鳴潮が楽しい…なんで原神はあんなに走るの遅い癖にスタミナ取るの?
獣と女王の咆哮が響き渡る、質量と質量が激突する音が聞こえる。
取っ組み合いと言えば良いのか、互いが互いに相手の手を鷲掴みにして互いに自身の勁力を押し付け合う、一歩も譲らない単純な膂力の押し合いに『リア』の足先が地面に沈む。
その真横で響く金属音、トンファーと刀が衝突し火花を散らす、魔女の主と呪いの女王の主、互いが互いに似通った共通点を持つ二人は真反対の表情を浮かべながらその命を奪い合う。
トンファーのリーチの短さと軽さを用いた連続打撃、右へ左へと焦点をズラしながら時折打ち込まれる大振りの一撃、フェイントにフェイントを重ねた本命の一撃が乙骨の頬へとクリーンヒットする。
突き刺さるトンファー、拳とは何処か違う感覚を受けながらもぺっと口の中の血を吐き出す、変わらず無表情の乙骨に三途は笑みを携えながらその手を乙骨に向けた。
瞬間、手元から吐き出される有象無象の大群…蠍に百足、バッタにナメクジにカナブン、小さいものから大きいものまで多種多様の虫達が餌を求めて乙骨へと襲い掛かる。
「───『動くな』」
全ての虫が静止する、乙骨の言葉と共に完全にその活動を停止させられた有象無象の大群共はその翅をピクリともさせることすら出来ずに地面へとその身体を寝降ろし───
「───『潰れろ』」
その後、一切の抵抗も一切の例外も許すことなく、紫色の雨をバラ撒きながら地面へと叩きつけられ、そのまま地面の染みと化して絶命した。
『呪言』…狗巻家相伝の術式…その名の通り発する言葉そのものが他者を呪い、殺し得る凶悪且つ危険な代物…それをアッサリと使ってのける乙骨の姿に三途はおやっと疑問を表に出すと共に、その手にある凶器を乙骨へと振り被った。
「───お前、邪魔ァァッ!!!」
その上から、『リカ』の両手が振り下ろされる。
突如として現れた『リカ』の存在、まるで瞬間移動でもしたかのような唐突さにさしもの三途も目を見開く、咄嗟に亀型の呪霊を展開し『リカ』の一撃を受け止めるが、許容以上の一撃に亀が内側から弾け飛んだかのように押し潰される。
地面が沈む、まるで上から一角の建物丸ごとを押し付けられたような感覚、完全顕現を果たした『リカ』の膂力が三途の肉体を潰さんと更に力を込め、乙骨はその隙を突くべく刀を突き出す。
「───お兄ちゃんをイジメるなぁぁぁッッ!!!」
しかし、それを『リア』は許さない。
振り切られた場所から追いついたのだろう、空中からその身を投げ出す形でやってきた『リア』はその口に溜め込んだ高圧力の呪力を乙骨へと目掛けて解き放った。
まるで単発式の砲弾、目視で確認出来る程に明確な形を持ったソレは通常の呪力砲と比べて見ても遥かに速い速度で乙骨の下へと飛来し、その身体を抉り飛ばす。
膨れ上がる地面に吹き飛ぶ片手、不意打ち気味に発射された砲弾は乙骨の莫大な呪力から来る盾を容易く貫通し、その片腕を容易く挽肉と変える。
「───憂太っ!?」
悲鳴のような声が『リカ』から上がる、飛来した砲弾による想い人の負傷によって『リカ』の意識と向けられた膂力がほんの僅かに三途から逸れる。
「───駄目だよ目を離しちゃ、死んじゃうよッ…!!!」
その隙間を狙って三途は一息に呪力を集中、跳ね上げるように『リカ』の腕を押し退ける。
次いで三途は術式を駆動、足を振りかぶりながらその振り被った足へと無数の呪霊を這わせ集合させ、明確な形へとその姿を変えさせる、さながら巨大な足である。
振り抜かれる集合した呪霊、巨木に近しい大きさと重さを持ったソレは乙骨へと意識を向けたままであった『リカ』の頭部へとダイレクトに直撃し、その身体を思い切り吹き飛ばす。
『リカ』の巨体が建設工事中であったのだろう建物へと突き刺さる…レッカー車は潰れ、クレーン車が瓦礫によってその体勢を崩し、別の建物へとその長いクレーンを激突させる…さながら玉突き事故である。
