台風の風が怖い、真面目に怖い。
───話は終わったか?
唐突に響いてきた声、確かな威圧感を含んだその声にピクリと獅子王の耳が動いた。
ギャイギャイとした説教のような何か、それに対してタハハと笑う五条の姿に若干の呆れを滲ませた廻のその背後、声が響いてきたその箇所から軌跡を帯びた呪力が飛び───
「───あぁ、お前待ちだよ」
それを廻は、さも当然のように素手で弾き飛ばした。
日常会話の中にありそうな会話、話の終わりを待っていた男へお前が来るのを待っていたと話しかける場面…そんな日常風景の片隅に存在していそうな応答と共に、禪院廻は自身へ向けられた呪いを退けた…それを、五条はニコニコとした笑顔で見据えていた。
「───遅かったじゃん王様、僕が一番乗りだよ?」
開いた口から発せられたのはクソガキと言われた所以とも言える生意気な言葉、声質から色に至るまで何処までも自身を舐め腐り馬鹿にしていると確信させられるようなソレに王は…宿儺は口角を吊り上げた。
「ほざけクソガキ…退け、そいつは俺の
「……ハッ、冗談……そっちが消えろよ」
売り言葉に買い言葉、可視化出来てしまうのではないかと錯覚してしまう程に濃く重い殺意と殺意、ゴキリと鳴らされた手がそれら殺意と共に動き出す。
一触即発…何時暴発するとも知れぬ爆弾、その導火線がとんでもない速さで以って消えていくが如く、突きつけ突きつけられた殺意と呪いは容易く両者の内から会話の選択肢を抜き去り、闘争の選択肢だけを提示し───
「……とりあえず、勝手に人様の身柄巡って殺し合うの、やめてくれないか?」
───領域展開『廻輪奇劇』
そしてソレを、禪院廻は躊躇無く踏み潰した。
あまりに唐突且つ突発的に展開される領域、何処か呆れたような表情で印を結び、自身の奥義を解き放つ。
展開される領域、宿儺と五条という最強達を相手に廻は領域を展開させる間も与えず両者の身体を一気に影に呑み込ませる。
静かに音も無く出現する超大型の円形に整えられた木製の舞台、その上に何時の間にか立たされていた三人は各々の反応を見せる。
初めて見る親友の領域に、状況を忘れて興奮を隠せない者。
二度目のソレに今度は何が出てくると期待を隠せない者。
そして───
「───…はぁ」
深く、深くため息を吐き出す…まるで、心底疲れたとでも言いたげな様子で、廻はため息を吐き出した。
実際に疲れているというわけじゃない、体力も呪力もまだまだ余裕綽々と言って憚らない程度には量がある、やろうと思えば…まぁ、勝てるわけないのだろうが…この二人を同時に相手になんてこともまぁ出来なくもない。
ならばそのため息は何処から出るのか、その感情の出所は何処にあるのか……なんてことはない、そこに在るのは禪院廻という人間になってから…実際に対面してからずっと感じ続けた眼前の化物二人に対する感情だけ。
即ち……呆れの感情。
「……楽しそうにしちゃってさぁ」
思わずと言ったように呟き、仕方の無いものを見るかのような瞳で眼前の二人を見据える。
視線の先では笑みを浮かべる化物二人…本当に心底から楽しくて仕方が無いと、そう言ってのけそうな表情をした両者の姿に、廻は再びため息を吐き出した。
何も変わらない…分かってはいたことだが、五条悟は小さい頃から、宿儺は初めて出会ったあの瞬間から、両者共に何一つとして変わっていない。
狂気的な笑み、獣が人になったのではないかと言わんばかりの凶悪で本能的な殺戮の笑み…幼少期に蒼を撃たれた時、千年前のあの日に斬撃を撃たれたあの時…そこから感じる印象が何一つとして変わっていない。
分かってはいたことだし、だから何だという話でもあるが、やはり考えれば考える程に変わっていないなと今度は内心でため息を吐き出し…深く、息を吸い込んだ。
「…とりあえず悟───」
───お前は出ろ。
何処か万感の想いを込めて放たれたその言葉に五条は…は? と何を言われたのか分からないと言いたげな表情を晒し…その次の瞬間、五条の肉体は強制的に領域内から外へと弾き飛ばされた。
一瞬の内に行われた領域外への放出、五条がそれに抵抗するよりも尚も素早い速度にて行われたソレはいとも容易く五条悟という現代の最強を領域内より追い出し、廻と宿儺という平安二人組の状況を作り出した。
「…ケヒッ、良いのか?」
「良いんだよ…どうせ、悟が居たら話したくても話せないし」
