久しぶりの呪術廻戦、リバビリも兼ねようかなと思う今日この頃。
ところ変わって京都校の手番、コンコンっとバットで地面を軽く叩いた三輪は大きく身体を回してバットを彼方へと向ける。
狙うホームランただ一つ、投げて来いその全てを境界線の彼方へと吹き飛ばしてくれるわ…そんなことを宣いそうな程に力強い眼力を浮かべた三輪の姿に、真希はハッと鼻で笑うかのように息を吐き出した。
視線が交差する、火花を散らしていると錯覚してしまいそうな程に高まる互いの圧力、ここに野球選手の一人か二人でもいれば即刻スカウトが飛んできそうな程に強いプレッシャーを放つ二人の姿に、虎杖はあの二人だけ住んでる世界線違くね? と何処かアホらしそうな言葉を浮かべた。
足を浮かべる、片足浮かべてからの踏み込み、力強く踏み込み素早く鞭のように振り抜いた腕から握り込まれたボールが射出される、砲弾さながらの勢いと空気を切り裂く音を響かせながらボールはミット目掛けて飛んでいく。
ボールが手を離れた瞬間に鳴り響いた空気を打ち付けたような音、どう考えてもボールを投げた際に発せられて良いような音ではないソレが耳に届くのを感じながら三輪はギリっと歯を噛み締める。
球種は恐らくストレートド真ん中、小細工を一切抜きにしたその真っ直ぐ過ぎる投擲は傍目から見ても見事なモノと言えるだろう、呪力の強化も無しにどうすればそれほどまでの速度を出せるのかと問い質したくなる。
全力全開の一直線…馬鹿正直過ぎるその一投はしかし、並の人間が捉えるにはあまりに速く、あまりに重すぎる一撃だ…果たして、呪力強化無しで打ち抜けるものか。
「───ッッ!!!」
否ッ…打つ、打ち抜く、打ち抜いてみせる。
何故みんなしてそんなに本気になっているのかは今でも分からない…何か、自分では分からないような何かがこの試合に賭けられているのか、それとも単に負けず嫌いなのか…その何方でもないような気も正直するが、そんなことは今はどうでも良い。
勝ちたい、負けたくない…負けず嫌いは自分も同じ、どうせなら勝ちたいと願うのは人の性、恋人が見てるその手前で恥を晒すようなことなんてもっと嫌だ。
だから勝つ、だから打つ、その球がどれだけ速かろうとどれだけ重かろうが関係無い。
何故なら───
「───っっアァァアアアッ!!!」
バットがボールに激突する、先の真希同様に投げられた球の芯へとしっかりと当たった感覚、並み居る投擲であればそのままグラウンドの外へと打ち飛ばせる自信がある…が、しかし───
───重っ!!?
バットから感じる想像を遥かに超える重さ、速度は重さとは良く言ったものだがこれほどまでにその言葉の意味を感じ取ったことは無い、これほどまでの圧力を受けて何故弾け飛んでいないのかが不思議でならない…それほどまでの重さ。
ボールの勢いに僅かにバットの位置が下がる、しっかりと握り込んで思い切り力を込めていなければ今すぐにでも押し負けてしまいそうなこの感覚が手を通して伝わってくる…それでも───
「───私っ!! はぁっっ!!」
足を思い切り踏み締める、ヒビすら入らんばかりの強さで以て踏み締めた足、そこから伝達してくる力の全てを腕へと回しながら三輪は踏み込みを行うようにほんの少し前へと足を摺り出した。
体重を前へと移す、勢いよく走り出すように前へ前へと身体を傾けながらバットを押し出す、まるで頑丈な何かを無理矢理切り裂こうとしているかのような体勢に虎杖は唖然としていた。
「───三輪ッ…霞だぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
拮抗は一瞬だった、前へと押し出した体重と共に感じたボールへの手応え、その隙を逃さず三輪は自身に残された力と体力をフル動員して腕を前へと押し出す、互角であったはずのボールとバットの押し合いはそこから一気に三輪側へと傾き…バゴンッという音を叩き鳴らしながらボールは遥かに彼方へと吹き飛んでいった。
