【完結】虹彩の奥底   作:扇架

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アズカバンの囚人③

 魔法薬学で懲りたのか、マルフォイは腕の包帯を外し「傷がうずく」と言うだけにしたようだった。ウィスタはなにも言わなかった。証拠がないし、証明する手間をかける理由もない。

――さすがにちょっと

 気がとがめるなあ。ホグワーツの禁断の森近く――放牧場。

「なにしちょる」

 危なかろう。腕を組んで仁王立ちしているのは森番のハグリッドだ。スリザリン生からの評判はあまりよくなくて、誰かが「混血じゃないかあれ?」と言っていた。んなもん混血――マグル、マグル生まれと魔法族の子なんて腐るほどいるだろうよと呆れた。寮生も口にはしないが混血――半純血が多いらしい。純血バンザイ、純血エラいなんて言ってるのは一部だけだ。マルフォイとか。

 その混血のハグリッドは、眼をしょぼしょぼさせていた。怒っている様子はない。ウィスタはヒッポグリフの仔を撫でていた手を止めた。

「一角獣の仔とか、ヒッポグリフの仔がいるって聞いて」

 見たくなって。ぽつぽつ言う。セドリック情報である。そのうち魔法生物の仔にも会えるだろう。ハグリッドは大丈夫かなと言っていた。

 大丈夫じゃなさそうだ。眼が赤いし、大人の男なのにしょんぼりしている。気がとがめる。しょんぼりの理由なんて決まってる。

「見たいのなら言いに来い。仔でも……仔でも、」

 あいつらは危ないって言いおるんだ。

 ハグリッドの両眼からだばーっと涙が溢れた。どうすりゃいいんだ。泣いてる大人への対応なんてウィスタは知らない。

「……お、お茶が飲みたいなあ」

 ハグリッドの袖を引っ張る。ぼたぼたと涙が落ちてきて、ローブが濡れる。

 泣きまくってるハグリッドを促して、なんとかかんとか小屋まで行った。場所は知ってるが入ったことはない。ハグリッドとまともに話したこともないのだ。なのにお茶をせびるのはどうなのか。

「バックビークが危険じゃと」

 あんなにかわいいのに!

 ハグリッドはおんおん泣いている。子どもみたいだ。

「ん? え、あんたの減給とかで済むんじゃないの」

 びっくりである。アホなボンが指示を聞かずに怪我をしただけなのに。そのアホはウィスタと同じ寮なのだけど。

 ハグリッドを座らせ、ざっと小屋を見回し、茶器や茶葉を発見した。勝手にあさって湯をわかし、支度をする。魔法って便利だ。一瞬で湯が沸くのだから。余裕があれば温度と蒸らす時間にもこだわるのだけど、それは省いた。大きな――カップというより小さいバケツかよ――な代物に茶をいれ、通常サイズの茶器に自分の分をいれた。

「す、す、すまんの。棚にロックケーキがあるからお食べ」

 ありがたくいただこうとし、歯が折れるところだった。割って茶にぶちこんだところで、小屋の戸が叩かれた。

「ハグリッド、いる?」

 朝食にも昼食にも出てきてなかったじゃない、ハグリッド!

 留守なのかもしれないわ。

 いやいるだろ!

