ハリーにファイアボルトが贈られた、と報告を受けてもウィスタはなんとも思わなかった。奇特なやつもいたもんだ。ニンバスは粉々になったらしいからちょうどよかったんじゃないのと呑気に構えていた。
「贈り主はシリウス・ブラックではないか、と」
ご報告が遅れまして。しれっと言われ、ウィスタはヘカテを睨んだ。遅刻はまあいい。よくはないがまあいい。もう二月なのだが。クリスマスは約一ヶ月ちょい前である。そしてウィスタは寝込んでいたし、復帰してからも忙しかった。
「ブラックが箒をね。へえー………………ありえないだろ」
逃亡犯が最高級の箒を贈る? いかれてやがる。
びき、と茶器にひびが入った。とことんムカつく野郎である。ウィスタは散々な目にあっているし、たかが十三歳だというのに軽く二回は死にかけているし、最近ではひそひそこそこそ言われたり「ブラック家の血筋」がどうこうで妙な信者っぽいのも発生しているしで胃に穴が開きそうなのだが。
「クリスマスカードもなく、差出人の名もなくで」
金の出所はシリウス・ブラック名義の金庫でして。
「バカなのか?」
隠す気がなかったようだ。そんな頭の悪い男に、ウィスタの母は騙されて裏切られたと。
うなり声を上げる。別件で訪ねたのにとんだ案件が発覚した。ウィスタにはどうしようもないのだけど。
「もういいよ。マクゴナガルとかに任せるよ」
つうかな、と紅茶を飲み干す。向かいに座るヘカテを見やった。
「俺がブラックの息子だとして」
「ご心配なく不義密通の子ではありませんよ」
「……つまりあんたらが言うところの」
悪徳の血ってやつを引いてるわけだが。
「そこんとこを分家の連中はどう考えてるんだよ?」
ヘカテは鼻を鳴らした。浅葱の眼に、冷ややかな光が躍る。
「あなたは先代《ランパント》の胎から生まれた。お血筋は確かです。でなくば翁があなたに当主を継がせ、後見となるはずもない」
たとえ半分が悪徳の血であろうとも、それがなんだというのです?
「それしきのことで黄金の血が陰るとお思いか」
つらつらとヘカテは続ける。間違っても子どもを慰めるだけの、その場限りの言葉ではなかった。
「あなたは己の善を証明している。賢者の石を守り、秘密の部屋の闇を滅ぼした」
純血過激派というわけでもなく。
「……そして。スリザリンに組分けされたからという理由で、我々があなたを迫害することはない」
過ちはもう犯さない。
◆
分家がうるさいようなら当主を辞めてやろうかと思っていた、ウィスタの考えは甘かったらしい。血筋至上主義って怖いものだ。
「いびられてるのにね、俺」
木っ端みじんになった植木鉢と、薄日のなかでうごめいている植物を眺める。校庭をぶらぶらしていたら落ちてきたのだ。何階の廊下からだろうか……まあ何階でもいいが、誰かが落としたらしい。ウィスタに向かって。なんだか嫌な予感がして立ち止まったらこれである。おかげで制服は土まみれ。破片で頬が切れている。
音に気づいて、何人かが集まってくる。が、被害者が「シリウス・ブラックの息子」と気づき、さっと踵を返した。ここの連中は育ちがいいくせに行動があれなのである。
はーっとため息を吐く。どうしたもんか休憩時間にぶらつくこともできないなんて。杖を振って植木鉢を修復する。道の端に寄せようとして、ふと上を見上げた。慌てて退避。土と破片が弾ける。
――しつこいな
第三弾が来たらなんとかしないと、と上を見上げていると、紅の光線が飛んでいった。
「大丈夫?」
