【完結】虹彩の奥底   作:扇架

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謎のプリンス
四十八話


 闇色の長靴に上下の衣、纏うのは外套。留め具は蔓薔薇と星。腰には杖。それに白銀の剣が一振り。

 従者が丁寧に身支度を整え、満足そうに頷いた。そうして一礼する。

「では参りましょう。我が君」

 彼は黙したまま従者の背についていく。古い魔法が染み込む城――ランパント城。毛足の長い絨毯を踏み、通路を進む。到着した大広間、その大扉が主のために口を開く。中に踏み入れば、無数とも思える視線が絡みつく。しかし静かに見返せば、波が引くように退いていった。彼らは軽く腰を折り、黄金のグリフィンのために路を開いた。

 大海を割り、前――壇上へと至る。据えられた座に背を向けて、彼は一族に向き合った。

「――大臣の首は挿げ替えた」

 静かな声。花瓶の水を替える程度の些末事を語る調子だった。

「この一年、よく我慢してくれた」

 もはや少年の域を脱した魔法騎士は口端を吊り上げる。ざわりと音なき音、不可視の揺らぎが生じ、彼の輪郭を波立たせる。こぼれた魔力に、窓が、シャンデリアが震えた。

「やつの復活が公になり、雌伏の時は終わった。遠慮はいらん」

 剣を掲げ、彼は双眸を燃え上がらせる。

「血には血の死には死の代償を! 杖をとれ! 黄金のグリフィンの名の下に!」

 

 ぱちり、とウィスタ――ウィスタ・リアイス、正式名ウィスタ・セイリオス・ランパント・グリフィンドール・ブラック=リアイスは瞼を上げた。

 頭痛をこらえながら身を起こす。目尻から滴がこぼれ、冷たい石床に落ちていった。

 白い彫像はただ静かにウィスタを見ている。ランパント城の奥深く、秘められた聖域は、当主のためにある場所だった。

 ウィスタの眼前にあるのは男女の彫像だ。片方は母――先代当主リーン。もう片方は父。甘い息子のせいで死んだ父の似姿だった。本来、父はここに眠ることができない身だ。あくまで当主の伴侶であって、当主ではないのだから。しかし、ウィスタは押し通した。

――せめて

 一緒に眠らせてやることしかできないから。彫像の下に彼らは眠っている。

 名を呼んで、その隙を呪文で貫かれ、倒れる父。見開かれた灰色の眼。忌々しい女の高笑い。

『坊ちゃまが言ったのですよ』

 坊ちゃまのせいなのですよ。妖精の丸い眼。皺の寄った唇。昏い笑み。あれを始末してしまいたかった。やろうと思えばできた。できたのに。

『私どもがやります』

 ねえ坊ちゃま。私と息子がやりますから。どうか手を汚さないで。母を育ててくれた妖精とその息子にすがりつかれてはどうしようもなかった。彼らを使いたくなかった。やるなら自分の手でやりたかった。そんなことで父が戻ってくるわけではなくとも。

『なんにもありません。惜しくもありません』

 殺してくださって結構ですよ。にやにやと笑う妖精を前にして、立ち尽くした。

――こいつは

 ウィスタが、人間がどこまでやるのか確かめたいのだ。ここで手を下したら負けだ。灼熱を呑み下し、憎悪もなにもかも封じ込めた。

 あの日から延々と繰り返す夢。ずっと妖精の声が木霊して離れない。ダンブルドアの懺悔も、悪夢を――身の内の吸魂鬼を退けるに至らない。

『預言は君とハリーに関するものだった』

 やつは前半部分――ハリーに下された箇所の、断片しか知らぬ。

 ダンブルドアはライトブルーの双眸を曇らせ、掠れた声で告げた。

『君に下されたのは――』

 七つ目の月が生まれる時、産声を上げるは導き手なり。其は狭間の子なり。復活と破滅の子なり。

 狭間の子が微笑む者が再誕し、他方は滅びるであろう……。

 

 長い息を吐いて、吐いて、片手で顔を覆う。立ち上がりたくなかった。暗闇にこもっていたかった。なにもかも空っぽになってしまったかのようだった。一族の前ではそれらしく振る舞っていても、夜毎の責めに屈しかけているのだと、誰よりも自覚していた。

 運命なんて大嫌いだ。預言も嫌いだ。そんなものを信じるから悲劇が生まれるのだ。

 唇を噛んだ時、宙に炎が生じた。落ちた紙片をつかみとる。

「――クソッタレ」

 よろよろと立ち上がる。すべて捨てて逃げてしまいたいのに、どうしても捨てられないのだ。捨ててしまえば終わりだから。墓場で死んだ友も父も母も易きに逃げなかったではないか……。

