【完結】虹彩の奥底   作:扇架

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炎のゴブレット④

 ダンスパーティなんて他人事だったはずなのに、ウィスタは忙しくなった。といってもたいしてやることはない。パーティ用の衣装は用意されていた。踊りも問題ない。スパルタ指導のお陰で、孤児院育ちの庶民でもそれなりになれるのだ、というサンプルがウィスタだった。

「君、落ち着いてみえるが」

 かなりうっかりな子か、と低い声で言われ、震えながら頷いた。孤児院育ちの庶民はただの濡れ鼠になっていた。ホグワーツの厨房、暖炉の前。小さな卓の上には茶器。椅子が二脚。ウィスタはバスタオルにくるまり、杖で髪を乾かしながら、向かいに座る『彼』を見た。背が高く、肩幅も広く、眉は濃く――整った顔とは言えないが、精悍なつくりをしている。彼もまたバスタオルにくるまり、豪快に髪を乾かしていた。なんで世界的な有名人、クィディッチ選手のビクトール・クラムとお茶なんてしているのか。ウィスタが悪いのだけど。

「……溺れてると思ったんだよ」

 ぼそぼそとブルガリア語で言う。クラムは顔をしかめた。

「君みたいな小さな子に助けられたら恥だ」

 むすっとしてしまう。ああそうですか。そりゃあクラムにとったら小さいだろうよ。これでも背は伸びてるはずなんだけど。どうも身長はともかく細身で華奢にみえるらしい。華奢は嫌だな。パワー系ゴリラも嫌だが。スリザリンに多いのだ、ゴリラマン。扱い方さえ把握すれば付き合いやすいが。

「こんな十二月のクソ寒い中で水泳するなや」

 ズバンと言った。これに尽きる。校庭をぶらついていたウィスタは、湖に飛び込む影を目撃した。かつての嫌な記憶が刺激され、思わず助けに行った。そう、ウィスタには「水遁の術」の恩恵があるのだ。名前は適当である。ジャパンのマンガ由来だ。なんかカッコよかったのだ。水の上、歩こうと思えば歩けちゃったんだからしょーがない。

 で、湖面を歩き――ゆらゆらと揺れる影に浮遊呪文をかけようとして、致命的なミスに気がついた。水遁の術と他の呪文を併用できないということに。ウィスタはまだまだ未熟なのだ。

 結果は重力の法則のように明らかだった。樹から落ちるリンゴよろしく、ウィスタはドボンした。ただのアホであった。

「……気持ちはありがたい」

 だけど危ないから水上歩行はやめろ。クラムはピシャリと言う。ウィスタはぐうの音も出なかった。

「でもさあ、水の上を歩くのってカッコよくない」

「どこぞの詐欺師が使う手だぞ」

 ぐうの音も出ない。あれだ、奇跡というやつで、マグルを騙すのに使うのだろう。こんなことを言ったらどこかの組織に怒られそうだが。

「俺らは魔法族だし」

「そういう話だったか?」

 クラムがスコーンを手で割って、むしゃむしゃと食べる。そこはジャムかクリームか両方かつけようか、お客人。

「水上歩行より、より早く潜れるほうがありがたいんだが」

 ウィスタは沈黙を守った。

 こんな寒い中、湖にいたから予感していたけど。クラムも『卵』の謎を解いたらしい。フラーはさっさと解いていそうだし……ハリーはどうなんだろう。解いてないだろうなあと思っても、口出しはしない。そんな義理もないし、なにせ賢いハーマイオニーがいる。彼女を頼ればいいだけだ。

「ところでだ」

 こほん、とクラムが咳をした。わざとらしさ百パーセントだった。

「なんでしょう大きいひと」

 茶器におかわりを注ぎながら返す。クラムが苦笑した。

「心配するな。まだ伸びるだろう……君、栗色の髪の女の子と親しいようだが」

「ハーマイオニーのこと?」

「その、ふわふわした髪のハー……マイ? ハーミオニーのことだ」

 クラムはふわふわした最高に可愛い猫の話をするかのように、早口で言った。ウィスタはハーマイオニーの呼びやすい愛称はなかったなあと心配になった。ついでにハーマイオニーは猫の皮を被った猛獣だと思う。女の子はたいてい猛獣だろう。怖いね。

