端から長引かせる気の無い敵キャラっているよね、ミネルヴァ(フクロウ)とか好きです俺は。
ずがんっと斧が振り下ろされる。
地面を削り亀裂を入れて、粉塵を撒き散らして煙を巻き上げる、地面へと叩きつけたソレをゆらりと持ち上げながら餓者髑髏はカタカタと五条達へと視線を向ける。
───術式反転『赫』
発射されるのは無下限の反転、引き寄せる力の反対側、収束と発散、虚数の衝撃波が餓者髑髏へと叩きつけられんとする…それに対して餓者髑髏は獲物を持つ手とは逆の空手を前へと掲げて防御の姿勢を取った。
腕へと直撃する衝撃波、踏ん張ることも許さず、そして端から踏ん張る気なぞ更々無いとでも言うように受けた衝撃の勢いのままに餓者髑髏は弾き飛ばされ、壁へと激突する。
パラパラと粉微塵に崩れ落ちていく腕の骨、その残骸が風に舞い散るように視界を遮る…腕一本を失ったと言うべきか、それとも腕一本で済んだと喜ぶべきか、五条悟を相手にしているという事実を鑑みても後者が正しいと誰もが口を揃えて言うだろうその現状の中で、餓者髑髏はその髑髏を不気味にニヤけさせる。
───領域展開
印を組んで唱えたるは術師の奥義、必中必殺を是とする奥の手中の奥の手、切り札とも呼ぶべきその札を餓者髑髏は早々に切った。
餓者髑髏は理解していた、眼前に居座る二人の人間、この人間何方もが力量的にも術師的にも自身の格上的な存在であることを、特に自身が今相対しているこの白髪頭の男はその中でも別格の存在であることを。
分かるのだ、格上殺しを幾度となく成し遂げてきていた餓者髑髏には、呪霊も人間も出会えば等しく殺してきた餓者髑髏にはその強さが分かってしまう、その勝率が百に一つですらなく、最早千に一つの勝率に近しいことも。
嗚呼、でも、でも、でもでもでも、だからこそ…滾って滾って、仕方が無いのである。
故に、取り込むのはこの白髪頭一人だけである。
ただでさえ薄い勝率、それにあの変な前髪が揃ってしまえばその薄い勝ちの目すら消えてしまう、それは幾ら何でも許容出来なかった…故に一人ずつ、一匹ずつ、少しずつ…
この自身よりも圧倒的に強いのだろうこの男を降してしまえば、その後の前髪の相手も多少は楽になるだろうと、そんな考えを頭の中に残して…それが単なる建前であることも、また理解した上で。
展開された領域の中には、無数の墓地が広がっていた。
十字架、墓石、祠、土葬に火葬に鳥葬に水葬…恐らく多種多様の葬り方と供養の形がそこには存在していた。
その空間はあまりにも静謐であった、餓者髑髏と言う呪いらしい呪いの領域とは思えぬ程に静かで、それでいて餓者髑髏らしい不気味さを内包したような、そんな領域であった。
「…なるほどね?」
そんな静謐の中に声が響く…五条悟だ。
領域内へと取り込まれた五条はさして慌てるわけでもなく、ましてや領域を展開するわけでもなく、ただジッと餓者髑髏を見据えていた。
全てを見通し明らかとする六眼、五条家の人間のみが発現させるその異能が捉えたその全貌に五条は珍しいものを見たと言うような表情を見せる…否、事実珍しく思っているのだろう、その類を見ない特異性の塊に。
餓者髑髏の術式は、相手の殺した人間…または呪霊の数によってその効果の程が変動する。
相手が人間であれば殺した呪霊の数だけ餓者髑髏の持つ殺傷能力が上昇し、逆に相手が呪霊であれば殺した人間の数だけ餓者髑髏の殺傷能力が上昇する…そうして上乗せらされたバフに餓者髑髏自身の能力まで加わってしまえばどうなるか…想像するに容易い。
