今年は呪われてるんじゃないか。
医務室――寝台で眼を覚まし、ウィスタはもう帰りたくなった。寮にではない。家にだ。
片手は包帯でぐるぐる巻き、顔にはガーゼ、片眼には眼帯。かなりの怪我だ。ふて寝しようとしたらマダム・ポンフリーが現れて「あなたは魔法薬学の授業で」と状況説明を受けた。ついでに知られたくないあれこれもバレ、ウィスタはネビルを――とろくさいネビル・ロングボトムを呪った。
あちこちに残る火傷やら、釘打ちその他諸々の痕なんて見られるはずがなかったのにロングボトムのクソったれ。
入院措置を振り切って、医務室を飛び出す。こんくらいの怪我、舐めてりゃ治る。マダム・ポンフリーが過保護なのだ。
ペアが余ったから組んでやったら、鍋を爆発せやがったロングボトムめ。許さねえ……とキリキリ歯ぎしりしていたら、鼻歌が聞こえてきた。イマジネーションがどうこうって、マグル界で超有名なあの歌か。なぜホグワーツで?
廊下――ちなみにここは一階だ――に眼をこらせば赤毛が二人やってきた。あっちもウィスタに気づいたのか、片手を上げる。
「やあやあ」
「君は」
間違えてスリザリンに入ったリアイスくんじゃあないか!
底抜けに明るく呼びかけられ、ウィスタは脱力した。こいつら陽キャオブ陽キャだ。光の者だな?
「イエスイエス。悲劇の男とは俺のこと」
「呪われてるんじゃあないか」
「いっぺん湖にダイブしとくか」
ジャパンじゃミソギって言うらしいぜ。ぽんぽんと会話が流れる。「やめろ俺は泳げねえんだ」と返し、上級生二人もとい、双子を見た。
「空き時間なんですかウィーズリー先輩方?」
先輩方だって! なんていい子なんだ! と双子は盛り上がり始めた。
「授業より大切なことがあるもんだ」
「社会貢献活動とかね」
つまり、と先を促すと「管理人とスキンシップしてきた」と爽やかに告げられた。ウィスタはすべてを察した。
「先輩呼びもいいが……俺はフレッド、こっちはジョージさ。君と同学年のロニー坊やの兄貴さ!」
ウィスタがスリザリンに入っても、双子はお構いなしだった。どうやら組分け帽子に反抗したのがウケたらしい。あの時のウィスタはカンカンに怒っていたので、なにがどう影響するかなんて気にしてなかったけれど、瓢箪から駒だ。
「ところで、医務室にいなくていいのか?」
鍋が爆発したんだってな。ジョージに心配そうに言われ、ウィスタは唇を引き結んだ。
「そうだ、あんたらの寮に用があんだよ」
「なんだ転寮か!」
いつでもウェルカムさ! と陽気にフレッドが言い、ジョージも頷いた。
「そうできるもんならしてえよ。じゃなくて、ロングボトムを一発殴りに」
「ほんとになんでお前さ、うちの寮じゃないんだよ」
フレッドが呟き――ジョージが深々と頷いた。二人は互いを見て、にやっとした。
「わかったわかった」
「悪いこと教えてやるから」
殴るのはやめな。
そうしてウィスタは、双子に連行された。
◆
スリザリンに放り込まれた少年が、グリフィンドールの双子と遠足へ行っている頃。
「ヤキモチ焼きも嫌なものね」
グリフィンドールの一年生、実はレイブンクローに入れるかどうかで帽子が悩んだ魔女、ハーマイオニー・グレンジャーは、図書館にいた。談話室より図書館が好きなのだ。だって同学年の女の子とは話が合わないし、男の子も合うわけがない。特にロン・ウィーズリーは無理だ。
――なんなのかしら
ハーマイオニーは勉強が好きなだけだ。新しいことを知るのは好きだし、ホグワーツは最高の環境だ。だから図書館に通って、わかないところは先生に訊いているだけ。
それが「ガリ勉」らしい。失礼な話だ。マグルの学校もホグワーツもそのあたりは変わらないらしい。
