投稿…鳴潮が楽しくて書きたくなくなってしまう今日この頃。
「アハハッ、やってるやってる」
音符の付きそうな声色で男は…三途は眼下にて繰り広げられる呪い合いを他人事のように見物していた。
舞い散る蒼い焔、飛び散る生命の証とも言える原初の赤色…兄弟VS親、最早互いに相手を殺すことしか考えていないだろう親子喧嘩と呼ぶにはあまりにも殺伐としたその光景を、三途は喜劇でも観るかのような様子で見物していた。
乱入する気は無かった、元より自分が撒いた種が牙を剥いて帰ってきただけのこと、言ってしまえば自業自得以外の何者でもない、そんな状況の羂索を助ける理由が三途には無かった。
初めから互いに利用し合うだけの関係、当然そこには仲間意識なぞ欠片も無く、共感的な感情も思考も何一つとして存在しない…ただ、やりたいことがあったから一緒に居ただけの関係性…それが、当時から何一つとして変わらない羂索と三途の関係性だった。
故に、何方が勝とうが三途としてはどうでも良い…というわけでもなく、勝つのならば脹相側に勝ってほしいと言うのが三途の本音だった。
別に特に関係があったわけでもない、嫌われていた訳ではないが好かれていた訳でもなく、特に話すこともなければ関わることもなかった…が、それでも三途は生き残るのであれば脹相に生き残っていてほしいと心から考えた。
特に意味は無い、ただそうあって欲しいからそうあってくれと、そう考えているだけのこと…何処かの高所からソレを見つめた三途は、よっこいしょと呟きながら立ち上がり…そしてふとしたように、後ろを振り向いた。
「───やぁ、遅かったね…待っていたよ」
「───三途には、私達の持つ全戦力をぶつけるべきだ」
それは、これからのことについて…主に宿儺や羂索、三途に対しての対応を議論を開始しようという中で、真っ先に飛び出てきた言葉だった。
天使と呼ばれた術師…宿った肉体の魂との共存を測り、見事成功させた存在から放たれたその言葉に全員の視線が集中する。
一部は何を言っているんだという疑問の表情で、一部は何かを思い出すかのように苦虫を噛み潰したような表情で、そして更に一部はそうだろうなと言う納得の表情で…其々が其々の感情を持って天使へと視線を投げ掛けていた。
「───その心は?」
女が…九十九由基が問い掛ける、その理由を。
両面宿儺に対する対策…禪院廻が敗北し、果ては五条悟すらも敗北してしまった場合に予備策、羂索に対する対策…それら全てを放り投げて三途という一人の呪詛師に戦力を集中させることの意味を。
それに対して天使は、呆気からんとした様子でさも当然のように言い放った。
「───夏油傑や五条悟では三途を殺し切れない、純粋な物量差で逃げられる…当然、君がやっても同じことだよ、九十九由基」
「…あぁ、渋谷以来だな…何をしていた?」
三途の言葉に男は…夏油は応える、五条袈裟を風に棚引かせながら、油断無く殺意の眼差しを向ける夏油の姿に、三途は落ち着いた雰囲気のまま身体を大きく伸ばした。
うーんっと気儘に吐き出される声、緊張の欠片も無いような声色に夏油の額に皺が浮かび上がる…そんな夏油の様子を察したのか、三途は何ということは無いとように口を開いた。
「見ていただけだよ、千年来の決着の瞬間を…別に僕は羂索みたいに何かを企んでいるって訳でもないからね」
身体を曲げながらそう呑気に言ってのける三途の姿に夏油の額に青筋が浮かぶ、ふざけたことを言うなとでも言うように夏油の怒りが蓄積されていく。
「ふざけるなよ…なら貴様は何の為に羂索に協力していた」
「やりたいことをやる為だよ」
即答だった、表情すら変えずただ当たり前のように三途は言ってのけた、やりたいことがあったからやったと、やりたいことがあったから虐殺にも手を貸したのだと。
「僕にも羂索にもやりたいことがあった、だから僕が羂索のやりたいことを手伝う代わりに羂索にも僕のことを手伝って貰った…それだけだよ?」
小首を傾げながらそう言ってのけた三途の姿に、何を妙なことをと言うように小首を傾げた三途の姿に、夏油の額にまた一つ青筋が太く明確に浮かび上がる。
