「すねるなよ」
「そんなガキじゃねえもん」
布団にくるまったまま、ぼそぼそ言う。
「まだ子どもだとも」
起き上がれないんだから『谷』に帰るのはなしだ。ナイアードにきっぱり言われ、口をへの字に曲げた。
――ひどい
ボロ雑巾になった十二歳の「実家に帰らせていただきます」を拒否だと?
「城にいても楽しくないもん」
「身体を治しなさい」
「なんで俺が監禁されなきゃいけないんだ!」
「君に悪意を持った連中が多いからだろうが」
間違っても俺の室まで襲撃しに来るバカはいないだろうし。いたら……と、ナイアードは言を切る。全部口にしないからおそろしいこと。
キレたナイアードがヤベえとはわかってるけど。ウィスタは数日前の光景を思い出した。そうとも、まとめて金縛りかけて圧かけてぶっ■すぞてめえらななにかを出していた「陽気なおにーさん」あらため「やべえおにーさん」だ。
見舞いに来た連中
マルフォイ「僕はリアイスのやつらを敵に回さないと決めた」
セドリック「いやー、ハッフルパフは大減点だったけど誰も文句言わなかった」
クイン&チョウ「ナイアード先生の中身はやっぱり猛獣だわね」
ハリー&ロン&ハーマイオニー「ナイアード先生を怒らせないようにしようと思った」
だった。
ついでに皆さんカンカンだった。マルフォイなんて「もうお前いっそのこと監督生を目指せばいいのでは。ろくでなしを減点できるし罰則もつけれる夢の階級」とのたまった。
――監督生を目指すどうこうより
帰りたいのだけど。怪我だらけだから駄目。熱もあるんだぞで却下だった。
「ホグワーツに残るか休学するか……どうするかはおいおい考えればいい」
うん、とだけ返した。ナイアードじゃなくてリーマスに会いたいと八つ当たりしても仕方ないのだ。わかってるさ。
じゃあ行くよ。靴音とともに扉が開いて閉まる。ウィスタは仰向けになった。
「どうすりゃいいんだよ」
枕元の雛をなでた。高熱その他でボロッボロで寝込んで起きたらいたのである。灰色の羽毛におおわれたなにかの雛だ。ふれればあたたかくほっとする。
ついでに窓――腰壁には鴉がいる。ナイアードいわく「君のお守りたち」らしい。わからん。たまに鷲――昨年からちょくちょく遊びにくる友達――もいて、ナイアードに間借りしている室は、鳥だらけだった。ウィスタはスリザリンなのだけど。
帰りたいなあ。
スリザリンだからって避けられて、呪いを向けられて。かばってくれるひともいる。心配してくれるひともいる。それでも。
ここはあんまりにもきつすぎる。ウィスタがなにをしたというのか。
ぐずぐずと寝込んでいるうちに、クリスマスがやってきた。山積みのプレゼントをみても、気分は晴れない。ただ、ウィーズリー家……どうやらロンのお母さんからセーターが届いていて、胸があたたくなった。ロンから色々聞いたのだろう。
が、浮き上がった気持ちはじりじりと下がっていく。リーマスからのプレゼントがないのだ。
――見捨てられたのかもしれない
そりゃそうだ。厄介事ばかり引き寄せるし、リーマスにとってはよその子だし。邪魔者だろう。きっとウィスタの親が無理を言って押し付けたに違いない。
実の親子ですら、この役立たずどうこうで殴るなんてことはあったし、ウィスタは肉親の情みたいなものは信じていないのだ。ましてや他人。
手間ばっかりかかる孤児なんて、気味の悪い子なんて、リーマスはほしくなかったのだろう。せめて生き残った男の子のように世間からもてはやされていたら違ったろうに。
すん、と鼻を鳴らす。寝台の上にいた鴉をひっつかんだ。乱暴に撫でても、鴉はおとなしい。
鴉を抱えて寝台に転がる。もうなにもしたくない。リーマスに見捨てられたのだ。
眼を瞑る。眠気が忍び寄ってくる。
