【完結】虹彩の奥底   作:扇架

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不死鳥の騎士団②

 ヴォルデモート復活の当夜。

――なんで隠していた

 そう詰るべきだろうか。

 ホグワーツ――校長室。ふかふかとしたソファに腰かけながら、ウィスタは隣の不死鳥を撫でていた。そして不死鳥は穏和しくしていた。それどころか、もっと撫でろと言わんばかりにウィスタの手のひらに頭を押しつけていた。

「……言えねえわな」

 ぽつ、と呟く。主語を抜いていたが、向かい――椅子に座る二人は、そうっと眼を逸らした。実の父親と遠縁の校長である。

「………………すまん」

 実の父は大変、とっても後ろめたそうであった。ウィスタはどういう反応をしたものか迷った。あまり実感がわかないのである。己がヴォルデモートの孫だという事実が。そうなのだろう、と思う。そうでなかったらよかったのに。

 ひとまず、父と校長へ文句を言うのは後回しにして、ウィスタは扉近く――壁にもたれかかった男と、直立不動の女を見やった。

「で、お前らどうすんの?」

「どうもしませんよ」

 男のほうが投げやりに答えた。黒髪に灯火の眼。年齢不詳。第四分家のイルシオン、と男は名乗った。ウィスタはまじまじと彼を見る。すっとイルシオンは眼を逸らした。

「私はリアイスですがね、あなたの血筋がどうこうは思ってません」

「へえー、スリザリンに組分けされた母親なんて酷い扱いだったらしいけど」

「文句はアリアドネ様に言ってください」

 いかれた女だと思っていたが、そりゃあいかれるわけだ、とイルシオンは続けた。

 ウィスタも同じ意見だ。そりゃあいかれるわけだよ。

「お嬢様がお生まれになった経緯に関しては、これで合点がいきました」

「よくいままで露見しなかったな?」

 ヴォルデモート復活はそっちのけで、ウィスタは己の出生もとい、母親の出生にまつわるあれこれが気になった。仕方がない。世界もとい、英国魔法界がどうこうより身近なことが気になるのは当然だ。

「初手で、婿殿――ミスラ様が巧いこと誤魔化しましたからね」

 さらりとイルシオンは言う。そこに待ったをかけたのは父だった。

「お前、まさかミスラ・リアイスが知っていて黙っていたと?」

「あの婿殿ならそうするでしょう」

 イルシオンがちらりとウィスタを見る。

「お嬢様の黒髪は、自分の母、つまりお嬢様の祖母の遺伝だろうと言ってましたし。お嬢様のファーストネームもミドルネームも付けたのは確か婿殿だったかな。ことあるごとに私の娘と言ってましたし。お嬢様、アリアドネ様にも婿殿にも顔立ちがそんなに似ていなくて……それも、そういうこともあるさで流して……中身はけっこうどっちにも似てましたけど」

 父が唸った。

「そう言われると気づいていたのか……?」

「よその男の子を育てられるかというと、まあ普通は無理でしょうが」

 父がまたもや唸った。肖像画たちも唸った。

「……妥協して養子に出すかな……」

 父が言えば「さすがに赤子を始末はな」と誰かが言った。父の高祖父、フィニアス・ナイジェラス・ブラックであった。

「私は気づいていたに一票ですね」

 そしてお嬢様を見事に育てた。黄金のグリフィンとして。

「婿殿の遠回りな復讐だったんでしょうよ」

 ヴォルデモートとかいう馬鹿者をけして父と呼ばないように。

「そして襲撃され、敵を――ヴォルデモートを除いて皆殺しにし、おそらくやつが気に障るようなことを言いまくり、自害したと」

 やりかねないですね。あの人、学者肌と思わせてなんだかんだ言ってアリアドネ様の夫でしたしね。

「婿殿がお守りになったお嬢様の、その息子だ」

 私は言いませんし漏らしませんよ。

「信じろって?」

 ウィスタは問いかける。イルシオンはにやりとした。

「私のことは信じられなくても、お嬢様のことは信じてあげてくださいよ。あの方は言ったんだ」

 なにかあれば、私の子を連れて逃げてくれ、と。

「我が儘を言わない方だった。そんな方がたったの二回だけ我が儘を言った」

 灯火の眼が父に向けられる。

「一回目が、シリウス・ブラックと婚姻したいという願い。一族の反対を押し切ってまで、あの方はお選びになった。ブラック家の男を。二回目があなたの安全を願ったとき。ウィスタ・リアイス、あなたの安全を」