拳を握り締める、今にも爆発してしまいそうな殺意を抑えるようにギリッと握り締められた拳、今にも踏み出してしまいそうな足を必死に理性で抑えつけながら、夏油は口を開いた。
「何がしたいんだ、貴様は…!!」
それは、夏油の思考の中でずっと存在していた疑問だった。
初めて出会った時から感じていた違和感、何を目的としているのかまるで分からない…しかし、その瞳は真っ直ぐと一つのことを目指しているように思えた。
目的を持たない人間の眼ではない、明確な目標と指針があり、そこを目指して突き進むだけの意思を持った人間でないと持てないような瞳を、三途は持っていた。
故に夏油はずっと気になって仕方が無かったのだ、三途という呪詛師が何を目的として動いているのか、何を目指し何を求めて人を殺すのか…ただそれだけが、夏油は気になって仕方が無いのだ。
嘘は許さない、本当のことを喋れ…暗にそう告げる夏油の気配に、三途はくすりと微笑みながら、真っ直ぐと夏油の瞳を見つめながら…告げた。
「───戦争」
その時、夏油の思考は止まった…その単語が飛び出た意味を、正確に理解出来なかったのだ。
日本人ならば…否、恐らく人間という生物が聞けば誰もが恐れるに違いない単語、決して起こしてはならない大虐殺の引き金と成りかねない単語、二度とその光景を見たくないと今も誰かが活動を繰り広げている平和という二文字の真逆の言葉…その言葉が飛び出した事実に、夏油の思考は停止していた。
無意識的に嘘であって欲しい、聞き間違えであってほしいと、そつ考える夏油を嘲笑うかのように三途は言葉を続ける。
「戦争だよ…それもただの戦争じゃなくて、世界を巻き込んだ大戦争…まぁ、と言っても国対国じゃなくて、僕対国なんだけどね」
そう言って頭をカリカリと恥ずかしそうに掻く三途の姿に、夏油は今度こそ理解出来ない生物を見るかのような視線を向けた、何を言っているのかまるで理解出来ない、本当に眼前の存在は人間なのかと問い質したくなるような衝動を夏油は覚えた。
「…何の為に───」
「───今回さ、他所の国の軍人さんが武装状態で来たのは知ってる?」
夏油の言葉に被せるように三途が告げたその言葉に、その光景を思い浮かべた。
ライフル片手にぞろぞろとやってきた無数の外国軍人…一つの国だけではなく様々な国の人間が銃器を自身へと向けてきた光景を夏油は否が応にも思い出させられた。
撃たれた元は一般人であったろう人間、術師ではない非術師がテーザーガンで撃たれた光景、一人の術師をメッタ撃ちにして殺害した光景…それら全てが一斉に夏油の脳内に浮かび上がる。
泣き喚く子供に子供を守ろうとする親、そして術師を捜索している最中に野良の呪霊に襲われる軍人…そして、それら全てを迅速に処理し続けた廻と自分、仲間の姿…それら全てが雪崩のように押しかける。
「羂索はね、色んな国に呪術師…呪力の存在を教えて回ったんだ」
そんな夏油の脳内の状態を知ってか知らずか、三途は声の音程を乱すことなく言葉を続ける、何故に今回の人外渦巻く佳境に何の関係も無い他所の国の人間が介入してきたのか…その事実を。
「みんな言ってたよ…これで国のエネルギーを賄える、全ての再生可能エネルギーに取って代わる世界で最もクリーンなエネルギーだって、自給自足が可能なエネルギーだって…やっぱりって思ったよ」
迷ってた人も居たし、断った国もあったけどね…そんなことを言いながら、何処か遠くに見つめるように大空へと視線を向けた三途はただ静かに言葉を綴る。
「呪術を使える人と使えない人の違いは脳…千年経った今でも明かされていない部位の方が多い正真正銘のブラックボックス…そこから生まれるエネルギーを使おうって言うんだ、人間一人のサンプルじゃ到底足りない」
「だからみんなして実験体を集めようとした…この死滅回游って惨事に大量に巻き込まれ目覚めてしまった、呪術師と呼ばれる実験体を…それが、自分達を餌にする為の蟻地獄ってことも知らずに」
言いながら三途は術式を起動させ、一体の呪霊を呼び出した。
蛙だ、気持ちの悪い蛙、泥のような体色に歪みに歪んだ顔面、これを蛙と言われれば誰しもが疑問符を覚えるような見た目をしたその呪霊…その真下に、無数の呪霊によって構成された穴が生まれる。
