以下補足
※リリーはチュニーの「姉」設定。設定というか旧ハードカバーの表記が姉だったのだ。どっかの巻でリリーが「妹」、チュニーが「姉」になった。これは訳のミス。
※イチイがイチィになってるがこれは単なる思い込みによる私のミスなんだが、完結までこれで書いちゃったからイチィでそのままにしてる。
一話
英国北方――ヒトの踏み入らぬ領域にその城はある。幾重もの守りを敷き、隠されてきた学び舎の一室に紫の長衣を纏った影がある。
外から入り込む強い陽射しにも、話しかけてくる声にも心惹かれる様子はなく、淡い水色の眼は、虚空を見据えている。
円形の室の壁際に据えられた止まり木、その上に止まっている不死鳥が小さく羽ばたいたとき、宙の一点が歪み、黄金の炎を吐き出した。同時に紙片が落ちる。皺だらけの手が、驚くほどの素早さでそれを掴み取り、何度も瞬いた。
――来た
「……クロードの預言は真だったようじゃな」
彼は安堵の息を吐くと、杖を手に取った。かの一族の先視の魔女が『視た』場所を心に思い描きながら不死鳥を呼び寄せる。
「わざわざ貴様が行くことはあるまい。ダンブルドア」
壁の肖像画から放たれた一言に、彼――ダンブルドアは笑う。
「薄情だのお、フィニアス。君にとって関係のない話でもあるまいに」
「私は校長が一生徒に会いに行くのはどうかと言っている」
「――ハリーもだが、彼も『一生徒』とはいえないのだよ。のお、諸校長方」
ざわめきが止み、沈黙が返ってくる。ダンブルドアは一つ頷くと、不死鳥の尾羽根を掴んだ。そして願う。
あの子のところへ、と。
窮屈な場所から抜け出し、村はずれの大木の陰に逃げ込んだ。空は雲ひとつないが、少年の心は晴れない。どうせ暗くなれば戻るしかない。戻ったところで歓迎はされない。
少年が不思議な力を使うことを、皆怖れているのだ。
重いため息を吐いて、ゆるゆると目を瞑る。親の顔もしらない。どういう人物だったのかもわからない。きっと片方がリアイスという姓であり、どちらかがウィスタという名をつけたのだろうと思うだけ。
そして少年を捨てたのだ。
「……やだなあ」
ここには何もない。ウィスタは不思議の力をもっていても、逃げ出すことはできない。子どもなので。
「なにが嫌なのじゃ?」
突然聴こえてきた声に、瞼を押し上げる。木陰の中に、背の高い影がある。
「……えーと」
眼がちかちかした。寂れた村外れに、こんな珍妙な人間が来るなんて聞いたことがない。紫のずるずると長い服に、同じように長い、銀色の髭。そもそも、髪も長い。
淡い水色の眼がウィスタをじっと見る。
「ここから逃げたくはないかの、ウィスタ」
声は柔らかい。労わりの色が濃く、ウィスタは呆然と老人を見つめ返した。
今なんと言ったのだろう。逃げたくはないか? そんなことを口にした?
――これは夢なのだろうか
きっと夢に違いない。ずっとこんな日を思っていた。誰かが来てくれるのを。願いを言葉にして、何が悪いのだろう。どうせ醒めてしまうのだから。
「……出たい……逃げたい……出してくれよ……ここから」
声がひび割れる。目の前の老人が悪魔だったとしても、ウィスタはその手を掴んでしまうだろう。
「……院長に話をつけてやろうかのお。そうして、迎えをやるからの。君のいるべき場所に、帰そうぞ」
ウィスタ・リアイス、と老人が囁いた。
◆
「……この子を引き取りたいとおっしゃるのですね」
孤児院を預かる『院長』はいかにも疑り深そうに『客』に問いかけた。猜疑に満ちた院長の細長い目に『客』はチラとも動揺する気配を見せない。それどころか、薄く微笑んでいた。院長と客の話し合いの場に呼ばれたウィスタ・リアイスはこっそり『客』を見た。
鳶色の髪の男。柔らかい雰囲気を纏っていて、優しそうに見える。だが、院長にまったく怯まないことを考えると、只者ではなさそうだ。もう話はついているはずで、結果など分かっている。けれども、男が返事をするまでの数秒間、固唾を飲んだ。
「ええ」
男はなんのためらいも、迷いもなく言い切った。笑みながら、テーブルの上に置かれたカップ――中身は紅茶に――スプーンで砂糖を入れていく。ウィスタはじっとそれを見ていて、しまいには吐きそうになった。甘党であることは間違いない。ウィスタとは趣味が合わないようだ。
院長はそんな客の少し変わった行動が目に入っていないようだった。関心があるのはただ一つ、厄介者のウィスタ・リアイスを追い出せるのかそうでないか、だ。
「――本当に、よろしいんですね?」
もう一度念押しする。「もちろん」と男が答えた瞬間、院長の顔がぱっと輝いた。
「ええ。ええ、どうぞ持っていってください」
安堵の響きがにじみ出ていた。にへにへとしたいやらしい笑みが口元を飾っている。交渉がまとまったので、男はウィスタの方を見た。
「じゃあ、荷物を取ってきなさい。――ウィスタ」
名を呼ばれ、ウィスタは立ち上がった。有頂天になってもいいはずなのに、どうすればよいのか分からなかった。頼りない足取りで自分の部屋(むしろ物置といったほうが正しい)の扉を開ける。とたんに埃っぽい臭いが鼻を刺す。けれども汚らしい孤児院には慣れてしまっていて、もうなんとも思わなかった。