それで、魔法族の子のロンはハーマイオニーのことが嫌いらしい。なんだか偉そうらしい。知らないわよそんなこと。本の角で殴りたいが我慢しているのだ。
ついでにロンは、ウィスタのことも嫌いらしい。スリザリンに組分けされたくせに、先生に気に入られているから、らしい。
「みっともないわ」
とんだ偏見だ。ウィスタはちっともスリザリンらしくない。むしろスリザリンは嫌だ!と暴れていたくらいだ。ロンの眼は節穴か。眼科でも紹介しましょうか。うちは歯医者だけど、眼のお医者さんに伝手があるのよ。
ホグワーツの図書館は広い。ふらふらと歩いていると、とある一角に迷い込んだ。書棚には薄い冊子がびっしりと詰められている。どうやら卒業アルバムを置いてあるらしい。
ということは、魔法で動く写真がいっぱいなのねとまず思い、じゃあ同級生の親も写ってるのよねえと考え、はたと気がついた。
――ハリー、ご両親のこと知らないのよね
スネイプ先生にいびられていた、生き残った男の子。両親の顔も知らないのだ。だというのに噂されて、なぜか先生にいびられて。
しかもハリーが答えられないとわかればウィスタに振っていた。ウィスタはちゃんと答えたのに、点もあげてなかった。ついでに言えば、ハーマイオニーだって一生懸命手を挙げていたのに、スネイプ先生は当ててくださらなかったのだ。
「いえ、そうじゃないわ」
スネイプ先生はどうも好きじゃないし、態度も変だがそれはそれ、これはこれ。
ハーマイオニーは書棚に眼を走らせる。たしか生没年が……だから卒業が……あった。
背伸びをして、とある年のアルバムを引っ張り出す。ぱらぱらと頁を繰る。
そうだ、ウィスタのご両親もいるわよね。
「えーと、スリザリン……」
リーン・リアイスはスリザリンだったらしい。寮の頁を開くといた。首席のバッジをつけた魔女。黒髪に、抜けるように白い肌、眼はウィスタそっくりの色だ。隣にはなぜかスネイプ先生がいた。え、二人は同学年だったの? 瞬いて、思考を切り替えた。
本当はウィスタのお父様も探してあげたいけれど、どこの誰かわからない。ひとまずハリーのご両親を探そう。
グリフィンドールの頁には、赤毛の魔女とくしゃくしゃな髪の魔法使いがいた。ああ、このひとたちがハリーのご両親ね。よし、後でアルバムのことを教えてあげよう。
とびきりいい気分で、ハーマイオニーはグリフィンドールの集合写真を眺める。丸顔の優しそうな魔女が、誰かに似ている。アリスっていうのね。誰のお母様か親戚か。
つ、と眼を滑らせ、ハーマイオニーは眼を見開いた。
「ウィスタ……?」
黒髪の魔法使い。灰色の眼の、端正な顔立ちをしている。幼くして痩せさせたら、よく似ている。男は明るく溌剌としていて、ウィスタはどこか投げやりな雰囲気だけれど。
「お父様、グリフィンドールだった」
の、と言おうとして彼の名前を読み取った。
シリウス・ブラック。
「うそ」
本で読んだ。近年の事件簿だったか。
シリウス・ブラック。名前を言ってはいけない例のあの人の部下。マグルを何人も殺した大罪人だと。
震える手でアルバムを閉じる。ああ、ハリーにもウィスタにも見せられない。きっと父親か近い親戚だろう。
それとも教えたほうがいいのだろうか。でも、こんなことを知ってもどうにもならないじゃないの。
ハーマイオニーはぐるりとあたりを見回し、アルバムを片手に梯子を登った。こうなれば隠すのみだ。アルバムの棚はたいして点検もされていなさそうだ。てっぺん近くに入れておけば、人目に触れないだろう。
せっせと梯子を登り、無理やり隙間をつくり、アルバムを入れ込んだ。一仕事終えた達成感に笑みをこぼし――下を見た。
私ってば頑張り過ぎたわ。
登ったはいいが降りられない猫の気持ちがわかった。無理だ。とてもじゃないけれど。
