…と言うけど最初に先ずはお通しということで。まだまだやさしいほうではあるけれど
・軽度の鬱病の描写
・災害に対するトラウマ
・身体の病気に近い症状
というのが含まれるので、持病があったり。そういうのにトラウマがある人は、なるべく観覧を避けるか。観覧するにしても、時間を掛けてください
とりあえずなので1.1万字程度にしました。これぐらい長いのが多分続くかな?
ミレニアムサイエンススクール。歴史こそ古くはないものの急成長につぐ急成長でゲヘナ、トリニティにならぶマンモス校としてその名を轟かせているのはキヴォトスでも有名な話。その上で、エンジニア部が重要な役割を担っていることも周知の事実ではある。
そう、
「…今日はウタハ先輩、居ないんだね」
「そう、ですね…」
コトリとヒビキの声が静かなエンジニア部の部室に響く。今日は不在の白石ウタハの椅子を眺めつつ…そして
二度と使われることはないだろう、ほぼ新品同然のデスクと作業台の所有者の二年生のスペースを視線の端に置いて
───ミレニアムサイエンススクール、郊外・ジャンク置き場
「……」
私……白石ウタハは時折、この場所に足を運ぶ。ほとんど無意識のうちにだ。特に来る理由もなければ、来たいとも思いもしない。できれば避けたいところだ。だがそれを私の身体はどうにか許してくれないらしい。
「………君は、今どうしてるんだい?」
2年前、初めて君とあったのも此処だったね、意気消沈していたあの時の私にとって、純粋に技術者としての忘れてはいけない心。創作意欲を蘇らせてくれた君の存在は、とても大事なものだったよ
…大事な、ものなんだったけどなぁ……
「ちゃんと、ご飯は食べれてるかい?ちゃんと、寝れているかい?無茶なことをして、怪我をしてしまっては、いないかい?ちゃんと……」
口から無意識に溢れ出てくる言葉に理性がそんなもの出来ているわけがないだろうと冷たく現実を突きつけてくる。どれだけ感情が否定しようとも、どれだけ願っても。私の頭脳は否定し、その可能性はとうに潰えたと教えてくる。
そうしたのはお前のせいだ、と突きつけてくる
1年前、君がどうにかなりそうなぐらい青ざめた顔をしていたあの日、私はどうすればよかったのか、と問いかける気にもならない。あの日あの時、無理矢理にでも引き止めればよかった、縛り付けてでも、最悪。脚を撃ち抜いて動けなくしてでも…そんな事は、絶対にできなかったことを頭の片隅に置いておきながら。
だって無理だ、君に銃を向けて引き金を引くなんてことは出来っこない。今でもそうだ、絶対にできないよそんな事は。でも、それが君を追い詰めてしまった原因にもなっている。
あの時ね、私は起きてたんだ。君の温もりが無くなってることに気づいて、ちょっとだけ寂しくなって。また温めてあげようかな、なんてことを考えてたんだ。そんなこと二度とできなくなるなんて思いもしてなかったんだ
『──すみません。ウタハ先輩、もしかするとお別れかもしれないです』
『──短い期間でしたがありがとうございました。白石ウタハさん』
そんな時に、君は唐突な別れの言葉を告げて、私の頬を触ってきたね。何を言われているのかよく分からなくて、声を上げようと思ったんだけれども。何故か声が出なくなって、君が。改まるような敬語をしてくる時は、もう自分でやることを決めた時にしか使わないから。そんな事を知ってったから、動けなかったのかもしれないし。君の手の感触を、声を、存在を。無意識に忘れないようにしていたのかもしれない
『──さようなら、大好きな貴女。さよなら、私の日常、私の初恋』
あの時ほど、私は私の軽率さを恨んだことはない。君にそう言われてから、私は頭の中が真っ白になったんだ。薄々、君が私のことを好いているのは知っていたし。嬉しくもあった、それが先輩としてではなく。色恋の話として。薄々、気づいていた。いつか、告白してくれるのかなとか、別に私も満更でもなかったし。キヴォトスではマイノリティではなく、どちらかと言うとマジョリティの方ではあるから。驚くこともなかった