『死喰い人に襲われたところを救助』

 どうか庇護を。

 求められれば手をさしのべるしかない。それがリアイスの――千年もの間、魔法界を守護してきた一族の役目なのだから。

 「――あいつら何やってんだ」

 ランパント城の一室。執務机の向こう――リガーダント兄弟の兄のほうに問いかける。

「……短気で粗暴なので致し方ないのでは」

 リガーダントは椅子に腰かけ肩をすくめた。エリュテイアが茶を用意しようとしたが手を振って断った。長居するつもりではないらしい。

「フォーテスキューの件は承知した。そっちでよろしく計らってくれと《ステータント》に」

 御意に。応え、リガーダントは立ち上がる。さっと一礼して出て行った。扉が開いて閉じる。呼吸を五つ数え、ウィスタは嘆息した。

――手当たり次第だな

 頭の復活が露見した途端に、闇の勢力は暴れ始めた。質が悪いことに省や反闇の勢力と関わりのない、一般市民にまで手を伸ばしているのだ。リガーダントがやってきたのはそんな一般市民ことフローリアン・フォーテスキュー救出に関する報告である。フォーテスキューはダイアゴン横丁でアイスクリーム店を経営している魔法使い。陽気でアイスも美味い。どうやら死喰い人をギャンブルですっからかんにしたらしく、恨まれて襲撃されたようだ。死喰い人というのは、本来は闇の帝王だとか名乗っているどうしようもない野郎の腹心を指すのだが、ともかく闇の陣営に所属している荒くれ者もひっくるめて死喰い人……になりつつある。

「双子がお腹を壊さなければいいのですが」

「あいつらよく食うからなあ……俺も食いたいよおっさんのアイス」

 料理人に言えばアイスなんていくらでもつくってもらえるのだが、フォーテスキューのアイスが無性に食べたくなる時というものはある。そしてホグワーツを飛び出した悪戯仕掛け人二代目こと双子のウィーズリーは、今頃食いまくっているに違いない。

 俺も居合わせればよかった。ぼそぼそ言うが従者は無視した。今回の一件は双子のお手柄である。下っ端死喰い人襲撃時、彼らが通りがかったのだ。フォーテスキューの幸運な点その一。勇猛果敢なグリフィンドール寮出身かつ、悪戯専門店の主である双子は、ここぞとばかりに助太刀し、時間を稼いだ。そしてフォーテスキューの店の向かいには、とある菓子店があった。リアイス一族第二分家所属の店であり、店主はもちろんリアイスの人間である。フォーテスキューの幸運な点その二。

 かくして下っ端二人だか三人は、双子とフォーテスキューとリアイスを相手どることになった。下っ端の不幸な点だ。最後の仕上げにリアイスが下っ端の記憶を改竄し「フォーテスキューを自分たちが殺した」記憶を植え付けた。

「――ほとぼりが冷めましたら、買いに行きましょう」

「そうだな」

 残念無念。フォーテスキューは死亡扱いでどこぞに匿われることになる。大陸にでも行くのだろう。反抗的な輩には、闇の勢力はしつこいのだ。フォーテスキューのためにも、彼のつくるアイスを待つみなさまのためにも、戦をさっさと終わらせたいものだ。

 三段重ねのアイスへの未練を断ち切りつつ、思考を切り替える。そもそも今のウィスタはアイスの一段も食べられるかわからない。料理人があれこれ工夫してくれてはいるが、じわじわと体重が減っている有様だ。

 紅茶を一口飲み、喉を潤す。窓の外は霞がかっている。ロンドン近辺に比べればかわいいものだ。吸魂鬼の狙いは魔法省に絞られている。リアイス一族の本拠地――大領地『ゴドリックの谷』や、世界に十一ある魔法学校の一つ、ホグワーツはついでと言わんばかりに吸魂鬼がやってくるだけだ。ぞろぞろやって来ようがまとめて追い返すが。『谷』もホグワーツも堅固な障壁が編まれている。さすがのヴォルデモートも、自軍をすべて投入する覚悟でないと破れはしないだろう。

 宙に炎が現れ、紙片が落ちる。はっしと掴み取り一瞥した。

「――アメリア・ボーンズとエメリーン・バンスが……」

 死亡。無機質に綴られた文字は、詳細を伝える。おそらくアメリア・ボーンズがヴォルデモートの手にかかり、同時刻にエメリーン・バンスがベラトリックスに始末されたのだろう、と。