 ぎゃあぎゃあ騒いでいる。ウィスタは茶器を三つ取り出した。ハグリッドをちらりと見る。彼はハンカチで顔をぬぐい、戸を開けた。

 ハグリッド! と飛び込んできたのはグリフィンドールの三人である。

「大丈夫なのハグリッド――って」

 ウィスタ? ハリーが眼を丸くし、お茶のいい匂いがするとハーマイオニーが言い、君がハグリッドを泣かせたのか! とロンが指を突きつけてきた。おい。

「いいからとっとと座れ。冷めちまうだろうが」

 舌打ちし、ロンを無視した。なんで俺がハグリッドを泣かせなきゃいけないのか。

「あの」

 どん、とロックケーキを盛った皿を卓に置く。

「アホと一緒の寮ってだけだぞ俺は!」

「散々ハグリッドのことをバカにしてるだろうスリザリンは」

「やかましい」

 ロンにだけ死ぬほど苦い茶をいれた。

「静かにしてロン」

「うるさいよロン」

 ハーマイオニーとハリーにたしなめられ、ぶつくさ言いながらロンが茶を飲む。眼を剥いて痙攣した。

 ぶるぶる震えるロンを無視し、ウィスタは話の手綱をとった。なんでこんなことになってるのか。

「あのあと結局どうなったわけ……って訊きたいんだよな」

 三人に眼をやって(ロンはひたすら水を飲んでた)、ハグリッドを見た。

「バックビークは危険だから殺してしまえと」

「そんな!」

「マルフォイが注意を聞いてなかったせいじゃないの!」

「ひど過ぎる」

 大騒ぎする三人をよそに、ウィスタは嘆息する。これがマグル生まれの生徒が怪我をしたとかならどうなってたかな。

「よりにもよってだなあハグリッド」

 すぐに治ったし、後遺症どうこうもない。普通ならきっと、ハグリッドがお叱りを受けて減給で済んだと思う。そもそも、鍋が爆発して生徒が怪我した魔法薬学とかどうなんだ。あれはスネイプもお叱りを受けるべきだろ。怪我が絶対ないとはいえないのが魔法の授業なのだ。ハグリッドの件はかなり過剰な処罰を求められている。

「最初は俺を辞めさせろと。ダンブルドアがとりなしてくださって――バックビークがどうこうに話が……」

「マルフォイを傷つけたからね」

 ハーマイオニーが顔をしかめた。話し続ける。

「でも、彼の父親は理事を解任されたんじゃ?」

「そりゃハーマイオニー、あいつの親父は名門の純血貴族だし、保護者連中を煽って騒いだりなんだりできるし……で、今回は被害者の親って手札持ってるもん。ダンブルドアにギャーギャー言える」

 たぶんルシウスの八つ当たりなのだろう。ウィーズリー小父を陥れようとして失敗、家宅捜索を受けたようだし。妖精は出ていくし。ナルシッサがカンカンに怒っていたのは知っている。ルシウス小父は面白くないわけだ。ダンブルドアが校長なのも、混血が――そんなこだわらなくてもなあと思うが――教師なのも。

 そこに息子の怪我という事件が舞い込んだ。で、ルシウスは息子が傷つけられた怒りもあるけれど、これを利用しようとしてるわけだ。

――多少の影響力があるなら

 吸魂鬼を学校から追い出してくれないかなあ、ルシウスのおっさん。

 たぶん無理なのだよなと思いつつ、茶を飲んだ。軽く腕をさする。壊死しかけた痕は段々よくなっている。が、吸魂鬼がホグワーツにいる限り、ウィスタは安心できないのだ。なんでかやつらに狙われてるみたいだから。

――去年はクソリドルに粘着されるわ

 吸魂鬼に襲われそうになるわ。ウィスタは前世で悪行でも積んだのか?

 三年目も最悪である。

 

 

 

「やつの狙いがさっぱりわかんねえ」

 十一月。『グリフィンドールの部屋』でウィスタは呟いた。拾ってきた犬――スナッフルズをブラッシングしてやりながら、肖像画に眼を向ける。

「城にまで入り込んでるとしよう。もしハリーを狙ってるなら……ハロウィンの誰もいない寮に突撃するか?」

 日付感覚がおかしくなっていたのか。ハロウィンの宴のことを失念していたのか。なんにせよ、その日ウィスタはスリザリン寮――談話室にいた。甘い匂いで充満している大広間に、わざわざ足を向ける気にもなれなかったのだ。どこからともなくいやーな視線も感じることだし。

 厨房から持ってきたサンドイッチを食べていると、扉をぶち破るようにしてスネイプが現れたものだから仰天したのなんの。「なんですかそんなに苛立って。カルシウムか笑い薬が足りませんねきっと」とコミュニケーションを図ったら、スネイプが悪鬼のごとき形相になった。大広間に連行され、唖然としているうちに寝袋を押しつけられた。