でも、それを私は君から奪ってしまった。まだ、私が君のことをそういう目で見れないからと。手酷く振ったほうがまだいいと思えるような形で奪ってしまった
君の上着をかけられた時、もう会えないかもしれないと。そう、確信してしまった
私が動くことが出来たのは、君が居なくなってからしばらくたった後だった。錯乱しそうな頭をなんとか抑えつつ、私はミレニアム中を探して回った。どうやら錯乱自体は抑えられていなかったようで、周りの生徒から訝しげな視線を受けて。なんとか言葉にすると、皆で探し回ってくれた。
そんな時、ミレニアムに警報と爆発音と、爆炎が登った。
──直感した、あれは君がやったことだと。
急いでそちらの方に向かおうとするけれど。規模の違う爆発の振動と、ミレニアム自体が持つ防衛装置が作動して。警備ロボにシェルターまで連れて行かれてしまった。それは手伝ってくれていた生徒も同じだったようだった。爆発の振動と轟音は暫く続き。特大の爆発と地震と間違えるほどの揺れに襲われつつ、ただ黙っているわけにもいかず。警備ロボに軽くハッキングを掛けて外に出て走り続けた。生憎と、鍛えてはいなかった私がそこに辿り着くまでは。あまりにも遅すぎたのである
『はー…っ、はー…っ!!』
爆発は収まったものの、辺り一帯火の海だったのだ。何が起こったのか皆目検討もつかないし。何を狙って起こったのかも見当がつかない。
そんな時、風に流されて一枚の布切れが私の目の前に落ちた
『───』
理解、したくなかった。理解を拒もうとした、けど。駄目だった
『──あぁ……っ!!』
私の、上着だった。君が持っていったはずの、上着だった。ただの、上着ならまだ私はなんとかなったのかもしれない。けど、その上着には、血痕が夥しいほど付着していて。君が重症なのは間違いなかった
それだけでは、なかった
『……これ、は……』
上着のポケットには、運命の悪戯か。はたまた罪人に突きつけられる罪の証拠を突き出すかのように。君のヘイローのほんの一部だが……ごくごく、ほんの少しだけれど。入っていた。ヘイローが欠損する、という意味をキヴォトスの人間が知らないわけがない
それを理解して…私は吐瀉物を吐いて、失神してしまった。あまりのことに、精神が耐えられなくなってしまっていたんだ。
───それから私が目を覚ましたのは、数日後だった。あの一件はミレニアムでの
──君の行方居不明
これが私の心にとどめを刺した、まだ。死体が残っているのであれば。弔ってあげることも出来たかもしれない、泣きながら君の墓の前で懺悔することが出来たかもしれない。あの時引き止めてあげられなくてごめん、想いに答えてあげられなくてごめん。私も君のこと好きだったよ、そう。言えたかもしれない
だけど、
行方居不明、というのは大体失踪した場合に使われることが大半だが。
「……っ」
思い出しただけで、また吐きそうになる。君のことを思い出そうとすると、どうしてもあの時の熱波と警報と。血濡れの上着のことを同時に思い出してしまうからだ。でも、こうでもしないと、君のことを忘れそうになってしまうんだ。
怖いんだ、日に日に薄れていく君の声が、君の手の感触が、君から見え隠れしていた私への好意の視線が。時間は残酷だ、君があそこに居たという痕跡を安々と奪い去ってしまう。
忘れたくはない、でも忘れたいこともある、けれど忘れてはいけないこともある。それなのに…それなのに。どうしてこうなってしまったんだろう。
──病室での私は、半ば廃人と化していた。何も考えることが出来なくて。何も感じることが出来なくて。ベッドの横には。あの時の上着が置いてあった、どうやら離そうとせず。ヘイローの破片も隠し通していたらしい。そこには触れられることがなかったのが不幸中の幸いだった
それから、暫くたったとある日。とある人物が訪ねてきて…
『どうして…っどうして……っ!』
