なんか前の話を境に一気に評価が下がった、何か嫌いなもんでもあったのかなぁとか作者的に考えてみたりもしますよね。
虎杖の気配が変わったことに、宿儺は気がついていた。
ヒリついた空気、瞳の奥に存在するドロドロとした激情の更に奥、そこで今かと今かと蠢く何処までも純粋な殺意に加えて、刃のような鋭さを見せ始めた虎杖の呪力。
更に加えて虎杖自身が発した契闊という言葉、本来であれば己以外が使うことは無いであろうその言葉から、宿儺は虎杖が何らかの縛りを発動したと推測した。
そして、その推測は当たっている。
深く息を吸い上げ…爆ぜる。
加速、加速、加速…地面を全力で蹴りつけ爆音を掻き鳴らしながら宿儺の懐へと飛び込んだ虎杖は、その勢いのままに遠心力を乗せた回し蹴りを宿儺の首筋目掛けて振り抜いた。
迫る虎杖の蹴り、音を裂き文字通り刃のような蹴りが宿儺の命を刈り取らんとやってくる。
それに対して宿儺は防御を選択、振り抜かれた蹴りが不可侵を突破してくることを予期した上でソレを防ごうと腕を掲げ…サクリと、蹴りが腕の中へとスルリと入り込んでくる。
「───お?」
何処かキョトンとしたような声、興味深い物を見たとでも言うように漏れ出た宿儺の声、それとほぼ同時に宿儺は上体を大きく仰け反らせた。
瞬間、防御に使った宿儺の腕が何の抵抗も無く跳ね跳ぶ。
呪力強化に不可侵、それら全てが無意味であると言わんばかりに半ば無抵抗気味に斬り飛ばされた己の腕、宙を舞うその腕が宿儺の視界に入り込む…その上から、虎杖の踵落としが炸裂する。
宿儺自身の斬り飛ばされた腕の上から半ば不意打ち気味にやってきた一撃、呪力をまとったソレを防ごうと宿儺は腕を動かし…ふとしたように、ソレを止めた。
「───術式反転」
───『赫』
炸裂する発散の赫、収束した空間を発散する弾く力が虎杖の肉体を狙い撃ち、その身体を後方へと無理矢理押し流す。
腹部にモロに入った一撃、骨がギャリギャリと削れるような音が体内から鳴り響くのを感じながら虎杖は止まった息を無理矢理吐き出し…笑った。
───女の時よりも、痛くない…!
駆け出す、呪力を漲らせながらズンズンっと駆け出す虎杖の姿、それを視界に収めながら宿儺はグッグッと微妙な表情のままに掌を握り込む。
明らかな出力不足、先の五条菫の赫に比べて見てもあからさまに威力が足りていない、術式に慣れていないというのもあるのだろうが───
「…ハッ、小娘めが」
嘲笑う、満身創痍でありながら未だに抵抗を続ける己の内側の居る小娘の悪足掻きを、宿儺はどうしようもなく無様と嘲笑った。
───『断』
振り抜かれる手刀、大上段から振り下ろされる絶対切断の一撃が呪いの王の命を奪い取ろうとやってくる。
振り下ろされる一撃、大太刀でも持っているのではないかと思わせられる程の危険な圧力、刃物を持つ者から発せられ特有の圧力が宿儺の触覚へと届き…それが尚の事、呪いの王を楽しませる。
横合いから虎杖の手刀を殴りつける、最小限の動き且つ最高速度の動きにて振るわれたその一撃は、容易く虎杖の手刀の軌跡を逸らすことに成功した。
虎杖の内部にて、『断』の作成過程を一から十に至るまで見物していた宿儺は知っている、『断』の効能はあくまで攻撃時のみに発動されるということを。
言ってしまえば刀の刀身の様な物だ、刃に当たる部分が存在し、峰や腹に当たる部分もまた存在する…故に、防ぐことは出来ずとも弾き逸らすこと程度ならば可能なのである。
弾かれた、自身の必殺が弾かれた…その事実に虎杖は───
「───ラァァッ!!」
構うことなく、宿儺を全力で殴り付けた。
宿儺には誤算があった…それは、虎杖の『断』の範囲を見誤ったことである。
自身が縛りを破ったことによる虎杖の強化、契闊と唱えた時点で宿儺はその縛りに時間制限があることをなんとなくで理解し、それが自身同様、三分間程度のものであることも推測出来ていた。
そうして始まった戦闘内に於いて、虎杖が連続して『断』を発動したことで宿儺は虎杖に設けられた縛りの内容をこう解釈していた。
その推測は大凡当たっている、確かに虎杖は縛りの制限時間の間、自身が定めた縛りの呪縛から開放される、そこは間違っていない…間違ってはいないが、一つ足りない。
これが宿儺の誤算…その原因は、虎杖自身が認識出来ていなかった暗黙の縛りによるモノだった。
虎杖は『断』を使う際、相手を斬り裂くことを前提としていた、宿儺の術式から作り出したオリジナル…派生技と言うこともあってか、虎杖の意識は何処までも斬撃という形に囚われていた。
故に虎杖の『断』は肉体に於ける斬撃が可能な攻撃で無ければ発動しないという無意識的な縛りを抱え込んでおり…それが結果として、宿儺の虚を突いた。
三分間の間、虎杖は縛りから開放される…そう、間違ってはいない、事実虎杖は解放されていた。