『君の居場所なんてどこにもないよ』
僕のそばにしかね。小さな小さな声。夢には出てきていないけれど、気配はなんとなしに感じる。あれは喜んでるのだ。ウィスタが孤立している状況を。
――お前の手なんか
とるもんか。絶対にとらないぞ。固く決意するけれど、不安が影を落とす。このまま追い込まれたらどうなるのだろう……。
気づけば眠っていた。眼をあければ視界がぼやける。頬に触れるまでもなく、冷たく濡れていた。弱っちいにもほどがあるだろう俺。孤児のときはこんなに弱くなかったのに。しかも……リーマスがいるんだけど。どんだけリーマスに会いたいんだ。
瞬く。視界が澄む。やっぱりリーマスがいた。
「……頭がおかしくなったか」
「迎えに来たんだよ!」
リーマスの幻が顔をしかめた。ハンカチで顔を拭われる。かなり現実的な幻(?)だ。
「だって、俺のこと捨てたんだろう」
わかってるよよその子だし。幻だからぶちまけたっていいだろうさ。
「あんたの結婚の邪魔になるだろうし蛇語喋れるわけわかんねえやつだし眼は気味悪いだろうし育てても得はないしスリザリンに組分けされちまったし継承者扱いだしハブられてるし実は不義の子かもしんねーし」
言ってて無限に落ち込んできた。リーマスの幻とすら眼を合わせられなくて、顔を伏せる。
「……誰だ君にそんなことを吹き込んだのは」
熱い声とともに腕を引かれる。ぐっと抱きしめられていた。
「細かいことは後だ。帰るよ『谷』に」
は? と言っても幻は無視した。ぱっと身を離され、コートをぽんとよこしてくる。
「リーマス? ほんとに? え、なんで」
「私は君の保護者だ」
ある程度治ったみたいだから迎えに来たんだよ。
「遅れて悪かったね」
顔をくしゃくしゃにして、リーマスが言う。ウィスタは言葉も出ず、頷くしかできなかった。
気づけば寝台の上だった。やたらと重い身体を起こせば、今いるのがホグワーツではなくて『谷』の別邸なのだとわかった。ウィスタの室だ。そのはずなのだけど。
「おや」
ソファに知らない男が座っている。亜麻色の髪に眼は青とも緑ともつかない……浅葱色。ナイアードと同じか少し上の年に見えた。
「起きましたか」
ひょいと立ち上がり、男はやってくる。あんた誰、と訊こうとして別の言葉が飛び出した。
「リーマスは」
「休んでますよ」
――そういや俺
養父に向かってあれこれぶちまけた……ような気がする。記憶が吹っ飛んでいるので確かじゃあないけど。やたら女々しくなかったか? 嘘だろ。
切れ切れの記憶に襲いかかられ、ウィスタは沈黙した。顔から火が出そうだ。
あんくらい平気なはずじゃないか。よってたかって呪いを撃ち込まれたくらいでへばるはずが。なにをリーマスにぶちまけてるのか。
「……まだ熱がありますね」
額に手を当てられる。つんと薬のにおいがした。あんた誰だよ、と上目遣いをすれば、男はこたえた。
「私はヘカテ。あなたの血族ですよ」
さらっと説明され、さくっと寝台に転がされ、寝かしつけられた。
「休み明けにホグワーツに戻る、しばらくお休みする、転校する」
てきぱきと選択肢を挙げられ、ウィスタは向かいに座るマクゴナガルを見やった。邸の応接間。暖炉には炎が躍り、卓には軽食が並べられている。ホグワーツから引き取られて約一週間。ウィスタはなんとか起きられるようになり、まともに考えられるようになった。それを見計らったように、マクゴナガルがやってきたのだ。
「転校したほうが先生も安心でしょうね」
追い出しにかかってるんだろう、と含みをもたせる。証拠がないから強制的に退学にはできない。ただ、自分の意志で転校するなら別だ。ホグワーツにとってウィスタは厄介の種なのだから。