私は、殺されかけた。殺しかけた相手は生塩ノア、今の二年生で。君の同学年…になるはずの生徒だった、そんな人物。ベッドに横たわっていた私のヘイローに銃口を突きつけながら、彼女は隈が色濃く浮き出ている目を眇めながら、枯れきった声で問いかけてきた。銃のセーフティは外れている。いくらヘイローが頑丈とは言え、憔悴しきった私の身体では。ほんの少しヘイローに銃弾が当たった時点で致命傷になりかねない可能性が会ったと思う
『どうして、間に合うことが出来なかったんですか…っ!』
彼女も、君の捜索に協力してくれた人物の中のひとりだ。そして、私と同じように君と親しかった人物だ
『………』
何も、言い返すことが出来なかった。どうして間に合うことが出来なかったのか、なんてことは私が一番聞きたいことだからである。そして、答えを持ち合わせていないことでもあったから
『どうして、ニアちゃんが。し、しな……』
その言葉を言い切る前に、彼女は呼吸が怪しくなり。酸欠状態ににたふらつきを見せ。握っていた銃を落としてしまう、おそらく一睡も出来ていないであろう有様は。私よりも酷いものだった
『ニアちゃんが死ぬぐらいなら、私が代わりに死んでも良かったのに……っ』
そんな言葉を漏らす彼女のことを見つつ、内心では私も同じだった。君に、いきていて欲しかった。そう、本心から願ってやまない。ただ、生きていて欲しかった。どんな形でも良い、脚が動かなくなったのなら、義足も作ろう。手が動かなくなったら義手も作ろう。声が出なくなったら、声がもう一度出せるように生涯を捧げて、取り戻そう。下半身不随になったら、私が一生をかけて傍にいよう。寂しさも、何もかも埋めよう
『あんなに、嬉しそうにしてたのにっ!これから、一杯一杯楽しいことが待ってるって、そう言ってたのに!色んなものを作って、皆を驚かせようって言ってたのに。貴女と一緒に居たいって、言ってたのに……っ!!』
思考の海に沈んでいると、生塩ノアに首を締められることで強制的に復帰する。首を絞められる、といってもほぼ力なんて入っていない。弱々しい手付きそのものだった……
──私は、白石ウタハが嫌いだ。ニアちゃんのことを奪った相手、何もしてあげられなかった相手。それと同じぐらい、私は生塩ノアが大嫌いだ。死んでしまえばいいと思ってる
ニアちゃんが行方居不明になる前日、青い顔をしているニアちゃんを遠目で見たことは絶対に忘れない、あの時。声を掛けていればなんて思っても居たのに。次の日、やっぱりニアちゃんの顔は暗かった。声をかけても生返事しかしなかったのを覚えている、こういう時はたいていやらかした時なので。言い出すまで待つ悪い癖が出てしまった、人生で最悪のタイミングでだ
夜も更け始めて、帰る時。ニアちゃんと遭遇した、気分が晴れたのか。いつもよりもどこか、悟っているようなニアちゃんに首をかしげつつ、。そんなことを思いつつ横を通り過ぎると不意に
『ノア』
『なんですか?』
肩越しに声を掛けられて。振り返りながら返事をすると、ニアちゃんは此方を見ないまま問いかけてきた
『ノアは、私が死ぬってなったら、どうする?』
『……縁起の悪いことを言わないでください、ニアちゃんのそういう冗談。好きじゃありませんよ』
時たまこういう冗談を普段から言う子ではあったので、いつもの癖。なんてことで流した私が大嫌いだ。いつもの調子と違うことぐらい分かっていただろうに
『で。回答は?』
『…助けますよ。それか私が代わりに死んであげます』
『人のこと言えないでしょノアも。重いよ……』
若干引いたような口調になるニアちゃんに思わずむっとしてしまう、自分から聞いておいてそれはないだろう。どうするかと問われて返しただけなのに
『…じゃあ』
『…んー?』
『じゃあ、ニアちゃんは私が死んでしまうとなったとき。どうしますか?』
意趣返しも含めて、そう問いかけると。ほんの少しだけ、間を開けて。何か噛みしめるような表情を向けてくるニアちゃんの顔を、覚えている
『勿論、助けるし。そもそも死なないようにするよ』
『そう、ですか』
『じゃないとノア。根に持ちそうだし』
『なんですかその言い方』