涙目で下を眺めていると、誰かがやってきた。黄色い裏地のローブ。ハッフルパフだ。
「怖くなっちゃった?」
「降りられないのよ」
ハーマイオニーは恥を捨てた。一生梯子にへばりつくなんて厭だ。
「僕が浮遊呪文をかけてあげるから」
飛び降りればいいよ。
かくしてハーマイオニーは救助され、ハッフルパフ生にお礼を言った。ついでに浮遊呪文の綺麗な発音も覚えた。
「僕はセドリックだよ。なにを隠してたのかな、君」
アルバムと答えても「何年のアルバムだい」と詰められること間違いなし。ハーマイオニーは素直に白状した。セドリックはため息を吐き。ちらと書棚の上を見た。
「現状維持でいいか」
さらりとセドリックが言う。ハーマイオニーを意味ありげに見た。
「そのほうが都合がいいよね」
なにもはっきりとは言わない。だからハーマイオニーも悟った。セドリックは「知っている」のだと。
ハーマイオニーは思い切って訊いてみた。
「あの人は彼の……?」
「お父さんらしいよ」
ただ、僕の父さんの恩人のひとりなんだ。
つぶやくようにセドリックは言った。
差し出された赤い箱にはリボンがかけられている。ウィスタは箱とそいつを持ってきた男の子を交互に見た。
「俺にくれるの?」
「あのね、この前のことが……」
ぽそぽそと男の子こと、ドジでやらかし王なロングボトムが言う。スリザリンのテーブルまでわざわざやってきたのだ。
ごめんね、とロングボトムが言う。周りはけらけら笑っている。
グリフィンドールのやつがなにか持ってきたぞ、毒でも入れてるんじゃ?
なんだよあのチビ
「賄賂か」
「待ってこれはその」
友達に怪我させちゃったってばーちゃんに言ったら云々。ウィスタは口を開けた。
「おいリアイス、お前はいつこんなチビと友達に!」
なぜかマルフォイが噛みついてきた。
「俺も知らないよ」
ロングボトムの友達判定はゆるすぎるんじゃないか。
「だって君、トレバーを探してくれたり、魔法薬学で助けてくれたし」
友達だろもう。純粋な眼に、ウィスタは二の句が継げなかった。なんじゃいこの坊ちゃんは。
「俺はべそべそうじうじしてるやつが嫌いなんだよ」
鼻を鳴らす。ロングボトムを見ているとけっこうな確率で腹だたしくなってくるのだ。しかも、こういうやつは半端に善人で損をするのだ。
コーンウォールのクソみたいな村にもいたのだ。ロングボトムみたいに子豚みたいで、ウィスタにときどき飯の残りをくれたやつが。村でもまだマシ――金がある家の子だった。
『こんなのに構うなよ』
『呪われちまうぞ』
それともお前、こいつの仲間か。そう言われて子豚は殴られた。それからは関わることもなくなった……。
ロングボトムが眉を下げる。ほんっとにあの子豚に似てる。
「これは賄賂でもらっとく」
舌打ちし、箱をもぎとった。
「ダイアゴン横丁の菓子店のやつじゃないか」
なぜかマルフォイが検分している。なんでも人気店だとか。店主兼パティシエはリアイスの人間だとか。
「ロングボトムのくせに」
マルフォイが面白くなさそうに言う。なるほどそんなにいい店か。
ウィスタは片手を振った。
「お前のばーちゃんに礼言っといてくれ。さっさと戻れよ」
グリフィンドールの連中、俺がお前のこといじめてるって思うだろうがよ。
◆
ウィスタは平和に生きていきたいのに、周りがそれをゆるさないらしい。
「なんでわざわざちょっかいかけんだお前はよ」
数日後の大広間。
マルフォイをスリザリンのテーブルに連行するはめになった。マルフォイの幼なじみらしい腰巾着二人が睨んできているが黙らせる。
「ロングボトムごときがあんな」
思い出し玉なんて、とマルフォイが言う。誰が金持ち喧嘩せずなんて言ったのか。こいつは性格はあれだしすぐひとのものをほしがるんだが。教えて偉いひと。
