いくらなんでも親切すぎる、あんたにはなんの得もないぞ。
ウィスタがぎゃあぎゃあ言ってもクイン――クイン・マグダラは取り合わなかった。逃げないようにだろうか、手を引かれウィスタは仕方なくついていく。
「クィディッチは?」
いいのかと問えば「ポッターくんがスリザリンをぺしゃんこにしてくれたわ」といい笑顔だった。
「俺はか弱いからこんなのしょっちゅうなの」
「あらあら、女の子と話が合いそうね」
それなりに際どい線だ。なにがとは言わないが。かくなる上は破廉恥発言でもして追い払うべきか? でもそれは……。そもそも、クインはただの親切だし、まるきり弟扱いなのだウィスタのことを。
――べつに
弟扱い、後輩扱いでもいいだろうに。なんだかもやもやするのだけど。
変なの、と小さくつぶやく。ウィスタに触ったら伝染るだとか、呪われるだとかここの連中は言わないようだ。
たかだか、マグルのところからこっちに来ただけなのに。ここまで変わるのだろうか。じゃあウィスタの過ごした十年はなんだったのだろう。
「またあなたですか!」
「好きで来たんじゃないです」
考え込んでいるうちに医務室についていた。マダム・ポンフリーに言い返し、問われるままにあれこれ伝える。
「先生、お願いしますね。じゃあねウィスタ」
用は済んだとばかりに、クインはひらりと手を振る。流れて消えていく金糸を見送り、ため息を吐いた。ろくに礼も言えてないや。育ちがよかったら、あんな風になるんだろうか。
ひとまず寝なさい、と寝台に案内される。どうせ大丈夫だと言っても「判断するのは私です」でおしまいなのだ。
「……なんでお前がいるわけ」
目が覚めたら、偉そうに腕組みしたマルフォイがいた。ついでにクラッブとゴイル――マルフォイの幼馴染み兼子分――もでんと座っていた。
「悔しさを噛み締めようと寮に戻ったらお前がいなかったからだ」
「幼馴染みズとハンカチ噛んどけよ」
「スニッチを呑むって反則だと思わないか。思うよなポッターのやつめ! と僕は話す気満々だったんだぞ」
病弱め、と責められる。んなこと言われても。
「あげくにスネイプ先生のローブが燃えたらしい。スリザリンを面白く思わないやつの仕業だ」
「石投げりゃあスリザリン嫌いに当たるだろうよ」
「お前も! スリザリン! なんだが!」
「嫌われるのには慣れてるよ。お前っつうかお前ら、俺の見舞いなんて来てもなんもないぞ」
野蛮で汚いのが伝染るから、さっさと行けよ。
ひらひらと手を振れば、マルフォイが固まっていた。薄青の眼を見開いて、まじまじとウィスタを見ている。驚きと――なんだろうか。
眼を三角にして怒る連中なら慣れてるし、読めるのだが……マルフォイはいまいちわからない。
行った行ったと追い出して、窓の外を見る。鮮やかな橙色の空だ。かなり寝ていたらしい。そろそろ寮に戻るか、と寝台から下りようとして――客が来た。
「私、スネイプ先生がハリーを呪ってるのを見たのよ」
怖いもの知らずのグリフィンドールの才女だった。そしてお付きのハリーとロンまでいる。
「倒れたって聞いたけど」
大丈夫なの、とハリーは気遣わしげだ。ロンはといえば、サイドテーブルを凝視していた。
「お見舞いにもらったの? こんないっぱいの蛙チョコ」
「みたいだな」
マルフォイだろう。ウィスタは全然まったく視界に入ってなかった。
――ちょっとからかっただけなのに
食いついてくるなんて。お前父親に言われたから俺と仲良くしようとしてるんじゃないだろうな効果は、けっこうかなりおそろしい。蛙チョコセット(五個入り)なんてもんをもらってもどうしたらいいやら。
「食いたいならいいぞ、一個くらい」
「君をスリザリンだからってけなしてた昔の僕を殴りたいよ」
ロンはご機嫌で蛙チョコをとった。
「ねえ、わたし、真剣な話をしたいんだけど?」
