【完結】虹彩の奥底   作:扇架

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四話

 ぼうっとしながらグリフィンドールの席へ向かえば、ロンやハリーが手招きしていた。赤毛の双子が――ロンの兄貴たちだろう――ウィスタの背をバンバン叩く。もうひとり赤毛の誰かが「おめでとう」と言ってくれた。兄弟が多いと聞いていたけれど、いったいぜんたいウィーズリー家は何人きょうだいなんだ?

 もみくちゃにされながら身を滑り込ませ、組分けの終わりを待った。

 きらきらした眼のダンブルドアが何事か言えば、長テーブルにたくさんの大皿が出現する。マッチ売りの少女が泣いて喜びそうなごちそうごちそうごちそうだ。もちろんウィスタも泣きはしないが生唾を呑み込んだ。

――妖精の国に迷い込んだんじゃないよな

 なんせ固いパンやら薄いリゾットやらしなびた野菜やら食ってきたのだ。足りなければ台所からくすねたり、そこらの果実をとったりしていた。あまりの差に目眩がする。

「糖蜜ヌガーもソーセージもチキンもなんでもあるぞ」

「どれを食べる?」

 燃えるような赤毛に挟まれて、ウィスタは瞬いた。ロンの兄貴たち……の何番目なのだろう。

「いや、えーと、自分で取りますから。ウィーズリー先輩?」

「先輩だとさ。いい響きだ。俺はフレッド、こいつはジョージ。あれがロン、そこの石頭がパーシーさ!」

「誰が石頭だ。いたいけな新入生になにを吹き込もうとしているんだ。おまえたちが世話を焼こうとするなんて」

「ひとまずソーセージからいくか」

「ほうれん草も入れよう」

「聞けよ!」

 ぎゃあぎゃあと言い争いが勃発して、双子とパーシーを交互に見るほかない。食わなくていいのか。なくなっちゃうぞ。食事は戦争なんだから。

「だってほらリーン・リアイスの息子だろ。そりゃお近づきになりたいよ」

「……のもあるけど、食わさないと。ハリーも。お袋が見たら泣くよ」

 ジョージが同情に満ちた眼でウィスタとハリーを見て、パーシーも苦々しげに頷いた。

「泣くな。想像がつく……絶対たんと食べさせようとする」

「うちの鶏一羽潰すくらいはするよな」

 あー、と赤毛の一同は頷いた。ウィスタはおののいた。潰すってなんだよ。スーパーで買うもんだろう鶏肉って。

 いつの間にかさらには料理が盛られていて、礼を言ってがっついた。グリフィンドールでは、ウィスタがリーン・リアイスの息子だというのはすっかり知られているらしい。ハリーとセットで有名人だ。

――覚えてもないのに

 産みの母親。養父の大事なひと。アンドロメダの大事なひと。伝え聞くしかできないのが、すこしだけ切ない。

 主菜を食べ終わって、糖蜜パイに手を出してみる。冷凍ものなら食べたことがあるし、甘すぎて無理だったのだけど、これはどうだろう。いかにも手作り、いかにも美味しそうだ。なによりも近くに座っているハリーが幸せいっぱいの顔でほおばっているので興味をそそられた。試しに一口かじってみる。レモンがよく効いていて、ウィスタでも食べられる。

 腹がふくれ、あたりを見回す余裕が出てきた。パーシーはハーマイオニーと難しそうな話をしていて、ほかは家系の話やら、ゴーストの話やらで盛り上がっている。

「ああ、レディも来ているのですね」

 ほとんど首なしニックが言い、彼の視線を追う。レイブンクローのテーブルに、真珠色の影がある。特急で親切にしてくれた上級生たちとなにやら話しているようだ。優雅なドレスに長い髪、顔立ちは遠くてよくわからない。