――信じられるもんか
ウィスタに杖を向けてきたのは、ハッフルパフにレイブンクローにグリフィンドールだった。もちろん全員が全員、ウィスタを犯人と思っているわけじゃないだろう。わかっている。それでも、あの光景は強烈だった。いかにウィスタが歓迎されず、異端視されているかをわからせた。
「あなたは犯人ではありません。ポッターも」
鼻を鳴らす。
「根拠は」
リーマスは席をはずし、応接間にはウィスタとマクゴナガルだけだ。ここにリーマスがいればたしなめられていたろうが、あいにくストッパー役はいないのだ。
「ヴォルデモートを憎むものが、今回のような事件を……マグル生まれの排斥など行わないでしょう」
それは闇側に加担することにほかならない。動機がありませんからね。
「俺は蛇語が話せますけど」
「所詮は異能のひとつです。悪い印象がつきまとっていますが……善なる者にも蛇語遣いはいますとも」
「仮に俺が腐ったハーポとかスリザリンの末裔だったら?」
マクゴナガルはためいきを吐いた。こころなしか眼を潤ませている。厳格で公正明大な魔女は、孫を見るような眼差しをウィスタに向けた。
「仮に『そう』だとしても、あなたは悪にはしらないでしょう。血筋ではないのですよウィスタ」
なにを選ぶかなのです。
それから懇々と言い聞かされた。しばらく休みなさい。あの大馬鹿者たちは処罰しました。あなたが戻ってきた暁には、私が全力で支援します。もちろんほかの教員も。
「ナイアードが特大の雷を落としましたから、あなたに危害を加えることないでしょう」
言って、マクゴナガルは書類を卓においた。休学の手引きと、よその学校のパンフレットだ。
「転校も構いませんし、お休みも問題ありません」
マクゴナガルはパンフレットを繰りながら説明してくれた。転校するならホグワーツと似ているイルヴァモーニーがいいだろうとか。
「転校までは」
正直そこまで決められないのだ。ウィスタは魔法界のことに疎い。ホグワーツから離れたいだけなのだ。考えるのもおっくうだった。
休む場合、勉強はどうすればいいのか、と水を向ければマクゴナガルはさらりと答えた。
「通信学習という形にしましょうか。あなたの保護者は優秀ですし、フォローもできるでしょう」
学生時代は監督生でしたし、学年でも上位の実力者でしたよ。マクゴナガルはどこか誇らしげだ。
「通信制って配慮しすぎてませんか」
贔屓だとか言われそうだ。が、心配は無用だった。
「寮生活を送りながら学びを進めるのが理想的ですが、ホグワーツにもそろそろ新しい制度があってもよいでしょう」
ダンブルドアに打診すれば、喜んで同意してくれましたとも。
「ホグワーツは魔法の徒に門戸を開くのですからね」
まずは身体と心を休めなさいね。やさしく言って、ついでに見舞いらしき大量のレモンキャンデーをおいて、マクゴナガルは去って行った。
「よかったあ……」
マクゴナガルを見送り、ウィスタは息を吐いた。
しばらく――それがどれくらいしばらくかわからないが――ホグワーツに戻らなくていいのだ。
ウィスタはぼんやりと空を見上げた。曇りである。雪もちらついている。だが、膝の上に毛布がのっているので平気だった。
「犬もいいなあ」
毛布もとい、ボーダーコリーの頭をなでてやる。ベンチで休んでいたら、駆け寄ってきて撫でろといわんばかりに頭をのせてきたのだ。
わしゃわしゃしてやれば、満足そうに尻尾を振る。ああ、家に連れて帰りたい。
ひたすらに犬とたわむれているうちに「坊っちゃん、冷えるからこっちにいらっしゃい」と小母さんに呼ばれた。『谷』の牧場主の奥さんだ。ウィスタが『谷』もとい村――をぶらぶらしていてもなにも訊かず、よくしてくれる。ただ「大変だったねえ」と言うだけ。
