アカン…宿儺戦の終わる気配が見えねぇ。
踏み込み、拳を敵手へと叩きつける。
ダンっと踏み鳴らされる強い踏み込み、ほんの一度の踏み込みにて一気に宿儺の間合いにまで踏み込んだ廻はそのまま宿儺の横面目掛けて拳を突き出した。
真っ直ぐと突き出された廻の拳、空気を裂いて突き進むその一撃に宿儺は徐ろに戟を地面へと突き刺すと同時に手放し…その手放した腕でパシリと拳を受け止め、掴み取る。
引き寄せる…掴み取った拳を万力の力にて握り締め、グイッと力尽くでその身体ごと自分の方向へと引き寄せる。
そこへ突き刺さる三つ腕の攻撃、右から左から左右同時に降りかかってくる多腕特有の同時攻撃が廻に襲い来る。
右からやってくる二つ腕の二撃を片腕と足を駆使して捌く、上腕部分の一撃を残った片腕にて叩き落し、下部の一撃は片足を上げることで防ぐ…が、左からやってくる一撃は防げない。
宿儺の拳が廻を打つ、左の拳が廻の脇腹へと突き刺さりその身体を大きく曲げる、突き刺さった拳がその態勢を崩し如何にもな隙を晒させるに至る。
そこを起点として始まる乱打乱打乱打、崩れた体幹へと追い打ちを掛けるように降り注ぐ無数の拳、左右から同時にやってくる連打に次ぐ連打が廻の肉体へと打ち付けられる。
顔面、腹部、脇腹に鳩尾…次々と突き刺さる宿儺の打撃、一つ一つが正確に且つ素早く廻の急所を狙って降り注いで来る、残った片腕と足を駆使して何とかやってくる打撃を叩き落してこそいるが…持ち前の手数の差は如何ともし難い。
───『断』
振りかぶられる手刀が目に映る、呪力の流れと起こりからそれが絶対切断を是とした例の一撃であることに、廻は早々に気が付いていた。
躱さなければ死ぬ…そう直感したが故に、廻はその一撃を回避しようと足を動かし…その上から、宿儺は廻の足を思い切り踏み付けた。
ズシンっと下の地面に罅が入る程に強い踏み付け、呪力で強化されたはずの廻の肉体…その足の部分からパキリッと乾いた音が鳴り響く。
骨に罅が入った…そんな感覚が廻の身体を突き抜ける。
激痛が廻の身体を電流のように駆け抜ける、痛みと共に踏み付け締められたその足は幾ら動かそうともビクともしない…その事実に廻は知らず知らずの内に舌打ちを漏らした。
宿儺の手刀が、絶断の一撃が振り下ろされる、真っ直ぐと廻の頭頂部目掛けて振り下ろされたソレからは圧倒的なまでの殺意と喜悦を感じ取れたような気がした。
直撃すれば即死は確実の絶対の一撃、高速で迫ってくるその一撃に対して廻の状況は最悪に近かった。
拳を捕まれ足を踏みつけられたことで回避と行動の範囲を縮小され、その合間合間に無数に襲い掛かってくる連打と乱打が廻の動きを阻害する…並大抵の者であればこの時点で詰みは確定とも言えるような状況…そんな状況に廻は、仕方が無いと言わんばかりにため息を吐き出し…徐ろに、自身の掴まれている腕へと手刀を落とした。
自切…血を吹き出しながらアッサリと斬り裂かれた自身の腕、掴まれていた抵抗感がスンッと無くなった事実に廻はスッキリしたような表情を浮かべた。
迫る断絶の一刀、未だ打撃は繰り出され続け、その一撃一撃は的確に廻の肉体を打っている、痛みと衝撃は絶える間も無く廻へと襲い掛かり血が吹き出し青痣が生まれて無数の骨には罅が入っていく。
激痛に次ぐ激痛、考えるまでもなく生命の危機であり悠長にしている場合ではないその現状の中で…しかし廻は、徐ろに吹き出すように嗤った。
肉体を回転させる…迫る一刀に対して廻は踏みつけられた足をそのままに無理矢理肉体を回転させた。
バキリと骨が砕ける音が聞こえる、グチャリと肉の裂ける音と曲がる音が辺りに響き渡り、それと同時に廻の肉体がベイゴマのように回転していく、無理矢理のソレに廻の片足がグチャグチャと化し肉片と血潮をばら撒きながらその様をより悍ましくグロテスクに変貌させていく。
『断』が空振る、打たれる打撃をそのままに確実に己を殺し得る『断』のみを回避した廻はその勢いのまま打ち付けられ続ける打撃の全てを無視して、宿儺の顔面へと回し蹴りを叩きつけた。
突き刺さる廻の蹴り、鞭という表現が可愛らしく思えてくる程に鋭い蹴りが宿儺の横面へと叩きつけられ、その肉体を横へ横へとズラしていく。