「蛙チョコにアレイスター・クロウリーカードが入ってるかどうか以上に大事なことが?」
「ロンってば」
「僕の命より蛙チョコかあ」
ハリーがぽそりと言い、ロンが黙った。
「お前らも食えよ」
ウィスタは耐えきれなくなり、手を伸ばす。積み上がった箱をひとつふたつとってやる。
拍子に、一番下に黒いなにかがみえた。引き出せば、それは封筒だった。黒地に銀色の竜が描かれている。
差出人はルシウス・マルフォイとナルシッサ・マルフォイ。つまり……マルフォイの両親だ。
なにか言い合っている三人をそっちのけで、黒い封筒を開く。中から緑の紙が出てきて、開けば竜の紋が現れて形を崩す。それは優雅な文字となり、緑を埋めた。
黙って手紙を畳む。ポケットに突っ込んだ。
まさかほんとにこうなるなんて。
どうすりゃいいんだろう。
「……俺が行っても笑いもんだろ」
顔がひきつる。
ウィスタは、よりにもよってマルフォイ家のクリスマスパーティに呼ばれてしまった。
「嫌だ」
嫌だったら嫌だ。扉の向こうに叫ぶ。
「坊ちゃんのためなんですよ」
「おめかしのためには」
採寸は大事です。交互に言うのはウィスタの親戚らしい、職人兄弟……姓はリガーダント。ウィスタの母親の家、リアイスの分家……らしい。分家って。どこの世界の話だよ。
「なんてパンイチになんなきゃなんねえんだよ」
きりきりと歯を食いしばる。まだホグワーツのがマシだ。なんでウィスタはゴドリックの谷外れの邸、その物置に籠城しているのだ。
「測らせてくださいよぉ」
「ヤダ」
知らないやつらの前でパンイチなんて絶対嫌だ。いくらパーティ用の服を仕立てるためとはいえ!
あれこれが超特急で進んでいるように思う。マルフォイから招待状をもらったと思えば、リーマスから「週末に一旦帰っておいで」と手紙がきた。マクゴナガルに話は通しておいたからとかなんとか。ウィスタはスネイプに話さなくてよくなってほっとしたものだ。あのおっさん、ウィスタのことをかなり避けているし嫌っているようだった。
――それはいい
意味もなく嫌われるものだし、それでなくともウィスタは目をつけられやすい。スネイプは生徒――ハリーをいびるようかしょうもない男なのだ。好かれたいとも思えない。
帰ってみれば、居間が布の見本市と化していて、親戚の職人兄弟はいて、手をわきわきさせていた。当然逃げた。
ぼそぼそと扉の外で声がする。リーマスがなにかを言っていた。野郎三人でなにを企んでるのだろうか。
「ウィスタ」
「あんたでもヤダから」
「妖精ならどうだい」
穏やかに言われ、黙り込んだ。
◆
「げっそりしてない? ウィスタ」
「忙しくって」
「ああ……休み明けの授業についていけるように、予習とか?」
「そんなのやってるのハーマイオニー」
どんだけ勉強すんだよ。
つぶやいて、グリフィンドールの才女に眼をやる。冬休み間近で、先生も生徒もどこかゆるみがちなのに……ハーマイオニーはハーマイオニーだった。
「大事よ予習って」
「いらねえだろあんたは」
心から言った。そしてハーマイオニーの興味津々な眼に逆らえず、かくかくしかじかで事情を説明した。
「ほんとにお坊ちゃんなのね、彼」
「俺、あいつの友達認定されてる気がするんだけど」
「あなたが危なかっしいし、リアイスっていいお家らしいから気にかけてるつもりなんじゃないの」
「はあ? 成績優秀、きっと学年次席があぶなっかしいだと?」
「自分で言うそれ。そもそもあなたは学年首位になるんじゃあないの」
二人はぼそぼそと言い合う。なにせ図書館なのでおしずかに、なのだ。騒ごうものなら司書が音もなくやってきてつまみ出される。
「首席はあんただろ」
ハーマイオニーはこほんと咳をした。
「あのね、あなたがよくできるのは知ってるけど、やたらとトラブルに巻き込まれがちだし……マルフォイはお坊ちゃんだから」
