アヲヲノゾム   作:もふもふニキ

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横乳だの公然わいせつ罪予備軍とか言われているアコですが、今作のアコはまあちょっと色々と違います


一年前のこと?忘れるわけがないでしょう

カイザーの秘密裏の侵略を偶発的にとはいえ阻止した私はこの1年間。あれとずっとやり合ってきた、相手は巨大な企業、だがやりようはいくらでもある。これがずっと同じ場所にとどまっていたならば補足されていただろうが、あいにくと根無し草の遊牧民(ノーラッド)、追撃をかわすのはなんとかなった。

 

だが、当時の私はまだ弱かった、戦闘という戦闘もしたことがなかったし。それまで銃なんてほとんど撃ったことがなかった。それでもやるしかなかっただけだ。ただ、いつまでも上手くいく訳でもなく。とうとうヘマをしてゲヘナの自治区に追い込まれて死にかけた、ろくな医療なんて受けてなかった私の体は限界とまでは行かなかったが…それでもボロボロになっていた

 

それから1年経つか経たないか。そんなときだ、目の前の彼女と会った…というよりは拾われたのは

 

「…懐かしいな、貴女に拾われたのが随分前に思える」

 

「……そうですね」

 

天雨アコが何かを思い出すように目を閉じる。巻き込んでしまったのが非常に申し訳ない。これがミレニアムの生徒であれば僅かながら心がましになるのだが。貴女はゲヘナの生徒だ、ミレニアムの生徒ではない

 

「そろそろ私は行く、アビドスにもカイザーの拠点がある。そこを叩きに行く」

 

「…お気をつけて」

 

天雨アコに見送られながら次の潜伏場所に向かう

 

 

 

 

 

 

蒼望ニアが去っていったドアをただただ眺める。あの背中を見送った後…どうしようもないやるせなさを壁を殴り付けることで押さえつける。じんわりと鈍い痛みが走る

 

……ほんの少しでも、あの少女の痛みの何億分の1でも感じることが出来ただろうか?いや…それは傲慢にも程がある、身のほど知らずにも程がある。

 

出会いは、ゲヘナ自治区の見回りをしているあの日だった、その日は生憎の雨。一刻も早く終わらせて帰りたかった、そんな時。裏路地で

 

 

───壊れかけのヘイローで血溜まりに沈んでいた彼女と遭遇した、ゲヘナの生徒ではない。かといってトリニティの生徒でもない。制服ではない外套を着ていた彼女を見たときはただ面倒事にしか感じなかった、おそらくキヴォトスでよくあること…とは言えない。

 

ヘイローは頑丈だ。生半可な攻撃では傷もつかない、だが彼女のヘイローは若干だが罅が入っていた

 

足を止めて、一瞬考える。この生徒とも分からない人物を助けるか見捨てるか。私は面倒ごとの予感しかしないものの彼女を自分が所有しているセーフティハウスに連れて行くことにした。べっとりとついている血の匂いは不快感しか感じなかったが

 

その時の判断を。私は喜びつつも知らなければよかったと思う、自分の居場所を全て捨てられる彼女と会わなければよかったと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──天雨アコ、セーフティハウスにて

 

「……これは、酷いですね」

 

雨に当てられて体温が低くなっている。止血らしい止血は素人である私にはおおよそ適切と呼べる処置ができているかは不明だったが、生憎と私もそれなりには修羅場もくぐっている。いろんな目にあってきたのだからこれぐらいは出来る

 

「……仕方が有りませんね」

 

体温を温めるには人肌の温もりが一番最適だ。ある程度綺麗になった体に触れてみる。服の下には、自分で処置したであろう古傷がいくつかあった、キヴォトスでこういった傷はほとんどない。つまり、彼女は無所属、或いはそれに限りなく近い。

 

「…ニア、ですか」

 

生徒手帳ではないが、何かの名刺らしきものに写真と名前の一部が載っている。それ以外は血で滲んで読むことが出来ない。ただ、彼女のものかはまだわからない、写真とあまりにも異なる。写真の少女はあどけなさが抜けず、また髪も短い。だが今目の前の負傷者は髪も長く、擦り切れたような顔だ。髪の色も真っ白になっている、染めたのだろうか?

 

「…ふむ」

 

検索をかけてみるが名前がヒットすることがない、とりあえずはゲヘナの生徒ではないことに確証が持てる。さて、此処からどうしようか……そう思っていた

 

「…………ぁ……ぅ……

 

かすかに声が聞こえた、どうやら一命は取り留めたようだった。私が一安心しているところに、彼女の口からうわ言が発せられた。薄っすらと開かれる瞼。焦点が定まっていない視線。此方を捉えることもなく、かすれた声音が漏れ出す

 

その言葉に私は後頭部を殴られたような感覚に襲われる

 

また…死ねなかった……邪魔に、なるだけなのに…誰かの「日常」の……

 

そんなうわ言を言うというとすぐにまた意識を失う、雨の音だけが耳朶を打つ。

 