 無事だったか! とマルフォイは真っ青で、生徒がひしめく中こそこそと事情を教えてくれた。ウィスタは耳半分で流しながら、こいつの隣で寝るのか最悪だなと考えていた……。

「リーマスがうるさいんだけど」

 やっぱりホグズミード行きはやめておきなさい、とかなんとか。やたら心配性だ。あんたあのスネイプを、まね妖怪つかって精神的にえぐったろうがと言いたかった。まね妖怪……ボガート・スネイプ事件に関して、スリザリン生は沈黙を貫いたものだ。

「大量殺人鬼がうろいているのだ。神経を尖らせよう」

「俺の学生生活はよ」

「自分も狙われているとわかっているのか?」

「どうなんだろうな?」

 実感がわかない。シリウス・ブラックがヴォルデモートの配下で、そのうち叩きのめすか捕縛するかしないといけないわけだけど、そんなものはウィスタでなくて闇祓いがするだろう。今のところ実害ありまくりなのはヴォルデモートだ。アルバニアの森にすっこんでいるようだから、対決は持ち越しだけど。

「迷惑な話だよ」

 くん、とスナッフルズが鼻を鳴らす。なんでか申し訳なさそうな顔をしていた。犬のくせに。

 ◆

 大量殺人鬼もとい死喰い人が侵入しようが、煙のように姿を消そうが、日常は続く。クィディッチも開催される。

 シーカーは箒から落ち、吸魂鬼はやってくる。

「……だから、なんで俺が狙われるんだよ」

 寝台の上でウィスタはぼやいた。声の震えを抑えられない。吸魂鬼に囲まれて殺されかければ誰だってそうなる。

 首やら肩やら片腕やらが、じんと痺れている。またもや壊死しかけ……らしい。

「吸魂鬼は感情を食いますから」

 寝台脇、椅子に腰かけたヘカテは落ち着いたものだ。駆けつけてきて、守護霊で守ってくれた果敢さは、今はなりを潜めている。複数人守護霊の呪文の使い手がいたからこそ、大事にはならなかったそうだ。

 そうか、これが大事ではないと。ハリーが退院しても、ウィスタは病室にぶち込まれたままのだが。

「俺は美味そうだって?」

「そういうことです」

 実にさらりと肯定してくれるではないか。あまりにもあっさりしすぎていて、何か隠しているのではないかと勘ぐりたくなる。

 ヘカテを問いつめてもなにも吐かないだろう。「疲れているから」と言って追い出した。痛みと冷気に痺れた身体が、ひどく重い。頭も重い。うとうとしていると、血塗れの母親の姿がちらついた。殺された母親……。

 記憶――過去の中、母がなにかを言っている。なんと言っているのか。

「……いつ言うんです?」

 ヘカテの声がする。は、と眼をやれば、出て行ったはずのヘカテが立っていた。

「君なら言えるか?」

 投げやりに返したのはリーマスだ。真っ青な顔をして、ウィスタを――寝台を見る。

 ウィスタが視ているのは過去なのだと合点した。クィディッチの後――夜だろうか。

「知らないほうがいいこともある」

「誰かに知らされる――悪意をもって知らされるよりは」

 教えたほうがいいのでは?

 ヘカテの次の一言に、眼をみはった。

 あの子が。ウィスタがシリウスの息子だと。

 瞬けば、幻は消え去った。ウィスタは凍り付いたように動けない。吸魂鬼の冷気のせいではない。あまりの衝撃で、頭が痺れたようになっていた。

――ブラックの息子

「冗談だろう」

 よりにもよって、死喰い人の息子? マグルと魔法使いを殺した男の子だと?

 信じたくはない。ないけれど……。

 マルフォイ邸にやってきたキングズリー。一族のどこかよそよそしい態度。ナルシッサがブラックの従姉だからではない。ウィスタがブラックの息子だからこそ、キングズリーがやってきたとしたら。一族の態度も父親の血筋のせいだったら? そしてスリザリンに組分けされたからだったら。

 それに、それに……以前、魔法省で会った記者も、意味深な発言をしていたではないか。ウィスタに興味を示していたではないか。

 父親がブラックではないと、否定する材料がなにもない。

「嘘じゃん……」

 文字通り、頭を抱えた。

 過去視の力なんて持つものではない。これは呪いの力だ。

 

 

 

「グレンジャーじゃあるまいし」

 図書館に籠もって勉強か?

