呪術廻戦っぽさって、なんぞ?
何を持って呪術廻戦っぽいって言うんだ、ボブは訝しんだ。
「……何やってんの?」
場所を移してビル…というよりマンション?の何処か、そこに俺達は場所を移して星漿体こと天内理子が目覚めるのを待っていた。
まず二人に反転術式を掛けて、そしたら先に黒井美里こと黒井さんが起きて、当の天内理子が中々起きなかったから、俺は暇潰しがてらマンションの中を散歩してた。
悟とサマーオイルが側に居たし、よしんばあそこで魔虚羅が出ちゃったら文字通りの大惨事だしで、俺は散歩をすることを許された。
そうして暫く経った後に帰ってきたら───
「ぃイヤァァーーーー!!! 不敬ぞぉぉーーー!!!」
こうなってた。
天内理子の両手をサマーオイルが、両足を悟がそれぞれ持ってギリギリと擬音が出てきそうなレベルで捻りながら引っ張り合っていた、その様はさながら引き裂き縄の死刑現場である。
天内理子の悲鳴なぞなんのその、互いに何処か顔に影の見える笑顔のまま、天内理子を雑巾か何かのように捻り、引っ張り合う。
……………えっ、なにこの状況?
いやいやいや待って待って、何がどうとか最早知らんけどその子星漿体よ? 居なきゃ呪術界どころか人間社会滅ぶレベルの重要人物ぞ? そんな子に何やってるの?
特にサマーオイル、お前悟のブレーキ役みたいなところあったろうがなにお前まで便乗してんだよ止めろよやめろよ優しくしろよ。
ほら見て? なんか若干というか思い切り涙目になってるよ? なんか今にも泣き出しそうな顔してるよ? 見えてるでしょやめたげてよぉ…!
いや、というかそもそも───
「中学生の女の子相手に何をやっとんのだお前等ぁ!!」
有無を言わせず悟とサマーオイルの脳天に呪力付きの拳骨を落とす、呪力付きは流石にやりすぎかなとは思うがこいつらこれくらいしないと基本的に他人の言うことなんて聞かんのだから丁度良いと思います。
ゴチンッと些か以上に重たい音が部屋に響く、脳天に落とされた俺の拳骨にお馬鹿二人組は脳天から響いてくる痛みに思わず手を離し、それによって支えを失った天内理子はそのまま流れるようにべチャリと地面に落下した、とても痛そうである。
…………。
……………………あっ…………やっべぇ、それはちょっと想定してなかった。
「……ひっく、ぐすっ…!」
身体を無言で起こし、女の子座りになった天内理子はその幼い顔を大きく歪め、更にはその瞳に大粒の涙を溜め込み…そして───
「うぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!! くろいぃぃぃぃーー!!!」
わんわんと人目も憚らず大泣きした。
大泣きである、それはもう盛大な大泣きである、わんわんわんわんと大口開けて大きく泣いている、多分下の階にも声が届いてるんじゃないかってくらいの大泣きである。
因みに、俺は昔も今も基本的に子供を泣かせたことが無い…いやまぁ、どっちかと言うとそもそも忙しくてマトモに関われなかったり、話す機会が少ないからなんだが。
まぁ、要するに何が言いたいかって……こういう時にどうすれば良いのか全く分からん。
「えっあっちょっ、ごめん痛かったよなごめんって!!」
アワアワと両手を忙しなく動かしてあぁでもないこうでもないとあれやこれやをしようとして、でもこれしたら逆に泣かないかとか不機嫌になるのではといらんことを考え過ぎて結局何一つとして出来ていない。
こういうとこで無力発揮するのが俺である、戦うのは何とかなるけどこういうことになると基本的にクソ雑魚ナメクジと化すのが俺なのである、不甲斐ないことこの上ない。