日常の邪魔?それも不特定多数の誰かの………

 

「……少し、話を聞かなければなりませんね」

 

とりあえず、死なせないようにするだけでは足りないらしい。彼女……いや、この少女はなにか、抱え込んでいるようだ。

 

そう思えば、掛けていたタオル越しにだが体を密着させて鼓動を伝える。すると擦り切れたような顔にほんの少しだけ生気が取り戻される

 

 

そんなことを暫くすると、件の少女が目を覚ます

 

「………?」

 

身体を起こし、焦点が定まっていない目を彷徨わせ。自分が置かれている状況に困惑しているようだ。まだ私が居ることに気がついていない程に疲弊しきっているようだった

 

そこから数分かけてようやく私に助けられたことを理解したらしい、かなり警戒されていたものの。自分の身体を見て、助けられたことを完全に理解したようでバツが悪そうにしていた

 

「…大丈夫ですよ。私は何もしませんから」

 

そう言うと、警戒しつつも敵愾心をある程度解いてくれた様子だ。これはおそらく本当に無所属、仲間が居ないことを考えると捨て駒に使われたか。それとも…ほんとに孤立無援なのだろうか

 

「──、───」

 

何かを伝えよとしている少女は、うまく言葉を出せないようだ。先程のかすれた声を聞く限り。相当疲弊しているらしい…致し方ない、まずは情報収集の前に彼女のケアが優先されるだろう。ではなければただの徒労に終わってしまう

 

そう思った私は、鍋に火をかける。ほとんど使わないのでなかなか上手く行かなかったが、即席のスープと備え付けに用意していたパンを中に入れてふやかして少女のもとへ持っていく。差し出された物に少女は要らない、というように首を振るが無理矢理食べさせる。栄養が明らかに足りていないだろうに

 

一口食べさせた後、少女はすぐにむせこんでしまった。美味しくは無いだろうから仕方がない、時間を掛けてゆっくり、ゆっくり…食べさせることが出来なかった。

 

少女は、上手く飲み込めていない様子だった。そして申し訳無さそうにしている。そんな顔はしても意味がない、単なる私のエゴなのだから

 

仕方ない……本当に仕方がない、嫌だけどやりたくはないけれど…そう思いつつ、口にパンを含んで咀嚼する。やはり即席のものだからか味は良くはない、が贅沢を言ってる場合ではない

 

不思議そうに見ている少女の口に自分の唇を押し当てて流し込む、いわゆる口移しだ。少女は何をされたのか分からずジタバタと暴れるが、流し込まれた物…というよりは。私に触れられたことですぐに大人しくなった。

 

そうしてゆっくりゆっくりと口移しする、あまりいい気分ではないが。単なる医療行為と似たようなものなので仕方がないと割り切る

 

そして食べ終わり、水を少しずつ飲み込ませてから再度問いかける

 

「声は出せますか?」

 

すると彼女は何かを言おうとして、上手く行かずに失敗する。ため息を付きつつ紙とペンを渡す、筆談だ。これなら大丈夫だろう

 

そう思いながら、彼女がペンを取って文字を書く

 

ごめんなさい

 

書かれた文字を見て少し訝しむ、何を持って謝るのだろうか。そうしてると……次の一文が書かれる。それを見た時だ、私が彼女の力になろうと思ったのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

声の出し方、忘れちゃってる。人と…ええと、長い時間話す機会なくて、わかんない。あと、ご飯。も、味、わかんない。美味しいのか、美味しくないのか。頑張って作ってくれたのに、ごめんなさい。ご飯も、久しぶりに食べたから、噎せちゃった。ごめんなさい、でも、ありがとう。優しくしてくれて、久しぶりに寝れたのと、人と触れ合えた

 

 

……一瞬、何を言ってるのか。私には理解できなかった久しぶりに人と関わった?人と話さず、関わらず、食事も睡眠もろくに取れないままあの重症になるまで。追い込まれていた……?

 

そんな思考をしているうちに、彼女は。おずおずと紙に書いたのを渡してくる

 

 

今日のことは、ありがとう。嬉しかった、また()()()()。えと、いつになるかは。分からないけれど、お礼は。ちゃんとするから、待っててほしい

 

手渡された紙を暫く見ていると、少女はなんとか身体を起こしつつ、立ち上がろうとして…失敗した。あれだけの重症なのだからそれはそうだろう、歩くだけでも激痛が走ることは想像に堅くない

 

それでも、少女は覚束ない足取りでなんとか玄関まで行こうとしているのを呆然と見てしまっていた。

 

そして振り返ると、先程のかすれた声で。なんとか声を出して伝えてきた

 

「私──居る──、迷───。「日常」──、───」

 

断片的に聞こえてくる声に、私は少女の手を掴んで部屋に引き戻してベッドに押し倒すように戻す。

 

「──、──」

 

何か言いたそうに…実際なにか言っているのだろうけれど。聞こえてこないし、聞く意味は無い。まだ話は終わっていないのだから

 