冗談っぽく言うニアちゃんに思わず半ギレしながらそう言うと、ニアちゃんは肩を竦めつつごめんごめん、何ていう風にしてくる
『全く…もう私は帰りますからね、
そう言うと、ニアちゃんは何も言わずに背を向けつつ、手を振ることで答えて去っていった
……思えば、ニアちゃんなりの別れの挨拶だったのかもしれない。そう思い返すのは、あの爆発事故が勃発したときだった。
走り回ってる白石ウタハの言葉を聞いて、青ざめた顔をしたままニアちゃんの捜索に加わった。近くに居たユウカちゃんも同じような顔をして、捜索してくれた。
なんでも、ユウカちゃんのところにも来て。似たようなことを言って去ったらしい、間違いない。あれは別れの挨拶だ、なんてことを考えていると足止めを食らって。動けなくなっていた
そんな私達は最後の最後まで、動くことが出来ずに終りを迎えたのだった。
翌朝、ニュースを聞いていると。爆発事故が発生したことと、それに付随するかのように。ニアちゃんの行方居不明の一報が飛び込んできた。やはり昨日の一件はニアちゃんが起こしたことであると理解して、操作しようとしたが
この一件は深入りすることが出来ない、そう生徒会長になったばかりの調月リオ会長に止められたのである。いくら抗議しても、それは出来ないの一点張り。何か巨大な力が働いていることは容易に分かっていたが、それでも食い下がることを諦められなかった私は、リオ会長に食ってかかった
生徒の安全を守るのが我々の仕事ではないのか
そう問いかけると、リオ会長は
そう、言った。それを聞いてニアちゃんが本当に居なくなってしまったことを再認識させられてしまったのである。その上で、ニアちゃんはおそらく死亡したであろうことも伝えられた。覚悟はしていたが、私の精神をへし折るにはあまりにも力が有りすぎた。そして、私とユウカちゃんのセミナーの活動自粛が通達された
精神が不安定であることが主な理由ではあるが。余計なことに首を突っ込まれるわけにはいかない、という意味合いが多分に含まれていることは想像に難くない
そんなことは頭の隅に早々に追いやられて。半ば生きてる意味を見失いながら、白石ウタハが目を覚ましたことを知った、それを知った私は。理性では無駄であることを知りつつも。彼女の病室へと向かい。今こうしている
『貴女が、止めないで誰が止めてあげられたっていうんですか…っ!!』
ニアちゃんは頑固者だ、やると決めたらやる人間であることは白石ウタハも理解していただろうに。何故動けなかったのか、何故何もしてあげられなかったのかと。感情の言いなりになりながらもぶつけるが、何も彼女は言い返しはしなかった。
『答えて、ください……っ!!』
そうじゃないと、それ以下の私はどうすれば良いんですか。付き合いで言えば私のほうが長くて、私のほうがよく知ってるはずの私の知らないニアちゃんの事をよく知ってるウタハさんが答えてくれないと。分からないじゃないですか!!
『答えて……っ!!』
そうじゃないと、私が惨めじゃないですか。私だってニアちゃんの側に居たかったし、一緒に笑いながらお仕事したり。たまには愚痴をこぼし合ったりするようなニアちゃんとの生活を、諦めたのに…諦めきれなかったけど。諦めざるを得なかったのに…!!
『私だってニアちゃんのこと。好きだったのに…っ!!』
好きだった、ああ好きだった。大好きだった、愛してた。一杯話したかったし、ふれあいたかった。学校帰りに買い物したり。一緒にご飯食べたり、遊びに行ったり。色んなことしたかった
笑ってる顔が好きだった、ちょっと困り顔してるのが見たくてちょっかいもかけてた、怒った顔も可愛くて撫でたかったし、寂しそうな顔。辛そうな顔をしてる時は抱きしめて、そんなに無理しなくていいですよって言ってあげたかった、言ってあげたかった!!
──恋をしているニアちゃんの横顔を、見ていて苦しくなった。私じゃないだれかに私に向けたことがない感情を、想いを向けてるニアちゃんの照れ顔なんて見たくなかった
でも…でも……っ!!