タタラを踏んで廻の元から離れる…踏みつけられていた宿儺の足が離れたことで自由となった廻の足、グチャグチャの状態と化し最早元の面影なぞ何処にも無い変わり果てた自身の足に対して廻は───
「───くひっ」
そんなこと知ったことかと言わんばかりに、壊れた片足のまま廻は宿儺の間合いへと踏み込んだ。
思わずと言ったように漏れ出た狂気を感じさせるソレ、激痛に次ぐ激痛に加えて自切と自傷を繰り返し、更にその途中にも絶えず叩き込まれ続けた宿儺の連打に次ぐ連打。
頭を打たれ腹部を打たれ、鳩尾から脇腹へと次から次へと叩き込まれ続けたその打撃の数々、逃げようにも足を封じられたことで逃げられず、ならば躱すか防ぐかしようとすれば掴まれた腕を引き寄せられて行動を制限されるの繰り返し…それに対して廻は、ふとしたようにキレた。
踏み込む、砕け千切れかけたその足を力強く地面へと叩きつける、片腕も片足も自身で傷付けたソレを癒すことも無く呪いの王の元へとその身体を投げ出す…そして、そんな狂気に呼応するように黒い火花は今日も歌う。
───『黒閃』
飛び散る黒い火花、踏み込むと同時にその姿が掻き消え、次の瞬間には既に宿敵は己の眼前に居る。
まるで瞬間移動か何かかと見紛う程の速度、漫画かアニメの世界でしか表現されないような速度で以って禪院廻は呪いの王の前へとその姿を現した。
片足が砕け散る…2.5乗の負荷に耐えきれず役目を終えたと言わんばかりにバラバラに砕け散る片足の骨、肉に食い込み最早足としての役目を果たせそうにないソレ、砕けると同時に激痛を超えた超が付く程の激痛が廻へと襲いかかる…が、ソレすら廻は無視してみせた。
頭の中でナニカが千切れ飛ぶ、無意識的に課せられていた人間としてのリミッターが…人であることを是とする禪院廻の意識が今此処に枷と共に砕け散る。
突き出される拳、まるで宿儺と見紛う程の狂気的な笑みを浮べた廻の拳が宿儺へと向けて突き出され、それに対して宿儺は廻同様に拳を叩きつけんと腕を振り被り、突き出す。
───『黒閃』
激突する両者の打撃、ほぼ互角であったはずのその一撃は飛び散った黒い火花によっていとも容易く崩される。
千切れ飛ぶ宿儺の腕、黒く染まった呪力と飛び散る火花と共に宙へと投げ出される宿儺の腕、片腕が消えたことで僅かに生まれた隙間に廻は更に更にと踏み込んでいく。
───『黒閃』
顔面目掛けて放たれた拳が直撃し、再び黒い火花は発現する。
異形の目玉が潰れて吹き飛ぶ、殴り飛ばされ肉体ごと吹き飛んだ宿儺、宙を飛んでいこうとする宿儺に対して廻は瞬時にそこへと追い付き、更にその足を掴み取り無理矢理己の方へと引き寄せて上から更に殴る。
───『黒閃』
叩きつける、地面が沈み込み辺りに地ならしのような現象を引き起こす程の強さで叩きつけられた宿儺は堪らぬと言わんばかりにその口から血潮を吐き出した。
───『黒閃』
更にオマケと言わんばかりに踏みつけが宿儺の肉体へと叩きつけられる、砕け散り先の尖った足であったものを遠慮無しに呪いの王へと突き刺す…そこに当然のように付属する黒い火花。
更に沈む、黒い呪力と共に迸った衝撃波が更に更にと呪いの王の肉体を地の底へと沈み、辺りの亀裂が遂に砕けて地割れと化す。
捻り込んだ廻の足、グチャリと内側にまで届いたのではないかと言わんばかりに呪いの王の奥深くにまで突き刺さった廻の足を、宿儺は徐ろに掴み取った。
───『黒閃』
その直後に廻へと突き刺さる宿儺の蹴り、黒い火花を伴って弾けたその一撃に廻の肉体は弾かれるように後方へと吹き飛ばされる…その直後に宿儺は我慢ならぬと言わんばかりに口から大量の血液を吐き出し、同時に荒く息を吸い上げた…それほどまでのダメージを、宿儺は負っていた。
───シャラン
鈴の音が鳴り響く、傷を反転で癒す間も無い。
咄嗟に飛び退き斬撃を躱す、飛び退き躱した直後に目の前を通過する魔虚羅の斬撃、通過し建物を斬り裂きながら突き進み災害にも近い被害を出すのを横目で見ながら、宿儺は着地と同時に失った片腕を反転術式にて癒す。
───ガコンッ…!!