この後、全力で慰めて何とか泣き止ませようとしていた所に黒井さんがやってきて秒で泣き止ませてた…母親の偉大さを痛感したような気がした。
「まっことに申し訳ございませんでした」
俺は天内理子…もとい天内ちゃんと黒井さんに土下座をしていた、自分でも結構綺麗なんじゃないかって思う程度には綺麗な土下座が出来ていると思う。
ふふっ、これもそれも全部子供だった頃の親友が何かしらぶっ壊した時に後始末で土下座しに行ったりしてたお陰である(遠い目)。
「あっ…いや……その……」
そんな俺に対して、天内ちゃんは何処か遠慮気味と言うか引き気味というか、何をするにしても反応が著しくない…いやまぁそりゃ泣き喚いた直後に土下座されたら誰だって引くとは思うけどさ。
けどごめんね天内ちゃん、俺ってこれ以外の報い方とか知らないのよ、金とか物とかそういうのに関するセンスが絶滅してるから。
「やーねぇ奥さん、見てくださいよアレ」
「あらまぁ恐ろしい子、仮にも自分を助けようとしてくれた人に対してあんなことさせるなんて…性根の悪さが伺えるでざます」
そんな俺の耳に、何処かオチャラケた声が聞こえてくる。
片方は何処かで聞いたことのある口調で喋り、もう片方は如何にも楽しげな声音で何処で覚えたのか非常に苛つくような口調で話している……無茶苦茶苛つく。
「あらまぁやだわぁ奥さん、見てくださいよあの小娘の今にも殺してやると言わんばかりのあの目、怖いわぁ」
「そうよねぇ、きっと友達もいないのだわねぇ」
どう考えても煽っているとしか思えない言葉の羅列、それが自分に言われているのではないと分かっていてもやっぱりムカつく、ムカッと来るものは何時だってムカッと来るのだ。
コソッと顔を上に上げてみると、天内ちゃんはそれはもうとんでもない顔をしていた、苛ついて苛ついて仕方がないと言わんばかりの形相、黒井さんはその横でオロオロとしていた、可愛い。
ふと天内ちゃんと視線が合う、そこにはつい先程までの何処か余所余所しかった態度はもうない、あるのはただ一つ…特定の目的の共有だけ。
瞬間、俺達は動き出した。
俺は土下座の姿勢を解いてそのまま流れるように後方へと猛烈にダッシュ、それに続いて天内ちゃんも動き出す。
天内ちゃんはまるで戦いの素人とは思えないほどに俊敏かつ自然な動きで駆け出し、そのままバッタ…いや流石に失礼だな、ウサギが高く跳ねるようにして飛び上がった…その矛先はサマーオイルの顔面だ。
因みに当のサマーオイルは一般人とは思えないレベルの動きを見せる天内ちゃんの動きに…というより飛び上がったことで丸見えとなってしまった女の子特有のとある布に対して動揺を隠せず咄嗟に目を閉じようとしてしまったためか、身動きが取れていない……お前そんなんだからモテるんだぞ。
そして悟の方は……なんか無茶苦茶笑顔で構えている…こいつこうなること分かっててわざと煽ったな、よしブン殴る。
術式を発動する素振りはない、流石にこんな所で術式ブッパするようなことはしないらしい…いやまぁ、したらしたらでこっちも全力で潰しに行くけど。
真横で死ねぇぇぇぇ!!! という天内ちゃんの叫び声とサマーオイルの変なうめき声とも悲鳴ともつかない声が生々しい打撃音と共に聞こえてくる中で、俺は悟へとその拳を向けた。
何がそんなに嬉しいのかは知らんけどなぁ…とりあえずお前等二人共正座じゃぁ!! そこに並べオラァァァ!!! 説教してやるわこのドブカス共がぁぁぁ!!!