『君のいるべき場所に、帰そうぞ』
ダンブルドアと名乗った老人はそう言った。そして、迎えを寄越してくれた。
けれど、と考える。
――いるべき場所なんてあるのだろうか
もしかして、迎えに来た男がウィスタの父親なのだろうか。それにしてはどこも似ていない。男は鳶色の髪に琥珀色の眼をしていたし、ウィスタは黒髪に群青色の眼だ。とはいえ、黒髪はぱさぱさでくすんでいて、とても汚らしかったが。最低限の食事しか与えられてこなかったのだから仕方ない。
荷物といってもなにもない。ボロい服にボロい下着にボロい鞄だ。つまり全部ボロでゴミだ。ないほうがマシかもしれない。
考え込みながら応接室に戻れば、男が待っていた。彼はウィスタと荷物を見てほんの少し眉をひそめた。
「――それだけかい?」
頷きだけを返した。男は小さくため息を吐くと、ウィスタの肩に手を置いた。思わず距離を取りそうになるのを堪えたが、男には分かってしまったようだった。
琥珀の眼が細められる。ウィスタをじっと見て、眼を伏せた。だが、視線を滑らせ、院長を捉えた眼差しは鋭利に研ぎ澄まされている。
「……では、この子を連れて行きます」
「いやいや、この子を引き取るなんてなんとお目が高い! きっとそちらでもいい子でいることでしょう」
ウィスタを高く売りつけ、間違っても送り返されないように院長は必死なようだった。下心が見え透いていて、口の中に苦いものがこみ上げる。
――よくも
よくもいけしゃあしゃあと。
「それでは」
男にぎゅっと肩をつかまれ、半ば引きずられるようにして孤児院を後にする。ウィスタは長々と息を吐いた。まだ村から出ているわけではない。でも、この場所からは逃げ出せた。迎えは来た。夢ではない。
そのとき、強い声が降ってきた。
「……待っていてくれ。私は少しだけ院長とお話があってね」
くるりと踵を返し、男が孤児院に飛び込んでいく。なにやら話し込むような声がしたが、何を言っているのかまではわからなかった。
一分かそれとも十分か。未だに非現実的な気分のウィスタにはわからなかった。
やがて、扉が開く。男がゆっくりと出てきて、陽射しに眼を細めた。ウィスタは呼びかけようとして、男の名を知らないことに気づいた。
「あのさ……えーと」
男がゆっくりと瞬き、身を屈める。
「私の名はリーマス・J・ルーピン……すまなかったね。すっかり名乗るのが遅れてしまった。気軽にリーマスと呼んでくれたらいいよ」
慰めるような、案じるような口調に、力が段々と抜けていくのがわかった。なにを言おうか迷っているうちに、言葉が転がり落ちた。
「一体院長と何の話を? あんなのと話してもまったくムダっていうか、気分悪いだけだと思うんだけど」
何せ孤児院なんて名ばかりで、補助金目当てに孤児を掻き集め、最低の衣服と食事を与え飼っているような場所だった。もちろん院長も職員も人柄は知れている。
リーマスは肩をすくめた。
「ああ……そうだね。君がこれまでお世話になったお礼をね?」
世間一般でいう礼とは違う気して、ウィスタは眼を逸らした。
「うん。まあ、聞かないことにするよ」
「それが賢明だ、ウィスタ」
二人で村はずれまでゆっくりと歩いていく。誰の見送りもない、別れの言葉もない、静かな道のりだった。
いるべき場所とはなんなのか、あのダンブルドアという老人や自分、リーマスが一体何者なのか、訊かなければならないと思った。
ろくな説明もないまま、ここまで着いてきてしまった。
「……そろそろ、教えて欲しいんだけど」
琥珀の眼を見上げれば、リーマスが微笑んだ。
「君が聞きたいことはわかっているよ、ウィスタ……まさか彼女の息子にこんな説明をしなければならなくなるなんて思わなかったねえ」
リーマスはどこか遠い目になって、そっと告げた。
「ウィスタ。君は魔法使いだ。それも魔法使いと魔女の間に生まれた、とびきりのね」
柔らかい寝台の上で眼が覚めて、ウィスタはしばらくぼうっとしていた。
明るくて、清潔な室内。きちんとした生活の気配が漂っている。
――どこだっけ
いままでいた孤児院ではない――とまで考えて思い出した。
迎えが来たことを。
「……もうあそこにいなくていいんだ」
ぽつ、と呟き、身を起こす。淡い緑のカーテンの隙間から、陽射しが差し込んできていた。
とにかく階下へ行けばいいのだろうか。リーマスはなんと言っていたっけ? 連れて行かれるままにこの家にやってきて、シャワーを浴びて清潔な服に着がえて、そのまま寝てしまったのだ。
いや、シャワーの前に食事を摂った。昨日は色々なことがあったので、記憶がぐしゃぐしゃだ。
よたつきながら、部屋を出て階段を下る。怒鳴り声は聞こえない。誰かの泣き声も。うずくまる影もない。
一歩一歩階段を踏みしめ、降りていく。鼻先を香ばしい匂いがくすぐった。
最後の数段を駆け下りて、食堂の扉へ手をかける。押しあける前に、向こうから勝手に開いた。
