【完結】虹彩の奥底   作:扇架

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三話

 見送りにきた養父と別れ、ウィスタは一人でトランクを引き、ホグワーツ特急の中をさまよっていた。新入生でも、幼なじみや友達が元々いれば違っただろうが、ウィスタは一人だ。誰かのいるコンパートメントに割り込む勇気もない。できるなら、空室を上手く見つけたかった。

 あちこちから聞こえる楽しげな声を振り払うように、足を動かし続ける。どのコンパートメントも人がいるようで、ため息を吐きながら、奥へ奥へと進んでいく。このまま空きがなければ、諦めてどこかに入り込むしかないだろう。

 なんとかないかと思って、ついに突き当たりまで来てしまった。そうして、空きがあった。誰もいないコンパートメントが。胸をなで下ろして、トランクを運び入れた。

「独占バンザーイ」

 一人で座席に座って両手を上げるが、ウィスタ以外聞く者はいない。それでも知らない人間と話すよりは気が楽だった。

――孤児院でも一人だったし

 いつの頃からか遠ざけられていた。学校にも行かされていたがウィスタは妙な子どもだったので、のけ者だった。養父が迎えに来てくれて、外の世界をやっと知ったがそれだけだ……。

 本当に魔法学校なんてところでやっていけるのか。ウィスタは友人なんてものを持ったことはないし、魔法に関してもわからないことだらけなのに。

 顔をしかめた時、ノック音が響いた。扉のほうを見ると、誰かが顔を覗かせている。

「……どうぞ」

 声をかければ、扉が勢いよく滑って、同い年くらいの女の子と男の子がウィスタを見た。どちらも手にトランクを持っている。

「あの、どこも空いていなくて。お邪魔させてもらってもいいかしら」

 女の子のほうが、ハキハキ言った。断られることをちっとも疑っていないようだ。

――断ろうとしても無理だけど

 空いているのはここしかない。ここで断るほど、意地が悪いつもりもない。

「いいよ」

 座席を叩いて頷いた。二人はほっとしたような顔をして、コンパートメントに入ってくる。女の子のほうは物怖じしなくて、後ろにいる丸顔の男の子は控えめな性格のようだった。

 女の子はハーマイオニー・グレンジャーと名乗り、男の子はネビル・ロングボトムと名乗った。

「俺はウィスタ。ウィスタ・リアイスだよ」

 よろしく、と言おうとしたら、二人に眼を丸くされ、たじろいだ。

「リアイス?」

「あのリアイス!?」

 激烈な反応に驚きながら、頷き返す。リアイスとやらが有名なのは聞いているが、いまいちピンと来ない。

「あの……君、闇祓いのリーン・リアイスと親戚ってこと?」

 ネビルがおずおずと訊いてきて、肩をすくめた。

「俺はその息子……らしい」

「彼女の功績は本で読んだわ」

 ハーマイオニーが勢いよく割り込んできた。眼が輝いている。

「監獄の半分を埋めたとか、たくさん……それに、リアイスは魔法界の名門なんでしょう?」

「そうらしい。そんなに詳しいってことは、ハーマイオニーも名門の出ってやつ?」

 問えば、ハーマイオニーは首を振る。

「ううん。私はマグル生まれなのよ。ホグワーツから手紙が来てとっても驚いたわ……。ちゃんとやっていけるかわからなかったから、教科書を全部暗記してきたんだけど」

――今、とても気になる発言があった

「……教科書を」

「暗記?」

 ウィスタとネビルがそっと訊くと、ハーマイオニーが笑顔で頷いた。 「だって魔法なんて習ったことがないんだもの」

 かなり極端だ。感心と呆れがないまぜになった様子で、ネビルが呟く。

「君、絶対レイブンクローだろうな……」

 ウィスタも同意した。教科書丸暗記なんてわざわざするのだ。レイブンクローで決まりだろう。だが、ハーマイオニーはうれしくないようだ。

「私、グリフィンドールがいいのよね。とてもいい寮みたいだし。あなたたちはどの寮に入りたいの?」

「僕の両親はグリフィンドールだったから、そこに……入れたらいいなあ……」

 ネビルが情けなさそうに俯く。なぜか、ちらっとウィスタを見た。一体なんだろうと思ったが、ウィスタは口を開く。

「マグルの世界で育ったからよくわかんないし。俺に合ったとこならどこでも」

――あれ、リアイス家はみんなグリフィンドール出身だって言ってたか

 顔をしかめた。そして、その中でスリザリンに入ったのが、母親――リーン・リアイスだと聞いた。

 つまり自分は、グリフィンドールか、スリザリンに放り込まれるのだろうか。どんな風に組分けするのか誰も教えてくれなかったが。

 考え込んでいると、ネビルの様子がおかしくなった。やたらと荷物をひっくり返し、慌てた様子だ。

「どうかしたのネビル」

 ハーマイオニーが心配そうに声をかけ、ネビルが泣きそうな顔をした。

「トレバーがいなくなっちゃった! アルジー大おじいさんにもらったヒキガエル」

 どっかのフクロウに食われてなきゃいいが、とウィスタは余計な心配をした。

 