あなたに色々教えてあげなきゃって思ってるんじゃないかしらね。
「……あいつが? 性格のよろしくないあいつが?」
「純血だから、仲間と思ってるんでしょうよ」
いやにきっぱり言われる。ウィスタは顔をしかめた。
「つっても、母親はリアイスで、スリザリンじゃあ怖がられてるし……父親はもしかして腐れバンドマンかも」
「バンドマンに失礼じゃない?」
「間違いでもないだろ」
ハーマイオニーがうなる。髪をくしゃくしゃにした。ちらりとウィスタを見て、ため息を吐く。
「お父様のこと、なにか……?」
「誰も口を割りやしねえ。ろくでもない死に方でもしたのかってくらい」
どうせ父親も母親もいないんだし、気にしても仕方ねえよ。
呟けば、ハーマイオニーは眼を見開いた。
「ウィスタ」
「うん?」
「わたし、あなたの友達だからね。ずっとよ。なにがあっても」
「いきなり重くないか?」
賢くて純粋な女の子なんだろう。まっすぐな言葉がなぜだか突き刺さる。ウィスタは純粋さなんてどこかでなくしたから。いや、最初から持ってなかったのか。
邪険にされ、疎まれ、ウィスタがいるだけで和を乱すと言われ、神様なんていなくて。
――思っていたのに
願っても無駄だと知っていたのに、あの日現れた魔法使いに――ダンブルドアに、願いを口にしていた。はじめて会って、警戒するはずなのに、なぜだかこらえられなかった。それはダンブルドアが魔法使いの奇妙な格好をしていたからか、彼のライトブルーの眼に、本物のいたわりと喜びを見てしまったからか。
「トロールが現れたとき、あなたがいなかったら、私は死んでたもの」
「ハリーとロンがいたろ」
「二人が駆けつけるまでにダメだったわよ」
盾の呪文で棍棒を防いだのはあなたよ。
ウィスタは舌打ちした。あの混乱で忘れてりゃあいいもんを。
「ひしゃげた頭蓋なんて見たくもないからな」
「素直じゃないんだから」
「いいか貴族にとって踊りは基本だ。つまり哀れなお前は踊れなきゃいけない。なぜならお前は招待客で僕の客で、お前の恥は僕の恥」
素直じゃないやつがいた。
スリザリン談話室で、マルフォイは流れるように言う。ウィスタは黙ってきいていた。なんでかマルフォイと女子二人に囲まれてるが。談話室のど真ん中ですっくと立つ四人。どいつも一年生。目立ちまくりだ。坊ちゃんのバカ。
――踊りなんて知らないだろうし困るに決まってるから僕が教えようとか言えんのかこいつ
言えないのだ。なんせ坊ちゃんだから。それもかなり高飛車な坊ちゃんだ。
「お前の指導を受けなきゃいけないのか?」
つか俺、招待してくれなんて頼んでないんだけど。言おうとして、ため息だけにした。どうしようもない。動き始めたもんは止まらない。ウィスタは大急ぎでリーマスに事情を説明し「断ると面倒だから出なさい」と返信を受けたのだ。服をどうしようとかは「大人がなんとかする問題だよ」で任せた。
そんなリーマスも、さすがに踊りまでは手が回らず――なんせ仕立てでゴタゴタした――ウィスタは自分が踊れないことを言いそびれ……だ。
「庶民なら踊れないだろうと思えばやっぱりだ。心配するな」
パンジーとダフネに練習相手になってもらえ。
「指導料はいりますか、先生方?」
「バカを言わないで」
「哀れなマグル育ちからとるほど落ちぶれてはないんだから」
「…………俺に付き合ってもいいことないぞ?」
すっくと立つ二人は同時に鼻を鳴らした。パンジーがウィスタの頬をつねった。
「黙んなさいマグル育ち。いっぱしに踊れるようにしてやるわよ」
「覚えておけばあとで役に立つのよ?」
涙目のウィスタは、ダフネに眼をやる。役に立つもなにも。パーティに出るなんて一回ポッキリだろうよ。
ウィスタの考えを見透かしたように、ダフネは続けた。
「わからないのあなた」
そのうちあちこちから呼ばれるかもよ?