「おはよう」
「……おはよう。リーマス」
舌がもつれる。ウィスタのかすかな緊張を知ってか知らずか、リーマスは――養父は微笑んでいる。
「朝ごはんができたよ」
◆
トーストを食べ、スクランブルエッグをつつき『まともな』食事に感激しながらも、目の前の養父を眺める。彼は魔法使いなのだという。そして、ウィスタも。ウィスタの両親も。
昨日リーマスが切り出した。君のお母さんは、と。
『君のお母さんは、魔女だった。とてもすばらしい魔女で……私の友人だった。君の名づけ親にもしてくれた』
『私もそうだが君のお母さんも、君も魔法の力を持っている。そんなことはないなんていっても無駄だからね。私は君が赤ん坊の頃、何度も見たのだから。力を使うところを……。ともかくも、君のお母さん――リーン・リアイスは魔法学校に通っていた。ホグワーツというところでね。もちろん私も通っていたところだよ。この間君が会ったダンブルドアが校長をしている。そこに君も通うことになっている――』
一つ一つ事情を飲み込もうとして、四苦八苦していた。自分が魔法使いと言われても、さほど驚かない。嬉しいとも思わなかったが。これまでに引き起こしてきた数々の厄介ごとに説明がつくのは確かだ。
――『あっち』が俺の居場所じゃなかったってことか
これまでを思い返し、眦を険しくする。そして、リーマスの話に切り込んだ。
『俺の親は……生きているの? なんであんたが迎えに来たの?』
一番知りたくて、けれども訊くのが恐ろしかった。リーマスが顔を歪ませる。
『リーンは殺されたんだ……ヴォルデモートに』
押し殺した声に、身をすくめる。リーマスの琥珀色の眼が輝き、黄金を帯びていた。
『闇の帝王。そう呼ばれていた。リーンも……そう、君の一族も……たくさん殺されたんだ』
そして、とリーマスが続けた。
『君は生き残った。ヴォルデモートに殺されなかった二人の子どものうちの一人だ』
真剣な顔で言ったリーマスと、今の、おいしそうな顔で食事を摂るリーマスを眺める。
昨日の緊迫した雰囲気が嘘のようだった。
注がれたジュースを飲み干し、問いかけた。
「リーマス。今日は何をするの?」
角砂糖も何個も紅茶に放り込んでいたリーマスが顔を上げた。ああ、と声を上げて、どこからともなく茶色い封筒を取り出し、ウィスタに差し出しながら言った。
「買出しさ」
身なりをきちんと整えられ、連れて行かれたのはロンドンだった。いわゆる都会だ。
孤児院を出てたった一日だというのに、きれいな服――ぱりっとしたシャツにズボン、磨かれた靴は与えられるし、腹は満たされているし、こんな都会にいるし、やはり自分は夢を見ているのでは、とウィスタは疑った。
ポケットに入れている分厚くて茶色い封筒の感触は本当だけれども。
漏れ鍋という汚らしいパブに手を引かれて入って、通り過ぎて、狭苦しい裏庭に導かれた。あるのは煉瓦の壁と雑草だけで、横丁とやらへの入り口は見つからない。
これからどうするのだろうと見つめていると、リーマスが杖を取り出した。壁のある一点をこつこつと叩けば、煉瓦が動きだし、組み替えられ、門をつくった。
――魔法か
呪文なんてなかった。けれど、紛れもない魔法だった。
リーマスが振り返り、立ち尽くすウィスタに微笑んだ。
「お帰り、私たちの世界へ」
+
ダイアゴン横丁はごった返していた。はぐれたらまずいな、と思いながらリーマスの背を追いかける。手を引いてくれようとしたものの、断った。もうそんな年齢ではない。
横丁にはあちらの世界にはないものがたくさんあった。箒の店や大鍋の店、ふくろうの店、羊皮紙の店――。
ホグワーツからの手紙も羊皮紙だったな、と思い出して顔をしかめた。今時コピー用紙でもなく、ワープロ文書でもない『手紙』を受け取るなんて思ってもみなかった。魔法界とやらはずいぶん遅れているらしい。この差に馴染めるのかどうか、自信がなかった。
――鍋やら、薬の材料やら
そういうものも学用品リストにはあった。もちろん杖や制服も載っていて、それはわかる。魔法使いの学校なのだから杖も制服も必要だろう。けれど薬の材料や大鍋とはなんだ。薬の調合なんてものは勉強の範囲に入るのか。薬は売っているものを買うんじゃないのか。調合は薬剤師の仕事じゃないのか。
あれこれと考えるものの、学用品の中にそういった調合用のものが入っているということは、そういうことなのだろうと結論づけた。調合を学んでどうするのかは謎だ。
「まずは杖だね」
リーマスに言われるがままついていく。魔法使いといえば杖。杖といえば魔法使い。興奮せずにはいられない。
だが、小さな店の前に立って、期待がしぼんでいくのが分かった。正直に言おう。ボロい。そして入りにくい。ウィスタ一人では絶対に避ける。屋根なんて傾いている。いかにも怪しい。麻薬でも売っていそうだ。
だが、リーマスは気にせず入っていく。ウィスタも諦めてあとに続いた。
篭った小鐘の音と、埃っぽい匂い。壁を埋め尽くす箱という箱。
――誰もいない?