マルフォイを無視した。のこのことグリフィンドールのテーブルに行くからなにごとかと思ったらクソどうでもいいちょっかいをかけるなんて。アホかこいつ。
「これでポッターは終わりだ」
夕食の席で、マルフォイはそりゃあ得意げだった。
昼の飛行術で、またぞろマルフォイがいらんことをして、ハリーが飛行の才能を見せつけて……な事件があった。マルフォイは墓穴を掘る天才か。それはともかく悔しがったマルフォイは、ハリーに罠を仕掛けたらしい。
「あいつらが、真夜中にお前が出歩くと思ってるんならおめでたいな。なあ夜中に一人でトイレに行けない坊ちゃん?」
「なにを言ってるリアイス。僕がそんな」
「ハリーよりできる俺と思ってんなら、真っ昼間にやりあえばいいのにな」
へなちょこ坊ちゃんめ。
マルフォイは顔を真っ赤にする。よしよししばらくつきまとってこないはず。坊ちゃんは単純でいいね。
夕食を片付けて席を立ち、ふと思い出した。
そういや坊ちゃんのハンカチを一枚駄目にしたんだった。ふくろう爆弾のせいで血まみれになったやつだ。
こういうとき、新品で返せばいいのかどうなのか。
ちらとマルフォイを見て、内心でうなった。なんせ坊ちゃんだ。新品を手に入れて返したほうがよさそうだ。リーマスに相談しよう。
翌日、英国西部ゴドリックの谷……のとある森の別邸。
リーマスはため息を吐いた。原因は養い子からの手紙だ。
「帰りたいとか言いつつ、それなりにやってるんじゃないですか」
ざっと手紙を読んで好き勝手に言うのは、リーマスの後輩である。ウィスタの親戚でグリフィンドール出身。名をナイアード。
「ルシウス・マルフォイは、間違っても息子に……」
ウィスタと仲良くしろ、なんて指示は出さないはずだけども。
ナイアードの言に頷く。せいぜいが「ほどほどの距離を保て」だろう。ただ、子ども相手なので「良い関係を築け」くらいの伝え方をしたのではないか。
「べたべたしようとするマルフォイの子と、つれなくするウィスタの図ですね」
この勢いじゃ、パーティに招待どうこうもありえるな。ひとり頷くナイアードに、リーマスは問いかけた。
「いいのか?」
スリザリン系と仲良くなんて、よい顔をされないのでは? 言葉にしなかった問いに、ナイアードは眼を光らせた。
「ウィスタに呪いを送った阿呆は俺たちで締め上げて謹慎、該当犯は追放しましたし」
さらりと言う。わかっているさ、リアイスは「こう」なのだ。
「そのうち帽子も締める予定で。で、ウィスタの正装一式仕立てておいたほうがよさそうですね」
「頼む」
リーマスは丸投げした。ルーピン家はそこそこの家でしかない。こういったパーティやらのあれこれは、リアイスに任せるのが無難だ。
「そうだ、あなた教師としてホグワーツに行きませんか」
「無理に決まってるだろう」
戯言を切って捨てる。ナイアードは……リアイスはリーマスの体質を知っているのだ。だというのにふざけたことを。
「きな臭いんでね」
「石のこととか?」
「それもありますが」
ダンブルドアに任せてますし。
「あれは餌ですしねー」
「錬金術の傑作なんだろ」
「フラメル大老、もう石はいらんとか言ってまして。どのみち奪われないように仕掛けてあるんですよ」
俺も噛みましたとにこにこ笑顔である。リーマスは大変嫌な予感がした。
「なにをした」
「解けるようにしときました。そいで、ウィスタの杖芯になるようにも」
「……あの子の杖は龍の角で――」
一秒の間にめまぐるしく頭を働かせる。これでも成績はよかったし、禁書の棚へも出入りをゆるされていた身だ。
「石の元は龍の血で――だから結びつくのか。ならばあれには使えない。石は石でなくなるから」