「彼女は?」

 ニックに問えば、すぐさま答えが返ってきた。

「レイブンクロー付きの『灰色のレディ』ですよ」

 私がホグワーツへ入学したときには、すでにいましたとニックが言う。ニックは五百年ほどまえに処刑されたそうだから、ずいぶんと古いゴーストなのだろう。レディとやらは。

「で、彼女がどうかしたの?」

「滅多に出てこないのですよ。わたしたちともあまり話さないくらいで。ですが、リアイスの子が入学するときには姿を現すのです」

 そうなんだ、としか応えられなかった。見るともなしにレディを見ていると、彼女がこちらに眼をやった――ように思った。そうしてふいっと消えてしまう。本当にただ見に来ただけのようだ。なんだっていい。ウィスタがリアイスの子だろうがそうでなかろうが、この年になるまで放置したような一族だ。養父に引き取られてからというもの、会いに来もしない。

――ダンブルドアなら

 なにか知っているのだろうか。そもそもだ、どいつもこいつも説明が足りなさすぎるんだ。雑すぎるだろう――とむしゃくしゃしながら上座に顔を向ける。ダンブルドアはにこにこしていて、森番のハグリッドは酒をがぶ飲みして、マクゴナガルに叱られている。 その近くの空気だけやたらどんよりというか暗そうだった。黒髪の先生とターバンを巻いた先生が座っている。なんだか理科の先生っぽい。偏見だけど。

 と、そのとき、黒髪の先生がウィスタの方を見た。

「――ッ」

 じん、と片眼が熱くなる。つきりと痛んでぱっと手で覆った。

「どうしたウィスタ?」

「眼にゴミが入ったみたい」

 ふう、と息を吐く。痛みは一瞬でもうなんともない。

「ねえパーシー」

 クィレル先生の隣にいるのは誰ですか、とハリーが訊く。ああ、とパーシーが顔をしかめた。

「魔法薬学のスネイプ先生だよ」

 

――なんか俺、めちゃくちゃ嫌われてないか

 ちろりと上座を見て、皿へ視線を戻す。魔法薬学のスネイプ先生とやらはウィスタのことを憎々しげに見てくるのだ。汚いやら孤児やら気味が悪いやら言われてきて、学校でトイレに連れ込まれてなんやかや殴られたり、院長に殴られたり、ほかにもたくさん酷い目に合ってきたのだ。人の悪意には敏感だった。

 初めて知った相手で、話したこともない。睨まれる筋合いもないのだが、理由もなく嫌ったり暴力を振るうものなのだ、大人も子どもも。村では女の子たちがたまによくしてくれたものだけれど、ウィスタはたいていに人間からは嫌われていた。孤児なんて犯罪者予備軍だ、というわけだ。

 だから一方的に嫌われることには慣れていた。リーマスのように優しくてご飯を食べさせてくれてかわいがってくれる人のほうが珍しいし、ウィスタにとって神さまみたいなものだった。ダンブルドアがやってきて、リーマスが引き取ってくれなかったら、ウィスタなんてスリか泥棒になってそこらへんの路地でのたれ死ぬか刺されて死ぬかしていたに違いない。

――考えても仕方がない

 うん、と気を取り直して、スネイプ先生のことを頭から締め出した。一旦放置だ。

 やがて、ダンブルドアがいくつかお知らせをして、校歌を歌って、宴はお開きとなった。

 ◆

 監督生が先導し、ウィスタたちはグリフィンドール寮へ向かった。途中で肖像画たちが「あらパーシー、弟さん?」やら「ポッター家の子だね」やら「おかえりリアイスの子」やら話しかけてきた。やさしそうな貴婦人が「ロングボトム家の子ねえ、アリスは元気?」とネビルに訊いていて、ネビルはなぜだがしょんぼりしていた。 ――離婚とかしたのかな

 フクザツな家庭の事情とやらがあるんだろう。張り切っているパーシーは足取りも軽やかに階段を昇っていく。エレベーターなんて文明の利器はない。なんでだよ。エスカレーターもない。どういうことだよ。階段が動くのである。動いて、別の階段とつながって、また動いて。慣れるまで大変だ。