 眉間に皺を立てる。片手で眼を覆い、熱を鎮めていった。ウィスタがなにを思おうが、二人とも生き返りはしないのだ。父のように。

――勇敢な者から死んでいく

 そういう風にできているのだ。脳裏をよぎる光景を、取り返しのつかない過去を胸の内に仕舞う。

「次の長官はネメシスか」

 第六分家の魔女。彼女はウィスタと母――先代ランパントを比べては嫌味を言ってくるのだ。先代なんて十五の時にはユスティヌを滅亡させたのですよ、だとか。狂ったリアイスどもの中でも相当に狂った女である。苛烈で、闇の勢力を憎み、まさしくリアイスらしいリアイスといえる。そんな彼女は魔法法執行部の次官であった。今頃長官に就任しているだろう。反対勢力がいても黙らせるに違いない。

「戦時にはぴったりでしょうよ」

「俺は知らん」

 アメリア・ボーンズのほうがよかった。本当にそっちのほうがよかった。なにせウィスタが魔法省に対して賠償金をふっかけた時も援護してくれたのである。ヴォルデモートの復活が公になり、ファッジの首は締まった。ウィスタはここぞとばかりに証拠品を提出し――公正明大なアメリア・ボーンズが弾劾権を発動。ルーファス・スクリムジョールも大臣の不適格な証拠と行状をあげつらい「戦時ですからね」と容赦なく言い放った。とある夜のことである。

「不可抗力だ!」

 魔法大臣執務室でファッジは叫んだ。スクリムジョールに招待され、執務室に乗り込んだウィスタは、彼にさめた眼を向けた。

「女傑から我らが当主が手紙を預かっておりまして」

 ファッジに美しい封蝋が押捺された手紙を渡せば、彼は青ざめた。差出人はミリセント・バグノールド。ファッジの前任者であり、切れ者だ。

「そんな……」

 手紙を読んだファッジは、へなへなとくず折れた。ウィスタを含め、誰もファッジを助けなかった。彼はやりすぎたのだ。女傑が引導を渡すほどに。

「――で」

 ウィスタは勝手に椅子を出現させ、足を組んだ。這い蹲るファッジを睥睨する。

「マーリン勲章なんかで誤魔化そうって腹ならそうはいかねえ」

 名誉の回復はもちろんのこと、払うものを払ってもらおうか。

 床に放られた書類を眼にし、元大臣の顔色は真っ白になった。

「待て少年――」

「当主も大層お怒りでね」

「しかし――」

「無実の人間を監獄行きにしといてしらばっくれるなよおっさん」

「あの時はバグノールドが」

「彼女からは謝罪をもらっている。あんたの最後の仕事は、大臣としての正式な謝罪と賠償だって言ってんだよ」

「戦時にそんなことを――」

「あぁ?」

 執務室のご立派な壁に亀裂が入った。

「――あんた豚箱の飯に興味はあるか?」

 かくしてウィスタの金庫にガリオンが腐るほど増えた。父へのマーリン勲章一等はついでである。ファッジが「私には妻と子が」と命乞いをするのでそれ以上は勘弁してやった。できることなら監獄に――アンブリッジの隣の独房にでも放り込みたかった。スクリムジョールが止めたので我慢したのだ。

 リアイスの金看板でごり押しした結果になるが、こうでもしなければなにも引き出せなかったろう。もし父が名門の出でもなく、リアイスの婿でもなければ、ファッジは冤罪など黙殺しただろう。とにかく彼は弾劾され、大臣の位から引きずり下ろされた。後任のルーファス・スクリムジョールが速やかに体制を整え、現在に至る……。

「ネメシスには精々頑張ってもらおう」

 結び、紙片を燃やす。つんとした臭いが立ち上った。淡い煙を眺めつつ、苦いものを呑み下した。

 ガリオンも勲章もほしくなかった。本当にほしいものは――取り返したいものは別にある。手のひらからこぼれ落ち、もはや永遠に戻ってこない。

 たとえ魔法の世界でも、成し得ない奇跡はあるのだ。

 