「頼みがあるんだが」

 なんだろうか、とクラムをじっと見る。彼の眼が泳いだ。

「僕の『卵』から出てきた中国火の玉種のフィギュアをあげよう」

 麻薬の取引でもするの? というひそひそ声だった。フィギュアねえ……そんなんで買収できると思われてるの? ウィスタ。

「えーと、えー……こっちの民話集とかいらないか?」

 クラム、なんだかわからんが一生懸命である。世界的クィディッチ選手があたふたする様を楽しんだあと、ウィスタは頷いた。

「言ってみてよ」

 

 数日後、どっと疲れながら校庭を歩いた。目指すは湖。耳の近くを羽虫が飛んでうっとうしい。今は無視だ。さっさと報告に行かないといけない。

「ミッション完了だよ」

 湖のほとり。待ちあわせていたクラムに言えばぐっと抱きしめられた。肋骨が折れる。

「よくやってくれた同志よ」

「返事がどうかわかんないよ」

 呻きながら言う。クラムから逃れ、詳細を告げた。

「借りてた本を返すっていう名目で接触。本にあんたからのお誘いの手紙を挟んだ」

 ぜえぜえと息を吐く。クィディッチ選手、力は強いし親愛の示し方が激しい。息を整え、ついでに羽虫を杖で振って追い払う。しつこいなほんと。

「ふくろうを楽しみに待とうか」

 もしクラムとハーマイオニーのペアが実現すれば、ホグワーツに激震がはしりそうだ。ウィスタには関係ない話だが。

 かわいそうな肋骨をいたわり、脇腹をさすりながら城へ戻ろうとする。階段に足をかけたとき、後ろから、ふらついた足音が追ってくるのに気がついた。

「……記者さん?」

 リータ・スキーターだったか。雪まみれである。セットした髪も乱れていた。疲れているが上機嫌なようで、ウィスタを見てにっこりした。

「おや坊ちゃん」

 なんだか白々しいな。実はウィスタのことをつけていたか? と勘ぐりたくなる。

「あんた出入り禁止じゃなかったっけ」

「大人の事情ざんす」

 無視である。さっさと出て行けと追い出すか『大人の対応』をとるか少し迷う。迷いながら、洗浄呪文でリータを綺麗にしてやった。ハリーと代表選手は多少の迷惑を被っているらしいが、ウィスタへの実害はないのだ。

 あと、無駄に記者殿の敵意やら害意やらを買う必要もない。いまのところは表面だけでも友好的な態度をとるのが吉。

「ダンブルドアに見つからないうちに出たほうがいいよ」

「おや優しい」

 リータのメガネがきらりと光る。またも悩み、ウィスタは多少の本音を出すことにした。

「俺のことを記事にして、稼ぐこともできたろう、あんた」

 アズカバンの囚人と闇祓いのロマンス、禁じられた恋となんとか、落とし子がどうこう、とかね。昨年のアズカバン騒動で、ウィスタはゴシップ誌のネタになってもおかしくなかった。リータなんてやりそうじゃないか。リアイスの睨みがあっても記事を書きそうだ。が、そういった記事はなかった。せいぜいウィスタがグリフィンドール生に襲われて重傷になったくらいだ。

「名門の坊ちゃんをネタにするほど怖いもの知らずじゃないざんす」

「いやー、あんたダンブルドアのこと耄碌クソジジイとか書いてなかった?」

「読者様ざんすか。これはどうも……君、口が悪いざんすねぇ……」

 リータが目玉をくるりと回した。

「ただの気まぐれと」

 君の母親への借りを返しただけざんす。リータがよってきて、ウィスタの肩を叩く。

「ありがとうと言おうか?」

「構わないざんすよ」

 にっとリータが笑う。眼を瞬かせるウィスタに「そうそう、パートナーの髪や眼の色の品を身につけると好感度アップざんす」と言って、リータは軽やかに去っていった。

 なんだあのおばさん、と唖然とするウィスタを置いて。

 

 マグルだろうと魔法族だろうと、噂好きなのは変わらない。その真理にたどり着きたくなかったが辿り着くしかなかった。

「おいリアイス」

 クリスマス間近の朝、大広間。もしゃもしゃとサラダを食べながら、ウィスタは横目で坊ちゃんを見た。そしてサラダに集中した。

「無視をするな」

 鼻を鳴らす。坊ちゃんがなにを訊きたいかなんてわかっている。おできの薬の作り方くらい簡単だ。

「お前、グレンジャーと行くのか」

 呆れるほどのストレート豪速球だ。なんでこいつは貴族のくせに遠回しに訊くってことができないのか。そもそもそんな配慮だか気の回しかたができるなら、ストレート豪速球で穢れたなんとかなんて言わないか。