「手袋もしないで」
叱られ、手を引かれるようにして家に入る。ボーダーコリーは賢いので、玄関マットで足踏みし、汚れを落としていた。そこらの幼児より頭がいいな。
ホットミルクを出され、礼を言って手にとった。じんわりと身体があたたまり、ほっと息を吐く。穏やかな時間だった。
――ホグワーツとは違って
ウィスタは休みが明けてもホグワーツに戻らなかった。戻る気になれなかった、というほうが正しいかもしれない。リーマスと学校側で話はついていたし、意外なほど問題はなかった。
「そうだ坊ちゃん」
ネズミがたんととれたから、持ってお帰り。あとクッキーもあるからね。あとで渡すよ。
「ありがとう小母さん」
ネズミなあ、と遠い眼をする。
――ほぼ、問題はないのだ
牧場を後にして、ボーダーコリーを一撫でし、肩に鷲をとまらせ(重い)、頭に鴉をのせ(おい)、片手にネズミが入った袋、片手にクッキーの包みを持って帰宅した。
「将来、鳥使いにでもなるかい?」
「食ってけるならありだね」
返し、鷲を止まり木にうつす。鴉は振り落とした。クッキーをリーマスに渡し、ネズミを片手に客間へ向かう。止まり木がひとつあって、ふくろうがふんぞり返っていた。
「ほら、おやつ」
ぽんとネズミを投げてやる。えらっそーなふくろうは、遠慮なくがっついた。あまり見たいものでもないので、ソファに座ってしばらく待つ。肉や皮を裂くなんとも言えない音がおさまったのを見計らい、声をかけた。
「帰れよ」
カチ、とくちばしが鳴る。
「だからさあ、返事なくても帰れよ」
カチカチ。
嫌だと仰せだ、このふくろう。ウィスタはジト目でえらっそーなふくろうを見た。どこの子かって? マルフォイんとこの子である。
「お前の飼い主、マメすぎだろ」
無視された。飼い主と同じくえらそうだし話を聞かない。週三くらいで手紙をよこしてきて、ああだこうだこんなことがあった早く戻ってこいとうるさい。スリザリンの平均点が下がるから困るんだそうだ。
――いやお前
グリフィンドールもハッフルパフもレイブンクローも砂時計がほぼ空! ざまあみろと喜んでたじゃないか。黙っててもスリザリンが寮杯をとるだろうよ。
無能なダンブルドアなんて父上に言ってクビにしてやるとかなんとか、マルフォイはマルフォイなりに怒っているらしい。マグル生まれなんて学校に入れるからこんなことになってお前が苦労するんだとか。
問題発言満載で、ウィスタは手紙を読んで即座に燃やした。不用心だ。それこそスリザリンは差別的だと言われかねない。ウィスタに言わせれば、もはやどっちもたいして変わらん気がしてるが。つまり、ヴォルデモートみたいな過激派がいるかいないかの違いだ。
――あいつらが
自覚しているかは知らないけれど。ウィスタを襲ってきた連中。あそこで感情に任せてウィスタを襲ってもなんにもならなかった。いや、やるんなら集団パニックによる事故で死んでしまいました……くらいはやればよかったのだ。腹も括れてない、中途半端な臆病者ども。
かなり怪しい容疑者に手を出して、仕留め損ねて、寮の点を空にしただけ。
『お前とポッターの疑いが晴れつつあるぞ』
継承者なら、あの得体の知れない術を使うのだったら、襲われても反撃できたはずじゃないか。それにあんまりにもひどすぎる、と。「良識ある一部の連中」が言い始めた。ついでに保護者――主に純血派、さらにはスリザリン系が「普段は平等だのマグル生まれ擁護だのお綺麗なことを言ってますがお粗末なものですな。貴公らの子らは(訳バカじゃねえのお前らの教育どうなってんの首洗って出直せや)」とチクチクした。さらにさらに、リアイス一族のナイアード、教師として赴任している、あのナイアードが「そりゃもう怒っている」と保護者連中に噂が流れたんだそう。
