今日は本当に筆が乗らなかったので、番外編と言う名の筆休め回です、メロンパンにも存在した苦労話とか結構好き作者は。
それもこれもエルデンリング(DLC)とか言うのが全部悪いんだ、やりすぎて頭が痛い。
「………チェンジで」
男…羂索は、その姿を見るなり一言そう呟いた。
普段からヘラヘラヘラヘラと笑っているのがデフォルトの男、他人の人生を基本的にこれでもかと無茶苦茶にすることが日常茶飯事の男が、今日に限ってはどうしようもない程に真顔だった。
何故か…理由は、その視線の先にあった。
揺れる白と菫色の髪、長かったはずのそれは肩口程に切り揃えられ、ニヤニヤと歪んでいた表情は何処か冷めたようなソレへと変わっている。
菫色の瞳は煌々と輝き、何気無い首を鳴らす動作ですら何処か気品を感じさせるその姿を、羂索はトコトン真顔で見据えていた。
「…一応聞いとくけど…なんでそいつにしたの?」
嫌そうな声色を一欠片も隠さず、羂索はその表情を歪めながら言葉を吐き出す、吐き出された言葉には露骨に嫌悪感が滲んでおり、如何にそれが嫌で嫌で仕方が無いのかをこれでもかと証明していた。
それに対して菫…宿儺は、何処か馬鹿を見るかのような瞳で羂索を見据え、何気無いように言葉を吐いた。
「───獲物が自分から罠に掛かりに来た時、貴様はどうする?」
「なるほどね、完全に理解した」
コキリコキリと首を鳴らす、何処までも何気無く、心底から何を言っているんだこいつはとでも言いそうな雰囲気を醸し出しながら放たれたその言葉に、羂索は納得すると同時に頭を抱えた。
要するに、宿儺としては誰でも良かったのだ、誰でも良かったから偶然近づいてきていた五条菫をこれ幸いにと標的にしただけだったのだ。
宿儺からしてみれば器は別に虎杖のままでも良かった、何なら伏黒恵でも五条悟でも良かったし、何だったら羂索を器にしても良かったのだ。
誰をどうこうと狙った訳では無い…ただ偶然、禪院廻と戦う上で最も効果的な術式を持つだろう存在が間抜け面晒して目の前に転がり込んできたから、それを刈り取っただけに過ぎないのだ。
何ということは無い、ただ運が悪かっただけの話だ…ただ、偶然敵対した相手が不可侵を超える術を習得していて、その中に偶然宿儺が居ただけという、そんなありきたりな不幸な笑い話だ。
呪術的界に於いては遭遇するのは珍しくも無い不幸…その事実に羂索はやはり頭を抱えた、どうしてこうなったと抱え込むしかなかった。
やってきて早々に目にしたのは破壊粉砕何でござれな超が付くほどのトラブルメーカーの姿、感じ取った呪力から宿儺であることは即座に理解出来たが、それはそれとして面倒なことこの上無い。
「…菫はどうしてるんだい? 寝てるの?」
抱え込んだ頭、その手の隙間から疲れ切ったような瞳を覗かせなが羂索は口を開く、あの傍迷惑の権化のような存在は未だに眠っているのかと問いかける。
羂索からして、こと計画の実行に於いて一番厄介だったのは禪院廻でもなければ五条悟でもなく、五条菫その人であった。
傍迷惑の権化とも言える性格にその神出鬼没の出現場所、目に付き気分が乗れば壊して直してを平然と行い、これまた気分になれば他人の計画を善悪問わず平然と潰す。
人間関係何それ美味しいの? 呪術界のバランス何それ美味しいの? 一億呪霊何それ美味しいの? …よしんば菫がこれら単語に対する反応を見せた場合、きっと返って来るのはこういう反応だろうという確信が羂索にはあった。
自分は基本的に自己中心的だという自覚が羂索にはある、面白そうなことが本当に面白いのか確かめたくて人類皆殺し待った無しの災害を引きおこそうとしている男だ、そこら辺にはキッチリとした自覚が存在していた。
しかし、五条菫にはそれが無い…自己中であることは分かっていてもそれが壊滅的にという前振りが付くことに気づいていない、だからこそ五条菫という存在は平安に於いて一種の災害扱いされていたのだ。
だからこそ、羂索は五条菫に起きてこられては困るのだ。
そんな何処か切実な意思の籠もった羂索の言葉に対し、宿儺は───
「───知らん」
あけすけに、その言葉を一刀両断にぶった斬った。
興味が無い、もう二度と起こす気が無いから問題無い…そう言いたげな言葉の一刀両断に羂索はその顔をゲンナリとさせた。
実際知らないし興味が無いのだろう、宿儺は五条菫の肉体を手に入れて以降、五条菫に接触していない。
生得領域内、自身の生得領域の中で魂の形を捉えようとしている矮小な小娘、治して以降の起きぬけの目覚ましコールが鬱陶しいのだろうなという程度にしか、宿儺は五条菫を認識していなかった。
起きてきたのなら虎杖の『断』の要領で覚えた魂への斬撃を菫へと叩き込み、魂の奥底へと再び沈ませれば良い…そんな思考の下に繰り出されたその言葉に、羂索はカリカリと頭を掻いた。
「…まぁ、君が良いと言うなら別にそれでも良いんだけど…さて───」
───どうしようか?