『それ以上に、幸せになって欲しかった…っ!!』
あんな顔、私じゃさせてあげられないから。苦しいけど、辛いけど、どうしようもなく奪い取りたくて仕方がないぐらい嫉妬心でどうにかなりそうだったけれど。ニアちゃんが幸せになってくれるなら、我慢しようって思えた。我慢しようって思わせてくれた、綺麗事が出来るぐらいには。あの子は優しくて、どこか抜けてて。でも。誰よりも私
『ニアちゃんが、どれだけ…っ、どれだけ…っ』
ニアちゃんは、ウタハさんが思ってるほど鈍感じゃないんですよ。ちゃんと、私の向けてる恋心に気づいてた。私を、選ぶことが出来ないことも理解してた。けれど
『どれだけ、真摯に向き合ってくれてたと思ってるんですか…っ!』
ニアちゃんは、はぐらかすこともなく。茶化すこともなく、軽蔑することもなく。私のことを真っ直ぐに見て。真摯に言ってくれた
『んー……ありがとうノア、私のこと好きになってくれて…でも、その。私はウタハ先輩好きだからさ、多分。答えてあげられないと思うんだ……だけど、どーしても。ノアが苦しくてどうしようも無いってなったら…私のこと。ウタハノ先輩から奪っても良いよ。例え恋仲になる寸前でもね、そこでウタハ先輩がノアを傷つけようとするなら、私が庇うし、対立もする。なんならエンジニア部辞めるし、最悪ミレニアムから逃げ出してもいいよ。ノアが本気なら、私も本気で答える…それぐらい、私を本気で好きになってくれたノアのこと。私は多分、好きになるだろうから。ううん、多分じゃなく絶対に好きになっちゃうと思うよ、ノア。それぐらい良い子だし、多分。一緒になれたら、幸せそうだし。機械いじりはどこでも出来るけれど、ノアと一緒なのはその時しか無いから。私は、答えられる自信がある。だから、ノアもそこまでの自信があるなら、奪ってね?』
こんな事言われたら、諦めるしか無いじゃないですか…っ。ニアちゃんはそう言ってくれるけど、そんな選択肢を取らせる訳にはいかない…いいや、怖いんだ。そんな誠実さは私にはないから、精々出来てかすめ取ることしか。出来ないだろうから、そんなニアちゃんが好きだからこそ。身を引いても、未練はあるけど後悔はない、そう言えたはずなのにっ!!
そんな事を考えていると、ウタハ先輩は…静かに、声を絞り出すように言葉を発した
『私だって……私だってニアのこと好きだったさ…!!』
生塩ノアに詰め寄られつつ、私は言葉を発した。震える喉をなんとか制御しつつ。失敗しながらも、発していく
『ニアが好意を寄せてくれてるなんて、知ってたよ。あの子は、時折、私の顔を見て。笑うんだ、恥ずかしそうにしながらずっと…っ』
そんなの、気付かない訳がない。この子自分に恋してるんだな、なんてことは。隠しもしなかったのもアルけれど。それを指摘すると、気恥ずかしげに頭をかいてるニアを忘れるわけがないんだ…!!