「さあ? お前そんな雑誌なんて読むわけ」

 マルフォイが寮テーブルに広げているのは『週刊魔女』。ナルシッサが絶対に読まないだろう「下品」なもとい低俗な大衆紙? ゴシップ誌というやつだ。でかでかと書かれているのは「ビクトール・クラムのお相手は!?」だ。かわいそうに、クラムは注目の的だ。あらゆる名前が「お相手」候補に上がっている。噂は花盛り。ウィスタは知ったこっちゃないと噂に参加もせず流していた。巻き込まれたくない。

「最新情報はここにある」

 こいつ陰謀論とかにはまらないだろうな、と他人のことながら心配になってきた。どうしたもんか。真実を見つけたとか僕だけはすべてを知ってるとか言い始めたらよ。真実どころかクラムのお相手も知らねえくせに笑わせてくれる。あれこれと考えたが、話を戻すことにした。

「俺がハーマイオニーと行ったらどうなんだよ?」

「えっ」

 いや行かないって。

「あんな女と?」

 隣でザビニが噴いた。気持ちはわかるとも。お前は俺のなんなのだマルフォイよ。もはや架空の存在っぽいヤキモチ焼きの彼女かよ。正確にはあんな(穢れたピー)女と、だろうが。

「俺が誰と行こうがいいだろう?」

「誰かとは行くわけだ。まさかウィーズリーの末っ子じゃないだろうな」

 うっとうしいなこいつ。粘着系かもしれない。もはやザビニはテーブルに突っ伏している。楽しそうでよかったよ。

――嫌だなあ

 まかり間違って、万が一ウィスタとマルフォイがどうこうなんて流れたら。さすがにないとは思うけど。なんか魔法界はそこらへんゆるいらしいけど。ついでに肌の色が云々もないっぽいが。その代わりマグル生まれがなんとかはあるから、人間はどんなものにでも違いを見つけて差別するんだ……ともはや感心ものだ。

 さっさと席を立つ。「おい坊ちゃん、ママに下品な雑誌を読んでるって言いつけてやろうか?」とコミュニケーションを図り、なにやらマルフォイがわめいているのを馬耳東風で聞き流し、大広間から出た。

 ため息を吐く。呑気な坊ちゃんはウィスタが誰と行くかてんでわかってない。ハーマイオニーと行くわけがないし、ジニーも以下略だろうよ。好悪の問題じゃなく、立場の問題だ。なにせウィスタは悪評まみれのスリザリン生。悪評まみれがウィスタにかかるのか、スリザリンにかかるのか。もはや似たようなものだ。スリザリンというだけで色眼鏡で見るやつの多いこと。

 坊ちゃんが鈍いのは仕方ない。そもそも小姑みたいに根掘り葉掘りしてくるなよ。そして小姑で思い出した。

「女の勘は怖い」

 小姑と言ったら失礼か。やつらが恐ろしいのは変わりないけど。パンジーとダフネ。ウィスタは誰と行くなんてまーーったく言ってもない、匂わせてもないのに「クインと行くんでしょ」とズバリ言い当てて来た。なんでわかったんだよと訊けば「恋の匂いがした」という不思議発言をしてきた。もういやだ。そもそも、二人には…………元々…………バレ、てたわけだけども。

「いやいやいやいや」

 ぶつぶつ言いながら玄関ホールから地下へ向かう(なんでかロンがフラーに絡んでるように見えたが幻だろう)。

 スリザリン寮へ戻り、自室へ向かう。ハンガーにかけて吊り下げている闇色の衣を見た。どうすんだ、鴉の子みたいになりそうだが。ウィスタは黒髪だし。似合うんだろうか……。差し色でどうにか、とまで考えて頭を抱えた。リータが言っていたじゃないか。相手の髪や眼の色どうこう、と。ハンカチだと安っぽい? 耳に穴を空ける趣味はない。指輪……は『冬の息吹』があるし、腕輪は『螺旋杖』があるし。黒い服に着けるなら、しかも改まった場ならブローチとか?