 踏み入れば、埃が舞い上がる。淡い光を受けてちらちらと輝いた。店内はきちんと整えられていたが、壁を埋めていた箱は見あたらない。そうして店主の姿もなかった。

「……生きているのか死んでいるのか」

 オリバンダーが行方をくらました。ダイアゴン横丁を巡回していた魔法警察部隊が駆けつけた時には店の窓は割れ、杖は散乱し、照明は砕け……と酷い有様だったようだ。一通りの検証を終えたあと、オリバンダーの店は打ち捨てられている……。

「わざわざ拉致して始末する必要はありません」

 ここでやれば済んだはず。従者の言に頷いた。反論する理由もない。

――そして

 見せしめでもない。それなら始末して店先に放り出すくらいするだろう。あの連中は。だとすればオリバンダーが闇の勢力に反抗したわけではない。なおかつ……。

「杖と材料は――」

「第四分家で回収しています」

 丸々一軒分の荷だったもので、セイリャント城の何室かが潰れたようです。ゴールデンオレンジの双眸を眇め、第四分家のイルシオンが返す。荷がないのをいいことに、煙草を遠慮なく吸っていた。

「そりゃ《セイリャント》はお気の毒だな」

「第二分家と組んで、杖の目録をつくるのに必死だそうで」

 からかう気も失せた。壁一面の細長い箱である。何本あるのか知れないし、奥の室にもびっしりだったそうだ。気が遠くなるような作業であろう。しかしお忙しい魔法省がオリバンダーの杖を回収してどうこうしてくれるとは思えない。ルーファス・スクリムジョールは目の回るような忙しさだ。アメリア・ボーンズは殺されるし、ファッジの阿呆のせいで魔法省への信頼度は下落している。そんな中で火中の栗を拾ったわけで、忙しくないわけがない。野心だけでは務まらないだろう。戦時の魔法大臣なんて。つまりやるだけ損の貧乏籤である。

「俺なら拉致ついでに杖も何本かかっぱらうんだが」

 闇の勢力だろうが魔法使いであり、つまり杖使いである。予備はほしいに違いない。そりゃあ、魔法使いとはいっても杖を使わない魔法を使う連中――流派、あるいはお国柄はある。たとえば亜のほうでは、方術だとか陰陽術だとかいう術が発達しているらしい。ご先祖の東方見聞録情報なので、正確性の保証はないが。

「じゃあ目的はオリバンダーそのものだった、と」

 ダイアゴン横丁の商人や職人の組合が警戒を強めてようが、警察部隊の巡邏があろうが、死喰い人は襲撃してきたのだ。フォーテスキューを逆恨んでやってきたような、ちゃちな死喰い人未満の犯行ではない。

 推測を重ねても仕方ないか。呟いて、眼を瞑る。脈々と継がれた呪いの血筋、眠る異能を揺り起こす。双眸が熱を帯び、過去視の異能者は瞼を上げ――時を飛び越えた。

 昼日中の店内。朝の光、月が天に弧を描く。また朝がきて――黄昏――跳躍する――。

「あのお方のためだ」

 ざらついた声がする。ウィスタは膝を突き、震えていた。背の高い影。窓が割れ、ひょうひょうと風が吹き込む。月は鉤爪のように細い。

 ベラトリックス。しわがれた声が呟く。

――嗚呼

 助けは来ないだろう。きっと障壁に包まれている。姿くらましもできまい。

「……新しい杖が欲しいのなら、自ら来なさいと伝えるんだ」

 売らないとは言わないよ。諭すように告げても、闇の帝王の副官はにこりとするばかり。音もなく杖が振られる。

 誰かが悲鳴を上げる。壊れた叫びだ。みしみしと骨が軋む。肺が震える。内側から弾け飛びそうな――灼熱。

「お前があの方に命令するか! 来い!」

 杖を! あれを殺せる杖を献上するのだ!

 なにかが滴る音に、意識が引きずり戻された。真昼の店内。

――戻ってきたのだ

 咳込む。深紅が床に落ち、小花を散らした。

「――我が君」

「オリバンダーの……」

 追体験のせいだ。膝をついた従者に片手を振る。これだから過去視は厄介なのだ。オリバンダーの濃厚な恐怖のせいで引きずられたらしい。よぼよぼの爺に磔刑の呪文を使うやつがあるか。さすがベラトリックス、ぶっ飛んでいやがる。下手すりゃ死ぬぞ。

「やつは杖をほしがっていた。今まで使っていたものじゃあない……」

 ハリーを殺せる杖を。

 

