前回の話で多かった質問に対しての答え
Q:どうして魔虚羅は『白』が直撃しても生きてるんですか?
A:千年間の間に溜め込んでいた適応の約九割方を消費する代わりに『白』への適応の速度を爆速的に速めたからです、逆を言ってしまえば千年に渡る適応の九割を使ってもアレだけのダメージを喰らわせられるのが『白』です、因みにしてなかったら死んでました。
因みに今回の話、『カグラバチ』っぽいネタを入れているのでご注意ください…みんな、カグラバチを見よう!
『黄泉國』は、魔虚羅が廻の許可無しで勝手に作り上げた、禪院廻を主役とした拡張領域。
本来であれば他の式神を主役とした舞台を構築し、その主役に合わせた効果を発揮する『廻輪奇劇』…必中必殺を捨て去り、ただただ式神の強化のみに重点を置いたその領域は実質的には対宿儺戦を想定していたものだった。
必中必殺を捨てたことによる意図的な200%の強化、それに加えてその副産物的に発生した内側と外側への防御の爆発的なまでの強化…それら二つによって、禪院廻は両面宿儺を追い詰めていた。
だがしかし、魔虚羅は考えていた…もしも己が動けなくなってしまった時はどうなるのだろう?…と。
廻輪奇劇は式神の為の領域…それは逆を言ってしまえば式神がいなければ領域としては機能しないことを意味する…伏黒恵の領域、『嵌合暗翳庭』が良い例とも言えるだろう。
十種影法術という術式、それを拡張し120%の性能を引き出す『嵌合暗翳庭』…影を操り分身を生み出し、敵手を沼の其処に沈み込ませるかのように影へと落とす、式神だけに頼らない領域…そしてそれが禪院廻には無い。
魔虚羅が消滅する…或いは式神を分離出来なくなったその時点で廻輪奇劇はその効果を発揮しなくなってしまう、ただの舞台へと成り下がってしまう……だから、作った。
自分が動けなくなっても関係無い場所、禪院廻一人でも機能する本来あるべき禪院廻自身の舞台…それを、魔虚羅は作り出した。
黄泉國は死の国、或いは地下のその先と言われた日本神話特有の死の世界…そして死の世界に付き纏うイメージとして一定の理解を示されるものがある。
つまるところ…影である。
黄泉國は禪院廻が十種影法術の影の性能を200%以上の極限まで拡張し、その攻撃性を高める領域…その発動は全ての式神の戦闘不能によって解放され…それと同時に禪院廻には───
───十種影法術の全機能が、返還される。
実を言ってしまえば、完全なアドリブだったのだ。
意気揚々と言うように領域を展開した廻…しかしその実、廻はこの『黄泉國』と呼ばれた領域の性能をまるで知らない、何せ作っていないどころか関わってすらいないのだから。
全く見知らぬ未知の領域、唐突に魔虚羅から妙な方法で伝えられ、半ば咄嗟に発動してしまったその領域は廻からしてみれば手探りも良い状況だった。
故に廻の脳内を過ったのはこれからどう攻め立てるか、どう領域の効果を把握していくかという考えで…そして、そんなことを考えるよりも先に、禪院廻という人間は『黄泉國』と呼ばれたこの領域の効果を、半ば感覚的に理解する。
当たり前にあって、当たり前に使ってこなかったものがある…当たり前にあったのに、いらないと省いて仲間外れにしていた要素がある…それが、この領域の真髄であると廻は直感した。
充足したような感覚がする…まるで、今まで何処に行ったのか分からなかった荷物をやっと見つけて背負い直したかのような…そんな感覚を廻は覚えた。
禪院廻の、気配が変わる。
「───呑め」
呟かれた言葉と共に、廻の影が一斉に飛び出し宿儺へと襲いかかる。
今までに無い光景、千年前を含めて禪院廻という人間が一度もして来なかったであろうその攻撃に対して、宿儺は面食らいながらも紙一重で影を躱した。
チッと影が頬を掠る、不規則で伸縮自在の生き物ようにやってきたソレは宿儺の頬を切り裂き、その存在が明確に自身の脅威なのだという事実を宿儺へと教え込む。
───はっ、何を今更…!!