鍵もかけずに留守なんて無用心だと言い掛けて、硬い音に飛び上がりそうになった。店の奥――暗がりからゆらりゆらりと影がやってくる。
小柄な老人だった。杖を突いて、ウィスタたちへと近づいてくる。銀色の眼がウィスタに据えられて、ちかりと光った。
「あぁ……あなたは……ウィスタ・リアイスさんですな」
表の騒音に紛れそうなささやき声だった。
「嬉しや……リアイスのお方が戻られたとは……眼はお母様にそっくりですな。このオリバンダー、あなた様のために最高の杖を用意しましょう」
ぽかんとしているウィスタを置き去りに、事態は進んでいく。メジャーで腕の長さを計られ、床には細長い箱が積み上っていった。
ちらとリーマスの様子を覗えば、のんびりと椅子に腰掛けている。
「リーンも時間がかかったっていうし、君もかかるだろうね。私は待つことにするよ。君が杖に選ばれるのをね」
は? と聞き返す間もなく、オリバンダーに杖を差し出された。
「林檎と一角獣の鬣25cmです」
どうぞ振ってみて下さいと促され、つやつやした杖を手にとった。仄かに温かいそれを振れば、頭上のランプが砕け散った。
――一体なにが
ぱちぱちと瞬くが、オリバンダーはお構いなしだ。やれスギとなんとかだの、やれサクラとなんとかだの、と杖を押し付けてくる。
「うむ……」
硝子片や家具の木っ端で埋まった店内で、オリバンダーが首を傾げた。
「どれも相性は悪くないのですがなあ……林檎、レッドオーク、イトスギ……イチィや月桂樹もなかなかのもので……普通のものではあなた様の器には合わないのかもしれませんなあ」
そうだそうだ、と呟いて、オリバンダーは荒れ切った店内をものともせずに壁に向かう。
「あなたの父方だとレッドオークやリンボクが多いのですがな。リアイスは特殊な杖が多いのは確かで。そう、あなたの祖母様やお母様も珍しいものでしたな」
オリバンダーが杖を振る。細長い箱が一つすべり出てきて、宙を漂いウィスタの前で止まった。
一人でに箱が開き、中に納められた杖が露になる。
厳かにオリバンダーが告げた。
「東洋龍の角。そのものが強い力を持つので、芯は入っていません。孤高不恭の杖ですが――どうぞ、振ってみてください」
オリバンダーの声は張り詰めている。ウィスタは手を伸ばしかけて数秒ためらった。長く息を吐くと、杖をしっかりと掴んだ。その瞬間、指先に熱が灯る。導かれるように、杖を振っていた。
『杖』は魔法使いにとって重要な道具であり、特殊なものでもあると語ったのは養父リーマスだった。
「魔法使いが杖を選ぶんじゃない。杖が魔法使いを選ぶ」
ダイアゴン横丁の大通りを連れ立ちながら、養父が解説する。
「杖はそれぞれに意思を持つ。ウィスタの場合はその杖が君を気に入ったということだね。孤高不恭の杖とはリアイスらしいねえ」
クィディッチ用品店という店の前を通って首を傾げていたウィスタは、養父を見上げた。クィディッチとはなんなのか気になって仕方なかったが、杖のことも気になるのだ。いいや、孤児院から連れ出されて以来、訊きたいことが山積みで追いつかない。
「ココウフキョウがリアイスらしいってどういうこと?」
聞き慣れない言葉を繰り返し、問いを発する。養父は瞬き、ゆっくりと答えを返した。
「君の一族は心が強くて、他人が言うことを聞かせようとしても難しくてね。代々そんな風だ」
――それは単にワガママなだけじゃ
ウィスタの表情からなにを読みとったのか、養父が目を泳がせた。
「……うんまあ、頑固なんだけどね。そのうち自分の一族に会うこともある――いいや、必ず会うことになるから、分かると思うね」
ともかく杖も買ったことだし、他の学用品を探さなくてはと養父が笑う。
マダム・マルキンの洋装店へ行っておいで、と道の先を示される。
「ホグワーツの制服をつくらなきゃね」
+
金の心配はいらなかった。元々ウィスタの両親が残した遺産があるそうで、ウィスタにその金庫の鍵がひとつ渡されていた。恐ろしいことにあと何個かあるらしいのだが、それは養父が預かっているそうだ。
グリンゴッツ銀行と呼ばれる魔法界の銀行にも行った。行員はなんと小鬼だった。まさか本当にいるとは思っていなくて、何度も眼をこすった。けれどもやはり小鬼だった。
魔法界は『こういうところだ』と考えるしかないようだ。
――それにしても
ほんとうに違う世界だ。