『じゃあ、何で──』
『知ってたよ、知ってたけど…怖かったんだ!私の勘違いなのかもしれないって!私の、思い違いで。単に一人で舞い上がってただけなんじゃないかって!!』
生塩ノアの言葉を遮りながら、声を上げる。だってそうだろう、マイスターとしてはまだまだ未熟だった頃の私のことを好いてくれていたというのも。マイスターだから。という理由だったのかもしれない、あの時の気恥ずかしげに笑ってた顔だって。もしかして別の意味だったのかもしれない
『怖いじゃないか、好きな人に拒絶されるかもしれないっていうのは…!!』
ニアに好意を寄せてくれて嬉しいと思う反面、恐怖心も当然あった。むしろ恐怖心のほうが強かったのかもしれない
『だって……私は、私に自信なんてものはなかったから…っ!!』
ニアがどう思ってくれてたなんか。正直よくわからない、時折からかうようなことをしていたのも。ある意味では好感度を測るような意図があった卑怯なものだったからだ。技術者としての自信は多少なりともある、だけれど。一人の人間として、好かれている自信はなかった。
ニアは、素敵な人だった。よく笑うし、よく喋る。それでいて此方のことをよく見ながら何かあると相談に乗ってくれたり、色んなことをしてくれる。嫌な顔もせずに、面倒事だって引き受けてくれるどころか自分からやってくれるのだ
『そんな相手に好かれてるって思えるほど。私は自信過剰じゃないっ!!』
もう駄目だ、抑えていたものが全部吐き出すまで。これは止まらない、抑えが効かない
『私だって、もっとニアと一緒に居たかったさ!一緒に居て、機械いじりしたり。一緒に作ったり、お互いの制作物見せあって笑ったり。手を繋いで歩いたり、デートだってしてみたかった。キスだって、してみたかった……してみたかったのに……っ!!』
泣きじゃくりながら、それ以上は言葉にならずにただただ泣きじゃくる。気がつけば生塩ノアも同じように泣いていた
『生きてて、欲しかった…!!生きててくれさえすれば…っ!!死んじゃ嫌です……っ!!』
それからは、ただただ二人。泣きじゃくるだけ泣きじゃくり。意識を失っていた
その後は、生塩ノアと比較的良好な関係を築けている。傷の舐め合い、というのは百も承知ではあるが、そうしなければ生きていけなかったから。そんな言い訳を考えつつ、廃棄されたジャンクパーツを手に取り、弄る。昔君がそうしていたように、こうすれば。ほんの少しだけど、昔に戻れる気がしたから
「私は、それなりに。生きてはいるよ」
届くはずもない声を上げる、君が守りたかった。君の知らない後輩も出来た…出来てしまっているからだ。もう、二度と。同じ間違いはしてはいけない、君が守ったものだから
でも……でもね?
「ニアが側に居てくれないと、寂しいよ……辛くて。悲しくて…ふと、君の姿を追いかけてしまうんだ」
君がいないと、弱っちいんだ私は。君の名前を呼ぶだけで、頭が痛くなって、フラッシュバックするんだ。君の居た光景が不意に。その度に手は止まるし過呼吸になる、後輩に心配を掛けてしまうことはもう数え切れないぐらいある。情けない先輩でごめんね……
時々写真を見るけれど、君のことを忘れないようにするだけで精一杯なんだ。君が生きてることを知った時はノアと一緒に喜んだけれど…それと同時に。もう帰ってくる気がないことを突きつけられてまた泣いちゃったよ、だって…手紙でしか伝えてくれないのと。手紙の宛先がないんだ、本当に一方的
「会いたいよ……抱きしめて、ほしいよ……寒いんだ。心が……」
君は……どうしたら、戻ってきてくれるんだ……?そう思いながら、夜空を見上げる
──同刻、とある場所にて
「………」
彼女はただひたすらに準備を着々と進める、ただひたすら。どんな手段を取ることも厭わずに。どんなことも躊躇わずに
「…………犠牲は、無駄にはしないわ」
──彼女の目には、瞋恚の炎が渦巻いていた、机の上には…血糊がついた。情報端末が転がっている、それを躊躇なく手に取ると。1年前のことを思い出す
絶対に、忘れてはいけないこともある。何があってもだ
「蒼望ニア……」
調月リオはその名前を呟きながら。過去のことを思い出す
──蒼望ニア、1年生のエンジニア部。成績は優秀、人格形成も良好。ただ争いごとはあまり得意ではない。そんな情報しかなかった生徒のことを深く知る発端はやはりあの騒動だろう
私自身、よく知らなかったのだ。あれがどういう経緯でああなったのか、どうして蒼望ニアは行方居不明にならざる負えなかったのか。何故廃棄区画にいたのか。
そんな疑問は、凄惨極まる現場に答えが転がっていた
「……?」
私はボロボロになった情報端末を手に取り、電源を入れるボタンに触れてみる。何が起こるかは不明だが、真相を解明する手がかりになるかもしれないのだから
暫くして、電源が入ると。ザザーとノイズ音だけが響く、もう暫くすると。音声ファイル以外は全て復元不可になっており。音声ファイルの再生を試みる
周りには誰もおらず、耳を済ませていると