 本を取り上げられ、ウィスタは眉間に皺を寄せた。招かれざる客はマルフォイだった。

「学年首位を目指してるからな」

「……動物もどきの登録簿まで見て?」

「きっとハーマイオニーも見てると思うぞ」

 適当なことを言う。寮が違うのだ。ハーマイオニーが普段どういう勉強をしているか知らない。話す機会もない。特に、ハーマイオニーは今年から走り回っている姿しか見ていない気がする。授業を詰め込んでいるようだ。全科目を受けるなんて無理だろうに……それこそ夜間の特別授業でもしないと不可能なのだが、ハーマイオニーはこなしているようだ。

「お前があんな女に負けるはずがない」

「わかんないよ?」

 肩をすくめる。いつの間にやら向かいに座ったマルフォイから、本を取り返した。『動物もどき登録簿』。省に登録している、合法の動物もどきを記した本だ。勉強のためなんて嘘っぱちで、暇つぶしだ。

「吸魂鬼が怖いのか知らないが、学校の敷地内には出てこないだろう」

 軽くマルフォイを睨む。吸魂鬼に襲われた影響で、引きこもっていると思われるとは。十一月の試合からこっち、ウィスタはあまりふらふらしなくなったとはいえ。

「そんなんじゃない」

「じゃあなんだよ」

 もうじき授業は終わる。クリスマス間近の今、浮かれもせずにいる理由は。

「……俺はブラックに狙われているらしいから。一箇所にいたほうがいいだろ」

 囮である。皆まで言わなくてもマルフォイは察した。

「あいつはどうせポッターを狙うさ。お前のことは……」

 つ、とマルフォイが眼を逸らす。ウィスタは確信した。

――マルフォイは

 ウィスタがブラックの息子だと知っている。教えたのはルシウスか。お仲間の息子だからウィスタによくしたのだろうか。

 思ったより知られているのは確かだ。図書館でハーマイオニーの影をみて追いかけたら、一生懸命なにかを隠していた。梯子に上って探ってみれば昔のアルバムで、そこには父がいた。

「お前、城に残るかどうするか、まだ決めないのか」

 ひょっこりやってきて何事かと思えば、本題はこれだったらしい。マルフォイは唇を尖らせている。

「僕は帰るつもりだが……お前が残るんなら」

「ほとんどが帰省するだろ。俺は残るよ」

 人が少なくてせいせいする。返せば、マルフォイは頭の痛そうな顔をした。

「根暗レイブンクローかお前は」

「陽気なグリフィンドールじゃないのは確かだな」

「……気が変わったら言え。客室なんて余ってるし、母上がお前を気にしてる」

 マルフォイが去り、ウィスタは机に突っ伏した。どうしたもんか。ブラックをとっ捕まえてあれこれ吐かせたいのだが。俺はお前が母を手篭めにして生ませたのか、とか。母を騙していたのか、とか。死喰い人である隠れ蓑にするために結婚したのかとか。

 まさかリーマスを問いつめるわけにもいかない。だってリーマスは、ウィスタが知ってしまったことを知らない。夢にも思ってないはず。今更訊いたところでなんになるだろうか。

 誰にも打ち明けられないし相談できない。気軽に口に出せる話でもない。

 唇を引き結ぶ。

 どこぞの腐れバンドマンかホストが父親のほうがマシではないか。

 ◆

 具体的な行動がなにもとれないまま、授業最終日――ホグズミード行きの日を迎えた。ウィスタはローブのフードをかぶり、村を歩いていた。城では視線が突き刺さって落ち着かないのだ。まるで監視されているようなのだが、特定には至らない。ブラックの息子だというのが、いくらか漏れているのだろう。快く思わない連中もいるだろう。