ぶらぶらとマダム・マルキンの洋装店があるらしい方へ歩きながら、巾着が楽しげに弾むのを感じ取る。中に入っているのはガリオン、シックル、クヌートという金貨銀貨銅貨だ。
子どもの小遣いにしては少し多いのかもしれない。けれども、魔法界の物の値段がよくわからないウィスタは、巾着をそのまま持っていることにした。
ズボンのベルトに挟んだ杖を撫で、人混みを縫って歩きマダム・マルキンの用品店に到着した。
そっと扉を開けて中に滑り込めば、静かに小鐘が鳴った。
「いらっしゃいませ坊ちゃん」
魔女はにこにこしながらウィスタを見て「新入生ね」と言って台を示した。
「さあ、そこに。採寸をしましょうね」
台が三つ並んでいた。ウィスタは空いている真ん中の台に乗り、左右を見回した。片方は黒髪の男の子、片方は白金の髪の男の子で埋まっている。
「君もホグワーツなんだね」
白金の髪の男の子のほうが先に話しかけてきた。眼は淡青。たまに灰色の陰が差す。
「うん」
答え、きれいな身なりをして、いかにも健康そうに育ったらしい男の子を眺める。
――大事に育てられたんだろうな
なんとなくそう思った。遠慮なくウィスタを見つめてきて、気後れする様子もない。
ウィスタとは大違いだ。
「どこの寮に入るか決まってるの?」
眼を泳がせた。寮――リーマスはなんと言っていたっけ?
当然のように聞かれても、なにもわからない。本当に、なにも。
ほんの少し、男の子が瞬いた。
「君の両親は魔法使いと魔女なんだよね? なにか聞いてないの」
眉根を寄せそうになり、こらえた。ぽそりと返す。
「俺、親いないから。だから……ホグワーツのこともあまりわからないんだ」
「それはすまないね」
あまり悪いと思っていないのか、感情の薄い声だった。
「僕の家はずっとスリザリンに入っていてね……すばらしい寮だそうだから、君も一緒になれればいいが」
そのまま寮自慢でも始めそうだったが「坊ちゃん終わりましたよ」と店員が男の子に声をかけた。そして、もう一つ声がかかる。
「さあ行きますよ」
柔らかい、女性の声だった。母上、と男の子が声をあげる。ウィスタは声のほうを見た。すらりとした魔女が佇んでいる。さらさらした髪に、灰色の眼の持ち主だ。
魔女は自分の息子を見て、「先にお父様と合流しなさい」と送り出した。つぎにウィスタを見る。そして、眼を瞬き、短く息を吐く。音とも言葉ともつかないものがこぼれ出て、やがて形をなした。
「あなた……お名前は?」
かすかに声が震えていて、ウィスタはまじまじと魔女を見た。
ウィスタを知っているかのような口調だった。
「ウィスタ……ウィスタ・リアイス」
おそるおそる口にすれば、魔女の灰色の眸に不可思議な光が躍った。
「そう、リアイスの……この子と同じように、あなたもスリザリンにおいでなさい」
迷いを滲ませながら、言葉は続く。
「グリフィンドールに行けば……」
視線を彷徨わせ、結局魔女は口を閉じ、ゆるく首を振った。
「いいえ、今のは忘れて頂戴……」
もう一度ウィスタをじっと見て、魔女は静かに出て行った。
小さなため息が聞こえ、そちらを向いた。黒髪の男の子がどこか疲れた顔をして、親子が去っていた方を見ていた。やがてウィスタの視線に気づいたのか、驚くほど鮮やかな緑の眼をこちらへ向けた。くしゃくしゃな黒髪に、ゆるゆるな服。ウィスタはその男の子から同族の匂いを感じ取った。間違っても手をかけられて育てられたわけではないだろう。
それにしても、と緑の眼の男の子を眺めながら思う。奇妙に懐かしい気がする。ただの親近感から来る思いこみだろうか。
あれこれ考えつつ、黙って見つめあうのも気持ち悪いので、ウィスタは口を開いた。
「あの坊ちゃんに絡まれてたのか? 俺が来るまで」
男の子は眼を伏せ頷いた。
「もともと魔法族の子みたいだよね。僕、マグルの間で育ったから」
口振りからして本当の親に育てられたわけではなさそうだった。「俺はマグルの孤児院育ちだ」と返して、後を続けた。
「こないだこっちに戻ってきた……親いねえから戻ってきたっていってもよくわからないんだけど。だからホグワーツとか魔法についてもさっぱりだ」
「うん、僕も」
男の子の表情が少し明るくなる。店員が布を当てたり身体のあちこちを測っている間に、とりとめもない話をした。これまでどういう暮らしをしてきたか。受けてきた仕打ちの数々。たくさん起こった『不思議なこと』についても。
坊ちゃん終わりましたよ、と店員が男の子に声をかける。
「じゃあまた、ホグワーツで」