「クロードが視たもので。紅の杖をね。そっから逆算すれば」
解ける仕掛けをしておけば、なるようになる。
「それなら、ますます私が出向かなくてもいいだろう」
餌に食いつくであろう何者か。あれの配下がホグワーツにいるとして、ウィスタに危害を加える可能性は低い。養い子はあれにとって貴重な存在だ。手を出させないだろう。
「ウィスタに呪いを送ったの」
どうもうちの一族だけじゃないようで。
軽い調子でナイアードは言う。しかし、空色の眼は刃の輝きを秘めていた。
「相当な悪意を持ったやつが」
ホグワーツにはいますよ。
――浅はかって
こいつのことを言うのかな。朝食の席で、マルフォイは固まっていた。顔面にはありありと「なぜ」「僕の計画は完璧だったのに」と書かれていた。お前それこそ立入禁止の北塔にでも誘い出して発見させればよかったんだよ。ウィスタは思いはしたけれど、マルフォイに言ってやるほど親切ではなかった。反対に、ハリーたちに警告もしなかったのだけど。
「私は止めたのよ」
「男の子ってそういうもんだよ」
ハーマイオニーは口から火を吐きそうだ。髪の毛は雷をはらんでいるかのように膨らんでいる。図書館の一角だ。ウィスタとハーマイオニーは図書館仲間で、待ち合わせしているわけでもないのによく遭うのだ。
「……あなたもそうなの?」
ハーマイオニーは羽根ペンを持ったまま、ウィスタをうかがう。なんとなしに、彼女がウィスタを見る目つきが変わった気がするのだが、どうなのだろう。距離をとるような、探るような。
「お嬢さんと違って、俺は育ちが悪いんでね」
「でも勉強はできるわよね」
「ざっと仕込まれた」
勉強できるのと賢いのとはなんか違うようにも思うけどね、と付け加えれば「やっぱりあなたは賢いのよ」と返された。
ウィスタが賢かろうがなかろうが、どうしようもない掃き溜めにいれば、なんにもならなかったろう。スリや鍵開けの技を使ってどっかの組織の下っ端でもやっていたかもしれない。
たまたま学校の元締め――王様に目をかけられて、なんやかやで勉強を教えてもらったとはいえ、やっぱり孤児院からも村からも出なければならなかったのだ。
ついでに幸運だったのが、保護者がリーマスだったことだ。学生時代は優等生だったらしく、養父は教え方が上手だった。
「あの人たち、浮かれてるのよ」
「新型箒を買ってもらえれば、そりゃあなあ」
坊ちゃんも悔しがってたよ、と付け加えれば、ハーマイオニーの眉間に皺がよった。
「マルフォイってばやることが」
「汚いし浅い」
「同じ寮でしょ?」
「そういうあんたはハリーやロンが気に入らない、と」
「だって校則を破るんですもの」
ふん、とハーマイオニーは鼻を鳴らす。
「ほっとけよ」
ハーマイオニーが止める必要もない。頭の固い優等生、マグル生まれのくせにでしゃばり、賢いのを鼻にかけている……などなど、スリザリンの一年生ども……主にマルフォイだが――は話題にしているのだ。穢れたどうこうとも言っていたが、ろくな意味はないだろう。
なんだっけな、とウィスタは記憶をたぐる。ザビニは「賢くても生まれがな」とすっぱり切り、ノットはたいして反応もせずだった。マルフォイにべたべたしようとしては失敗している女の子――パーキンソンは「なによあのボサボサ頭」とけなしていた。暇なやつらだ。
「つうか、俺より寮生と仲良くなっといたほうがいいぞあんた」
俺はスリザリン生で、あんたはグリフィンドールなんだから。
ハーマイオニーはくちびるを引き結ぶ。
「だってみんな子どもっぽいんだもの」
「しゃーねえだろ、寮が違うんだから。俺らが浮いてるのはもうあれだ、どうしようもねえし」
「わ、わたし、ただ勉強してるだけなのよ」