で、なんとなく犯人探しもとい犯人叩きはおさまった、らしい。
「……まぁいいさ」
ボケどもがどう言おうが。ウィスタは机から羊皮紙と羽根ペン、インクを取り出す。
「今のクソ寒い城になんか戻らないぞ」
こうなったら、しばらく『谷』にこもってやる。
こんなにダラダラしていていいんだろうか。勉強はしているけれど、ホグワーツにいた頃に比べれば少ない。むしろ、あちこち出かけることのほうが多い――今のように。
「遠慮しないで」
私の奢りだよ。目の前にはにこにこ顔のトンクス、サンドイッチやらポテトが盛られた皿。
「ありがとうおねーさんチョー素敵」
適当に返せば、トンクスはにやりとした。気の良いおねーさんなのは確かだ。わざわざ非番の日にウィスタを連れ出しているのだから。
満月が近くなり、トンクス家に預けられたのだ。もちろん抵抗した。迎えに来たトンクスの前で、リーマスと言い合った。そしてしびれを切らしたリーマスに気絶させられたのだ。ひどい。アンドロメダに説教され(あのね、リーマスはあなたのために動いてるのよ)(これ以上心配させちゃだめよ)(クッキーを焼いたから食べなさい)、テッドには慰められ(それにしたってテディ・ベア買ってくるか?)、トンクスことニンファドーラ・トンクスは、ウィスタを不憫に思ったのか、休暇を取って連れ出してくれた。
――素敵っつうか
活発というか。迎えに来た時も、ライダースジャケット着てヘルメット装備してバイクで颯爽と現れたのだ。派手な髪色もなにもかもしっくりきていた。誰がこのひとを闇祓いと思うだろう?
そしてそんなバリバリの私服で職場(魔法省)にウィスタを連れてくるなんて。
「見学目的の子ももちろんいるし、省も勧めてるからね」
「人の心を読まないでくれる?」
「開心術は使ってないわよ」
言いながら、トンクスはサンドイッチを平らげていく。どこに入るんだその量。
「読心術?」
「開心術」
ふん? と見返せば、トンクスは簡潔に教えてくれた。心をこじ開ける術だとか。
「ルキフェルが得意よ。あなたの親戚で闇祓い」
親戚なあ。どれだけいるのだろう。ナイアードはホグワーツに残っているし、ヘカテはたまにやってきて、ウィスタの診察をする。リアイスというのは有名一族らしいが、ウィスタにはぴんときていない。今のところ、厄介ごとばかり引き寄せるクソみたいな名だ。スリザリンの連中からはビビられ、グリフィンドールからも微妙な反応をされ、だ。
「今日はここかデスクか……あ、いたわ」
ルキフェル、とトンクスが片手をあげた。ちらとそちらに眼をやれば、金髪の男と黒人が振り向くところだった。ウィスタは胸のバッジ――見学者バッジをなでさすった。どうすりゃいいんだ。
「今日は休みだろうトンクス?」
「なんだいつの間に弟なんて――」
さっとやってきた二人は、ウィスタを見て勝手に納得したようだった。いっそのことトンクスの弟で通したい。
「ああ、そうか。お出かけかいウィスタ。トンクスが迷惑をかけてないかい?」
金髪の男がさらりと言い、黒人がこほんと咳をした。
「ルキフェル、初対面なんだぞ一応」
「そうだったな」
二人はひょいと席についた。どうやら闇祓い三人と学生でランチするしかないらしい。
「僕はルキフェル、こっちはキングズリー。キングズリー・シャックルボルト。トンクスと同じく闇祓いさ」
てきぱきと紹介を済ませ、ルキフェルはいつの間にやら全員分の紅茶をいれていた。
「砂糖とミルクはいらないね?」
はいと言うべきかうんと言うべきか迷う。結局頷くだけで済ませた。それにしても、なんでウィスタの好みを知ってるのだろう。
「ナイアードに聞いてね」