 犬猫、それかフクロウなら見つけやすいだろう。すくなくともヒキガエルよりは。

「どうすりゃいいんだろう?」

 もちろん探せばいいのだ。それはわかっている。探さないわけにもいかない。隣でしくしく泣かれたら。関係ないと言い切るほど、ウィスタは心が強くなかった。

 ハーマイオニーははりきって、ヒキガエルを探している。むしろ彼女が先陣を切り、コンパートメントに飛び込んでは出てきていた。ウィスタは御免だ。いきなり見ず知らずの人に話しかけていくなんて。

――ああいう度胸は持っていない

 ハーマイオニーとネビルの後についていきながら、度胸の問題ではないのかもしれないと思い直した。

 誰にも否定されたり蔑まれたことがないから、飛び込んでいけるのかもしれない。  通路に視線を走らせる。だが、ヒキガエルは影も形もない。ここで三人一緒に動いても、どうしようもないことは確かだ。

 ネビルはハーマイオニーに任せておいて、ウィスタは一人で動くことにした。そっちのほうが気楽だ。

 通路を進み、コンパートメントをちらりと覗いていく。ヒキガエルなんて格好のおもちゃになるだろうし、誰か見つけて遊んでいるかもしれない。そんな生徒はいないようだった。

 仕方がないのであまり厄介そうでない生徒がいるコンパートメントに突入することにした。なるべく丁寧に。

 つんと澄ました上級生は「知らないわ」と返したし、他の上級生も「ヒキガエルなんて時代遅れなものを?」と馬鹿にしたりした。訪ねても訪ねてもよい成果はなかった。

 うんざりしながら、コンパートメントを訪ねる。ヒキガエルを探していると言えば「一緒に探そうか」と言ってくれた上級生がいて、さんざん邪険にされてきたウィスタは、たどたどしく礼を言った。なんて親切な上級生だろう。こんなひとがいる寮に入りたい、とかすかに思った。どうやらハッフルパフ生のようだ。「手伝いがいるなら言うんだよ」とハッフルパフの上級生は言ってくれて、ウィスタは元気を取り戻して捜索を再開した。

 延々と歩き回り、アジア系の上級生と淡い金髪に藤色の眼の上級生は「見つけたら教えてあげる」と請け合ってくれた。コンパートメントの場所とウィスタの名前を訊かれたので答えたら眼を剥かれた。とにかく闇祓いリーン・リアイスは有名らしいとしみじみと思った。