 己でなく、あなたのことを願った。あなたが健やかに生きますようにと願った。

「お嬢様との約束は未だ継続しています」

 あなたは彼女の息子で、婿殿――ミスラ・リアイスの孫だ。だからお守りしましょう。黄金のグリフィンの名に懸けて。

 

 

 

 あの夜のことを思い出し、ウィスタはぼうっと彼女を見た。真っ白い空間だ。天井も床も壁も白い。ヴォルデモート復活から数日。パッサント城へ呼び出され、地下へ誘われた。そこには白い空間があった。妙に見覚えがあるなと思えば、ホグワーツ城の地下にあったとある場所を模したものだという。

「賢者の石を隠していた場所。あれはレイブンクローの『思索の間』というの」

 真っ白い壁にもたれかかり、クロードが言う。ウィスタを呼び出した張本人だった。どこかでこの光景を見たな、とウィスタは思う。白い壁。もたれかかる先視……もはや遠い、過ぎ去った時のことだ、とどこかが囁く。

 かつての先視はもはやいない。かつての癒し手、過去視の使い手もまた同じく。時の流れのなかに消え去った……。

「そしてここは『思索の間』を模してつくられた」

 誰にも邪魔はされないから安心なさい、とクロードは言う。ウィスタは、まさか正体が露見してこれからぶっ殺されるのではないか、と身構えた。密室に二人きり。めちゃくちゃ危険だ。従者は留守番である。ついでに、彼女は「私は貴方様のために生まれてきたので」と言って、ウィスタにあらためて忠誠を誓った。誓っちゃった。誓わなくていいのに。いいのかよと言っても「いいのです」で終了した。いいんだ。ウィスタの血筋に問題があってもいいんだ。もうそれならいいやと主従関係は維持したままだ。

 そろそろと腰――杖に手を伸ばしていると、クロードに睨まれた。

「私をなんだと思っているの」

 突然呼び出してきた先視、おねーさんと言う暇もなく、クロードは続けた。固有名詞は出さず、ぼかしてはいたが。三つと一つの血脈だの、三つと一つの善だの言われたら、嫌でもわかる。「ウィスタの正体を知っている」と。息を飲んで逃げだそうとしたら「いいから聞きなさい」と転ばされた。暴れたら縄をかけられた。酷い。

 床に縛られ転がるウィスタの頭を、クロードは乱暴に撫でた。

「私はあなたの先視」

「あなたの未来にかかる暗雲を打ち払う剣」

 ぽつぽつと、ウィスタに語りかける。大丈夫だと。とつとつと、雨だれのように。

 ウィスタはゆっくりと呼吸した。今まで、息が乱れているのにも気づかなかった。そんな余裕などなかったのだ。

「……知らないぞ」

 拘束を解かれ、ウィスタは床に座り込む。かつてのスリザリンのように。

「俺が、なにかの拍子にあっち側に行っても」

 ヴォルデモート、とはどうしても言えなかった。あまり口にしたい名ではない。彼がしでかした恐ろしい罪が祖母を壊し、母が生まれ、母が苦しむはめになったのだ。その出来事がなければウィスタは生まれていなかったのだが、だからといっておぞましい「それ」を肯定できないではないか。あいつはクソ野郎だ。絶対に祖父なんて呼んでやらない。ウィスタの祖父はミスラだ。誰がなんと言おうとも。