領域によって外に物体を放り出した感覚…その直後に響いてきた外殻を打たれる感覚に若干悪いことをしたかなと思考し、その直ぐ後にまぁ悟だから良いやとそれら思考をポイ捨てした。
「───…元旦だ」
ふと、声が響いた…湧き上がる愉悦を済んでのところで抑え込んだような、そんな声が。
「一月一日、元旦…そこを、俺とお前との決着の時としよう」
菫色の瞳が真っ直ぐと廻を見据える、それだけをしか見えていないと思わせるような力強さで廻を見据える宿儺に、廻は何処か意外そうに宿儺へと言葉を発する。
「…お前はそういうことに拘らない奴だと思ってたんだけど……その日に何かあるのか?」
暗に何を狙っているのかと問いかける、あまりにド直球で隠し事もクソも無い問い掛け、それに対して宿儺は何か可笑しなことを聞かれたとでも言いたげにクツクツと笑みを溢し…その口を開いた。
「───縁起が良いだろう?」
「───何言ってんのお前?」
咄嗟に疑問の言葉を吐き出した、あまりにらしくないその言葉に廻は思わずと言ったように素の言葉を宿儺へと発していた。
縁起が良い…まぁ確かにそうだろう、元旦という新年一日目の朝という意味でなら確かに縁起が良いと言えるのだろう…しかし、それをよりにもよってあの宿儺が口にしたという事実が廻の脳内を混乱させた。
あまりに突飛でらしくもない発言に全力で困惑する廻、それに対して宿儺は何処か小間抜けな人間を見るかのようにクツクツと笑みを溢しながらも口を開く。
「節供…今の人間はおせちと呼ぶのだったか? それを無性に食いたくなってな」
お前はソレに丁度良い…そう言ってのけた宿儺は、その口から垂れた涎を乱雑に拭いながら、隠しきれない欲望の瞳を廻へと向けていた。
それを廻は辟易としたような瞳で見据え、何処かドン引きしたかのような表情を浮かべながらも心の底の納得感のままに言葉を吐き出した。
「作ってもらえよ裏梅さん辺りに」
「あぁ、作らせる…だが、それとこれとは話が別…というやつだ」
「えぇっ…?」
心底からの呆れと辟易、俺をおせちとか何を言ってんのだこいつはと、そんな訳の分からないモノを見るかのような目をしながら発したその言葉は、しかし宿儺には指一本も届かない。
節供? 食うに決まっているだろう、それはそれとしてお前を喰らいたいと、ソレとコレとでは別腹なのだとでも言うようにギラギラとした瞳で廻を見据える宿儺に、廻は困惑の表情を浮かべることしか出来なかった。
何がどうしてお前を掻き立てるのか、己の何がお前をそこまで湧き立てるのか…幾ら考えても答えの出ないソレに廻は頭をガジガジと掻き毟り…ふとしたように深く長いため息を吐き出した。
「…分かった、元旦だな、覚えとく」
確認のように口に出しながらコキリと首を鳴らす…今日は良くため息を吐くなとどうでも良いことを考えながら、特に意味も無しに何気無く舞台の上を歩き出す。
コツリコツリ、ギシリギシリと足音が響き渡る…何気無く、特にこれと言った意図も無く、ただ静かな空間に確かな実態を持って響き渡るその音に廻はその瞳を細め…ふとしたように、口を開いた。
「───…お前、俺に勝ったらどうする気なんだ?」
それは何気無い疑問だった、本当にふとした時に湧いて出た疑問、自身に拘る宿儺の姿を見たことで生まれてしまった少しの疑問。
禪院廻に勝ち、そして禪院廻を殺したその後、呪いの王と呼ばれたお前は一体どうするのか、何をどのようにして生きていく気なのか。
平安の頃のように生きるのか、現代に於ける立ち塞がるモノ全てを踏み下しながら自身の快不快のみを根拠として生きて行くのか、何一つ変わらず生を全うしていくのか…そんな、分かり切った問い掛けを、廻は宿儺へと問い掛けた。
分かり切った答えだ、宿儺が宿儺である限りその生き様は変わらず、当然それによって引き起こされる惨劇も変わらない。
宿儺という存在は何処まで行っても
そんな問いに、らしくもないなと宿儺は笑みを溢し…ふとしたように口を開いた。
「───知らん、決めておらん」
そう答えた宿儺は、何処か曖昧な表情を浮かべていた。
宿儺
おせち(満漢全席)をロックオン、廻と戦う前に年越し蕎麦を食べる気満々。
ごじょせん
放り投げられてから外殻殴りまくっていた男、虚式ブッパしてやろうかなとか考えてる。
廻
何でこいつ俺のことおせち扱いしてんの?(ガチ困惑