そして、これこそが先の黒沐死を殺した一撃の種だった。
黒沐死は特級の呪霊だ、その被害範囲も強さも桁が外れており、ましてや黒沐死自体が積極的に人間を殺し喰らう性質を持っている…当然、そうして殺され喰らわれた人間の数は百や二百では済まない…ひょっとしたらその数は千にも届いていたのかもしれない。
だから死んだ、だからただの一撃で死んだ、何の抵抗も許されずにただの一撃で死んでしまった。
強ければ強い程にその被害が爆増する呪霊、強ければ強い程に呪霊を狩り尽くしていく術師…まるで強い奴を刈り取る為だけに生まれてきたかのようなその能力に、五条は薄く笑みを吐き出した。
餓者髑髏の領域には必中効果が無い…否、正確に言うのならば付与出来ない、それが術式そのものに課せられた縛りだからだ。
殺すのならば己の手で、刈り取るならば必ず己の手で、殺し滅ぼし喰らうのならばそれは必ず己の手で…餓者髑髏の領域は、必中効果による確殺を許さなかった、許すのは必中ではなく必殺だった。
五条悟、現代最強と謳われた術師…その存在が討滅してきた呪霊は数知れず、もしやその数は千や二千をも超えているのかもしれない…ならば、当たれば必ず死ぬ。
餓者髑髏の領域の効果は餓者髑髏自身の必殺の補助と援護…より正確に言うのならば、餓者髑髏の領域は餓者髑髏自身が攻撃を当てられる状態へと持っていくことを目的としている。
つまり五条悟の持つ無下限の盾のようなモノを抉じ開ける為だけに、餓者髑髏の領域は存在するのだ。
その事実を理解しているが故に、五条悟は嗤う。
面白いと思ったのだ…ただ一撃の直撃で自身を殺し得るその能力が、よりにもよって相手の経歴に依存してしまうその術式の面白可笑しさが、そしてそれを十全に扱えしまう目の前の髑髏が。
静かな空間だった、静かで静かで静かで静かで…ほんの少しでも動いてしまえばそれだけで一気に張り詰めていた糸が切れてしまいそうな…そんな危うい静けさがそこにはあった。
まるで真剣勝負だと五条は思う…命を掛けて戦うこともそれを掛けて勝負に近しいことをすることもあるが…それでもこれとは何処か違う気がした。
剣劇漫画、映画、小説…そんなモノに出てきそうな場面だと、何処か他人事のように五条は思った。
一歩も動かない、ほんの一時の動きも許さない、そんな緊張感がそこにはあって、五条もまたその中に居た。
相手は斧で此方は無限、激しく動いて激しく命を取り合えば良い、そちらの方が性には合っていて、そちらの方が向いているのもまぁ分かる…分かるが、それとこれとは話が別な気がした。
何故だろう、強さは此方の方が上のはずなのに、とても緊張するのだ、肌がざわつき汗が流れ出すのが止められないのだ。
此方を見据える髑髏が見える、此方を見据える蒼が見える、互いを互いを見つめていた、互いが互いにその命を見つめていた。
領域の展開…駄目な気がする。
極ノ番の使用…駄目な気がする。
無下限の赫、及び蒼の使用…駄目な気がする。
頭に過るソレが何故だか否定される、当たり前に行使していたはずのソレを今に限っては何故だが使おうと思えなかった。
何故だろう…そんな考えが五条の頭を過ったその時、餓者髑髏が動き出す。
万力の踏み込み、地面を踏みしめながら、それでいて突き刺さる墓石は一切崩さずに餓者髑髏は五条悟へと疾走を開始する。
素晴らしい速さだと思う、少なくとも五条から見てみても遅いとは思わず寧ろ速いとさえ思う、身体能力は夏油と遜色無いかもしれない。