「あなたは行かない」

 そんな悲しい未来は認めない。クロードは囁いて、ウィスタの前に膝を突く。そっと頬に手を当てられ、気づけば抱きしめられていた。

「……ごめんなさいね」

 間に合わなくて。

 それは誰への謝罪か。

 訊こうにも訊けなかった。年の離れた又従姉の声が震えていたから。あんまりにも悲しそうだったから。

「いいよ」

 ウィスタは呟いた。誰かの代わりに答えてやった。

「あんたは悪くないんだ」

 きっと、俺たちの誰も悪くなかったんだ。

 そっと彼女の背に腕を回す。これは家族の抱擁なのだ。

 ふっと、彼女が笑った気配がした。

「ありがとう」

 いいんだよ、と言う代わりに、ウィスタは彼女の背をそっと撫でた。

 

 

 仕えるのなら、出した料理を綺麗に平らげ「美味かった」と言う主がよい。くどくど説教を垂れずにさらりと「期待している」と言う主がよい。ちょくちょく雑談し、困り事を吸い上げてくれる主がよい。去り際にガリオンの詰まった袋を置いていってくれる主がよい。

 働きやすさ、大事。やりがいも大事。人間扱いしてくれる主は大事。

 所詮理想である。そんなスーパーホワイト出来た上司なんていないだろう。いたら即座に乗り換える。流れを見極め、風を読み、いつでも舟から舟へと乗り移れるように準備は怠らない。

「……あー……」

 とある領地、とある館。食堂。しくしくと泣く料理長にルシウスは言葉もなかった。長テーブルには料理が飛び散り、壁にも料理が飛び散り、床には皿の破片がぱらぱらと。

「お前が悪いんじゃないぞ」

 ウルトラブラック上司こと、なんでか地獄から戻ってきてしまったあれが悪いのだ。おかしいな貧乏舌ならマルフォイ家の料理の味に感激するはずなのだが。別に貧乏舌じゃあなくても感激するはずなんだが。これだからブラックな上司は……いや、ブラックだとややこしい。ウルトラダークな上司かあれ。もうやだ。

「あの方は、味がどうであろうとも」

 癇癪を起こすのです。知っています。ぽつぽつと料理長が言う。そうだなあとルシウスは返した。そうなんだよなあ……知ってる。あの方、純血がへいこらするの好きだからね。

「しばらく来なかろう」

 確認するように言う。あの方こと闇の帝王がお戻りになった。なってしまった。おそらく喜んでいるのはベラくらいだ。妻の姉、つまり義姉。いまは監獄の中。妻のことは愛しているがあれが義姉なのは嫌であった。しかたがない。仕方がないのだがまあ嫌である。

 ルシウスの人生は仕方ないが嫌だ、が多い。死喰い人になったもの、父が死喰い人だったのでなし崩しの成り行きであった。いやだって逆らえばマルフォイ家は滅ぼされていただろうし。どこの馬の骨と思えば、スリザリンの末裔らしいし。純血が頂点の社会も悪くはないだろう。旨味がある。闇の帝王には頑張っていただいて、そこそこいい地位を得るのもありか……と思ったら、吃驚するほど過激であった、というだけだ。ルシウスは穢れた血は鬱陶しいし邪魔だとは思っていたが、積極的に殺して回るほどではなかった。面倒だし。隔離するとか締め出すとか――少なくとも、魔法省から排除して、権力の奪い合いは「純血」だけですればいいし、魔法大臣も「純血」になればよい、くらいだった。

 おそらく、純血主義の人間は、それくらいの感覚だったろう。要はゲラート・グリンデルバルド路線である。逆らう者は監獄に放り込み、である。彼の大悪も、さすがに穢れた血を一匹残らず潰すなんて壮大なことは考えていなかったはずだ。彼が求めたのは新しい秩序である。穢れた血は管理する。優秀な魔法族が、劣ったものを管理する。それが幸せだから、という建前である。どこまでが本音でどこまでが建前かは本人に訊いてみなければわからない。そしてルシウスはヌルメンガードまで出向くつもりはない。

――どうしたものか

 この十数年、ぬくぬくとしていた「忠誠心のない」死喰い人たちに、あの方はお怒りである。料理をぶちまけて帰るのなんてかわいいものだ。ムカつきはするが。なんだあの性格の悪い上司。無駄に根性があったせいで、地獄から戻ってきてしまった。一生戻ってこなくてよかったのに。