 倦怠感がのしかかったが、すぐに『谷』に帰るつもりはなかった。肩に鴉――イルシオンを乗せ、エリュテイアに非難がましく見られながら向かったのは、悪戯専門店だ。

 双子は大喜びで迎えてくれた。しかし店を見て回る間もなく、ジョージに引きずられるようにして双子の住居に向かうはめになった。

「なあ先生、俺らの弟分がえらく痩せてるけど?」

「最低限のものは口にしていただいてますよ」

「……しゃあねえなあ」

 ジョージは口うるさいほうでもなく、干渉もたいしてしてこない。絡みは暑苦しいが。フレッドも同じくだった。

 どこからともなくアイスの容器とスプーンを持ってきて、ウィスタに手渡す。

「フォーテスキューから。しこたま余ってるんだ」

 なんでもいいから食えとのお達しであった。なんだか一年生の時を思い出す。孤児でやせ細り眼ばかり鋭かった頃に比べれば幾分マシだろうが。あのときはなんにももっていなかったし、養父のリーマスとは出会ったばかりだった。踏みにじられることはあっても、失うことも奪われることもなかった……。

 穏和しく手を動かした。ほどよい甘みがしみていく。やはりフォーテスキューのアイスは最高だった。

「巧くやったな」

 悪戯専門店の前にはお客がいっぱい。中にも客がいっぱい。満員御礼というやつだ。

「何年も計画していたし、なんせ暗い時代だし……俺らが必要とされてたってことさ」

 それもこれもハリーが一千ガリオンくれなけりゃ、実現が遅れていたけれど。ジョージはにっと笑って片眼を瞑る。ウィスタは小さく笑むだけに留めた。青い眼が瞬き、ウィスタを凝視する。

「ウィスタ……?」

「ご馳走さん」

 ソファから立ち上がる。ジョージの肩を叩き「また顔を出す」と言いおいて双子の城を後にした。

 唇を引き結んだまま、ダイアゴン横丁を往く。ジョージが悪いわけではない。わかっている。わかっている。ハリーはいいやつだ。友達だ。

――それでも

 くすぶった感情の、振り上げた拳の置き所を、ウィスタは未だに見つけられていない。

 拳を握る。震えるほどに握っても、爪が食い込むことはない。

「――短くしておくことだ」

 ファッジを引きずり下ろした夜、色のない声でスクリムジョールは言った。局長の孫とは思えんな。軽い舌打ちとともに、袖をまくられる。縦横にはしる傷に、眉一つ動かさなかった。

「いささか自罰的にすぎるだろう」

 従者にも隠していたのに見抜かれた。結局、後で露見してしこたま叱られ、今は包帯がきっちり巻かれている。屋敷しもべよろしく自罰を加えようにもできない状態だ。

 ウィスタとて黄金のグリフィンの血統を受け継ぐ者。

 狂わなければやっていられない。





人物・設定

【リアイス本家】

ウィスタ・R・リアイス
[Wista・Seirios・Rampamt・Gryffindor・Black=Riis]
主人公。リアイス本家最後の一人にして、只一人ホグワーツ四強の血を引く。ヴォルデモートの直系孫。一族を率い、闇陣営との全面戦争に突入する。
スリザリン伝来の“蛇語”や“過去視”の能力者。ヴォルデモートを「人間のクズ」と言い切る。個人の紋は『グリフィンと蛇と星』。
父はシリウス。容姿は父に生き写しで、目は母方の血が色濃く出た。

リーン・R・リアイス
[Lean・Isis・Rampant・Gryffindor・Riis]
 ウィスタ・リアイスの母。ランパント・リアイス家前当主。スリザリン寮出身であるが、リーマス・ルーピンと親しくしていた変り種。卒業後は闇祓いとして勇名を馳せ不世出の闇祓いと謳われるも、死去。息子と同じく鮮やかな群青色の瞳を持つ。使用していた杖は月桂樹と死神犬の毛を組み合わせた漆黒の杖。ヴォルデモートの娘。

アリアドネ・R・リアイス
[Ariadne・Istal・Rampant・Riis]
 リーンの母、ウィスタの祖母にあたる魔女。先々代ランパント・リアイス家当主。故人。ヴォルデモートの策謀に嵌り、望まぬ子を産む。

[パッサント・リアイス家――筆頭分家]

アシュタルテ・P・リアイス
[Astarte=Passant=Riis]
 リアイス分家筆頭パッサント出身の老魔法使い。本家当主不在のリアイス一族をまとめ上げた長老格である。かつてダンブルドアと手を組み、闇の勢力と戦った。その容赦のない戦いぶりから、さまざまな異名で呼ばれ、闇の勢力からは恐れられている。