羂索は苦悩していた、天元を奪りに行くべきか行かざるべきかと。
五条菫の存在を認識したあの日から、羂索は慎重に慎重を重ねざるを得なくなっていた。
天元と合流したであろう乙骨や九十九由基の存在、更にそれに加えて何時現れ、何時暴れ出すのかとんと見当も付かない五条菫の存在が羂索の行動を著しく阻害していたのだ。
乙骨と九十九だけならどうとでも出来た、三途を連れていけばまだ五分五分どころか此方側の有利で事を運ぶことも出来た…しかし、そこに五条菫という雑音が混じる。
何時如何なる時に現れるのかも不明な快楽主義者、本人の性格からして唐突に現れてその場に極ノ番投下した挙げ句にゲラゲラ笑って煽る光景が容易に想像できてしまう辺りが最早最悪なのである。
結果として、羂索は禪院廻が点数集めに奔走しているというこの最大の好機を前に動き出すことが出来ずに手を拱き、こうして本来悩む必要の無いことで悩みに悩みまくっているのである。
五条菫はこうして宿儺の器となった、気分的に計画を無造作に邪魔しそうな障害が取り除かれたのだから天元を奪りに行っても問題は無い…のであれば、羂索は当に薨星宮へと向かっている。
しかしそれは出来ない、何故ならば宿儺が五条菫を器としてしまったからだ。
最凶とが絡み合った現在、無下限呪術にそれを扱う為の目という宿儺という存在に最も与えてはいけない物を与えられた現在、恐らく天元自身も警戒の度合いを跳ね上げたはずだと羂索は若干の直感を交えながらも思考した。
宿儺と羂索…片や呪いの王でもう片やは最低最悪の術師、何方か一方だけを残すということなぞ当然許されない二人の存在、何方の優先度が高いかと言われれば、何方も比べようの無い程に高いと言わざるを得ないのが現状である。
カリカリと額を引っ掻く、何をしても思い通りにはいかないだろう現状に思わずと言ったように爪をガジガジと噛みつけ、勢い余って爪ごと肉を噛み切る。
ダラリと流れ出す血流に舌へと染み渡る鉄の味、五条菫が居なくなった事実に対する喜びの感情とソレによってごちゃ混ぜと成り始めた現状に羂索は参ったねと半ば弱音に近い言葉を吐き出した。
五条菫は居なくなった、喜ばしいことだ…しかし、結果としてそれが羂索の求めていた混沌とはまた別の混沌を作り出している事実に羂索は苛立ちを隠せない。
羂索は五条菫を呪物にはしなかった、頼まれはしなかったが頼まれてもする気が無かった、何故なら必ず自身の計画を無茶苦茶にしてくるから。
何をするにしても自分勝手、呪術師とはそういう生き物であると自認している羂索ですらそう感じてしまう程に五条菫という人間は好き勝手に生きるような人間だった。
千年前…特に禪院廻が存命であった時期は本人がその行動を制止、牽制していたこともあってそう言った部分が突出して目立つことこそなかったが、その止めていた本人が死亡したことでそれらの要素が著しく悪化していったあの光景を羂索は未だに覚えている。
鬱陶しいからと進めていた計画をボコボコに破壊されたことがあった、面白そうだからと悪戦苦闘しながらも作り出した呪具を目の前で壊されたこともあった。
念入りに慎重に進め、遂に達成間近となった作戦を目に付いたからという意味の分からない理由で中途半端に邪魔された挙げ句に敵対者にその情報をリークされたことが切っ掛けとなって死にかけたこともあった。
宿儺のストーカーをしていた女に『アイツは宿儺を狙ってるんだよ』という割と雑な嘘が原因で三日三晩に渡ってそのストーカーに執拗に追いかけ回されたこともあった。
思い返せば思い返す程に湧き上がってくる何時かの記憶、痛みと失敗とその他諸々の過去の思い出達に羂索は思わず苦虫を噛み潰しそうになる。
居たら居たらで散々人様に迷惑を掛ける癖に、いざ居なくなったらそれはそれで人に迷惑を掛けてくるというあんまりにもあんまりな人間の姿、最早笑うしかないのが現状である…故に───
「…宿儺」
「───ん?」
「本当に頼むから───」
───そいつだけはもう二度と起こさないくれ、頼むから。
羂索は、半ば本気で宿儺へとそれを懇願するのであった。
メロンパン
無意識的に菫にはトラウマを抱えている人、過去に散々やられまくったせいで五条悟復活とかよりも五条菫復活の方が意地でも嫌な人。
菫が虎杖にやられたという話を聞いた際、年甲斐も無くはしゃいでお高く美味しいお酒を全開封した。
因みに宿儺も飲んだ、ご満悦だった。