ピシリッと、持っているガラスのコップにヒビが入る。
自然と手に力が籠もる、行き場のない怒りが私の手にあるコップへと注がれていく。
視線の先に見える五人の人影…二人は護衛、一人は星漿体でもう一人はそのメイド…そして、最後の一人は廻……別に怒りを抱く理由など何処にも無い、寧ろ生きている廻を見ていられるのだから幸せ以外の何者でもない…はずだった。
しかしその事実を、私は否定せざるを得なかった。
視線の先で、護衛二人が地面に正座して、廻はそんな二人組に説教をしているようだった。
『お前等はアレか!? 自分達の役目とか任務とか全部忘れたんかおい!? 護衛対象に何してくれてんねんお前等!!? おい聞いとるんか? おいお前のことだぞサマーオイル───』
術式を応用し、空間を圧縮して聞いた声には明確な怒りが宿っていた、視界の先でもまるで背後に炎が巻き上がっているかのように怒り狂っている…そしてそんな廻の姿に、説教されている当の二人組はしらーっとした顔をしていた。
『話聞けよオマエラァァァァッッ!!!』
そんな二人に我慢が限界を迎えたのか、廻は二人を両手で捕まえて締め上げるようにして腕を首に回して力を込めた、さながらプロレス技だ。
流石にこれには堪えたのか、前髪が変な方の男…確か夏油だったか? 彼はギブッギブッと口に出しながら地面をベシベシと叩いている、その表情は今にも死にそうな人間のソレだった。
もう一人も、五条悟も同様だったのか同じような動作をしている…しかしその表情は何処か楽しげだ。
…………羨ましい。
そうだ、羨ましいのだ…何故私はそこに居ないのか、そこに居たのは私だったはずなのに何故私はそこに居ないのか。
嫉妬だ、それもしょうもなく品も無い醜いにも程がある嫉妬だ、そんなの私にも分かっている…しかし、どうしようもないくらい、羨ましくて堪らない。
「……私のだったのに」
ボソリと呟く…そうだ、私のだったのだ。
今お前達に向けられている感情も、与えられている痛みも、お前達の今までの日々も、全部全部全部全部全部全部全部全部…元々は、私のだったのに。
なんでそこにお前がいる…なんでそこにお前達がいる…そこは私の居場所のはずだったのに、
「…私の親友なのに…私の
気に入らない、気に入らない…気に入らない…! 気に入らない…!!!
ふざけるな退けよ、そこは私の特等席だ、そこは私だけの居場所だ、その愛は私だけのものだ、お前達の物では断じてない。
コップに力が籠もる、ヒビ割れが酷く音も容易く周囲に響く。
視線を向ける、視線の先では夏油が大の字でうつ伏せに寝転がっている、意識があるのか右手に赤いインクをつけて地面に何か書いているようであった。
もう一人、五条悟は未だに廻に絞め技を食らっていた、バンバンと地面叩きギブアップと叫んでいる…しかしその表情は満面の笑みだ、少しも嫌がってるように見えないし痛がっているようにも見えない。
楽しそうだ、幸せそうだ…あぁ…妬ましい。
そんな風に、側にいる奴等に妬みの感情を向けていたその時、不意に五条悟と視線があった。
五条悟は何気無くこちらに顔を向けていた、まるで私のことを見るように、見えているように、しっかりと此方の方向を見据えていた。
そして……ニタァッと意地の悪そうな笑みを浮かべながら、さも私を馬鹿にするかのように、ベロッと舌を出した。
その瞳は確かに、私という存在を認識していた。
それを認識した瞬間、理解した瞬間…私の中で、ナニカが千切れたような気がした。
コップが割れて中身が溢れる、無意識的にギリッと歯が音を鳴らし、無下限の圧力が周囲を踏み潰していく。
眼の前のガラスにヒビが入り、地面から鳴ってはいけないような音が垂れ流され、髪の毛がふわりふわりと浮き上がる。
この時、私の中にあったはずの確かな目的は、ほんの数瞬の間にその形を大きく変えた。
即ち…対象の変更である。
………あぁ……そうだ……そうしよう……………アイツ………殺そう………。
星漿体と夏油とメイドだけは逃がしてあげて、あの私の模造品だけを殺そう。
何時までも廻の側に我が物顔でいるアイツをグチャグチャにして殺そう、ぶっ殺してあげよう。
顔をふっ飛ばして、臓物を抉って、手足を潰して、目ん玉潰して鼻を切り取って耳を削いで舌を切って喉を潰して潰して…何もかもグチャグチャにしてから殺そう、廻が見ても誰か分からないってくらいに無茶苦茶にしてから殺そう。
それで、廻を連れて帰ろう…一緒に仲良く、手を繋いで、また何時かみたいに抱きしめてもらおう。
それで…それで………子供を作ろう、私と廻の。
それで…前に二人で出来なかったこと、全部やろう。
「フフッ…フフフフフフフフッ…」
笑みが溢れる、想像しただけで幸せを感じてしまう、これからそれが現実になることを考えるともっと幸せになれそうな気がする。
まぁ…何はともあれ、まずは………結婚式だな…。
フフッ…フフフ……フフフフフフフフッ……。
……あれぇ? おっかしいぞ〜? 別にそんな気はなかったのに何時の間にか変な方向に突撃しちゃってるぞー?
………えっ…なんで?(真顔)
追記
コメントで書かれたので書きますが、親友ちゃんくんは廻のことを弟とも兄ともなんだったら父親とも見ているちょっと頭のおかしな子です。