「呪霊の消失反応と同じで、術師じゃない人も死の瞬間には大量の呪力を放出する…後は分かるでしょ?」
蛙が穴に落ちる、グチャリグチャリと外側から内へと侵入されて無象に喰い荒らされる、悲鳴を上げる蛙の声が徐々に徐々に消え去っていき、最後には肉を喰らう音だけが木霊する。
それが、野良の呪霊に襲われ殺された軍人を現しているという事実に気が付くのに、時間は掛からなかった。
「…みんなさ、知らないからこういうことが出来るんだよ」
冷たい声が響き渡る、肉の音すら消えて無くなり、純粋な静寂に満たされたその場に於いて、三途の声が明瞭に響き渡る。
「みんな、呪霊の存在なんて知らなかった…知ってたらこんな無防備に動こうとはしなかっただろうし、簡単に羂索の言葉に乗らなかった…知らないから、簡単に決められるんだよ」
呟くような言葉、冷たい極寒のような言葉の温度、それとは裏腹に優しげに穏やかに笑みを浮かべる三途の姿に、夏油の腕に力が籠もる。
「誰かの為にって訳じゃない…ただ、千年前にも同じような馬鹿が居て、そういう人達に限って僕達の苦労なんて一欠片も気にしやしないから、凄くイライラしてたってだけの話…だからね───」
───知ってもらおうって思ったんだ。
その言葉を最後に三途から呪力が放出される、無数に蠢く呪霊が一斉に三途の影から飛び出し、その矛先を今か今かとギチギチと鳴らしている。
「僕の所持する特級を含めた呪霊達…それらの総力で以て一つの国を攻め落とし、そこを中心として世界中に呪霊をバラ撒いて世界規模の百鬼夜行を引き起こして、世界各国に呪霊の存在を認知させる…それが、僕のやりたいことだよ」
それは、あまりにも壮大で、あまりにも悍ましい目的だった。
世界中に呪霊をバラ撒き呪霊という存在を認知させる…言うだけならばそれたけだ、それだけの話だ、日本という国でのみ大量に発生する事象を世界に広めるというだけの簡単な話だ…しかしそれは───
「何を…言っている…?」
夏油は目の前の存在の言葉を理解出来なかった、同じ術式を持つが故にその果てにあるものを明確に想像出来てしまうが故に、夏油は三途の言葉を理解出来ずに居た…何故ならそれは万を超える大量虐殺の引き金を引くということに他ならないからだ。
日本と違って呪術師という対抗策を持たない外国の人間は呪霊に対して何も出来ない、呪力が無ければ呪霊に触れることは愚か呪霊を認識することすら出来ないのだから。
無抵抗に鏖殺される、老若男女問わず、ただただ欲望と本能の赴くままに一方的に虐殺される…そんな血みどろの光景が、夏油の脳裏に浮かんだ。
そんな夏油の様子を今度は明確に察したのだろう、三途は極寒のような冷たい言葉からは打って変わって、何処か優しげな口調で言い聞かせるように夏油へと告げる。
「だから、さっき言ったでしょ?……戦争をするんだよ───」
───
その言葉が耳に入ったその瞬間、夏油は自身の術式を完全に解放した。
自身の内にて眠る人外達、無数に眠る魔境の呪い達を一斉に解き放ち、その存在の害意を眼前の化物へと向ける。
夏油は悟った、眼前の存在を殺さねばならぬと、眼前の呪詛師だけはこの世に存在させてはならないと。
言っていることを理解すればする程に、言っていることを明確に解釈すればする程に分かってしまう狂気、決して開けてはならないとパンドラの箱が如き厄災そのものとも言えるその存在だけは、決してこの国から出してはならないと夏油の本能が告げていた。
「貴様は殺す、今日ここでっ!!!」
「良いよ、おいで…一緒に楽しもうよ」
殺伐とした親子喧嘩…その裏側で、人類の命運を掛けた決戦が、幕を開いた瞬間だった。
三途
一つの国を攻め落としてそこを拠点に世界中に呪霊をバラ撒こうとしているヤベー奴、因みに切っ掛けは千年前のとある事件の際の苛立ち。
ザックリ言うと呪霊を認知させて分かっていてもどうにもならないと苦しみと苦痛を与えるのが目的、その過程で呪霊が生まれれば尚良しとか思ってる。
因みに本人として目的をフルオープンで公開しているようなものなので、何かしら企んでいるわけでないと思っている…人それを企んでいるって言うんだよ。
ついでに言っておくと、真人には人間辞めて呪霊になれよとか割と真面目に思われていた。