その光景を見届けながら自身の隣へと着地した『リア』の毛並みを良くやった良くやったと、まるで犬にでもするように撫でた三途は、おっ…とその顔を明後日の位置へと向けた。
「全部祓われた…やるぅ」
ふざけるように口にしたその言葉は残った呪霊が完全に消滅したことの証明、想定していたよりもずっとずっと早いその一連の流れに三途は素直に感心した。
あの呪霊の中には特級相当の呪霊を数体程忍び込ませていたのだ、それがこうも短期間の間に祓われてしまえば誰であろうと褒めるし感心もするというものである。
「───それじゃあ次だ」
故に追加する。
三途の影から放たれる呪霊の大群、今度は三万から五万ではなく十万と数千体、合成獣のような見た目をした呪霊と明らかに気配の違う呪霊が混じった呪霊の大群が現世へと解き放たれる。
空へと散らばる黒い影、未だ尽きることを知らぬと言わんばかりに吐き出されるその大群に誰しもが理解する、天使が三途の討伐に拘った原因を。
そして、その元凶を討滅せんと夏油傑は腕を振るった。
恐らくいち早く呪霊の大群を突破してきていたのだろう、腕や服に付いた呪霊の肉片や紫色の血液がそれを証明している。
溢れ出した空へと自由にその身体を泳がせる呪霊達、その姿を眺めていた三途の顔面目掛けて夏油はその手に携えた十文字槍を突き出した。
装飾の施されていない無骨な十文字槍、手入れの行き届いたその刃はまるで水に濡れたかのように生き生きとしているように感じられる…そんな鋭く輝く刃から放たれる一突きは、『リア』がその槍を踏みつけたことによって防がれる。
「やぁ、さっきぶり───」
「───死ねやドブカスゥゥッ!!!」
言葉を紡ぐよりも先に何処かキレた様子の直哉が三途へと襲い掛かる、全身全霊全力疾走からのドロップキックが三途の身体を突如として襲い、その肉体を建物の一角へと叩きつける。
ズベシャァッと擬音が付きそうな程に景気良く地面へと転がる直哉、勢いを付けすぎたのだろうと誰の目から見ても分かるその惨状に空気が一瞬止まった。
「───『リカ』っ!! 落とせっ!!!」
そんな止まった空気を引き裂くように響く乙骨の声、三途が突き刺さった建物の真上に位置した乙骨の指示に『リカ』は喜んで応える。
建物の屋上へと両手を叩きつける…上から全体重と全推力を乗せるように大きく身体を逸らし、そこからグルングルンっと回転しながら大きく大きく両手を振りかぶって、自身の両手を建物の屋上へと叩きつける。
上からやってきた衝撃が下まで響く、崩落した屋上から流れ出る圧倒的重量によって次々に崩れていく建物の階層…それとは別に下へと響いた衝撃が建物を支える柱へと罅を入れ、そこに掛かった崩落の負荷が更に柱へと負担を掛ける。
バキリッと柱が崩れる、下から支えていた大黒柱の消失によって屋上からの崩落によって崩れていた建物の崩壊が更に早まる、下と上からの崩落によって中に取り残された人間の生存は絶望的となった…並大抵の人間に限ってはだが。
建物の崩落、その一角が爆ぜ、中から人影が飛び出してくる。
飛ぶエイ…とでも言えば良いのか、ソレに乗りながら咳払いをする三途が建物の一角から飛び出してきた。
「危ないなぁ」
何処か他人事のようにボヤきながら上空の乙骨へと視線を向ける三途、コキリっと首の骨を鳴らしながら流し目で見据えたその先では『リカ』が呪力を収束していていた。
収束していく紫色、自身へと手を向ける乙骨の姿、色合いからしてみても量からしてみても明らかに危険だと誰もが判断するような光景と代物に三途は───
「…やっべ」
気の抜けたような言葉を、ふと漏らした。
咆哮が響く、怒りに狂った『リア』の雄叫びと共に振るわれたその爪を夏油は槍で受け流した。
地面に突き刺さる爪、そして刺さったその直後にスパンっと綺麗な爪痕を残して即座に抜ける爪、幾ら何でも斬れ味が良すぎるだろうと夏油は冷や汗を流した。
直哉が『リア』を殴り付ける、速度で錯乱してからの顔面への拳、ガンっと硬質な音を立てて激突した直哉の拳は赤く変色していた。
───硬っ…!?