わかってるよ。マグルの学校であれこれあったんだろうなあ。
ウィスタが私生児だとかふしだらな女の子どもだとか、その眼が気持ち悪いだとか、人を惑わす悪魔だとか、妖精の子だとか……うーん、ほんっとあの村クソだな――言われたように。深く聞かなくてもなんとなしにわかるものだ。
なんで勉強ができるだとか勝手に言われて浮かなきゃならないの。唇を噛むハーマイオニーに「こうなったら学年一になってまとめて黙らせたらよ」と助言した。間違っても悩める女の子にかける言葉じゃないだろうが、ウィスタは喧嘩上等の育ちなのだ。ぶっちゃけてっぺんに立ったほうが早いこともある。あとは人気者と仲良くなるとか。
◆
スリザリンでたいして誰とも仲良くならないまま、ハロウィンを迎えた。それなりにザビニやグリーングラスのお嬢様とは話すようになったが、仲が良いかと聞かれたら首をかしげるくらいの関係だ。
朝から甘い匂いが充満しているホグワーツは、ウィスタにとってなかなかきつい。
へろへろになりながら授業を片付け、厨房へ向かった。ウィーズリーの双子に教えてもらったのだ。厨房ならもてなしてくれるよ、と。双子バンザイ。
屋敷しもべは大喜びでバスケットを用意してくれ、パンやらジュースやらを詰めてくれた。「お城がお辛いなら、校庭でお食べになっては」とおばあちゃん妖精が提案してくれたので、それもそうかと頷く。そんなにウィスタは甘いものが苦手です、気持ち悪いです、という顔をしていたろうか。
坊ちゃんにうざ絡みされるのも面倒だし、湖の側なんていいだろう。バスケットを片手に厨房を出る。玄関ホールから正面扉を抜けようとして立ち止まった。
クィレルが地下室から現れたのだ。片手には大きなトランク。
「先生? パーティー始まってますよ」
声をかけてみても、クィレルは無視である。
――気づいてない?
いつでも薬草臭くて、ターバンを巻いていて、どもりもひどいしウィスタと眼を合わそうとしないし、心の病気にでもなってるのかと疑っていたのだが。こりゃあマジもんで壊れてるのかも。
「先生?」
やっぱり眼中外だ。クィレルは階段を登り、トランクを開く。杖を構えてなにか唱え――大きな頭が突き出した。
「は?」
トランクからなぜ頭が。魔法具だな。ニュート・スキャマンダーも使ってたすごいトランクだ。つまり出てきたのは魔法生物で。嘘だろ。
「トロールぅう!?」
まさしくトロールだ。そいつは汚い声を漏らしながら、トランクから出て徘徊する。背後で悲鳴と地響きが聞こえ、ふう、とトロールもクィレルもトランクも消え失せた。
ウィスタは口を開けたまま立ち尽くす。
「どういうことだよ?」
さっきまでいたのに。頭がいかれてるのはウィスタのほうか。しっかしやたらと眼が熱い。トロールはどこへ行ったんだ。
背中に汗がにじむ。誰かに知らせるべきだ。
「ダンブルドアとか」
呟いたとき、羽音か聞こえた。たまに手紙を運んでくる、鷲である。まさかの時の友。
大急ぎで「クィレルがトロール入れました」とつづり、鷲に託した。
「爺さんに知らせたら俺んとこ戻ってこい。俺はトロールの居場所突き止める」
言うや否や駆け出した。またもや眼が熱くなる。ほんやりした影がにじむ。なんだか城が騒がしいが後だ後。
トロールが現れる。消えたり現れたり、神出鬼没だ。そうこうしているうちに何階かわからない廊下に出た。見慣れた栗色が女子トイレに入る。
ハーマイオニーだ。ウィスタは周りを確かめた。トロールは消えた……ようだ。どこからともなく腐った臭いがするけれど、姿はない。
「ハーマイオニー」
女子トイレに飛び込む。四の五の言っていられない。かくかくしかじかで友達を引っ張り出せば、なんということでしょう。
トロールがおいでなすった。