にっこり。なにかごまかされてる気がしたが「リーンに似てるな」と黒人ことキングズリーに言われ、気がそれた。
「眼の色がそっくりだ」
「母を――?」
「後輩だった」
だった。声がわずかに湿っていた。キングズリーは、含みがあってウィスタの眼に言及したわけじゃないのだろう。
たとえば「母親と同じでスリザリンに組分けされた」とか。そういう含みはない。
「優秀だったよ。とても」
誰も彼女の出身寮なんて、気にしてなかったさ。
ウィスタの内心を読んだように、キングズリーが言う。ウィスタの紅茶を注ぎ足した。茶器に波紋が描かれる。
「それにスリザリン系だからって悪に走るわけでもない」
一部の過激派だけさ。君はわかっているだろうが。キングズリーは片目を瞑る。
「うちは穏健派だから迷惑してたよ」
シャックルボルト家はスリザリン系の家らしい。けれど、キングズリーがどの寮だったのかさっぱりわからない。穏やかで落ち着きがあって。グリフィンドールっぽくないし、スリザリン気質かと言われれば(スリザリンにも色々いるけど)それも違うように思うし。レイブンクローもありえるし、ハッフルパフもありだろう。
「どこだったの?」
仕方ないので訊いてみた。
「内緒だよ」
成り行き任せのランチを終え、休憩時間が余っているらしく、ルキフェルとキングズリーも加わって、謎の見学ツアーは続行した。といってもぶらぶらするだけだ。執務区画ではなくて、公共区画を案内された。いわゆる見学者向けの経路をたどり、魔法省の設立どうこうの案内を眺め、闇祓いについて訊いているうちに、エントランスに戻っていた。趣味の悪い黄金像、その下にある『和の泉』に、金貨をいくつか投げ入れた。どうせたいして使わないのだ。寄付したっていいだろう。
「おや」
どこの成金坊ちゃんざんす?
低めの声に眼を上げる。派手派手しい女がいた。ロックハートより派手かもしれない。羽根ペンとクリップボードをふわふわ浮かせていて、お硬い役人には見えなかった。
――ブン屋か
記者。ジャーナリスト。アンドロメダが「ああいう『もどき』には気をつけなさいよ」となぜか気にしていたのを思い出す。あなたは目立つんだから。リーンの息子だし……。
「今度はなんの取材かな」
リータ。キングズリーがすっと前に出た。広い背中に隠されてしまう。ルキフェルとトンクスは冷たい気配を漂わせている。
「安心するざんす。あんたらについてじゃなくて、燃え上がる恋の話を追ってるから」
それよりも。声に笑みがにじむ。
「そこの坊ちゃんは隠し子ざんすか?」
「隠し子どうこうの前に私は未婚だ。それとも適切に動かずに隠し子を作る男に見えるのかな?」
「あんたに隠し子なんて発覚したら、ファンが倒れるざんす。そして記事が売れる!」
「リータ、君は頭がいいだろう。性根はよろしくないが」
「私の記事を求める読者がいる限り、書くだけ。そこの坊ちゃん……リーン・リアイスの息子でしょ。稀代の闇祓いの眼を継いだ少年……あらゆる意味で悲劇の――」
「そのあたりに着火するほど腐ってないと信じてるんだが?」
キングズリーの声が、刃の鋭さを帯びた。
「児童虐待を追って悪を暴きたまえよ。あれで名を挙げたくせに。燃え上がる恋やら悲劇の少年やら追ってどうする」
「世間の求めるものを追うだけざんすよ」
ふん、とブン屋が鼻を鳴らした。ウィスタはキングズリーの背から出るに出られず穏和しくしていた。そもそも、キングズリー、ルキフェル、トンクスが壁になっていて、なんも見えやしない。
「おちびにはお優しいことざんすね。キングズリー。だけど」
かつ、と靴音が響いた。
「真実を隠すのは優しさじゃあないざんすよ」
どうせ知ることになるんだから。