緑の眼の男の子は店を出ていこうとする。前髪の隙間から妙な稲妻型の傷を見たように思ったが、確かめる前に別れてしまった。
ウィスタも仕立てが終わり、代金を払って店を出た。ちょうど養父がやってきたところで、休憩しようかと誘われた。
「たまにはアイスクリームでも食べよう」
菓子=贅沢品で育てられたものなので、思わず眼を丸くする。
「いいの?」
「三つでも四つでもビッグサイズでも」
養父がウィスタを見つめ微笑んだ。
「君はもう自由だし……リーンの分まで私が守るよ」
それが約束だからねと締めくくった。
◆
あれこれと買い込み帰ることになった。家の正確な場所はまだ分からない。魔法で移動しているので。ただ、この姿くらましという移動手段はウィスタには合わない。どうにもこうにも気持ち悪くなってしまう。
家へ直接魔法でいけないようで、ウィスタと養父は一旦近くの森へ移動した。
「リーンが魔法をかけたりして強化したり、ほかにもたくさん守りを敷いてあるんだ。乗り込んでこられないようにしてある……」
陽は刻々と沈んでいく。赤く染められていく森を養父と二人で抜けていく。
養父は何事か考えているのか、黙ったままだ。歩調が妙に速くて合わせるのに苦労する。行きも帰りも養父は早足だった。長居したくないように。
影が長く伸びていく。気詰まりに思ってため息を吐いたとき、両目がじわじわと熱を帯びた。
なにかの影がちらつく。
『あな……を……いく……私……』
間近で声が聞こえ、瞬いた瞬間、眼の熱が引いていく。
「――ウィスタ」
鋭い声が、ウィスタを引き戻す。養父が立ち止まっていて、わずかに険しい顔をしていた。
――怒られるのだろうか
なにがあったのか自分でもよくわからない。目の前の魔法使いが纏う空気に、胃を掴まれるような感覚がする。
養父が屈みこむ。鳶色が間近にあって、身を引こうとする。
「……うん」
片手が、ウィスタの両目をふさぐ。傷だらけで、ざらざらとした感触が闇を作り出す。
「リーマス」
なにか言わなければと思った。
「俺、さっき、なんか変なの――」
「疲れたんだろう」
不自然なほど穏やかに言って、養父は手を離した。目まぐるしく『何か』を考えているのは分かるのだが、一体なにを考えているのかは掴めなかった。
「……あまり考えてはいけないよ……さあ、帰ろう」
私たちの家にね、と養父は片目を瞑った。
スープを口に運ぶのも覚束なかった。森を抜けて『声』を聞いてからどっと疲れてしまったようだ。
「熱はないね」
卓の向かいから、養父の手が伸びてきて額に触れた。ひやりとしていて心地よい。
そして思い出した。今日会った、額に傷跡のある男の子のことを。
「今日さ、マダムマルキンのところで、緑の眼に、稲妻型の変な傷跡あるやつと会ったよ」
ぽつ、とこぼせば、養父が息をのむ気配がした。
「…髪がくしゃくしゃの子だったかい」
ん、と頷いた。慎重に。何気なく。養父の動揺に気づいていないふりをして。
「…知り合いなの?」
「親友の、子どもさ」
いつも通りの声を出そうとして、養父はものの見事に失敗していた。
「元気そうだったかい?」
ウィスタは顔をしかめた。あれは「最低限健康」なだけだろう。元気かといわれればなんともいえない。
「がりがりだった」
「彼は叔母夫婦に引き取られたはずだったが…」
養父の声が鋭くなる。
――たしかそんなことを言っていたか。でも、叔母夫婦はマグルとも言っていた。
話を聞いてみればウィスタとたいして扱いは変わらなかった。二人ともがりがりなのは間違いない。
「ダンブルドアは何をお考えだったのか…痩せ細っているなんて。身内だろうに」
養父は唇を噛み、ウィスタの疑問がありありと浮かんだ眼を見て続けた。
「ハリーは引き取り手が沢山いたんだよ。でもダンブルドアが叔母夫婦に預けることを決めてしまって、私たちは驚いたものだ」
なんで、と口にした。養父は肩をすくめる。
「ダンブルドアのお考えは深く遠くて、私のような者にはわからないよ」
「リーマスは引き取ろうと思わなかったの」
「……私は」
養父は琥珀の眼をさまよわせた。
「ハリーを引き取るのはふさわしくない……それに、本来なら君を引き取るのも……」
「なんで」
今日は聞いてばかりな気がする。いいや、この世界に戻ってきてからずっとだ。
「納得するまで引き下がってくれないよね。その『なんで』。目つきもリーンにそっくりだ」
ため息が落ちる。