 そしていくつかめのコンパートメントで、知った顔を見つけた。

「あれ? 君、マダム・マルキンで」

 黒髪に緑の眼の男の子だった。ウィスタは、ああと声を上げる。

「お久しぶり……って言えばいい?」

 ウィスタのくたびれた様子になにか感じたのか、男の子は席を指差した。ありがたく座って息を吐くと、もう一人の男の子――燃えるような赤毛の子――が声をかけてきた。

「なにかあったの?」

 あったとも。

「ヒキガエルを探してて。見てないか?」

 簡単に答えれば、そろって首を振られた。

「ていうかヒキガエルなんて飼ってるひといるんだ……」

――いるんだよなあこれが。

 嘆息しながらウィスタはかぼちゃジュースを受け取った。よく冷えていておいしい。そもそもウィスタは昼御飯を食べていなかった。

「僕たち、これから昼御飯なんだけど」

 緑の眼の男の子に尋ねられ「自分のコンパートメントに置いてきたから」と首を振る。けれど空腹で死にそうだった。見かねてか、赤毛の男の子が包みを差し出してくる。

「サンドイッチだけど食べる?」

 いいのか、と眼を丸くしたら、赤毛の男の子はもごもごと続けた。

「僕のとこ家族が多くて、やっつけだからパサパサしてるけどさ」

 それでもウィスタはうれしかった。養父に引き取られるまで、誰もなにもくれなかったし、暴力ばかりだったので。

 礼を言ってサンドイッチに被りつく。幸せな気分でいると「そういえば」と緑の眼の男の子が声を上げた。

「自己紹介もまだだったね。僕はハリー・ポッター。隣の子はロン・ウィーズリーだよ」

 ハリー・ポッターの名前に眼を瞬かせた。闇の帝王を倒した「生き残った男の子」。

「君マグル生まれ? ハリーの名前聞いてもびっくりしないんだね」

 ずばり言われ、どうしたものかと眼を泳がせた。

「マグル生まれというか……マグルの間で育ったけど。俺はウィスタ。ウィスタ・リアイスっていうんだ」

 え、リアイスの子! とロンが仰け反った。

「じゃあ闇祓いのリーン・リアイスと親戚なのか。いいなあ」

 純粋に羨ましがられ、仕方がないので付け加えた。

「親戚というか、息子……なんだけど」

「息子」

「うん」

「それはとんでもないね」

――とんでもないんだ

 少なくとも、ロンにとっては。ウィスタは母親を知らないのだ。他人の記憶の中か、新聞か本かでしか。英雄と崇められるほどのひとだったのかもわからない。

「リアイス家はたくさんの闇祓いを出しててね。それにいろんな分野で活躍してるし、グリフィンドール五大名門の中でも一番有名だしすごいんだよ」

 へえ、としか言えなかった。とにかく魔法族は魔法族での貴族社会のようなものがあるらしい。

「生まれがどうでも、俺はいい育ちじゃないから」

 言いかけて、口を閉じた。足音でない足音を聞いたように思った。予感のままに、コンパートメントの扉に視線を投げ掛ける。次の瞬間、遠慮なく開いた。

「ここにハリー・ポッターがいるって本当かい?」

 鼻につく声が響いた。

 

 かちり、と眼が合った。淡青色の眸。薄すぎて時折灰色に見える。ウィスタは口を開けた。この子には会ったことがある。

「マダム・マルキンで――」

 訪問者はゆるく首を傾げ、瞬いた。ああ、と声を上げる。

「前に会ったな」

 じろじろとウィスタを眺め、そうして視線を滑らせる。

「僕はドラコ。ドラコ・マルフォイだ。後ろの君がハリー・ポッターかい? 緑の眼だと聞いてる」

 そうだよ、とハリーが答え、訪問者あらためドラコ・マルフォイは微笑んだ。少しぎこちない動作でハリーに片手を差し出す。

「生き残った男の子に会えるなんて光栄だね……そうそう、もう一人の男の子を知らないかい? ウィスタ・リアイスなんだけど」

――今まさにお前の目の前にいるんだけどな

 面倒だから黙っておこうかと思ったが、そういえばマルフォイとやらは同学年のはずだ。代々スリザリンだと言っていた気もするので、ウィスタと同じ寮になるかは怪しいけれど。

 いいや、母親の血が濃いなら――少なくとも眼は母親のものらしいし――スリザリンに入ることになるのか?

 数秒悩み、結局口を開いた。

「俺がウィスタ・リアイスだよ。ドラコ・マルフォイ」

 マルフォイがわずかに眼を見開いた。

「君が? マグル育ちって言ってなかったか。仮にもリアイスの子が」

「色々あったんだ」

 そういうことにしておこう。本当のことであるし。

「闇祓いリーン・リアイスの子がなんてことだ」

 マルフォイはウィスタにはわからない幻想を打ち砕かれたらしく、頭を振った。

「あんた、俺の母親に……」

 こういう場合はなんていえばいいのか。軽く眉間に皺を寄せ、なんとか言葉を探し出した。

「憧れてたりする?」

 矢は見事に刺さったようで、マルフォイは眼を泳がせた。

「母上がよく話してらして知っているだけだ。母上と君の母親は同じ寮の先輩後輩だ」

 そんなことも知らないのかという響きにむっとした。だが素知らぬふりをする。

――どうせ付け入られるだけだ

 弱いところを見せても仕方がない。

「そうだったのか」

 とっさに答えれば、マルフォイは片手を差し出してきた。

「優れた魔女の息子は、スリザリンに入るべきだと思うね」

 くっとマルフォイは笑う。

「ウィーズリーみたいな貧乏で子沢山がいるような寮じゃなくて」

「なんだと!」

 唸りが響く。頭を動かしてなんとか後ろを見れば、ロンが杖を引き抜いていた。ハリーも杖を抜いていた。呪文は知っているのか? と思ったが空気はぴりぴりとしていて一戦起きそうな気配だった。