――クインは

 レイブンクローの女生徒の姿を思い浮かべる。ちょくちょく図書館で会うのだ。あなた、ブラックに狙われているらしいし、誰かと一緒にいたら? と言ってきた。たぶん、ウィスタがブラックの息子と知っているのだろう。まったく態度は変わっていないが。凶悪犯の息子なんて避けるもんじゃないのか。避けたほうが無難だろう。そう思いつつ、今日のホグズミード行きに誘おうかなんて思ってしまったのだけど。ちらりと思い、やめたのだ。迷惑になるから。

 そもそも彼女はチョウと行くだろうよ。ウィスタが誘って来るか? 寮も別で、学年も別で、たまに話すくらいなのに。

 胃に鉄の塊がうずくまっているような気分だ。雪を蹴りながら『三本の箒』を目指す。金髪に灰色の眼のレイブンクロー生に変装している。誰もウィスタがいるとは思わないだろうし、変に絡まれることもないだろう。

 マダム・ロスメルタはウィスタに気づかなかった。バタービールを手に、端の席に腰掛ける。ぼんやりしながらバタービールに口をつけた。温まったら店を出よう。文具も買ったし、犬用のブラシも買った。必要なものはそろえたのだから、村に用はない。あちこちに貼られた手配書もうっとうしいし。

 ジョッキが半分になった時、小鐘が鳴った。ちらと見ればロンとハーマイオニーだ。デートかと思ったのだが、彼らが頼んだのはバタービールが三つ。

 よりにもよって、ウィスタの隣の――ツリーのすぐそばの、人目につかない席へ着いた。

――さっさと出よう

 ウィスタの変装は見破られていない。が、落ち着かない。おまけに「はい、ハリー」等々聞こえてきて、透明になったかなにかしているハリーもいるときた。

 できる限りバタービールを干していったが、一気飲みできる類のものではない。控えめな甘さのそれに、猛烈な気持ち悪さを催した。生理的な涙が浮かぶ。

 我慢して飲みきった。さあ出るぞと思ったとき、またもや小鐘が鳴った。入ってきたのは教師陣。そうか、授業最終日だものな……教師も飲みたいよな……と思っていれば、時の人シリウス・ブラックの話題が出てきたから、席を立てなくなった――この時点で、店を出ればよかったのに。

「ですからね」

 ブラックは鬼畜ですよ。ええ、死喰い人のなかでも人でなし。

「親友夫妻を売り、己の妻と子を売ったのですから」

 かわいそうに。

 リーンは、希代の闇祓いは。

 騙され命を落としたのだ。愛していた男の裏切りによって。

 ◆

 はあ、と息が煙る。走って走って、城まで戻った。身体が熱く、心は冷えている。

 忠誠の術。裏切り。殺されたポッター夫妻。裏切られたリーン・リアイス。ひどく混乱していた。ただの大量殺人鬼ならよかったのに。よりにもよって、同級生の親を裏切って死に追いやったと? 単に女を騙し結婚し、子を生ませただけではなく、売り飛ばしたと? 最悪なんて言葉じゃ生ぬるいじゃないか。

 スナッフルズに会いに行こう。ブラシをかけてやって、枕にして寝るのだ。そうしたら落ち着くし、何事もなかったかのように振る舞える。

 大丈夫だ。大丈夫。ハリーとは寮が違う。顔もあまり合わせないのだから。知らない振りができるはず。

 そうだ、ひとまず厨房に寄って、なにか口にしよう。バタービールだけじゃ腹が……。

 地下への階段に足を向ける。階下から、誰かがやってくる。グリフィンドールカラーのネクタイ。

「よお」

 探してたんだ。ホグズミードに行ってなかったんだな。

 気さくに声をかけてくる。誰だっけこのひと。フレッドとジョージの友達だろうか?

 首を傾げる。上級生が距離を詰めてくる。なんだか嫌な予感がして、下がろうとする。あと二歩の間合しかない。手が伸びる。腕を掴まれ引き寄せられる。

「会えてよかった」

 抱き寄せられるような格好。吐息が耳にかかり。

 腹に、熱いなにかが埋め込まれた。

「なあ」

 シリウス・ブラックの息子?

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