「私は存在自体が危険なんだよ。こんな同居だって、君の安全を考えるならするべきでもないし。つまり――私が人狼だから」
were wolf。狼人間。
「……リーマスは狼人間?」
思わず養父を指す。いるのはただの優しげな魔法使いで、狼人間――人狼なんてものとは無縁に見えた。
「そうだよ。魔法界でもどこでも、私たちはね……危険な獣扱いなんだ。満月の日に狼になる。そうして人を襲う。身内かどうかなんて関係ない。無差別に、容赦なく襲いかかる。理性なんてものはなくてね。だから仕方ないことなんだよ」
けれど、と養父が続けた。
「リーンが……私を助けてくれた。薬をつくってね。それを飲んでいれば、満月の日でも理性が保てるようにしてくれた……どれだけそれが嬉しかったか……君の名付け親に指名もしてくれて。私は彼女になにも返せてないんだよ、ウィスタ。それどころか、君と暮らしていることで、君の評判を落としているかもしれないのに」
「どういう……?」
「……君の一族と私たちのような人狼は相性が悪いのさ。本来ね」
養父はそれ以上話そうとしなかった。
「俺はまだなにもわかってないのかもしれない。でも、あんたが俺を引き取ってくれたこと……あの場所から連れ出してくれただけでいい。こうして、ちゃんとした場所でうまい飯が食えて、寝る場所もあって、殴られない……だからあんたがなんだっていいんだ」
琥珀の眼をひたと見据えた。
「人狼のことはこれから勉強する。でも……俺は『あんた』を……信じる」
「……本当に参るよ」
呟きが宙にとけていく。
なんでそんなに似ているのかな。
「ようこそ」
柔らかな声に、うつむけていた顔を上げる。亜麻色の髪に、灰色の眼の女性が、ウィスタにほほえみかけていた。口元がわずかにひきつっていて、彼女が『歓迎』しているばかりではないのが見て取れる。
ウィスタは隣に眼をやった。家まで迎えにきてくれたニンファドーラ・トンクスの側はまだ居心地がいい。
女性に先導され、玄関から居間へと通される。かすかに漂う緊張をのぞけば、トンクス家は悪くなさそうだ。
――リーマスが、なぜここにウィスタを預けたのかはわからないけれど
今日の昼過ぎに「家にいてはいけない」と養父は言った。私は危険だから……と。いきなり部屋にやってきてそんなことを言うのだからウィスタとしては寝耳に水で、ぽかんとするしかなかった。荷物はもうまとめてあって、しばらくするとこのトンクスという魔女が迎えに来た。闇祓いという職業についていて、まだ見習いなのだという。
混乱したままトンクス家に誘われたものの、正直なにがなんだか分かっていない。紅茶を出され、席を勧められる。おっかなびっくり座って、向かいの席にいるトンクス夫妻と、ニンファドーラを眺めた。
「……リーマスから説明は? いいえ……この子からなにか言われた?」
女性に言われ、首を振る。
「ドーラ、なんで説明してあげなかったの?」
きつい声が飛んで、ニンファドーラが肩をすくめた。
「あんなバタバタしてたら説明もなにもないわよママ」
ほら、と母娘の言い争いを止めたのはニンファドーラの父らしい男だった。
「ウィスタくんが一番大変なんだから、二人とも落ち着いて……ちゃんとどういうことなのか言ってあげないとかわいそうだろう」
「それもそうね。とにかく紅茶を飲んで。ちゃんと話しますからね」
女性はアンドロメダと名乗り、男性はテッドと名乗った。
アンドロメダはしばらく考え込んだあと、ウィスタを真っ直ぐ見据えた。
「リーマスからどこまで聞いているの?」
『どこまで』。アンドロメダの灰色の眼をじっと見る。彼女がたじろいだのがわかった。自分は危険だと言った養父。連れ出された自分。なんとなく分かってきた。
「人狼は危険だから……変身するから、俺だけ引き離されたの? リーマスを置いて」
「そういうことだね。だからリーマスは君を預けた……」
テッドが答えてくれたが、それだけでは満足できない。どうして、とまた訊きそうになった。母の家であるらしいリアイスではなく、なぜトンクス家に? と。アンドロメダが紅茶を一口飲み、問いを汲み取ったのか、先回りして答えた。
「私があなたと縁があるから」
一秒か二秒か。微妙な間が空いて、アンドロメダがため息を吐く。
「……あなたの母親――リーンは後輩なのよ」
だからだとアンドロメダは歯切れ悪く続けた。