クロード・P・リアイス
[Claude・Wyrd・Passant・Crouch=Riis]
 リアイス一族の中でも多くの占者を輩出している、パッサント・リアイス家現当主。リアイス一族に数代ごとに現れる“未来視”の力をもつ魔女。。リアイス一族の占者筆頭格。父親をヴォルデモートに殺され、若くして当主の座に就く。ウィスタ、ナイアードと又従姉弟関係。バーティ・クラウチの姪(母親がクラウチ家出身)。バーティ・クラウチ・シニアの死亡により、クラウチの名をも継ぐ。

[ステータント・リアイス家――第二分家]

ナイアード・S・リアイス
[Naiad・Dark・Statant・Riis]
 魔法具“炎のゴブレット”などを作った『創り手』第二分家ステータントの若き魔法使い。学生時代に父に代わり、当主の座についた。リアイス一族の例に漏れずグリフィンドール出身である。先年は補佐教員としてホグワーツに赴任したこともある。本家当主であるウィスタを補佐する。本家の血を引き、ウィスタ、クロードとは又従兄弟。魔力を視る『眼』の持ち主。母がロングボトム家出身。ネビルと従兄弟同士。

[シージャント・リアイス家――第三分家]

ルキフェル・リアイス
[Lucifer・Riis]
 歴史と情報を司る『情報機関』第三分家シージャントの次男。闇祓い第八階位の精鋭である。ナイアードとは従兄弟(ナイアードの叔母がシージャント家に嫁いだため)クロード、ウィスタとは又従兄弟にあたる。閉心術に長ける。魔法大臣の護衛として、魔法省の情報を集める。

[セイリャント・リアイス家――第四分家]

イルシオン・リアイス
[Ilusion・MacKinnon=Riis]
 第四分家の所属。非常に冷めた性格で、周りから「グリフィンドールらしからぬ」と言われることもしばしば。開心術に長ける。烏の動物もどき。闇の帝王によって滅ぼされたマッキノン家の血筋。  黒髪にゴールデン・オレンジの眼。

[クーラント・リアイス家――第六分家]

ネメシス・リアイス
[Nemesis・Riis]
 魔法生物研究を司る第六分家の魔女。魔法法執行部副官。グリフィンドール至上主義者であり、若き当主であるウィスタにも厳しく接する。菫色の眼。

[ドーマント・リアイス家――第七分家]

ヘカテ・リアイス
[Hecate・Riis]
 薬学医療研究を司る第七分家の魔法使い。ウィスタとは又従兄弟。ドーマント・リアイス直系。兄、姉がいる。母がボーンズ家出身で、スーザンとは従兄妹どうし。学者肌の第七分家の中でも戦闘力に長ける。

[リエーフ家――配下]

エリュテイア・リエーフ[Erytheia・Riis・Lew]
代々リアイス家に仕えるリエーフ家の嫡子。『白百合の騎士』。ボーバトンからホグワーツに転入してきた。所属寮はグリフィンドール。ウィスタと同学年であり、彼に仕える。フラーとは姉妹の契りを結んでいる。ゴドリックと初代リエーフの誓約が色濃く継がれる。 髪は黒、瞳は灰緑色。

[ユスティヌ家――キマイラ]

ウラニア・ユスティヌ
[Urania・Pendragon=Justynu]

 かつてスリザリン派の頂点に君臨していた名門・ユスティヌ家の最後の一人。故人。ヴォルデモートやリーン・リアイスと深い因縁があり、親世代の重要人物の一人。

【リアイス一族】
魔法界屈指の名門。一族から優れた人材を輩出し、それぞれさまざまな分野で活躍している。魔法省で勤めていた者も多い。本家と七つの分家からなる一族である。
本家
ランパント(Rampant)/ミドルネームR/リアイス一族本家 当代当主ウィスタ
分家
パッサント(Passant)/ミドルネームP/リアイス一族分家筆頭 当代当主クロード
ステータント(Statant)/ミドルネームS/リアイス一族第二分家 当代当主:ナイアード
シージャント(Sejant)/ミドルネームS/リアイス一族第三分家 ルキフェル所属
セイリャント(Salient)/ミドルネームS/リアイス一族第四分家 イルシオン所属
クーシャント(Couchant)/ミドルネームC/リアイス一族第五分家
クーラント(Courant)/ミドルネームC/リアイス一族第六分家 ネメシス所属
ドーマント(Dormant)/ミドルネームD/リアイス一族第七分家 ヘカテ所属
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