「もうすぐだよ」

 頑張ろう、とパーシーが爽やかに言い、ウィーズリーの双子たちがげーげー吐く真似をした。

 本当にもうすぐなんだろうな、とうんざりしながらついていこうとして、パーシーが立ち止まった。宙に杖が浮いている。一本ではなく何本も。

「まったく」

 パーシーが首を振り、青い眼を怒らせる。

「悪ふざけが過ぎるぞピーブス」

 下品なラップ音が返答で、パーシーが杖を構えた。

「姿を現せ、血みどろ男爵に言いつけられたいか」

 とたんに、すうっと小男が姿を現した。ふわふわと浮いて、意地悪く笑っている。ゴーストなのだろうか。

「ポルターガイストのピーブズだ」

「面倒なやつでね」

 双子が囁いて、それを合図にしたかのように杖の束が一斉に飛んできた。グリフィンドール生たちはさっと避け――ネビルは避け損ねて、おでこをおさえていた――ウィスタも身をひねる。上級生の拳よりは遅い。カン、と壁に杖が当たる。

「避けちゃあだめじゃないか」

 新入生くん、と真上に浮いたピーブズが言い、おや、と首を傾げた。

「ははーん、その眼はリアイスだな? リーンの子かあ」

 しみじみとつぶやく。

「で、その顔はあいつの顔――」

 ピーブズが何かを言おうとしたが、それは叶わなかった。

「吹っ飛べ!」

 鋭い声とともに、ピーブズが悲鳴を上げる。ああああ! と言いながら、天井のシャンデリアに引っかかった。

 かつかつと靴音を響かせやってきたのは、誰あろうマクゴナガルだった。眼鏡の奥の双眸をぎらぎらと光らせて、騎士のように杖を構えたまま言い放った。

「杖がなくなったと大騒ぎになっていると思ったら! やはりあなたでしたか! 呪文をかけますよ」

「かけてるじゃねえかもう! 暴力女!! お前のかーちゃんはお淑やかだったぞ!」

「私の母は関係ないでしょう!」

 二人で舌戦を繰り広げている。パーシーが肩をすくめて呼びかけた。

「みんな行こうか。あれは先生に任せておけばいいさ」

 

 九月一日、夜。

 リーマスは『谷』の外れ、森の奥の邸でぐったりとしていた。帰宅してから来客があったからである。一人目はアーサー・ウィーズリー。在学期間は重なっていないが、彼の妹はいくつか上の学年にいた。ともかく、彼は夫人に持たされた包みを抱えてやってきたのである。

 モリーがどうしてもと言って、とどこか申し訳なさそうに差し出してきたのはタッパーがいくつかと手書きのレシピである。

 いわく、リーマスがリアイス家の子――あのリーン・リアイスの子を引き取ったという噂は野火のように駆けめぐったそうで、ご婦人方の間で話題沸騰中らしい。

『男手ひとつで育てるなんて大変でしょうに!』  と、夫人の言葉をそっくり真似してみせて、アーサーはゆるゆると首を振った。

『モリーの世話焼き癖に火がついてしまって……お手軽レシピとあなたあまり食べてないでしょう、とこうなって』

 張り切ってつくるものだから私は止められなかったんだ、とアーサーは顔を覆う。知っていたとも。ウィーズリー家の夫妻はおしどり夫婦で、夫のアーサーは妻の尻に敷かれているのも。夫人が強く、人が好いことも。

 礼を言って見送った。アーサーは「うちのロンとハリーくん、ウィスタくん、仲良くなっていればいいね」と笑顔で去っていった。

 二人目はテッド・トンクスだった。彼もまたタッパー持参である。そして夫人――アンドロメダのお使いなのも一緒であった。

『どうせウィスタを送り出したらろくに食べないでしょう』

 と言伝られて顔がひきつった。ばれている。リーマスの世界が崩壊してから十年。リアイスの長老から邸の管理人に任命され、生活の痕も生々しい邸の片づけをして、それから虚脱した。自炊をしても食べる気はせず、食事を抜かすこともしばしばだった。養い子が戻ってからはどうにかこうにかきちんと食べるようにはしていたが、またぞろ自堕落な生活に戻ろうかとしていたところだ。