直哉の表情が歪む、あまりの硬さに思わずと言ったように内心の感傷を表情へと出してしまった直哉はリカバリーと言わんばかりに『リア』の肉体に掌で触れる。
『投射呪法』の特質、掌で振れた相手に1/24秒を強制する…が、しかし───
───術式が発動せんっ!?
不発…発動しようとした術式は発動せず、ただ自分が掌に触れたという結果のみで終結する。
端から見れば何をしているんだと言われるような不可思議な行動にしか捉えられないような、そんな不具合…しかし、禪院直哉からしてみれば有り得ない現実がそこにはあった。
「───動けバカっ!!」
そして、そんな有り得ない現実を前に停止していた直哉を見逃す程『リア』は優しくはなく、そしてそんな馬鹿息子を見捨てる程に禪院直毘人は情を捨ててはいない。
振るわれた爪を上へと蹴り飛ばしながら直哉の首根っこを掴み取って間合いの外へと投げ捨てる、投げ捨てるという一連の動作によって生まれた隙を狙った『リア』の爪は夏油の虹龍の突撃によってその軌道を外されるに至る。
「───ジャマァァァッ!!!」
虹龍の突撃によってその行動を阻害されたま『リア』は更に怒り狂ったようにその爪を虹龍の目玉へと突き刺し、抉る。
痛みに悶える虹龍、その顎下から爪を振り被って口元へと爪を貫通させた『リア』は更にもう片方の爪を頭頂部から口中へと貫通させる。
口内へと入った両の腕、深く突き刺さったその痛みに暴れまわろうとする虹龍の身体を純粋な力のみで抑えつけた『リア』は突き刺した腕を軸に虹龍の首を思い切り横に捻じ曲げる。
ゴキャッという何処か乾いた音、肉質の音と硬質な音が一緒くたになったような音が響く共に虹龍の肉体から力が抜け落ちて行き、最後には力無く脱力した。
「───アァォァァァァァッッッ!!!!」
真っ二つ、その言葉が似合う程の光景…口の中から手を引き抜くのが面倒だったのか、それとも別の理由からなのか、突き刺さったままの腕をそのままに、左右逆方向へと同時に力を込めた『リア』はまるでポテチの袋を開けるかのように容易く虹龍の肉体を真っ二つに引き裂いた。
紫色の雨が降り注ぐ、臓物と血と目玉がべチャリべチャリと落ちては潰れて落ちては潰れる、白く美しい毛並みが逆立ちドス黒い紫色に染まるその光景は、端から見れば恐怖でしかない。
視線が夏油達へと向く、決して逃さない必ず殺す…そう言うかのようにその身体を低く屈めた『リア』その万力を表明するかのように地面を大きく踏み締め───
「───加茂憲倫ぃぃ!!!!!」
「───大概しつこいなぁ君も…!!」
そこへと、呪いの巣窟は乱入する。
赤い血の翅に蒼い焔、真逆の色を持った両者は最早周囲のことなぞ眼中には無く、戦場から離れようとさえしていた羂索は自身がその場に乱入したことにすら気付かず目の前の相手を殺すことに全てを捧げていた。
突如としての乱入、あまりにも唐突にアンブッシュにその場の全員の視線がその存在へと釘付けになる…が、そんなことは知ったことじゃないと言わんばかりに、呪いの巣窟達は激突を繰り返す。
戦場は、混沌を極めていた。