「嫌だナイアードは嫌だ」

 あいつはブローチの手配を頼んでもからかってくる。クソ野郎くたばれ。じゃあヘカテか、と暫定的に決める。ヘカテなら安心だ。ついでにリーマスと実父と曽祖父は除外だ。保護者枠に相談したくない。衣装は実父の見立てらしいけど。ブラック家秘伝の染料どうこうのリッチたがウルトラだかロイヤルなブラック、らしい。怖くて値段なんて訊けない。

 ぶつぶつ言いながら、自室を出たら――。

「エリュテイア、自分が女子の自覚はあるか?」

 従者が待っていた。いいや、待ち伏せか。ここは男子寮だと親切丁寧に教えても、従者は涼しい顔をしていた。

「男子が女子寮に入れはしませんが、逆は許されてます」

「……どうなんだそれ」

 返し、唸る。危険度からしたらたしかに野郎を封印したほうがいいのか? ウィスタも男ではあるし、その、年頃の……いろんな障りというのはわかる。ほんと障る。夢の形で現れるのは勘弁してほしい。

 呼吸を遅くする。怒涛のようによぎった破廉恥もとい年相応のあれこれを従者が悟りませんように。

 ウィスタの内なる戦いなど知らず、従者は小箱を差し出してきた、

「用意しておきました」

 蓋が開けられる。淡い輝きが現れた。紫の薔薇だ。正確には、茎や葉は銀、花弁が紫の薔薇――ブローチだった。

 一、二度口を開け閉めする。この従者、察しがよすぎる。

「俺にはもったいない従者だ」

「なんてことありませんよ」

 めずらしく従者の笑顔が見られた。尻尾を振る子犬のようだ。

「で、俺の従者。あんたのお相手って決まったわけ」

「ええ、利害の一致からブレーズ・ザビニと行くことに」

 まぁー、そんなあっさり言ってくれちゃってさ。

 

 わくわくどころかきりきりした気持ちでクリスマスまでの日々は過ぎていった。スリザリンの面々は落ち着いていて、というよりも退屈そうで、ウィスタは育ちの差をまざまざと思い知った。そりゃあマルフォイ邸にお呼ばれしたこともあるが、幼少のみぎりよりパーティに慣れっこなお貴族様に比べれば、だ。

 結果、意外なほどすいすいと物事は進んだ。まず、当日の待ち合わせはばっちり済んだ。そして代表選手のお陰で、ウィスタはそこらへんのぺんぺん草のような扱いだった。変に絡まれることもなく、ごく普通にクインと踊ることができた。

――何度か視線は感じたが

 それだけだ。庭園のベンチに腰掛け、ウィスタは息を吐く。薔薇の香りが満ちた場所だ。クリスマス特別仕様。隣にはクインが座っている。パーティ会場は騒がしい。二人の足は自然と外に向かっていた。別に何をするわけでもない。ただ静かに座っているだけ。だって二人はパートナーで友人なので。おしゃべりしなくたっていいのだ……とウィスタは思っている。

 思っていたのだけど。

「ねえ」

 うん、と隣を見た。月明かりが、クインの髪は清かな銀色に輝かせている。藤の眼が射抜くようにこちらを見た。

「今度、ホグズミードに行かない?」

 これは「友達とホグズミードか」それとも……と眼を泳がせる。勘違い野郎は嫌われるってばあちゃんが言ってた。まあばあちゃんは死んでるし性格きついけど。ついでに嫌われようが鼻で笑いそうだ。

 どっちにせよ、答えは一つしかない。

「喜んで」

 ◆

 少なく見積もってもクインと友達にはなれたのだ、となるべく前向きに考えることにした。しかし、諸々が前向きどころか後ろ向きになった。

「……あのですね」

 こんな現場、他のやつらに見られたらどうするんですか。ウィスタはうめいた。二月のとある日である。そう、クインと初デー……ホグズミードへ行って数日。一足早い春が来たかと思っていたら、冬将軍が襲来してきた。しかも意地悪な冬将軍である。生徒を授業後に残らせて壁ドンする男である。そしてウィスタも男である。というか少年である。

