【完結】虹彩の奥底   作:扇架

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IF√続きが読みたいとのお声に応えて!書きました!どうするこの先の展開とか思ってるけど書いちゃった。


炎のゴブレット①

「だから俺はやっってないってぇぇええ!」

 一九九■年。十月三十一日。大広間に響く声は悲痛な色を帯びていた。

 首根っこを引っ掴まれ、ずりずりと引きずられるのは少年だ。細いというより痩せていて、黒髪に左右色違いの眼。制服を着崩していて、もちろんネクタイは着けていない。悲しいかな、楽しい宴が始まるどころか緊急事態が発生し、少年は疑われているのだ。窃盗? いや違う。詐欺? まぁ詐欺師といえば詐欺師、人たらしといえは人たらしだが(本人に自覚はない)、今回は違う。暴力沙汰? 拳が出る方だがこれも違う。

 不正への加担。これが一番近いだろうか。

「なんで俺がゴブレットからハリーの名前が出るなんて細工したと思ってんですかあんたの眼は節穴かぁあああ!」

「馬鹿野郎。父子そろって冤罪着せられるの俺達!」

「魔法省の馬鹿ゴブレットの馬鹿ぁぁあ!」

「やかましい貴様くらいだろうが小細工ができるのは」

「過大評価してんじゃねえよ俺はただの十四歳!」

 息が切れる。絶望的な状況だ。いや理不尽にもほどがある。

――そもそも

 三校対抗試合とか知らないし。なすすべもなく扉――代表選手+αが入って行ったそこ――へ引きずられ、ウィスタはため息を吐いた。

 ああ、父親の冤罪が晴れてちょっとは平穏な日々になると思っていたのに。

 

「この少年は関係ないだろう」

 平坦な声が言う。椅子に腰かけ(マクゴナガルが出してくれた)、首をさすりながら、ウィスタはその男を見た。きっちりと撫でつけた髪、身なりも堅苦しく、目つきは鋭い。魔法省の役人。元は魔法大臣の地位を狙っていたのだが失脚した。ウィスタの又従姉、クロードの伯父にあたる。バーテミウス・クラウチ。名門クラウチ家の魔法使いだ。

――俺を庇ったほうが得だと考えたのか

 それとも純粋にウィスタの無実を信じているのか。にこりともしないのでわかりにくい。

「面白い子なのは確かだが、やらんだろうよ」

 腹を抱えて笑っているルード・バグマンと対照的だ。バグマンが魔法省への忠誠心などないのはわかりきっている。なんせさっきは散々魔法省の悪口を言いまくった。クラウチがなんとなしにウィスタに冷たい眼を向けているのはそれが原因のひとつだろう。

 嫌われる理由なんていくらでもあるのだ。

 ひとつ、ウィスタが「ブラックでもある」ということ。父親の冤罪が晴れたのでブラック=リアイスを名乗ることになった。父親曰く「保険」らしい。

 ひとつ、父親が冤罪を着せられていたこと。魔法省にとっては屈辱らしい。そりゃお前悪いのはワームテールだろうが。そんなもん魔法省には関係ないらしい。

 ひとつ、魔法省から賠償をぶんどったこと。正当な要求だ。お陰でファッジはリアイスに頭が上がらなくなった。ちなみにぶんどりに行ったのは曽祖父アシュタルテである。「うちの婿が冤罪を着せられて黙っていられるか。最近ファッジは調子に乗っているようだからわからせてくる」とさらりと言い、ウィスタは社会勉強の名目で連れて行かれた。

 一応お上品な言葉を使っていたが「なにお前調子こいてんだシメるぞ」的やりとりだった。曽祖父はマフィアだったらしい。部屋の隅っこで見学していたが、いい年したおっさんは真っ青だし、いい年どころか何歳なんだろな曽祖父は眼をギラギラさせているしで、多少はおっかなかった。

 仕方ないと思っている。クラウチに嫌われたところで問題ない。ただの役人だし。「善良な一般市民」はウィスタの味方だ。

 『シリウス・ブラック無実だった』やら『父と子の感動の再会』やらの記事が日刊予言者に出たし、父子でロンドンへなんていう写真も撮られた。正確には撮らせたんだが。

 シリウス・ブラックは死喰い人だ悪党だ死ぬべきだとボロクソに言っていた連中ほど手のひらを返した。世間ってのは変わり身が早い。

 印象操作ってのはしといて損はない、と言ったのは実父だ。世間に姿をさらし「悲劇の男」と言われるのも受け入れているようだ。感情で突っ走るタイプかと思えば色々考えていたらしい。