 礼を言ってタッパーを受け取り、テッドを見送って今に至る。

――人と会うのは疲れる

 テッドはリーマスの正体を知っているからいいが、アーサーは違う。ただの善良な魔法使いで、妻のモリーも温かい人だ。だからこそ正体が露見したら堪えるだろう。相手がどうしようもないクズだとか、初っぱなから差別主義者ならそんなものだと割り切れるが、善人から向けられる、怯えの眼にはいつまで経っても慣れない。

「昔はこうじゃなかったのになあ」

 机に突っ伏して、ぼそぼそと口にする。応える者は誰もいない。邸にはリーマスひとりだ。

 わかっている。昔は仲間がいた。ふわふわしたちっちゃな問題さ、とリーマスの『病』を笑い飛ばしてくれたジェームズも、時々バカをやらかすけれど、友達思いだった魔法使いも、リーマスが月に一度姿を消す言い訳を考えてくれたピーターも。

『泣かないで』

 大丈夫よ、と言ってくれたリーンも。リーマスは彼女を殺しかけたのに、懸命に慰めてくれた。父親を人狼に殺されたようなものなのに、リーマスを友達と言ってくれた。

 あの頃はなんだってできる気がしていたし、明日が来ることを信じていた。だが、そんなものはまやかしだったのだ。あの日々は永遠に戻ってこない……。

 ため息を吐いて身を起こし、タッパーに手を伸ばす。その刹那、宙に炎が燃え上がった。リアイス一族の『炎』だ。ひらり、と羊皮紙が落ちる。ぱっとつかみ取れば、誰の紋も入っていない。広げて、中をあらためる。

「――そうか」

 そうか、ともう一度つぶやいた。

『ウィスタ・リアイスとハリー・ポッターはグリフィンドールに組分けされた』

 簡潔に書かれた報せを燃やし、眉間に皺を立てる。

「リーンの時はスリザリンに入れたくせに、どういうつもりだ」

 組分け帽子め。お前のせいで彼女が苦しんだこと、忘れたとは言わせない。

 

 マクゴナガルは杖の一振りで机を豚に変えて、また戻してみせる。わあ、とグリフィンドールの何人かが声をあげた。しかしマクゴナガルはほほえむわけでもなく、ぴしりと釘を刺す。

「変身術は、ホグワーツで学ぶ魔法の中で最も複雑で危険なものの一つです。いいかげんな態度で私の授業を受ける生徒は出て行ってもらいますし、二度とクラスには入れません。始めから警告しておきます」

 そうして、教室をぐるりと見渡す。

 変身術には理論の理解が不可欠だ、と言い、最初は無生物から無生物への変身を、小さいものから行います、と説明する。右隣のハーマイオニーは眼をきらきらさせていて、左隣のネビルは心配そうな顔をしていた。なんで俺は二人と仲良く座っているんだろう。入学二日目の早朝も早朝、誰も起き出していない頃に眼を覚ましたウィスタは、長年の癖が抜けきっていないことに頭を抱えた。そう、盗人の朝は早いのである。孤児院の院長室やキッチンからしばしば食べ物をくすねていたのだ。お陰で忍び足やら鍵開けは上達した……のだが、引き取られてからも眼は覚める。もうお腹が減ることもないしくすねる必要もないとわかっていても。困ったなあと思いつつ談話室に降りてみれば、ハーマイオニーが読書をしていた。有名な『赤毛のアン』である。タイトルしか知らないけれど、とにかく有名らしい。おはようと挨拶して、ハーマイオニーとおしゃべりした。授業にわくわくして眼が覚めちゃったの! とハーマイオニーは言った。この世に勉強好きな子なんているんだ、とウィスタはおののいた。

 二度寝する気分にもなれず、ハーマイオニーが貸してくれた『ナルニア国物語』をぱらぱらと読んでいるうちに、ちらほらと寮生が起きてきた。監督生のパーシーは一年生二人が早起きなのに驚いたようだったが、それよりもマグルの本に興味があるようだった。そうこうしているうちにネビルがボサボサ頭で起きてきて、なし崩しに大広間に降りたのだ。