――ぶん殴っておしまいにできたらそれがいいんだけど

 できないよなあ、と思った。ここはウィスタが元いた村ではない。向かってくるやつは殴って黙らせていたが、どうやら養父にとっては異常なことだったようで、孤児院での暮らしを話せば話すほど悲しげな顔をされたものだ。「まさか短気で血の気が多いのは血か?」と呆然として呟いていた。

 さすがに申し訳なくなって、なるべく暴力はやめようと思ったのだが――殴りたい。

 ふっと息を吐き、マルフォイの手を払う。パシッと鋭い音がした。

「……初対面の、なんも悪いことしてねえやつにそんなこと言うんじゃない」

「君は……君たちはふさわしい場所にいるべきだ。スリザリンに来い。つきあう相手は選ぶんだ。両親のように無惨な死にかたをしたくなかったら」

「うるさい」

 ついに杖を抜いて構えた。

――親の死さえ覚えてないのに

 なんでこんなやつに言われなければならない。

 杖を振り、意思をこめる。呪文とともに熱い何かがが腕を駆けて、魔法となって現れた。マルフォイの体がくるりと反転する。おつきらしい二人も同じだった。もう一度杖を振って、コンパートメントの扉を開け、不快な訪問者を叩き出した。

「とっとと失せろ!」

 

 ハリーたちと別れ、ハーマイオニーたちと合流した。ネビルはべそべそ泣いていて、居心地が悪くて仕方がない。俺が虐めたみたいに言われたたまんないなあと内心でぼやきつつ「トレバーはそのうち出てくるよ」と励ました。ふくろうが食ってるかもね、なんて間違っても口にしない。絶対大泣きするに決まっている。

「さあとにかく、着替えなきゃ」

 そろそろ着くわよと言って、ウィスタたちは追い出された。なんだか理不尽だ。小学校と違って汽車にロッカー室なんてあるはずもないから仕方ないか。

「やあ、ヒキガエルは見つかったかい」

 さきほどの親切な上級生だった。黒髪に涼しげな灰色の眼。黄色と黒のネクタイを締めている。

「ううん。どこに隠れてるんだか……もう出口まで行くんですか?」

「いや。到着前に一回りしてきたところだよ。トレバーだっけ」

 親切すぎやしないか。この上級生。言っちゃあなんだがヒキガエル一匹だ。汽車なんて広いし、見つかるとも思えない。

「うん。ネビルのペットなんだけど」

 上級生が泣いているネビルを見て苦笑う。少し眼を伏せて「……特急の中だからいいか」と呟いて杖を取り出す。ネビルに杖先を向け、小声でなにか呟いた。淡い光がふわふわと滑り出て、次の瞬間にはネビルの泣きはらした眼は元の通りになっていた。涙の痕もない。

「せっかくの入学式だ。腫れたままだとかわいそうだしね。おっと、着替えが終わったみたいだね」

 コンパートメントの戸が滑る。じゃあ、と彼は手を振る。ネビルがつっかえつっかえお礼を言った。ウィスタは慌てて訊く。

「待って。あなたの名前は?」

 セドリックだ、と言い置いて去っていった。

 ◆

「ホグワーツの天井には魔法がかかっているの。かけたのはゴドリック・グリフィンドールだそうよ」

 へえ、とウィスタは声をあげる。森番のハグリッドやらトレバー発見やら楽しい小舟の旅やらはホグワーツに入ったとたんに吹っ飛んだ。なかなかにスペクタクルな旅で、あれこれやかましいマルフォイ坊ちゃんを小舟から蹴り落とす寸前までいった。スリリングのほうが合ってるか。マルフォイにとって。悲鳴をあげていたからしばらくは穏和しくなるだろう。これだから温室育ちは。柔でいけない。

 いかにもきっちりした先生――マクゴナガル先生――が一ミリのずれも許しませんよ、という顔で新入生たちを見回す。ウィスタたちは城の大広間に二列に並ばされているのだ。魔法の天井もふわふわ浮かぶたくさんの蝋燭も、きらきらした砂時計も気になって仕方がないけれど、マクゴナガル先生のほうが恐ろしかった。それに、在校生たちの囁きもうっとうしい。「ポッター」とか「リアイス」とか聞こえてくるのだ。

――俺らが入学するのはダダ漏れってわけね

 ほんのちょっと前までは、孤児院でひもじい思いをしていたのに。まだ夢を見ているんじゃないか?