分かりきった事実を笑い飛ばす、そんなことはあの男が放っているという時点で当たり前を通り越すレベルで分かりきっているのだと言わんばかりに、宿儺は彼岸の花を踏み潰した。
突っ込む…足裏から呪力を放射し爆発させながらの加速、迫る影を真正面から隙間を縫うように躱し、背後に回った影を振り切るようにその肉体を加速させた宿儺はそこから更に踏み込み廻へと殴り掛かる…が、その直後、宿儺の視界一杯に黒が迫る。
何処から現れたその物量、視界一杯やってくるそれに反応するよりも早く、その黒は宿儺を飲み込みその身体を後方へと押し流す。
熱も無ければ冷たさも無い、ただ濡れるような感覚と共にその身体を後方へと押し戻された宿儺、パシャリという水のような音と共に彼岸花にその身体を投げ出された宿儺は即座に態勢を立て直しながら……ソレを見た。
自身の両手を見る宿敵、プカプカと泡を吐く地面の影、ゆらりゆらりと揺れ動くソレは浮かび上がり次第にその姿を別のモノへと変化せていく。
「…そっか……こんなことも、出来るんだ」
呆然としたように、心此処にあらずとでも言うような感触でそう呟き、変化を起こしていく影を見つめる廻…刃のように、鞭のように、槍のように、矢のように…無数に変化し、無数に蠢き揺らめく浮かび上がった影を、廻は何となしで撫でた。
「───もっと深く、広く……自由に」
呟き、手に取る…黒い刀、影で生成されたのであろうその刀を廻は何気無しに手に取って、振るった。
瞬間…宿儺目掛けて、黒い斬撃が飛ぶ。
音を超えた速度で迫る飛ぶ斬撃、まるで漫画かアニメのようなソレを前に宿儺は腕を振りかぶって飛んできた斬撃を叩き落とし…ソレを狙っていたかのように、投擲された槍が目の前に迫る。
使っていないもう一つの腕で掴み取る、片方二つを残しながら余裕綽々と言った様子で掴み取って見せた宿儺は瞬時にソレを投げ返そうと腕を振り被り投擲する…その直前、突如として形を崩した槍が、まるで粘土のように宿儺の腕へと張り付いた。
ぐにゃりと崩れ、包み込むように宿儺の手へと張り付いた黒い粘土…それに対して宿儺は邪魔と言わんばかりに粘土ごと腕を引き千切った。
鮮血が飛び散る、痛みもあろうにそんなことは些事と切り捨てるように、宿儺は何時の間にやら飛び込んできていた廻へと残った腕を差し向ける。
ガンッという鉄の音、最早慣れ切ってしまった到底人体から鳴って良いような音ではないソレを連続で鳴らしながら、廻と宿儺は攻撃と防御、回避の応酬を繰り広げる。
両手に持った鉄色の金槌、色からして影から生成した物ではなく元々影の中に入れてあったのであろう金槌を廻は宿儺へと振り下ろし、宿儺はそんな鈍器を容易く弾いた。
弾かれた金槌、後方へと下がる自身の左腕、弾かれた衝撃が腕を伝って脳へとほんの僅かな痛みという信号を送ってくる、最早痛みとすら思えない程に矮小なソレを余さず伝えてくる。
殴る、弾かれる。
殴る、防がれる。
殴る、避けられる。
殴る、激突する。
二つの金槌と三つの腕の反撃と迎撃の繰り返し、一秒の内に何発何発打ち込んでいるのかまるで分からぬ程の速度で以ってただ殴る防ぐを繰り返す、一歩も足も動かさずその場に留まってひたすら殴り続ける。