振り抜かれた腕とそれと同時に鳴り響いた大きな音、土煙を大きく巻き上げながらその姿を消したボールとカランカランッと転がる鉄の音、何だ何だと周囲が注目する中で煙が晴れ、その先で天高く掲げられた一つの腕。
「───ホームランッ!!」
声が響くと共にベンチから歓声が鳴り響いた、よくやった三輪ァっと歌姫がテンション高くガッツポーズを取る中で当の三輪霞は何処か照れくさそうにピースサインを浮かべた。
そんな三輪の姿に真希は悔しそうに顔を顰める、本人自身も納得せるほどの会心の投擲を打ち抜かれたのだ、その反応も当然のモノと言えるだろう。
歌姫が五条へと向けて何やら煽りを入れている、どうよウチの子達はぁ! と胸を張って自慢するように…否、恐らく本気で自慢しているのだろう歌姫の姿に三輪は更に照れくさそうな態度を取った。
京都高チーム、一点リード。
続く次席、京都校の加茂憲紀、開いているのかいないのか良く分からない人…少なくとも虎杖はそう認識していた。
コンコンっとバットで地面を叩く、ギュッギュッと感触を確かめるようにバットの柄に力を入れて抜くを繰り返すその姿に、虎杖は思わず何してるんだこの人…と、割と素でそんなことを思ってしまう。
普段の虎杖ならば恐らくそんなこと思いもしなかったのだろうが…つい先程繰り広げられた超次元さながらの一球勝負に加えて自分以外から発せられる重くピリピリとした雰囲気が虎杖にその様な思考をさせるに至っていた。
疎外感、違和感…恐らく自分だけがどういう状況なのかを理解出来ていないが故に、自分でもらしくもない思考をしてしまっていることを自覚している虎杖はいけないいけないとパンっと自分の拳とミットをぶつけ合わせた。
「…虎杖…と言ったね、君の名前は」
そんな虎杖へと、加茂は何気兼ねなく唐突に話しかけてきた、開いているのか閉じているのかも分からない糸目特有の胡散臭さに虎杖は思わず身構えてしまう…そんな虎杖の姿に加茂は安心させるように笑みを浮かべた。
「あぁ、そう身構えないでくれ…ただ、少し聞いてみたいことがあるだけなんだ」
笑みを浮かべながらそう口にする、胡散臭さは相変わらず抜けていないがその言葉に嘘は無いだろうと判断したのだろう、虎杖はなんすかっ?…と普段通りの様子で言葉を返した。
「いや、なに、さっきも言ったが聞いてみたくてね……君は、何故呪術師になったんだ?」
それは、あまりにも唐突な問いかけだった、真剣さもクソも無いような…それこそ散歩にでも行くかのような手軽さでぶつけられたその問いかけに虎杖は加茂へと目を向け…察して時間も掛けずに、言葉を返した。
「切っ掛けは成り行きっすよ……ただ、寂しがり屋だから…死ぬ時に一人で死にたくないから、いっぱい助けていっぱい覚えてもらって…んで、死ぬ時にいっぱいの人に看取ってもらいたいって…そんな程度の理由っすよ」
「…そうか……良いと思うよ、実に分かりやすくて良い理由だ」
バスンっとミットの中にボールが入り込む、言葉を交わしながら放たれた投球は両者の会話なぞ知ったことかと言わんばかりにミットへと直撃した。
ストラーイクっ! と若干間延びした声が辺りに響く、ベンチの方から歌姫の騒ぐ声が聞こえてくるのを無視しながら加茂はところでっと言葉を重ねた。
「虎杖…これは聞きたいことと言うよりかは言っておきたいことなんだが…良いか?」
「?…なんスか?」
続いた加茂の言葉に疑問符を浮かべる虎杖、宿儺関連のことで何かを伝えるべきことでもあるのだろうかと加茂の言葉に耳を集中させる。
息を吸う、何やら真剣そうな雰囲気で今から重大なことを言いますとでも言いたげな気配を纏った加茂は、意を決したように言葉を吐き出した。