瞬間、鳴り響く法陣の音、耳へと届いたその音に宿儺が瞬時に視線を向け…その瞳を見開いた。
鏡が浮かんでいる、無数の鏡…まるで砕けた巨大な鏡の破片がそのまま辺りに浮き上がっているかのような光景が宿儺の視界には広がっていた。
太陽の光が鏡に反射し、反射した光が更に別の鏡へと辺り更に別の場所へと反射する…それを無数に繰り返し繰り広げ、何時しかソレはゲームにあるレーザートラップのように宿儺と魔虚羅の周囲を覆い尽くしていた。
無数に存在する日光の鏡面反射によって生まれた自然のレーザートラップ…実態がどうであるのかは宿儺自身まるで理解出来てはいないが…魔虚羅がそれをやったからには何かしらの意味があるだろうと警戒の度合いを引き上げる。
全くの初見、どういう意味を持ちどのような効果を持つのかの全てが一切合切不明のソレに、宿儺の心持ちは警戒で満たされると共にどうしようもなく心躍っていた。
何をしてくる、何をしてくれる、何を魅せてくれる、どのように己を楽しませてくれる…幾ら苦戦しようが悪闘になろうが死にかけようが関係無い、宿儺の心根の全ては今眼前にある全てを味わい尽くすことのみに注がれていた。
素晴らしい、素晴らしい、素晴らしい…まるで飽きが来ない、先の黒閃の連続使用にしてもそれより前の雷雲神楽にしてもまるで見飽きない、味わいに飽きが来ない…それがどれほどの異常であるかを良く知っているが故に宿儺はやはり期待する。
───さぁ、何をしてくる?
ワクワクとしたような気配、ニヤニヤと愉悦と喜悦をまるで隠さない呪いの王の姿に、魔虚羅は徐ろに大きく翼を広げた。
バチィッと鳴り響く紫電の音、周囲の空間をその色に染め上げる程の呪力出力のソレを放ちながら魔虚羅は虚空へとその口を開いた…その直後、瞬間的に呪力の圧縮が開始される。
虚空から漂うに現れた呪力、紫紺の色をしたそれが現れ巨大な球体と化し、しかし次の瞬間にはギュッと絞り上げたかのように小さく小さく纏まっていく。
時間にしてみれば述べ二秒にも満たない、その僅か数秒足らずの間に収束され圧縮された小さな球体状の呪力の塊と化した紫紺のソレが魔虚羅の眼前にてふよふよと浮かび上がり…そして───
「───!!!!!!」
魔虚羅の咆哮と共に、その球体は弾けた。
無数の動物の声を混ぜ合わせたかのような声、それが咆哮となって宿儺へと叩きつけられる、風圧すら生み出そんばかりの大音量にて吐き出されたそれに宿儺の髪は揺れ動き、それと同時に弾けた球体からその大きさからは想像も出来ない程に高出力広範囲の呪力砲が解き放たれる。
ゴウッと空気と大気を引き裂いて解き放たれた呪力砲、何の小手先も無くただただ純粋な火力によって構成されているソレが真っ直ぐと宿儺目掛けて突き進む。
「───ハッ!!」
笑う、笑い飛ばすように大きく笑いながら両腕共に大きく振りかぶって放たれた呪力砲へとその腕をハンマーのように叩きつける。
曲がる呪力砲、横薙ぎに振り抜かれた一撃によって横合いへとその軌道をズラされた呪力砲はそのまま突き進み彼方へと消えていく…ことは無かった。
呪力が鏡へと直撃する、太陽光を反射し自然的なレーザートラップのような物を作り出していたその鏡に呪力砲が直撃し…瞬間、太陽を反射した時のように鏡は直撃してきた呪力砲を何の抵抗も無く反射した。
そして真っ直ぐと反射……とはいかない、僅かな光の角度によって容易に進む先を変えるソレは当然のように宿儺の真上を通過していく。
距離にして僅かな腕半分程度、頭上を掠めた呪力砲がチリっと宿儺の髪の毛を焦がし別の鏡の元へと突き進んでいく。