 どうしたもこうしたもないよなあ、と内心でため息を吐く。こうなればあの方を勝たせないとならない。気がすすまないが。勝者をつくるのはスリザリンである。

 しかし、勝ったところで。

 その先によりよい未来はあるのだろうかとふと思い、ルシウスは頭を振ってその不敬な考えを打ち消した。

 ◆

「……あんたらにも思うところはあるだろう」

 ヴォルデモート復活の翌日。医務室。

 ウィスタ・ブラック=リアイスは窓際の寝台に腰掛け、椅子にちんまりと座る三人を見つめた。ボーバトンのフラー・デラクール、ダームストラングのビクトール・クラム、ホグワーツのセドリック・ディゴリーである。イルヴァモーニーの(偽マッド・アイは三校対抗試合ではなく四校対抗試合だと炎のゴブレットに思いこませた)ハリー・ポッターは欠席である。昨夜はあまりにごたごたしていた、話す暇がなかったのだ。校長室から医務室へ行けば、ファッジが発狂していたし。

 ハリーのことはいいのだ。今は三人の代表選手に事情を説明しなければならない。なにせ三人とも気絶させられて、起きてみればハリーが優勝したと知らされ、消化不良なのだ。

 三人とウィスタは、患者仲間である。三人と一人はマダム・ポンフリーによる「念のため入院なさい」コマンドの犠牲者であった。そしてこれ幸いとお話し合いをすることにした。

「結論から言うとだ、あんたら、優勝杯を掴んでたらあの世に行ってた」

「……おもしろい冗談だね」

 セドがへらっと笑った。ウィスタは舌打ちした。

「仮にも三校の代表が背後からズドンされて転がったんだぞ」

「ズドン……」

 クラムが呟いた。

「後ろからズバンじゃなくてよかったかしらね」

 さらりとフラーが言う。ウィスタの側に控えるエリュテイアが「我が姉、それだと首がころりですよ」と返した。やめてほしい。首がころり、ダメ。

 こほんと咳をする。シリアスな空気がぶちこわしであった。

「優勝杯がポート・キーで」

 一気に言った。

「運ばれた先は、なんと!」

 ヴォルデモートがいるところ!

「俺は偽マッド・アイに別口でその「会場」に飛ばされました。最悪だなおい」

「……貴方様が私の側を離れるからいけないのですよ。もう絶対離さない。死んでも離さない」

「エリュ、落ち着きなさい」

「それだと」

「愛の告白」

 代表選手たち、仲良しである。息ぴったりである。しかし、地獄の番犬こと、ウィスタの従者は顔色一つ変えなかった。

「愛なら売るほどありますよ」

「……話を進めようか!」

 声を張り上げた。ちなみに、防音やら耳塞ぎやらは施してある。どんだけ馬鹿げたことを言っても問題ない。

 ウィスタは急いで話を進めた。倍速である。さらわれました。血をとられました、手のひらにがっつんがっつん杭を打たれてリアル磔刑の話は割愛。色々都合の悪いところはカットである。完全版を彼らが知る必要はない。

「で、ヴォルデモートは復活したのでした」

 沈黙が落ちた。ウィスタは軽く言い過ぎたのが悪かったのかと反省した。泣きながら、悲劇の主人公のように言えばよかったのか。あの大悪が舞い戻ってきた! みたいな感じで。