鉄の音、鉄の音、鉄の音、鉄の音、鉄の音、鉄の音、鉄の音、鉄の音…ガンガンガンガンガンガンっと、何回何十回何百回と時間にして僅か一分足らずの間に繰り返した打撃と応撃、領域を展開したことを忘れているんじゃないかと勘違いしてしまいかねない程にひたすら打撃を繰り返す両者の姿に、それを見物していた日下部は思わずと言ったように頭を抱えた。
金槌と拳が激突する、火花が飛び散り赤色の花を咲かせ、破砕音を響かせながら宿儺の拳が金槌を砕く、粉々に打ち砕く。
破片が飛ぶ、両者の表情を鏡のように映しながら宙を舞う鉄の破片が廻の頬を掠めて傷を作り、ソレに反応するかのように廻は全力で足を踏み鳴らした。
直後、彼岸花の向こう側から無数の刃物や突起物が音を立てて宿儺の身体目掛けて飛び出してくる、花の根元に存在した影の向こう側から今か今かと主からの呼び出しを待ち続けた武具達が溢れ出してくる。
しかしそれに動揺する宿儺でも無ければ、それに当たる宿儺でもない、刃物と突起物が飛び出してくる直前に宙へと跳んで串刺しを回避する。
何十という刃物と突起物、その数は上から見れば良く分かる。
十文字の槍に刀に西洋剣、中国の武具に砂漠の地方特有の妙な形をした剣にその他諸々…虎杖の記憶を持つ宿儺は伏黒恵の十種影法術を知っている、そのデメリットを含めて。
であればこそ、一体全体何をどうやればそうも詰め込み、今尚も潰れずにいられるのかは宿儺にも分からなかった…まぁ、だから何だという話ではあるのだが。
廻が腕を振り被る…投擲ではない、拳による遠隔拳圧でもない、ただただ腕を振り被り何かを投げるような動作をしているだけ、そこには圧縮された呪力も何も無い…が、しかし───
「───ぶっつけ本番っ…!!」
振り被られ、振るわれた腕が影へと触れる…下から上へと、宿儺目掛けて振り抜くように振られたその動き…それに呼応するかのように影の中から一斉に溢れ出していた武器の一群が一気に射出される。
慣性もクソもあったものではない、無から有が生まれるかのように、0から100へと一気に加速する。
数にして数十超えの数、そこまで離れているわけでも無く距離にして言うのならば精々が車二台分、宙へと浮いているが故に蹴りつける地面も無ければ壁も無い。
無数の刃物が獲物目掛けて突き進む、時間にして言えば精々が二秒弱程度で宿儺へと到達するその無数の飛来物に宿儺は空を蹴り上げることで躱した。
空気の面を捉えて叩く…伏黒甚爾及び真希が行った方法と同じ手法によって宿儺は弾かれるように横へと回避を行い、飛来物を躱した。
呪いの王が地面へと降り立つ、降り立った衝撃で彼岸花の花弁が舞い散り、更にそこから踏み込み進んだことで更にその勢いに煽られ花弁が舞い散る。
そしてそれは廻もまた同じこと、宿儺の着地と同時に地面を蹴り上げ宿儺へと突撃を開始していた。
地面を踏み締める度に花弁が舞う、紅い花弁が視界の中を舞い散り、戦いの中でも無ければ見惚れていただろう光景を作り出す。
───まだだ、まだ浅いっ…!!
歯を噛み締めながら拳を握り締める、ギリッと鳴り響いた音は廻の耳にだけ届いて他には届かない。
───影なんだ、もっと深く行けるだろ、もっと自由にやれるだろうっ……!!
