

 

 画面の中では、エミリーと視聴者の間でコメントバトル、もしくはレスバが行われており……彼氏云々は炎上の規模の割にしれっと鎮火しそうである。

 

 そうこうしていると、妹……いや、緑の魔女エミリアが乱入してきて、リー君の取り合いが始まった。

 

 ていうかリー君の立ち絵有ったんだ……。

 んん?なんか……なんかちょっと俺に似ているのが少し嫌なんだけど。ま、まあいいか。

 

 コメント欄を巻き込んで、エミリー派とエミリア派、共有財産派、リー君は私(コメント)の彼氏派のよく分からんバトルが始まり……同接が2万を超えている。

 

 何だかよく分からんバトルはエミリア派が何故か勝利し、1時間と少しのゲリラ配信は終わった。

 

 SNSのトレンドに食い込むくらいの反響で、炎上はエゴサしていくと、どうも収まったようだと判断できる程度にはあのゲリラ配信は好評だったらしい。

 

 この配信者事務所に入るまで、配信者……特にヴァーチャル配信者という存在を知らなかったが、最近は勤続年数が2年を過ぎて分かった気になっていたようだ。

 

 本当によく分からんことでバズる……注目を浴びて、ちょっとしたことで炎上する。

 

 俺は今日も弊社所属の配信者達のあれこれを調整をする。マネージャーでもないし、技術スタッフでもないけど、全体の把握をしている奴が一人くらい居ないと事務所全体のイベントとかめちゃくちゃ大変だった。ほんと。

 

 今までは明日も炎上しませんように、と祈っていたが明日からは炎上しても無事に鎮火しますように、と祈ることにした。

 

 おわり。

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 俺こと金井(かない) 理(おさむ)はヴァーチャル配信者の所属する事務所、リミテッドブレイクに所属する社会人。

 

 エミリーは事務所で2番目の登録者数であり、1位は登録者数21万人の女性型擬態スライムのイヴリーちゃんである。

 何がバズるか全然分からんと俺くんを悩ませた要因の一つでもある。

 

 ちなみにメンバー限定配信は非常にマニアックな癖について語ったり、特殊なシチュエーションの有り無しなどを議論するんだとか。

 

 

 それと、エミリーの中の人は俺君と昔会っている。

 なんなら、忘れているだけで、3人で遊んでいたりする。

 




くぅー疲。
続編は多分無いです。

読んでくれて感謝。
作者のVTuber感って切り抜き中心なので割とうっすいです。実在の名前や設定と被っていないと思いますし、ガチ被りが万一起きていたとしても、別人ですので。念の為。

一度も炎上したこと無いのに、ささいなことで炎上が起きたらメンタルに来るんじゃないかなという思いつきで作った作品なので勢いで書いてます。
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