これが大丈夫に見えるか? と助っ人に言ってやりたいところだった。実際に言い掛けたわけだが誰がやってくるかわかったとたんに、言葉がうまく出てこなくなった。頷いて、踵を返す。ああ、クインの前だとたいていかっこ悪い格好なのだよな。
「怪我してるじゃない」
手を掴まれる。柔らかく小さい手だった。思わず振り向く。藤色を鋭く光らせ、クインがハンカチでウィスタの頬を拭こうとした。
「汚れるだろ」
どうにか手首を掴んで止める。女の子の手首ってばなんでこんなに細いんだ。
「どんな有様かわかってるの?」
「泥遊びが趣味なの俺」
茶化しても無駄であった。か弱い女の子に引きずられるようにしてベンチに座った。そりゃあ力では勝てるだろうが、変に振り払ってクインが転んだりしたら危ないではないか。
湿らせたハンカチを渡される。レースの綺麗なやつである。仕方なしに顔を拭った。泥と血で汚れてしまう。じゃあねと言って立ち上がろうとしたら、容赦なく洗浄呪文を食らわされた。頭から制服までびっしゃびしゃになった。
「あのねレディ。お節介って言葉知ってる?」
無視である。オレガノのエキスをぶっかけられた。なんて豪快なんでしょう。
「今のあなたには、お節介くらいがちょうどいいのよ」
いつもなら、植木鉢を避けて即座に反撃してたでしょうに。クインから眼を逸らす。たぶんそうなんだろう。避けて失神呪文くらいはしていたんじゃないか。
「俺は人気者だからね」
シリウス・ブラックの息子なのだ。校内では「リーン・リアイスは騙されて結婚したんだろう」が有力な説だ。グリフィンドール生に殺されかけたこともあり、同情的な者もそこそこいる。しかし植木鉢が降ってきたりどこからともなく石が飛んできたり、呪いがどうこうはある。二年生の時のあれこれが再来したようなものだ。
一部の阿呆なスリザリン生がウィスタの取り巻きになろうとしたりもあるが。狂ってるぜ。なにが高貴なブラック家だよ。おかしいだろうがよ。犯罪者輩出してるんだが?
「ありがとう」
ベンチを立つ。「あんたまで巻き込まれるから、お節介はいらないよ」と言い捨ててその場を離れた。調子がおかしい。もっと酷い言葉で詰って絶対に近づいてこないようにしたらいいのに。なんでかできないのである。
寮に帰ると、洗浄呪文でびっしゃびしゃなウィスタに、マルフォイたちが驚いた。おまえまた嫌がらせを受けたのか、と問いただされそうになったが回避。しかし、きらきらした眼をした、パンジーにとっつかまった。
「そんなに顔を赤くしてなにがあったのかしら」
二月にびしゃびしゃになれよ。赤くもなるよと言い返したが、パンジーはしつこかった。ダフネまで参戦してきた。仕方がないので一部始終を話したら、だ。
「あんた」
「あなた」
自覚ないの? それは恋よ恋! と女子二人が盛り上がり、ウィスタは眼を剥いた。
そんな馬鹿な。
「ではリアイス。人狼の見分け方と殺し方について答えたまえ」
どうやら誰もわからんらしい。嘆かわしいことだ。
スネイプは絶好調である。眼が生き生きしている。生き生きした眼のおっさんなんて――しかも性格が悪い――見てもうれしくないが。普段が普段だ。陰気野郎で、そのうちキノコでも生えるんじゃないかってくらいじめっとしているのに。
懸命に手を挙げているハーマイオニーを視界に入れないようにする。どうせ答えても意地悪を言われるだけなのに、なぜ彼女は答えたがるのか。ウィスタだって回答権ならぬ回答罰ゲームを譲れるものなら譲りたい。
「見分け方は教科書の■■頁の■■行目に載ってるのでそこ見てもらって」
「おい」
「そもそも、人狼に遭遇したら見分けるどうこう以前に襲われますよ」