なにせあなた、リアイスで、マルフォイ家の招待を受けたんだからね。
「……金持ちすぎねえ?」
ウィスタはしゃがみこみ、そいつを眺めた。白くて綺麗な孔雀だ、彼か彼女かしらないが、白孔雀は逃げるでもない。ウィスタをじっと見つめている。
白孔雀だけではない、庭には何羽か孔雀がいる。とことこと芝生を歩き、クリスマスの飾り付けをつついたりしている。
庭……と呼んでいいのか迷う広さだ。正面門から庭を突っ切って玄関まで。それが徒歩だときついだろうって距離なのだ。マルフォイ家がお金持ちもとい上流階級だと聞いてはいたが、想像以上だった。ウィスタのいた孤児院なんて豚小屋だろう。
「んな豚小屋育ちを呼ぶなんて、どうかしてるよ」
なあ、と白孔雀に言ってみても無視された。鳥とは話せないらしい。犬猫と仲良くできても話せないわけだし不思議じゃないけど。
◆
「なんでお前はふらふらうろうろ落ち着きがないんだ」
マルフォイにガミガミ言われ、引きずられるようにして館に連行された。
「孔雀なんて珍しくもないだろうが」
「お前の常識は世間の非常識だ」
言い返しても無視である。長い廊下を行き、大広間に放り込まれた。パーティの真っ最中だ。
シャンデリアが輝き、あちらこちらに竜の装飾があり、どこからかピアノの音が聞こえてくる。泳ぐのは華やかな色の群れ。
「一曲踊ったんだからゆるせよ」
「僕やらダフネやらパンジーが仕込んだのにそれで済ませるとでも?」
「踊りより遊ぶほうが」
「それはそれだ、あとで雪合戦をする」
こそこそと言い合っているうちに、マルフォイはどこぞの令嬢に捕まった。ウィスタは気配を消し、壁の花になろうとする。だってマルフォイ家の御曹司のお友達らしいが、ウィスタは遠巻きにされている。
――マルフォイ
やっぱリアイス家の人間を呼ぶのはまずかったんじゃないかな。
ひそひそと噂され、ちらちらと見られ大変居心地が悪い。そう、たとえ仮面舞踏会だろうとウィスタの正体はわかるやつにはわかるのだろう。
「リンゴジュースが飲みたい」
マダムロスメルタの特製ジュースを思い出す。バタービールもいいけど、やっぱりリンゴジュースだ。
もちろんホグズミードまで行かなきゃ飲めないのだけど、とにかくリンゴジュースが飲みたくなってきた。
ふ、と手に重みがかかる。グラスに注がれているのはリンゴジュースだ。ちろりと大広間を見回す。給仕が忙しげに働いている。ウィスタは彼らに声をかけていない。
「ここの妖精か? ありがとう」
屋敷しもべは大きな邸にはいるそうだ。とすれば、マルフォイ家にいてもおかしくはない。
なんの気なしに言ったのだが、グラスがぶるぶると震えはじめ、リンゴジュースが波打った。なにごとだよ。
「なんか気に入らないことしたか?」
ますますグラスが震える。グラスをぎゅっと握らないといけなくなった。
「ドビーなぞに礼なんて」
声だけが聞こえてきた。ああ、屋敷しもべは透明になれるのだ。
「落ち着いてくれよ。困るよ」
「ああ、ドビーは坊っちゃんを困らせてしまった。ドビーは悪い子!」
ウィスタの隣……壁から鈍い音がした。いそいであたりを探り、誰も気づいていないとわかってほっとする。
念のため耳塞ぎ呪文をこっそりかけて、ウィスタは手を伸ばした。ざらりとした感触を掴み、さりげなく歩く。そーっと大広間を抜け、廊下にそれを放り出した。
現れたのは床にはいくつばる屋敷しもべだ。
「ドビーは悪い子」
「やかましい」