 ウィスタはつらつらと考えながらと、繰り広げられるやりとりを眺めた。結局ウィスタは無罪で、ハリーは強制参加らしい。かわいそうに。

 小細工した誰かは何が目的なのか。競技中の事故でも狙っているのかね、と呑気に考える。所詮ウィスタは蚊帳の外なのだ。競技に出られないわけだし。

――ハリーならなんとかするさ

 ウィスタにできることはたいしてない。そんなに仲良くもないし。

 お前も代表選手だよと言われたハリーが眼を見開き、ふらっふらになりながら小部屋を出ていく。

「名誉とガリオンを得る機会を掴んだのに」

 あんなに衝撃を受けるなんて。ボーバトンの代表選手――フラーが呟く。ウィスタの押しかけ従者の「姉」で、ウィスタとはうすーーーく血が繋がってるらしい魔女。とびきり美人。

 なにがどうなって大陸の魔女とウィスタに血の繋がりが、と何度だって思う。「リアイスの竜殺しのジークフリートがデラクールの魔女をさらって英国に」「ちなみにジークフリートは「最後の対抗試合」の勝者なの」と言われたときの衝撃。なんてこった略奪婚(いや駆け落ち婚?)。

「華やかな妖精の君はともかく、生き残った男の子は平穏な学生生活がしたいんだよ」

 ぽそりと口を挟む。仲はよくない。悪くもないが。だがハリーが目立ちたがりと誤解されたままのはどうなのだ。

「見る目があるわねあなた」

「眼が潰れそう」

 返せば、フラーがにっこりした。野郎どもの何人かは心臓が止まってしまいそうな笑みだ。美しさとは時に暴力になるのだ。

 行っていい? とバグマンに視線をやる。悪かったねとバグマンは手を振ってくれた。気のいいおっさんでよかったよ。

 ため息を吐きながら扉に向かう。去り際に「俺に難癖つけるのが趣味なんですかスネイプ先生ってば。しつこい男は嫌われるんですよ」と言い捨てる。ぱたんと扉が開いて閉まった。

 ちらと大広間の砂時計――エメラルドが数個落ち、また浮き上がった。

 大人げないスネイプ。そして大人でやさしいマクゴナガル。

「あーあ、俺マクゴナガル先生の寮がよかったなぁあ!」

 叫べば、スリザリンの点が増えた。マクゴナガル先生はいい先生だ。

 

「お前がやったんじゃないのはわかるよ」

 リアイス、いやブラック=リアイス?

 ウィスタは連れの肩を軽く殴る。授業と授業の間――休憩時間は実質移動時間だ。廊下はこみあっていて、あちらこちらから囁きが聞こえてきた。ハリー・ポッターは嘘つき野郎の目立ちたがりやだとか。

「ハリーもやってないよ」

 ザビニ、と返す。

「お前がポッターを庇う割にミョーな距離感なのはなんで?」

 ズバリ訊かれ言葉に詰まる。なんなんだよいつもなんでも面白がってにやにやしてるくせに。

 さてどうするか。寮が違うんだしあっちは生き残った男の子だぞ。距離があってどうこうと言うか。

――別に

 ハリーが望んで生き残った男の子なんてもんになったわけじゃない。それでも、なんとなく引っかかるものがある。

「ハリーは腐れマグルんとこに居候してるのは?」

「腐れか知らないけど知ってる」

「まぁー腐れらしい。で、お前ならそんなとこ出たいだろ」

「母親という関係の女が男とっかえひっかえしてる家も大概あれだぞ」

「お前の爛れた美人のおかーさまは置いといてだ」

「出たいなあ。施設のがマシかそれ」

「そんなハリー・ポッターにビックチャンスが降ってきたわけだ」

 話は簡単だ。ウィスタの実父はハリーの後見人だった。冤罪が晴れたわけだしハリーを引き取りたいと思っていて、ハリーに打診した。そりゃあハリーは喜んだ。が、それはぬか喜びに終わった。