「……証言だけだよね」

「そうだよセド」

 なんせ父が切り落としたヴォルデモートの腕は持ち帰れなかった。というか、サラザール・スリザリンが生み出した激流のなかに消えたらしい。物的証拠はない。証言だけだ。

「こればっかりは信じてもらうしかないんだが――」

 たぶんファッジ、仮に誰かが死んでも事故で済ますだろうよ。そう言えば、三人はびくりとした。なにせ「一応辻褄は合う」のだ。三人が妨害を受けたのは明らかである。

「……この試合は最初から妙だった」

 ため息を吐きながら、クラムが言った。彼は唸り、眉間に皺を寄せる。

「四人目の代表選手。魔法契約……。ホグワーツがそんな小細工をする必要がどこにある?」

 ディゴリー、君がいるというのに。とつとつと、クラムが言う。セドは「買いかぶりすぎだ」とハッフルパフモードに入った。謙虚は美徳。

「なにより、」

 クラムは言葉を切る。

「ダンブルドアは、ゲラート・グリンデルバルドを倒した一人だ。それにもう一人の英雄、アシュタルテ・リアイスの曾孫の言うことだ……」

 たぶん、信じるしかないんだろう。言って、クラムは苦い顔になる。

「嫌なものだ」

 大悪が再び現れた。多くの血が流される。

「なによりも怖いのが……」

 みんなが、血に酔うことだよ。僕は祖父を殺された。みんな大事な人を奪われた。

「僕の家族は、代償を求めた」

 僕が生まれる前の話。歴史のなかの話。けれど、確かにあった足跡。

 血の足跡。

「みんなも、償いをもとめた」

 『グリンデルバルドの夜』。大陸に吹き荒れた、もう一つの嵐。血風の記憶、罪の記憶。

「……グリンデルバルドの血族を、狩って狩って狩ったんだ」

 僕の家族だけじゃない。奪われた痛みがあまりに強くて、耐えられなくて。なにかがしたくて。

「英国を、大陸のようにしてはいけないんだ」

 ウィスタはこう訊きたかった。

 なあクラム。グリンデルバルドに恨みを持つ末裔。お前の前にいるのは、大悪の血筋だぞ、と。ヴォルデモートの孫だぞ、と。

 言えるわけがない。ウィスタは眼をつぶり、呼吸を一つおいて開いた。三人を順繰りに眺める。

「俺は、俺の知る真実を話した。情報の共有をしたかっただけで、協力しろだとかは言えな――」

「私は残るわよ」

 フラーがきっぱりと言った。ウィスタは首を傾げた。

「……うん?」

「愛を見つけたの」

「は?」

 これは、クラムとセドだ。愛ってあの愛? ラブのこと?

「申し訳ない、宮廷の花殿、このど田舎者の野蛮人にもわかるように説明をくださいませんか」

 ウィスタは恭しく言った。フラーは胸を張った。

「素敵な殿方を見つけたの」

 ビル・ウィーズリー、赤毛の素敵な彼よ。

 ウィスタは脱力した。弱々しくこう言った。愛には勝てない。

「それはおめでとう」

 

――色々あった

 もうあった。クロードに呼び出し食らって話し合いもしたし。クロード曰く「ブラック家の血筋のせいと言いなさい」「露見しそうになったら僕は知りませんなにも知りません無関係ですとあれとの関係は全力で知らぬ存ぜぬで押し通しなさい」「いい? 否定している限り、本家の当主に手を出せないんだから。口実を与えちゃだめ」「仮に真実薬を飲まされて吐かされても、思いこみでした記憶の改竄を受けていましたで押しなさい」とあれこれ指導を受けた。つまり、死んでも認めるな。

 過去に思いを馳せて、現実逃避しようとする。しかし、豚がぴーぴーうるさかった。ピンクの豚である。

 きちんと座り、監督生らしくお利口なふりをしてはいる。ただ、ありがたいお説教は耳から耳へと抜けていく。馬耳東風というやつか。

――どうすんのこれ

 よりにもよって、こんな趣味の悪い女がホグワーツに送り込まれてくるなんて。

「あんの腐れ僕はやめましぇんファッジめ」

 ぼそっと言えば、ダフネに背を叩かれた。彼女も監督生らしく澄ましてはいるが、口端が震えていた。まさか、宴の席、それもありがたいお説教タイムに笑うわけにはいかないのだ。

「……あんたもそう思うだろ」

 僕はやめましぇん。

 もう一回言えばまたどつかれた。

 

 いやあ、思い切り笑えないって辛い。そして豚ことアンブリッジの笑顔は汚い。

 五年生も楽にはいかないかもな、とウィスタは遠い眼をした。

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