さっさと逃げることですね。勝手に締めくくった。
「真面目に受ける気がないなら出て行きたまえ」
「そっちが俺に振ってきたんでしょう」
吐き捨てて、教科書を鞄に仕舞う。「うわあ……恐れを知らないね」と誰かが言った。ちらと見たらロンだった。隣にはハリーがいて、眼が合う。ついと逸らし、席を立った。
くだらない授業に付き合っている暇なんてないのだ。廊下を進む。あちこちから授業のざわめきが聞こえてきた。ふらふらしているのはウィスタくらいだろう。一人で出歩くなと言われているが知ったことではない。
セドに見つかっても言われそうだし、チョウもそうだし……ロンの兄貴のパーシーもガミガミ言ってきそうだし。あの兄ちゃん、なんでかウィスタに同情的である。
「あー……クインにも叱られそう」
ぼそりと呟き、首を振る。くそ、パンジーたちが変なことを言うから意識してしまうじゃないか。ないない。あっちは良家のお嬢さんだ。ないない。
「孤児で野蛮で育ちが悪くて犯罪者の息子だし」
お断り物件だろうウィスタは。パンジーたちが悪い。なんなのだあいつら。ウィスタが恋とやらをしていたとして、どうにもならないじゃないか。
目指す室が見えてきた。扉の前で立ち止まり、軽く叩く。りん、と鈴の音がして踏み入った。雑然とした居間を抜け、寝室へ。室は暗く、そこここに闇がうずくまっているようだった。脱狼薬の作用に、光を嫌うなんてものはなかったはずだけれど。
「食ってねえだろあんた」
小さく呼びかけても無反応だ。足音を忍ばせて寝台に近寄る。眠っている養父を眺め、椅子を足で引き寄せて腰掛ける。ここには行儀がどうこううるさいやつはいない。
枕元には杖が置かれ、時計も置かれている。壁にはカレンダーが貼られていて、日付がバッテンで消されている。脱狼薬をきっちり飲むために印をつけているのだろう。今のところ不治の病であり、緩和薬はクソマズイうえに調合が複雑で、しかも満月が近づくにつれて体調を崩すのだから大変だ。
――こんな人に
後見人なんて面倒なものを押しつけた母は、どうかしている。なんてことをしてくれたのか。
どこにいたってウィスタは厄介者なのだという気がしている。孤児院でだってそうだったし、マグルの学校でも怖がられて化け物扱いだし、あげくにホグワーツでもこんなざまだ。
手を伸ばし、リーマスの額に触れる。よほど具合が悪いのか眼を覚まさない。手のひらが熱くなり、唇を引き結んだ。
「しょうがねえ養父だよ」
高熱だ。計っちゃいないから正確ではないが、燃えるようだ。仮に元気爆発薬をつくったところで無意味だ。脱狼薬との飲み合わせはだめなのだ、あれ。
寝室を出て台所に向かう。保管庫から材料を取り出して、さっさと刻んで混ぜていく。鍋を引っ張り出し、アグアメンティで水を満たす。杖をもう一振りすれば、水は湯に変わった。魔法薬学では地道に火で加熱するものだが、いちいちそんなことをやっていられない。ただの熱冷ましだし。
材料を鍋にぶち込み、さらに杖を一振り。お玉が鍋をかき混ぜていく。我ながら手際がいい。自画自賛する。自分を誉めるのは大事だ。特に、ウィスタのような四方八方から集中砲火を食らうような身の上では。
別の鍋で病人食もといスープをつくる。妖精たちに言えば喜んでつくってくれたろうが、それも手間だ。
完成した二品を盆に載せ、寝室へ。扉を足で蹴りあけて、小机に盆を置いた。
次の授業に戻る気もしない。ふっと息を吐き、再び椅子に腰かける。眠る養父は、実年齢より老けて見えた。三十いくつなのに白髪が何本か見える。苦労がそうさせたのだろう。