三分間、虎杖の放つ全ての攻撃が『断』と同様の効果を持つという効能により、虎杖は斬撃という体を取らなければ『断』を放てないという縛りから、確かに解放されていたのだから。
宿儺の右下腹部が、抉り飛ぶ。
『断』の発動など特に意識していない一撃、あくまで『断』を警戒していた宿儺の虚を突こうと放たれたその一撃は、結果として宿儺に確かな損傷を与えた。
内蔵が溢れ落ちる、血と糞を撒き散らしてベチャベチャと地面へと落ちていく臓物とその匂いに虎杖の意識は一瞬停止する、予期していないその自体に思考の整理が追いつかない。
宿儺はそんな虎杖にやってくれたなと笑みを浮かべ…唱えた。
「───位相 波羅蜜 光の柱」
───術式反転『赫』
詠唱込みで放たれる赫、至近距離の上に虎杖自身もあまりに突発な予想外に思考が鈍く、宿儺への反応に遅れを取る。
禍々しくも神々しく、何処までも鮮烈な赤黒が虎杖の視界に入り込む、ほんの少し手を伸ばせば届くような距離から放たれたソレは実質的な必中と変わらない。
躱せない、当たる…そう認識した虎杖の真横から、それはやってくる。
───『邪去侮の梯子』
虎杖の真横からやってくる呪力放射、先程から見知ったその輝きは虎杖ごと放たれた赫を飲み込み、その一撃を水泡に帰す。
ピンポイント、宿儺を狙いから除外しあくまで虎杖と赫だけを狙った邪去侮の梯子、包まれた光に宿儺は虎杖を見失い、その動向を探ることは出来ない。
つまりところ、一種の目眩ましである。
光から虎杖が飛び出してくる、拳を放つ体勢で以って突っ込んできた虎杖に宿儺はカウンター気味に蹴りを放ち、その動きを堰き止める…が───
「アァァアォァォァォッッッ!!!!」
そんなの関係無いと言わんばかりに、知ったことかと言わんばかりに虎杖は無理矢理宿儺へと接近し、その横面に拳を叩き込もうとする。
恐ろしい圧力、術式込みで放たれた蹴りが直撃したというのにまるで意にも返さない。
正しく羅刹、そう呼ぶ他に無いだろう。
拳が放たれる、顔面目掛けて放たれたそれを宿儺は顔を逸らして躱し、堰き止めていた足を離して大きく踏み込み、虎杖の鳩尾へと掌底を放つ。
既に右下腹部の治癒は終わっている、虎杖の内側に存在した宿儺は虎杖同様、魂の輪郭を捉えることが出来る、反転の治癒は容易だった。
そんな万全の状態から放たれる掌底、最小効率で最大速度に到達した宿儺の掌底が虎杖の鳩尾へと衝突し、その衝撃が虎杖の内側へと浸透していく。
所謂『発勁』と呼ばれた武術、それに良く似た一撃が虎杖の肉体を打ち、その肉体を戦闘不能直前にまで容易く追い込む。
ガバっと口から吐き出される血反吐、大量に吐き出されたそれらが跳ね散り宿儺の頬へと少なくない量が付着する…それを意にも返さず、宿儺は虎杖の身体を蹴り飛ばした。
───『邪去侮の神槍』
瞬間、上空から無数の槍が降り注いでくる。
虎杖を避けて放たれたそれらは宿儺だけを一方的に狙い撃ち、本来であればあり得ない程の速度にて一息の間にそこら一帯へと降り注いでいく。
降り注ぎ地面をへと突き刺さる音が連続して耳へと届く、端から聞いてみればマシンガンか何かをぶっ放しているのでないかと勘違いされそうな爆音を掻き鳴らして降り注ぐそれらの隙間を宿儺は余裕そうな表情で潜り抜け…ふとしたように、その表情を切り替えた。
まるで、懐かしいものを見たと、そう言うたげな表情へと。
───出力最大
瞬間、空気が物理的に凍える。
突如として下がった体感気温、まるで真冬真っ盛りの最中に雪が降った時のような感覚、それと同時に出現した呪力反応に上空にて滞空していた天使が反応する…が、遅い。
───『霜凪』
放たれるのは氷凝呪法の極意、何もかもを認識する間もなく凍結させる氷嵐の渦が天使を筆頭に虎杖ごと巻き込んで一帯を氷の空間へと作り変える。
吐き出される息が明確に白くなる、冷気を纏ったそれが宙を泳ぐ様をぼんやりと眺めながら、宿儺は自身の前で跪いたソレに何気無いように声を掛けた。
「───裏梅か」
「───お久しゅう御座います、宿儺様」
呪いの王とその従者、千年の時を得て両者はようやくと言ったように、再会を果たした。
虎杖くん
実は縛りによって与えられた恩恵を完全に理解していなかった子、だから普通に手刀やら何やらで攻めてた。
宿儺の術式=斬撃のイメージが強すぎて、無意識的に手刀や蹴りと言ったアニメや漫画で使われてる素手による斬撃的な体を取らないと『断』を放てないようにしてた子。
菫さん
死に体の状態で未だに足掻いている、因みに身体を取り戻しても虎杖くんに首チョンパされるだけです。
一応宿儺の出力を邪魔することに成功しているが、そこ以降は特に役に立っていない。
宿儺
腹ぶっ飛ばされた時に割と本気でびっくりしてた人、結構楽しかったのでまぁ良いかと思ってる人。
虎杖に対する印象…枝豆。