『……この音声が聞こえている人へ。貴方が、善良な人であることを仮定として。このスマホを復元して、情報を取得してほしい。厄介事に巻き込まれたくない、というのであれば。電源を消して、元の場所に置いてほしい』
それだけ言うと、プツリと音が途切れる。どうやらこれは行方居不明になった蒼望ニアが残したデータらしい……帰って復元してみよう
そして、私は復元されたデータが表示されたモニターを叩き割っていた
「……!!」
備品が破損したなどどうでもいい、そう思えるぐらいには。
映し出されているのはカイザーコーポレーションのロボット…
私が予測していた。キヴォトスを侵略するであろう勢力が保有する戦力そのものだったのだ。何枚かカイザーコーポレーションが無許可で此方の技術を盗用している証拠も書かれてはいるが。それ以上に第三勢力、と呼んでいいだろう戦力のデータが記載されており、最後に。音声ファイルが一つだけ、残っていた
またノイズ音だけが暫く続いた後。弱々しい声が響く
『これを聞いているということは、私は敗北したか。それか勝ったけれどもう先がないかのどっちかなんだろう…そうか、私は生き残れなかったってことか。悔しいなぁ…ちくしょう。やっぱり私じゃどうしようもなかったってことか…ううん。情報はちゃんと残せてるみたいだし、大丈夫…大丈夫……死んでしまった、或いはもう戻れないかもしれない私から。今聞いてる貴方に身勝手なお願いがあります、良ければ。聴いてください…お願いします。』
一拍、言葉に間が開く
『どうか』
二拍、言葉が詰まる
『どうか…お願いします』
…三拍、言葉が震える
『どうか……ミレニアムを、キヴォトスを。守ってください、お願いします』
…私は無意識に、姿勢を正していた。名前しか知らない生徒は、ミレニアムの為に。キヴォトスの為に、戦ったのだ。名前なんて知らない誰かのために、捨てたのだ。ならば……その意志、無駄にはさせる訳にはいかない。私と同じ様に、戦う人が居たということを。証明しなければならない
そんな事を思っている私は、音声ファイルがまだ終わっていなかったことに気がつくはずもなく。最期の言葉を聞いてしまったのだ
「………死にたくないよぉ。怖いよぉ……」
その日以降、調月リオは表舞台に姿を表すことはほぼ無くなった。来る日に向けて、ただ淡々と作業を進めるだけの人になっていた。動きは機械的なものであったが
──その目には、隠しきれない怒りが滲み出ていた
というわけで一発目は、まあちょっと軽めに行きましたけど。おつらいのには代わりません。
そして最期まで読んでくれた人なら分かると思いますが、本編ルートだとリオが大分強化されつつ容赦も無くなります。先生やヒマリに理解なんて求めるなんてことはしないので、此処から先は控えめに言って無理ゲー(先生視点)スタートです。
なんせセミナー半壊エンジニア部半壊っていう状態なので。最終章周りの難易度がアホほど上がります。歴戦先生が止まった例のサオリ以上の無理ゲーになります
ほんへルートの1話にかかる時間は大体…長いやつだと半日ぐらいかかるんですけど、今回の話。寝る前にちょっと書いとくかーからの2時間ちょいで仕上がりました……シリアスの神が乗り移った可能性、コワイ…そうそう、ちなみにですがニアちゃんの能力のアレコレについては。既に伏線というかプレイヤーなら答えが出せるものを出してます
共依存ルートに付いて補足。共依存ルート、1年前のと現段階の2パターン存在しますが、共依存…ですので大分救いがなかったり良くてビターエンド。見方によっちゃあバッドエンドとなります
前もって言っておくと、砂狼シロコ呑選出外となります。多分シロコだとテラー化まっしぐらかなと。それ以外思いついたら作者が勝手に書きます、プレゼンされたやつ採用するかもですが
共依存相手にするなら?(共依存ルートは恐らくほんへのサブシナリオ相当に当たります)
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ウタハ
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ノア
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ユウカ
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ホシノ
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アコ
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ハルナ
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セナ
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その他(活動報告行き)