――定職につけなかった
リーマス・ルーピンは人柄もよく、品行方正で、監督生だった。なのに定職らしい定職にはついていない。人狼だからつけなかったのだ。本人の口から詳しく聞いたわけではないけれど、どうも家庭教師やら小さな学校――ホグワーツに通えるほどの力はない魔法族の受け皿――の教師をしていたらしい。病気を抱えているのだ。しかもそれは、露見したら差別され、迫害される類のものだ。怖くて定職にはつけないだろうとウィスタでもわかる。
リーマスは働かなくても食べていけるのだ。ウィスタの母が遺した金がある。リアイスの子……ウィスタの後見を引き受けたことに対してのもので、母の死後に別邸の管理人となったのでその分の金も出されていた。生活に困ることはないはずなのだが……たぶん働きたかったのだろうと思う。できたら定職に。
――外の誰かに認められるために
まさか養父の胸の内を聞くわけにはいかないので、単なる想像なのだけど。
優秀なのに働けないのは辛いことなのかもしれない、とは思う。ホグワーツ教師の仕事は、リーマスにとってはじめての「ちゃんとした定職」だ。臨時でもない正規雇用の。
「……人がいればいいのに」
ホグワーツの教師なら、もしかしてもしかするのだろうか。人狼だろうが関係なく、養父と付き合ってくれないだろうか。このままじゃ、養父はすり減っておいぼれてなんの楽しみもなく死んでしまいそうだ。人狼の己を嫌悪して、憎んで、恐れたまま。
ウィスタはそういうおつきあいどうこうはたぶん、かなり、もはや無理ゲーっぽいが、養父には幸せになってほしいものだ。もちろん、付き合うどうこうが幸せの形とは限らないが。くっついても修羅場だの不倫だのあるし。人間ってのは最低である。
寝台からだらりと落ちた手に触れる。傷だらけの手だ。淡い輝きと熱が、ウィスタから養父へと流れていく。
「……スネイプのやつが、あんたの正体を知らせたいらしいが」
わざわざ防衛術の代理を買って出て、人狼についての授業をした。生徒のためじゃないだろう。リーマスを失職させるためだ。いやらしいやつめ。
「いざとなったら、俺があのクソ野郎を黙らせてやる」
報われなかったあんたが、やっと掴んだ職を奪わせてやるもんかよ。
――シリウス・ブラックが
――今度は寮の寝室に
――ウィーズリー家の子が襲われたって
囁きが、羽音のようにまとわりついた。ウィスタは沈黙を守ったまま、廊下を行く。今のウィスタはレイブンクロー生だ。金の髪。眼の色は適当に変えている。シリウス・ブラックの息子。スリザリンのウィスタのままだと不都合が多すぎた。
「リアイスのやつが手引きしてるんじゃ?」
「どうやってするっていうのよ。彼はスリザリンよ」
「でもブラックの息子なんだろ。校内に入れるくらいなら……」
ハッフルパフの上級生たちとすれ違う。バカじゃないのか。舌打ちをこらえ、ちらりと彼らの顔を見た。よかったセドはいないし、たぶんセドの友達でもないだろう。ふっと息を吐いたとき、前から見知った顔がやってくるのに気づいた。
「ロン、話に尾ヒレどころか胸ビレまでついてるよ」
「だってハリー、
――おいロンてめえ、なに楽しそうにしてる
自分がブラックの息子だという罪悪感らしきものが少し減った。ハリーは頭を振った。
「ハーマイオニーが死ぬほど心配してたんだよ」
「それならクルックシャンクスがスキャバーズを食べたことを謝ればいいのに! それよりハリー……」
なんでブラックは君を狙わなかったんだろう?