「とっとと吐け」

 鰓昆布、とハイパー意地悪冬将軍スネイプが唸った。魔法薬学教室がなぜ凍り付いていないのか、ウィスタは心底不思議だった。

「先生の目は節穴ですか」

 ぺろっと本音を言ってしまった。親愛なるスネイプの眉間の皺が渓谷にランクアップした。

「俺にハリーを助ける義理はないです」

 ぶっちゃけ、三校対抗試合よりクインとの逢い……ホグズミード行きが大イベントだった。なので第二の課題に「都合よく」「鰓昆布なんて貴重品を」持って現れたヒーロー・ポッターのことはまあー、どうでもよかった。しかしどうでもよくないと思ったのがスネイプであった。

「貴様くらいしか、我が輩の保管庫からポリジュース薬の材料や鰓昆布を盗めるものか」

「そんなに誉めてもらって僕うれし……ポリジュース薬? なんで」

 せめても、と緊迫感を和らげようと馬鹿のふりをしたのだが、本当に馬鹿面になってしまった。わけのわからん嫌疑が増えてる。

「……貴様ではないと」

「そうですよ」

 肩から手が外れる。バクバクする心臓を宥め、ウィスタは長々と息を吐いた。ああ、やっぱり大人の男はちょっと苦手だ。孤児院時代の負の遺産である。

「お茶が欲しいな僕」

「気色悪いからやめろ」

 文句を言いながら、勝手に座れとばかりに顎をしゃくられる。ウィスタは適当な椅子に腰掛けた。さっと茶器が現れ、湯気が立つ。

「ポッターに鰓昆布が渡ったのは事実だ」

 スネイプも適当な椅子――ウィスタから離れた場所に陣取る。そりゃあ仲良くお茶をする関係ではないのだ。かなり微妙な間柄。

「第二の課題にハリーを勝たせたい誰かがいた。そしてハリーは鰓昆布なんて知らないはず……ついでに、暴いたって結果は変わりませんよ」

 ハリーは第二の課題を一位で通過したんですから。セドリックは二位だ。クラムは三位、フラーは競技をやり遂げられなかった。今更盗まれた鰓昆布がどうこうも言えないだろう。公正な聖杯が選手を決めた。だからといって競技までもが完璧な公平性を保つとは限らない。ボーバトンとダームストラングは代表選手を積極的に助けている。第一の課題の内容を生徒に漏らしたのだ。

「それよりポリジュース薬が……?」

「材料がごっそりと」

 不思議なこともあったものだ。変身薬なんてなにに使うのか。そりゃあ変身のためである。とはいえ、三校対抗試合が催されている最中に、わざわざ盗む必要があるのか?

「まさか代表選手のなりすましとか?」

 わざと茶化す。ごっそりと言ったのだスネイプは。短期のなりすましくらいなら、大量の材料は必要ない。

――ポリジュース薬を煎じられるだけの実力者

 スネイプは確実にできるだろう。教師の何人かもできるはず。ついでに元闇祓いマッド・アイも可能だ。闇祓いは最高の成績が求められる。つまり、高等魔法試験の結果も優、もしくは良が求められる。基礎科目の魔法薬学も含まれる。

 たまにマッド・アイは気持ち悪い眼でウィスタを見てくるのだが、気のせいだと思いたい。あの義眼が気持ち悪いだけなのかもしれない。なんなのかあれ……と嘆息し、ウィスタは軽い冗談を口にした。

「ハリー・ポッター暗殺のために死喰い人が長期潜伏中なんじゃあありません?」

 それでマッド・アイになんて化けてたらまぁー面白いな! げらげら笑っていたら「いくらブラック=リアイスだからといってブラックジョークをとばすな」と微妙にセンスのない説教をされた。

 

 そして、時は経ち、まったく笑えない事件が起きた。

 第三の課題が近づいてきたある日、ウィスタは校長室に呼び出しを食らった。おっとなにかやらかしたかな? ちなみにハーマイオニーとクラムがつきあっているどうこうを暴露したのも、リータを手引きしたのもウィスタではないのだが……ロンに疑われてるが……ハリー、ハーマイオニー、クラムの謎の三角関係の噂と『週刊魔女』の記事は、第二の課題が終わって結構経つのに下火になる様子がない。

 ウィスタのくだらない予想は、重々しいダンブルドアの言葉に砕かれた。

「……クラウチさんが侵入者?」

 あの魔法省の高官の? とわかりきったことを訊く。

「そのクラウチじゃよ」

 ハリーとクラムが遭遇しての、と続けられ、ウィスタは天を仰いだ。

 なにがどうなってんだ。

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