「いっそのこと私たちが引き取りたかったのだけど、リーマスが後見だし、そもそもあなたはリアイスだし。こうしてあなたを預かるくらいがちょうどいいのかもしれないわ」
頷きながら、アンドロメダを観察する。言葉にも表情にも嘘はなさそうだ。けれど、すべてを話しているわけでもない……どこか後ろめたそうだった。ウィスタを見る眼が特にそうだ。後ろめたさと、読みとれない感情と、痛みがにじみ出ている。
じわじわと疲れがウィスタを蝕んでいたが、夫妻の説明に耳を傾けた。
人狼は人間を襲うこと。近くにいては危険なこと。だからウィスタは連れ出されたのだと、わかりやすく伝えてくれた。
ここのところ体調が悪そうだと思ったら、変身前の症状だったのか、と今更思い当たる。人狼だと告げられてから家の本を少しずつ読むようにしていたが、知らない言葉が多くて四苦八苦していた。
――それがリーマスの望みなら
ウィスタが傷つけば、なによりも養父が傷つく。彼が時折見せる暗い影や、自分を見る眼に深い痛みがあることをに気付いていた。自分が『誰』なのか。どうして誰も彼もウィスタをそういう眼で見るのか。謎はたくさんある。けれども。
「……わかった。養父がそう言うなら。しばらくお世話になります」
はっきりとそう告げた。
養い子は去った。この家にはリーマス一人だ。これで危険は及ばない。いくら凶暴性を抑える薬を飲んでいたとしても、不安なものは不安だ。目の前に人がいれば引き裂く可能性が高い。
――昔のように
あのときは薬なんてなかった。いいや、あったけれども今より遥かに高価で、調合も難しく、効果もいまほど確かではなかった。ルーピン家では手が出なかったのだ。
鼻を摘み、薬を流し込む。苦みが口に広がるが、我慢して飲み干した。理性を失った獣でいるより、心ある狼でありたかった。
「苦労なさっていますね」
声が聞こえてきても、リーマスは微動だにしなかった。よく知った者がやってきただけだったから。
「……君たちのおかげで楽になったんだよ、これでも」
足音が近づいてきて、リーマスの前で止まる。椅子に座ったまま見上げれば、あさぎ色の双眸があった。
「礼ならば、先代やミスラ様……代々の第七分家の者に……我々は意思を引き継いでやっているだけですよ」
青年は言って、静かにリーマスを見やる。
「あと薬のことはお気になさらず。先代の命ゆえですし、先代のご子息の後見でもありますし。いくらでも提供しますよ」
「……しかし」
反駁しかけたが、青年は首を振る。
「リアイスの子息の後見というものは重い。いくら先代に押しつけられたからといって、よく引き受けてくださいました」
「……友達だからね。あと、彼女は私を助けてくれた……命綱すらくれた」
「先代が計算ずくであなたに色々と押しつけたのは認めますがね」
言葉を切り、青年は続ける。
「ともかくも安心してください。いつものように一族があなたを見ていますから」
「逃げ出さないように?」
「逃げて誰かを襲わないように、ですね。万が一ということもある」
飾らない言葉だったが、リーマスは思わず笑った。腫れ物にさわるような態度よりよほど良い。それに、十年近くリアイスの監視という守りを与えられてきたのは事実だった。
――先代の命だから
後見を押しつける代わりに、リーマスの親友は対価をくれた。ルーピン家とリアイス家の契約という形で。
「……ウィスタの側には誰かついているのかい?」
青年が沈黙する。
「暇しているらしい第四分家の者が」
ほう、と声を漏らす。
「私は違う人選を予想していたのだが」
「いいえ、あなたが予想しているであろう、第二分家のあれは仕事が山積みで」
「逃げ出すために挙手は?」
「してましたね」
「ここぞとばかりに主張は」
「してましたよ……」
「でも行けなかったと」
「最長老に殴られてましたね」
思わず苦笑する。
「第二分家の彼は、当主としての自覚はあるのかな?」
「いやー…………ほとんどないです。ともかくも、ご安心を。子息は影ながら守りがありますから」
「ならば安心だ」
微笑みを浮かべる。
「いずれ戦が始まるだろうから……いいや……」
眼を細める。脳裏に浮かぶのは、棺だ。逝ってしまった者たちの。
「戦は終わってすらいない。また続いている。そうして――」
唇を噛む。
「今度こそ」
裏切り者は出さない。
簡単メモ
ウィスタ
子世代主人公。ヤンキー村で育った庶民。
リーン
親世代主人公。ウィスタの母。リアイスとリアイスの娘。スリザリン出身。闇祓い。故人。