すれ違う。静かに歩を進める。ハリーのほうをみないように、まっすぐに前を見た。
ハリーと話す機会がないままだった。そもそも話してもどうしようもないのだ。寮は別だし、ハリーから何か言ってくることはないし。ウィスタがブラックを手引きどうこうと思っていなさそうなので助かった。疑われても仕方のない立場なのだ。ウィスタ共犯説を唱えているバァカたちに、生まれてこのかた顔も名前も知らなかった男が、いきなり父親だと言われて素直にうんと言えるか聞きたいものだ。
ああ、せめてどこぞの一般人が父親だったらよかったのに。
授業を終えて、ひそひそ声の間を抜ける。グリフィンドール対レイブンクロー戦の熱狂も、ファイアボルトの素晴らしさもブラックの侵入で吹っ飛んだのは確かだ。どいつもこいつも猫も杓子もブラックの話題ばかり口にしている。
なんやかやと絡まれてはやり返し、忘却呪文を使ったりなんだりし、ふらふらになりながら寮に戻った。
「……だから魔法省は――」
談話室の一角、暖炉の前に陣取っていたのはマルフォイと幼馴染ズだった。マルフォイはソファに腰かけ、足を組み、新聞を広げている。なんだか親父さん――ルシウスのミニチュアのようだった。意識してか、無意識なのか、ポーズがそっくりだ。頭は親父さんより悪いが。
無視して通り過ぎようとする。ウィスタはとある一件でマルフォイにムカついているのである。
「ブラックに吸魂鬼の接吻を許可して」
足が止まる。ぱっと振り向いた。まともにマルフォイの顔を見る。マルフォイは顔をひきつらせた。レイブンクロー戦の時、吸魂鬼に変装しバカをやらかして、ウィスタに軽蔑の眼を向けられたことが記憶に新しいのだろう。
一秒、二秒と無言で見つめ合う。野郎と見つめ合ってどうするのか。手をひらひらさせ、新聞に視線を投げた。マルフォイは察して新聞を差し出してきた。
空のソファに腰を落ち着け、新聞の一面を読む。ブラックがホグワーツに再度侵入したことを受けて、魔法大臣は吸魂鬼の接吻を許可した……。
でかでかと載った『父親』の写真を睨みつける。きつい眼でウィスタを見返してきた。忌々しいことに、痩せこけて、髪と髭がだらしなく伸びた姿でも、確かにウィスタと似ていた。そうと知ってみればわかる程度には。若返らせて健康的な生活を送らせれば、ブラックはウィスタにそっくりなのだろう。ああ、遺伝子ってやつは嫌なもんだよ。
マルフォイに新聞を返す。向かいのソファに座るマルフォイは、緊張したようにウィスタを見ていた。吸魂鬼変装騒動についてまだ怒っていると思っているのか、そうでないのか。かなりどうでもいい話になっているのだけど。
「……吸魂鬼の接吻っていうのは?」
「お前新聞をありがとうくらい言えないのか?」
「ありがとうございます坊ちゃま」
「ほんとお前腹が立つな」
「よく言われれるよ……で?」
「事実上の死刑だ。あーまあ、死刑のほうがマシかもしれないな……。吸魂鬼が獲物の魂を吸い取る」
父上から聞いたんだが、とマルフォイは付け加える。
「あの頭巾の下には――おそらく口のようなものがあって」
「誰だよ悪趣味だな。接吻とか名付けたやつ」
「言うんじゃない」
「で、どうなるんだよ?」
「身体は生きてるが、精神が死ぬ。つまり廃人で……」
聖マンゴにも、頭がおかしくなった連中が入院しているらしいが、それと一緒だ。
「死んだほうがマシなんじゃないか」
マルフォイはさらりと言う。ウィスタはなんとも言えなかった。
「呪いで損傷を受けてとか、忘却呪文の失敗で――これはロックハートか……と違って、吸魂鬼の接吻は受けたら最後だ」
「なるほどな。闇祓いを投入して始末させるより、吸魂鬼に片づけてもらったほうが面倒がなくて後腐れもない。安上がり、と」
お役人が好きそうなやり方だ。ふんふんと頷いたウィスタだったが、マルフォイの凍り付いたような顔が気になった。
「どうしたよ」
「お前、たまに驚くほど冷酷だよな」
「失礼な」
マグル生まれを穢れた血とか言う男に言われたくない。最近じゃあ口にしなくなったようだが。ウィスタの前でだけなのか、そうでないのかはわからない。急に価値観を変えろと言っても無理か……と半分あきらめている。
「……ブラックがどうにかなったら、お前も少しは楽になるんじゃないのか」
「ワンチャンでさあ、ブラックの分家の子とかじゃないかな、俺」
「母上がおっしゃってたが」
ウィスタは間違いなくリーンとシリウスの子よ、と。マルフォイはやたらと上品に言った。母親の真似が巧いなこいつ。
「そうかい」
あー……と言いながらソファに背を預ける。
魔法省より先にブラックを捕まえてあれこれ吐かせて、できたら始末したいのだが、かなり難易度が上がったんじゃないか?
どうしたもんか。