屋敷しもべを立たせる。見れば見るほど哀れな有り様だった。着ているのは枕カバーだ。大きな眼は潤んでいる。
「坊っちゃん」
「静かに」
言えば、ぴたりと穏和しくなった。
「坊っちゃんのような高貴な方を煩わせるなんて」
しゃくりあげながら言われ、ウィスタは二の腕に鳥肌が立った。日常生活で聞かない単語、高貴。
「誰かと間違ってんじゃねえの」
俺は孤児だぞ。
「いえ、そんなことは。坊っちゃんはウィスタ様。リーン様のご子息でございます。坊っちゃんたちと御親戚ですし」
「マルフォイんとこと繋がってたっけ?」
パーティそっちのけで首をかしげた。ウィスタが知っていることは少ないが、リアイスは代々――例外はあるがグリフィンドールだ。マルフォイと親戚なんて聞いたことがない。
ぱちり、とドビーは瞬く。またもやぶるぶる震え始めた。振動をエネルギーに変えるなんとか装置があれば、ドビーにぴったりかもしれない。
「貴族はどこもつながっておりますから」
なんか隠してるな。思ったが、締めて吐くかわからない。こんな襤褸まとった妖精をいびっても楽しくともなんともないし。
訊かないことにして、ドビーを連れて会場に戻る。ドビーは抜かりなく透明になった。
そうこうしているうちに、どこぞの令嬢に誘われた。グリーングラスのリディア嬢だ。海外の学校に留学しているとか。ダフネの親戚で、リディアのほうは本家の娘らしい。
なんとかかんとか踊って、パーティは夕方に終わった。マルフォイは元気が有り余っているのか、貴族のボンたちを連れて庭へ行ったようだ。
「お前も早くこい!」
「はいはい」
ぶらぶらと廊下をゆく。マルフォイたちは遙か遠くだ。どんだけはしゃいでんだあいつら。ノットのやつは迷惑そうだし、ザビニもさめていたが。
「楽しんでもらえたかな」
ウィスタ。隣に並んだのはマルフォイの父親――ルシウスだ。マルフォイが年食ったらこうなるのだな……というくらいそっくりだった。
「招いていただいてありがとうございます。庭の孔雀が綺麗でした」
「雛がほしければ差し上げるが」
「珍しいんでしょ? というか、俺に構ってもいいことないですよ」
息子の友達だからな、とルシウスは薄い笑みを浮かべる。どうしたもんかマジで友達認定されてる。
「マグル育ちで苦労したと聞いている。ここにいるときくらい、ゆるりとしなさい」
「息子の友達だから?」
ルシウスは笑みを崩さない。いまいちわからないひとだ。
「それとも哀れだから」
「下賎に交わり、辛かったことだろう」
さらりと言われ、唇を尖らせた。
「知ったふうに言いますね。別に……たまに、蛇が助けてくれたから、そう悪いもんでもなかったですよ」
大嘘を吐く。どうせ餓えたこともないやつに、決めつけられるのはムカついた。蛇が助けてくれたのは本当だが。話し相手がいたのはよかった。たとえそれが蛇でも。
「蛇が?」
「おしゃべり仲間でしたよ」
ルシウスが立ち止まる。余裕の仮面がはがれおちていた。
あっという間もなく、肩を掴まれる。
「けしてそれを言ってはいけない。誰にもだ。厄介なことになる」
「いや、そんくらい普通なんじゃ……」
ゆるゆるとルシウスが首を振った。
「隠しなさい。それは尋常な力ではないのだから」
「ルシウスさん?」
「いいかね……もし、露見しそうになったら」
父親の血筋のせいにしなさい。
「誰なんです?」
「いずれわかることだ」
私の口から言うわけにはいかない。