 ぼんやりしているうちに、いつの間にか丸椅子が置かれ、汚らしいぼろきれらしきものが載せられていた。魔法の織物なのだろうか。どうやって組分けるんだろうと見守っていると、ぼろ切れが伸び上がり、三角帽子になった。挙げ句に歌い始めたものだから、ウィスタは眼を丸くした。

「帽子まで歌うのか」

 魔法界ってやつは。

 歌によれば、グリフィンドールは騎士道を重んじ、ハッフルパフは努力家でレイブンクローは賢く、スリザリンは狡猾……卑怯だとか小ずるいとかだろうか。後で辞書で引こう。それかハーマイオニーなら知っているだろうか。賢そうだし。

 ともかく被ればどこかに振り分けられるようだ。母親はスリザリンだったらしいし、でも家系は代々グリフィンドールらしいし、父親はどこの誰だがわからないし。でもセドリックや親切な上級生の女の子たちはレイブンクローだった。彼らと同じ寮でもいいな。

「呼ばれたら椅子に座って、帽子を被りなさい」とマクゴナガルが言う。それからは流れるように進んでいった。グリフィンドールに女の子が組分けられ、レイブンクローやスリザリンへも組分けられていった。嫌な野郎のマルフォイは一秒もかからずにスリザリンへ組分けられていた。

 腹が減ったなあと思っていると、ハーマイオニーが呼ばれた。ふわふわした栗色の髪をゆらし、すっと背筋を伸ばして彼女は進んでいく。丸椅子にちょこんと腰かけると、マクゴナガル先生が帽子を載せた。

 帽子は悩ましげに身をくねらせ沈黙し、ずいぶん長い時間が経って「グリフィンドール!」と叫んだ。後ろのほうでロンらしき声が「マジか!」と叫んでいた。ウィスタも驚いていた。ハーマイオニーはレイブンクローになるだろうと思っていたから。

 やがてネビルも呼ばれ、おっかなびっくり進み出て、おっかなびっくり座り、マクゴナガルに優しく――そう見えた――帽子を被せられた。

 ところが、帽子は叫ばない。くねくねくねくねして、ネビルはネビルで「嫌だ」「無理」だとか「困る」とか「だから無理だよお」とか言っていた。いったいなにが起こっているんだ。

 どこからか「あいつどこにも行けずにアズカバンだ」と聞こえてきた。アズカバンがどこだか知らないが、あまりよくないところなのだろう。やがて、帽子が「グリフィンドール!」と叫んだ。ネビルはよろよろしながら寮テーブルに去っていった。

 そうして「ポッター・ハリー」と声が響く。ハリーもまた長い時間をかけてグリフィンドールに組分けられた。歓声が爆発し、ポッターを取ったと誰かが拳を突き上げている。

 やがて「リアイス・ウィスタ」と呼ばれ、ウィスタはよろめくように前へ出た「リアイスの子だ」「久しぶりだな」「グリフィンドール一人獲得」と囁きかわされる。居心地が悪い。

 椅子に座れば、マクゴナガル先生が心なしか青ざめた顔をして、帽子を被せてきた。きらきらした大広間から天鵞絨の闇へと閉ざされる。

『ようこそ。お帰り。リアイスの子……小さなグリフィン』

 声が、聞こえた。

――おかえり?

 口にはしていないのに、返事が返ってくる。どこからともなく聞こえてきて、頭の中に直接響く。

『そうだとも。リアイスの子はみな「おかえり」さ。さてさて私はゴドリックでありヘルガでありロウェナでありサラザール。意志ある帽子。君をどこへ組分けよう』

 どこか弾むような声だ。見えない何かがウィスタに触れる。

『血の気が多いね。頭もいい。忍耐もある……おやおやこの育ちでは機知にも富もう。どこへでも行ける。しかし』

 ふ、と帽子の気配が変わる。明るく陽気な誰かから、うっすらと冷たい誰かに。

『宿命の路に通じるのは、グリフィンドールかスリザリン。さて。どちらに量りを載せようか?』

 なんだよ宿命って、とウィスタはぼやいた。勝手に決めるな。

『どちらでもやっていける。獅子の血は濃いが……ああ悩ましいな。母君の時も悩んだが。あの子は生まれながらのリアイスで騎士であった。君はまだ真っ白だ。選ばせてあげよう』

 どこへ行きたい、と優しく問われる。

「マルフォイのいるところは嫌だ」

 言い切れば、帽子はくすくす笑った。

『よかろう。では――』

 グリフィンドール! と帽子が叫んだ。

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