あと少しでもズレていたら当たっていた…その事実に宿儺は内心動揺…も特にすることはなく、慣れていると言わんばかりに速度を落とさず突撃を敢行する…その横で、鏡に当たった呪力咆が更に反射し宿儺へと襲いかかる。
反射しまたもや軌道修正が行われた呪力砲、その先には疾走を行う宿儺の姿がある。
直撃コース、先のソレはマグレであると言わんばかりに的確にその身を狙い撃とうとしてくる呪力砲にさしもの宿儺も回避を選択、速度を落としてタイミングをズラし、反射された呪力砲を危なげ無く躱す。
目の前を通り過ぎていく呪力砲、紫紺の色が前方を遮りその視界を紫紺色のみが染め上げる。
───シャラン…
鈴の音が鳴る、勘頼りで咄嗟に身体を大きく下げることで宿儺は斬撃を躱した。
呪力砲ごと横薙ぎに斬り飛ばされた背後の何か、何が斬り飛ばされたかなぞ心底からどうでもいい宿儺は斬り飛ばされた何かを気にせず更に突撃を再開する。
呪力砲は既に真っ二つにされたことで消滅している、先のように鏡に反射して己に襲い掛かるということは今の所は無い、そう判断した宿儺は先の妨害によって落としていた速度を更に跳ね上げ一気に魔虚羅へと接近せんと足を踏み締め───
───ジャコンッ…!!
鈴の音でもない、鏡の音でもない、現代機器特有の硬質な音が宿儺の耳へと届いた。
瞬間、鳴り響きたるは現代に於ける武装の代名詞、火薬を吐き出し鉄の塊を射出し相手のド頭をブチ抜き脳髄を弾けさせることに特化した人殺しの兵器特有の破裂音。
即ち…銃声である。
けたましい…否、最早それすら優しいと思わせるほどの大音量の破裂音、ズガガガガガッッと何十何百発という小さな鉄の塊が一斉に獲物を蜂の巣にしてやらんと襲い掛かってくる。
やってきた銃弾の雨あられ、斬撃全て叩き落とそうにも的が小さい上にそれらが何百発という数で一斉に向かってくるのだ、さしもの宿儺もこれを動かず防ぎ切れと言われれば少しばかりの思案を行うであろう。
故に全力疾走、魔虚羅へと向かうはずであったその足を瞬時に方向転換させて横へ横へと一気に駆け抜ける、追いかけるように後ろからやってくる銃弾の雨に追いつかれぬように右へ左へと動き回り、待ち伏せと言わんばかりに前へと置かれた銃弾の雨に対してはドリフト宛らの移動法にて振り切った。
何泊かの銃声の後にやがて雨は止む…無数の地面と建物、看板にその他諸々の周辺に存在した全てに蜂の巣のような風穴を開けたであろうソレは、足元に転がった薬莢を鬱陶しそうに足で退けながら当たり前のようにその姿を晒す。
大きな筒、先の方に無数の穴が鋼鉄製の大きな筒…一般的に言えばミニガンと呼ばれる重火器をその手に持った男は…禪院廻は未だ煙を立ち上らせ銃身を赤く発光させていたソレをポイッと地面に投げ捨て後、一仕事終えたとでも言うように肩をゴキリゴキリと回し…ふとしたように地面を踏み鳴らした。
瞬間、廻の影の中から飛沫を上げるように飛び出してくる無数の重火器…一つ一つが丁寧に手入れされているということが素人目で見ても分かってしまうその武具達の出現に宿儺はクツクツと声を漏らした。
「───次はそれか?」
「───あぁ…ちょっと煙臭いけどな」
言うが否や、影の中から出てきた銃器を廻は乱雑に引き抜き、その銃口を宿儺へと向けた。
銃声が、鳴り響いた。
『鏡』
本来は『廻輪奇劇』の白叡の舞台にて使われるはずだったもの、放出された呪力を鏡の性質に倣って反射する能力を持つ…因みに、単純な呪力砲じゃないと反射しない(呪力砲=光みたいな理論を組まれている為)上に反射を繰り返せば繰り返す程に威力と速度が底上げされていくという性質を持つ。
因みに白叡の舞台名は『八咫鏡』
魔虚羅
『廻輪奇劇』の舞台の設備を簡易的にではあるが現実に顕現させることが出来る、ただし領域内では無い為出力は100%止まり。