強い踏み込みは最初だけ、その後は一定の規則の中に混ぜ込んだ不規則な走り込みで此方へと向かって来ている、コンマ一秒二秒の違いと共に自身へと疾走してくる餓者髑髏に五条はその瞳を差し向けた。
真正面、一撃限りの突起…いや、もしかしたら何かしらの工夫で不意を打ってくるのかもしれない、二撃三撃と打ち込んで来るのかもしれない。
自身でも感じてしまう程のらしくもない真面目な思考、真っ直ぐ向かってくる餓者髑髏にどう対処しようかと柄にもなく頭を冷やして真っ直ぐと敵の姿を見据える。
踏み込んでくる、踏み込んでくる、踏み込んでくる…距離が近づく、あともう少し、斧が届く距離まで残り3歩。
速いな、不規則だな、見辛いな、防ぐのが難しそうだな…そんな子供染みた感想を頭の中に溢しながら、五条はその腕を掲げて───
───うるせぇ…黙れ。
自身の頭の中で囁く
瞬間、思考が冴え渡るような感覚に陥る…領域の展開、奥義の使用、赫と蒼の使用…それら全てにYESと肯定の判断が下される、否定の言葉は無い。
───あぁ…そうか、そういう領域か。
五条の不可侵を剥がす為だけの領域だと、そう言った……あれは嘘だ。
その為だけじゃない、自分の声に似たナニカに頭の中で囁かせて敵手の選択肢を消していく、得意な状況でやらせまいと自分の思考に似たナニカを頭の中に送り込むのだ。
得意なことなんてやらせない、自分に不利なことなんてやらせない、何が何でも自分の領域に…自分の有利にその肉体を引っ張り出す…それが、餓者髑髏の領域なのだ。
このまま行けば負けてたかもしれない、あのバフの乗った一撃は自分にとっても明確な脅威なのだ、直撃=即死は免れない、それほどまでの存在なのだと理解出来る。
なればこそ、その土俵で戦ってやる義理は五条には無い、早々に領域を展開してそれで終わり───
───うるせぇ、黙れ。
ガオンッと、音が響き渡った。
振り抜かれた五条の腕と振り抜かれた餓者髑髏の斧、両者が交差するように左右に位置を入れ替えた両者は互いに背中越しに佇んでいた。
振り抜いた姿勢で止まる餓者髑髏、腕を横一文字に振り抜いた姿勢で止まる五条…互いに静止時間は一秒に近しい僅かで、その僅かの後に結果は当然のように訪れる。
餓者髑髏の身体が前に崩れる、腹に当たる部分を根こそぎ抉り取られたかのように失った餓者髑髏はそのまま地面へと崩れ落ちていく。
ガシャンと鉄鋼の音が響く、地面へと落ちたその音を認識した五条はその音の方向へと振り向きながら腕を払い、纏わりついた骨の欠片と紫色の虚空を振り払い…告げた。
「───悪いね…僕はアイツの最強だから」
髑髏の面が地面へと沈む中、五条悟は大いにそう言い放った。
髑髏の面は、いとも容易くその呪いを終える。
餓者髑髏の術式
一言で言うならトンベリのみんなのうらみ、殺した分だけ殺傷能力が加算されていく分こっちの方がマシであると言える、因みに領域使わなくても直撃したら宿儺でも殺せちゃうよ、当たれば。
餓者髑髏の領域
餓者髑髏の不利な状況を消して有利な状況を呼び込む為の領域、術式そのものに備え付けされているタイプの領域、つまり秤と同じ。
相手の脳内に相手の声でさも自分の思考のように囁いて思考誘導染みた弱めの催眠を施す、喰らった本人もそれが原因で自分の考えと勘違いしてしまうので暫くは術式抜きで戦う羽目になったりすることもある、今回は本当に相手が悪すぎた。
因みに廻にやったら十種が反応して必要以上にバチ殺しの刑に処される。
五条先生
簡易的な虚式でガオンッした、相手は死んだ。