両者同時に拳を叩きつける、廻と宿儺…二人の拳が激突し周囲に衝撃をバラ撒き大量の花弁を宙へと跳ね上げる、ゆらゆらと舞い上がった花弁がゆらりと二人の周囲を彩るように降り立ちその勝負の行方を見守るようにその命を散らす。
踏み込む、踏み締めた足とは逆の足で更に前へと、片方の腕を前へと突き出し両者共に防御を捨て去った構えのまま知ったことかと言わんばかりに呪いの王と廻は敵手の鳩尾へとその拳を叩きつける。
───『黒閃』
「───がっ…!!」
「───ッ…!!」
お祭り気分と言わんばかりに両者の拳に火花が灯る、互いの鳩尾へと直撃した黒い火花は確かなダメージと共にその身体を吹き飛ばし、ほんの数秒前の立ち位置へと両者を戻した。
吐き出された血潮、鳩尾を打ち骨へと届いたようや拳の感触、互いに地面を転がり手を地面へと叩きつけてその勢いを止めながら立ち上がった両者は、起き上がり様に互いを見据えた。
目が血走っている、両者共に最早相手を殺すことしか頭に無く、とう殺してやろうかとしか考えていない…少なくとも、外側の人間からはそうとしか思えない程の濃厚な殺気が、辺りには充満していた。
「……まだ……もっと深く……鮮明に……」
ぼそりぼそりと呟かれる言葉…領域によって拡張された影の能力、そしてそれを手探りで模索している最中の廻、そしてそこに挟み込まれる宿儺との戦闘行為…何方を取っても難解としか良いようが無いソレを前に、廻は手詰まりを起こし掛けていた。
元々その手の才能があった訳ではない、千年前にしても十種という比較的分かりやすい術式を基盤通りに使用し、千年後の平和な世界でゆっくりと考える時間があったからこそ、禪院廻は自身の領域の改造に成功したのだ、それを戦闘中にやれと言われればソレこそ無理があるだろう。
故に手詰まり、このまま行けば禪院廻は影を使いこなせずダラダラと時間が流れ…もしかしたら、そのまま呪力切れで負けていた…なんてこともあったのかもしれない。
しかし……黒い火花による覚醒は、それを許さなかった。
「…そうだ、形に拘るな……無形じゃなくて良いんだ、影だからって無形って形に拘る必要は無い……何だって良いんだ…」
ブツブツという呟き、こぽりコポリと海の底のように泡を吹き出す廻の影………呪力が、練られ始めた。
ザバッと音が鳴る…コポリコポリと泡立っていた影の奥から飛び出すのではなく、文字通り泳ぐようにその身を乗り出し宙へと這い出し、その姿を現す。
黒い鱗に尾ビレ、魚として小さい部類に当たるはずであろうその魚は廻の身長の半分程の大きさを誇っていた。
白い光のような瞳が宿儺を見据える、こぽこぽと口元から泡を吐き出し無感情にただただ呪いの王を見つめている。
「───『
呟かれた廻の言葉…ほんの名付けの意味も込めて呟かれたその言葉に影から這い出してきた鱂は何の為か、廻の側をくるりくるりと一周するように泳いだ…まるで甘えるみたいに。
その姿に、意思を持たないソレが、明確にただ影から生み出しただけのソレが取った行動を前に、廻はそっと笑みを浮かべた。
禪院廻…その黄泉路の果ての遅らせながらの覚醒…それは今、此処よりようやく始まる。
そして…そんな廻の姿に黒い火花は、まるで祝福するかのようにバチリと小さく弾けた。
『黄泉國』
魔虚羅が消滅、或いは全式神の戦闘不能(要は魔虚羅の戦闘不能状態)によって発動可能な禪院廻が主役の領域、魔虚羅が勝手に作った。
禪院廻単体での戦闘を前提としていて、この領域を発動した際には禪院廻に対して十種の機能の全てが返還されるという縛りが施されている。
因みに魔虚羅が勝手に作ったことを廻に直前まで伝えないこと、『黄泉國』内では敵対者を除いた廻以外の人間もとい同勢力の存在は領域の外に強制的に放り出されること、更に結界で外と内を分断しないという縛りによって性能と拡張性を極限まで上昇させている。
廻が使い方を感覚的に(なんとなくで)理解出来たのは千年前の影を利用していた頃の感覚を覚えていたからで、魔虚羅が教えたということはない。
尚、上記に書いてある通り魔虚羅の戦闘不能が発動条件である為、割とギリギリの状況でしか発動出来ないというデメリットが存在する。
因みに、魔虚羅の戦闘不能の定義は何があっても再生が間に合わず、再出撃が不可能であると自身で判断すること。