 

 

 

その後、何度か出ていこうとする少女を止めては部屋に戻しの繰り返し、拉致があかないにも程があるので。私は彼女の後ろから拘束するように羽交い締めにする。すると大人しくなって諦めたようだった

 

 

その後、少女から。筆談で自分のことを教えてもらった。

 

元々はミレニアムの生徒であること、エンジニア部というところに所属していたこと。今は二年生だが、1年生の頃からこういった状態になったこと

 

 

そして、カイザーのこと。また、少女の先輩のこと。

 

 

嫌な気持ちにさせて、ごめんなさい

 

最後にそう締めくくった文章を読んで、私は冷静さを必死に保とうとしていた。ここまで至るまで、彼女はただの少女だったことに違いない、私達とは違う。多分、一生そういったものと関わることのないような、『日常の象徴』。そんな言葉が自然と浮かんでくるぐらいには

 

悲しさとか、憤りとか、怒りとか、そういった感情がないまぜになって渦を巻く。何よりも、目の前の少女がここまで一人でやってきたことが一番駄目だろうに

 

私は、大丈夫だから

 

紙に書かれた文字を見てそう思う。此方を見る少女は、私が不快になったと思ったのか慌てた様子で紙に書いて此方に伝えてくる。此方を気遣ってくれているのが嫌でもわかる、本当だったらすぐにでも此処から出て行きたいんだろう。カイザーの追手が来るかもしれないという恐怖があるんだろう、優しい少女だ

 

─だが、それが何だというのだ?

 

見捨てろと?此処まで骨身の染みるどころではない努力と、献身と、自己犠牲を自らに課し続け。逃げ出して、泣きついても良いだろう自体から逃げ出さずに此処まで来た少女を?歩き疲れても、倒れても、地べたを這いつくばって、汚泥をすすることになっても、例え誰にも知られること無く終りを迎えてもそれでも良い。それでも良いんだ、そんな風に言える生徒を?

 

 

──怒りでどうにかなりそうだった、こうしている間にも申し訳無さそうに。自分の事情に巻き込んでしまったと、心を砕いてもらうこともないはずなのにと自戒し続けているただの女の子だ

 

私も、此処まで来ることに相当な苦労があった、だが、それはたどり着きたい場所があって、助けたい人が居たからだ、この少女もそうだ。同じように努力して、頑張って、研鑽してただろう

 

ミレニアムのマイスターというものは此方にも聞こえてくるほどに難関だ、生半可な実力では通用もせず名乗ることも出来ない。おそらく、私と同じぐらい…いや、あちらは短期間で仕上げてきたのだ、私以上だろう

 

それを捨てたのだ、他ならぬ名も知らぬ少女の先輩のため。同級生のため──知りもしない『誰かのため』に

 

この頑張りは報われるべきではないのか?救われるべきではないのか?仮に報われずとも、救われなくとも。

 

 

真っ当な人生を送るべきではないのか?

 

これは、本来『大人』がやるべきではないのか?

 

 

──その日その時から、私。天雨アコは大人が嫌いになった。会話するのも穢らわしいと思うほどには

 

申し訳無さそうにしている少女のことをそっと抱きしめる、目を白黒させて。人の温もりに困惑しているようだ。こんなこと、本当だったらいつでも経験できるぐらいには、普通の少女だったろうに

 

天雨アコさん……?

 

「…アコ、でいいですよ」

 

そう言いつつ、もう少しだけ強く抱きしめてあげる。そうすると、少しだけ安心したかのように。意識を失う、やはりあの状態ですらギリギリのラインで命を繋げていたことに違いない。

 

眠って…いや、意識を失った少女の頬を優しく、優しく撫でながら抱きしめて。横になって温めてあげる

 

 

──力になろう、せめて。私だけは、そんなことを思いつつあどけない顔を見せる傷だらけの少女…ニアを見つめる

 

 

例えこの先、彼女がどうしようもない状態に陥っても

 

例えこの先、ゲヘナと敵対行動を取るしかなくなったとしても

 

私は、この少女の側につこう…例え、ヒナ委員長を敵に回すことになっても

 

こんなボロボロの少女にも出来たのだ、私に出来ない通りはない…いや、やれない理由はない、やらなくてもいい理由はない。私にも、「覚悟」が必要だ

 

 

 

──決して、『孤独』にしてはならない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この状態でアコに遭遇していなかった場合、ニアはそのまま死にます。それこそほとんどの人間の記憶にも留まらず、先生ですら把握できないまま。「よくあること」という風に処理されてしまいますが、アコが拾い上げてくれました。

前回の話で先生と会話していたアコの心境は

「今更出てきて『大人』を名乗らないでほしいですね」

の一言に付きます、なので今作のアコは先生にデレないどころか今現在は敵対心しかありませんし、ニアの敵になったら脚ぐらいは普通にためらいなく撃ち抜いてきます

『蒼望ニア』に救われてほしいですか?そうでもないですか?

  • 救われてほしい
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