「なんかダメなんだとさ」

「あー……だからか。お前が距離とってるの」

「まあそういうことだ」

 ダンブルドアがノーと言ったどうこうは省く。ザビニが知らなくていいことだ。

 ハリーは「本当の」家族といられるウィスタのことが面白くないようだし(わからんでもない)、ウィスタはハリーにどう接すればいいのかさっぱりわからない。

 同じように実父への振る舞い方もわからない。

――ハリーと暮らせなくて

 意気消沈していたし。リーマスに押しつけたからなんとかなるだろう。

 父にとって「ハリーは実の息子同然」らしい。

 息子なら既に一匹いるんですが? と言わなかったウィスタは偉いと思う。どうしたもんか、ハリーの顔を見るたびになんでかムカつくのだが。

「めんどくさいことになってないかそれ?」

「……友人だか知り合いだかの距離感のやつが転がりこんでも困ったろうからな」

 仕方ないんじゃないか、と肩をすくめた。

――あんまり我儘言って

 リーマスを困らせたくないし。いや我儘ってなんだ。もうちょっと実父は父親らしくしてほしいとか? マルフォイに(というかナルシッサに)クィディッチワールドカップに誘われたら「行って来い」とあっさり送り出し、あれこれゴタゴタに巻き込まれかけて帰ってきたら「無事ならよし」とあっっさりしてる自称父親になにを期待しろと。

 こんなくだらんことを考えている場合じゃないのに。ちらと後ろを見る。黙々とついてきてる従者。押しかけ嫁ならぬ従者である。「ウィスタ様のいらっしゃる寮が私の寮です」とのことでスリザリンだ。ウィスタの読みなら帽子を脅して無理矢理スリザリンになったのだろう。くそっ、ウィスタも帽子を脅して別の……まあまあ中立的な寮に……たとえばレイブンクローとか……になればよかった。

 

――中立なんてもんは

 幻想だったのかもしれない。マッドアイに眼をつけられて授業でしごかれまくり、ふらふらしながら廊下を漂っていたある日、ウィスタは幻覚を見た。

 なーんか、ピカピカ光るバッジを皆さんつけてらっしゃる。セドリック・ディゴリーを応援しよう。まあいいんじゃないのと思ってたらだ。

「ほんとお前ダサいな」

 寮の談話室に飛び込めば、マルフォイが目を丸くした。ソファに腰掛け見せびらかしているのはバッジだ。セドリック・ディゴリーを応援しようバッジ。

「ホグワーツの選手を応援するのは当然だろ」

「白々しいねー」

 ザビニが茶々を入れる。パンジーは「なによすごく出来がいいじゃないこれ」と眼を怒らせた。

 ウィスタは卓の上に置かれているバッジに手を伸ばす。軽く押せば色が変わり、別の言葉が浮かび上がる。ハリーをけなす幼稚な言葉が。

「ひとつ、ハリーで遊ぶためにセドを使うな。ひとつ、お前なんで勉強はできるのにアホなの。ひとつ、こんなバッジできゃっきゃはしゃいでたら俺らまでアホと思われるからやめろ」

 容赦ねえ、とザビニが笑い出し、パンジーが「なによポッターが悪いんじゃないの」と言い、ダフネが「おそろいのバッジってなんだかね」とさりげなく切って捨てていた。

「お前はそうやってお高く止まるんだ」

「は?」

 マルフォイがなんか言い始めた。ついに頭がイカれたか。もともとイカれた思想持ちではあるけど。

「嫌でもなんでもお前の寮はここなんだから、もうちょっと歩み寄りの精神はないのか」

「そんな仲良しバッジつけたくない」

「だいたいな、ポッターならともかくお前が代表選手になってたら僕だって応援くらいはした」

「んであれだ、代表選手の友達枠で目立てると」

 マルフォイが眼を見開く。唇を引き結び立ち上がった。なんだなんだほんとのことじゃないかと思えばだ。

「いやいやお前さ」

 さっと半歩避ける。温室育ちの坊ちゃん産の拳が当たるわけがないだろうよ。マルフォイの腕を掴んだ。

「そんなに怒ることか?」

「僕を侮辱するな!」

 えー、三百六十五日、二十四時間あれこれ人を侮辱してるやつがそれ言う?

 なんだか気が抜けて、腕を離してやる。マルフォイはウィスタをじろりと睨んで腰巾着を引き連れて去っていった。

「……なんで?」

 ぽつ、と呟く。マルフォイは野心家だし、ハリーよりも(重要)目立ちたいはずだろう。

「いまのはあんたが悪いわよ」

「私達なんの修羅場を見てたのかしら」

「お前さあ……あの高飛車野郎が嫌いなやつをクィディッチ杯に誘うか?」

 パンジー、ダフネ、ザビニに非難がましく言われる。

「……いやでもな、あいつは」

 たぶん俺がリアイスでブラックだからあれで、と口ごもる。ザビニが頭を抱えた。

「あー…………そっちかあ……」

 なぜかウィスタが悪いことになってるんだが? 視線を巡らせる。ザビニと同じく頭が痛そうな顔をしている従者と眼が合った。

「謝ってきたほうがよろしいですよ」

 なんでか叱られた。




※フラーと血縁どうこうは下記参照ください
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