――なんだか変な気分だ

 城の中はヤニ臭くないし、ゴミは落ちていないし、窓は割れていないし、空き教室やらトイレやらに連れ込まれそうにならないし、どいつもこいつも無防備だし、なによりもみんな授業をちゃんと聞いている。俺がいたところは最低だったのだなあと噛み締めていると、みんなにマッチ棒が配られた。

「マッチ棒を針に変えてご覧なさい」

 簡単そうに言ってくれる。座学よりも実践派らしい。それぞれ杖を出して、つついたりしている。ネビルは眉間に皺を寄せてうなるばかり。マッチ棒はマッチ棒のままだ。ディーンやシェーマス、ハリーやロンも似たようなものだった。

――こんなの習ってないぞ

 夏の間にリーマスから教えてもらったのは、もっと喧嘩――いや、リーマス曰く護身術的なものだった。養父よあんたは俺をどこに送り込もうとしているんだと思ったものだ。

 アンドロメダからは簡単なテーブルマナーを習った。急いで食べなくても大丈夫よとか、あれこれと指摘されたのだ。

 やるしかない、と杖を構えて呪文を唱えようとしたとき「できた!」と弾んだ声が聞こえた。ハーマイオニーである。手には銀色の針。ネビルがぽかんと口を開け、教室がざわざわした。

「素晴らしいグレンジャー」

 つかつかとやってきたマクゴナガルがにっこりする。そうすると優しげな貴婦人に見えた。

「さあリアイス、あなたもやってごらんなさい」

 厳格な女史に早変わりした。あの優しげな貴婦人は幻だったのだろうか。

――なんで俺が

 ハーマイオニーの後なんて困るじゃないか。あんな風にできるとも思えない。ちろ、と女史を見上げてもじっと見返されるだけだった。ネビルが「がんばって」と口パクしている。逃げられてよかったとか思ってるんじゃないだろうなネビル。

「じゃあいきます」

 マッチ棒に杖を向け、呪文を唱える。そうして念じた。尖ったもの尖ったもの銀色の……刺さると痛くて……。

 じわじわとマッチ棒が銀色に変わる。だんだんと尖っていって――。

「リアイス」

「はい」

「これはなんです」

 女史の眉が下がってしまっている。ウィスタは精一杯胸を張った。

「尖ってて、刺されると痛い…………釘ですね!」

 釘、と繰り返して、女史は額に手を当てた。彼女の視線がウィスタの手の甲にはしる。ウィスタはさっと手を机の下に隠した。

「グレンジャーが十点、リアイスに五点」

 グリフィンドールに十五点差し上げましょう、と女史が告げた。女史が去り、ウィスタはほうっと息を吐いた。

「しまったなあ」

 刺されると痛いなんて言わなきゃよかった、と独りごちた。

 ◆

 午後一番の授業は魔法薬学だった。双子に「昼は少なめにしとけ」と言われたので、その通りにした。

「なんだかなあ」

 地下牢――という名の地下教室。なにやら得体の知れない眼球その他気色悪いものがぎっしりと飾られていて、この上なく陰気な教室であった。たまたま隣になったハリーがため息を吐いた。

「なんだ、戻すんならトイレ行けよ」

「違うよ。スネイプ先生がね」

 僕のことを嫌っている感じがして……と言う。宴会のときに睨まれたんだ、とこそこそ言った。

「俺もだよ」

 こいつ気に食わねえ、って感じで睨まれたと返せば、ハリーは少しほっとしたようだった。

「孤児が嫌なのかなあ」

 かもな、とだけ答える。そうだったら話は簡単なのだけれど。

 『薬草ときのこ1000種』をぱらぱら読んでいると、激しい音とともに扉が開いた。振り向くと、扉口に黒い影。スネイプ先生の登場であった。

「座りたまえ。出欠をとる」

 同時に始業の鐘が重々しく鳴った。

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