「私は…実はスポーツ関連のことが件並苦手でね…こうして握っているこれも、正直どう振れば良いのかまるで分からないんだ」
えっ…と声が漏れた、あまりにも真剣そうな雰囲気で吐き出されたあんまりにもあんまりなその言葉に虎杖の意識が一瞬飛ぶ…そんな虎杖の鳩尾へと伏黒の投げた球が衝突した。
グベェッと不細工な悲鳴を上げる虎杖、後ろへと倒れ込みながら痛みにのたうち回る虎杖の元へと生徒と教師達が寄ってくる…それに対して大丈夫だと、ボーッしていただけだと釈明する。
ある程度の怪我の確認と意識の確認、それら二つの安否が確認されたことで試合を続行、虎杖自身も大した怪我ではないことに加えて廻が念の為にと反転術式を掛けたことでそのまま出場の流れとなった。
「…普通に振れば良いんじゃないっすか?」
先の話の続きと虎杖が口を開く、話を続けてもらえると思っていなかったのか、加茂はその言葉に僅かに眉を上げる…が、直ぐに適応したのか普通に言葉を返してくる。
「それが出来れば良かったんだが…何分不器用なのでな、ただ振るってただ打つだけだと言うのにそれが出来ないんだ…身体を動かせることと運動神経があるのとでは話は別という話を聞いたことはあったが…まさしくその通りだと思ったよ」
何処か渇いたような笑声を発しながらそう言った加茂の表情は、虎杖には何処か疲れているように思えた…そんな虎杖へと加茂は更に言葉を続ける。
「武術は出来るんだ、特に苦労…はあったが、それでもキチンと出来たんだ……なのに何故かスポーツ関連のことだけはまるで出来ない…ボールを蹴ることは出来てもドリブルをしようとするとほぼ確実に転ぶし、バスケをしようとすると何時も相手か自分の顔面と股間にボールが飛んでいくんだ」
運動音痴に良くありそうな実例をつらつらと並び立てていく加茂、そんな加茂の何処か説得力を感じさせる話の数々に虎杖は思わず顔を引き攣らせた…あまりにも、あまりにもスポーツに対する適性が無さすぎると、そう感じさせられたのだ。
ミットにボールが打ち付けられる、今度はしっかりと受け止めたその一球と共にストラーイクっと声が響く…その声に釣られてかベンチから打たなきゃ当たんねぇぞ加茂ぉっ!! という声が聞こえてきた。
それに反応してなのか、心底仕方がないとでも言えようにため息を吐き出した加茂は、虎杖へと顔を向けて口を開いた。
「実例を見せよう…見ていてくれ、私がコレを振るったらどうなるのかを」
加茂がバットを構える…実に堂の入った構えだった、端から見てもそこまでおかしな点なんて見つからない、普通に構えたらこうなるだろうなと思わせられるようなバットの構え方だった。
投球が始まる、足を踏み締め腕を振るい、ボールを射出する…その放たれた一球を加茂は真っ直ぐと見つめ…そして放たれたボール目掛けてバットを一息に振り抜く。
狙いは的確だった…放たれたボールへと的確に当てられたバット、ホームランとは行かずともそのまま行けば大きくヒットを伸ばしていくだろうことは簡単に予測出来るような…そんな当て方だった…そのはずだった。
次の瞬間…バットへと当たって地面を走るはずだったボールは、何故か滑るようにバットのミドルを走り、その勢いのままにコツンっと弾けるように跳んだかと思うと───
「───ブッ…!?」
加茂の顔面へと、激突した。
えぇっ…と虎杖は見てはいけないものを見てしまったかのような視線を加茂へと向ける。
的確な振り方だった、問題なんて見受けられなかった、そのまま行けばまず間違いなく打てていたのは間違いないと…そう思わせるような打球だったのに…何故にそうなる。
唖然と驚愕、あんまりにもあんまりな光景に言葉が出ない虎杖、その向こう側でムクリっと何と言うことの無いように身体を起こした加茂は、自然な動作で虎杖の方へと顔を向けると…告げた。
「───こうなる」
「───いや、それもうスポーツ音痴とかで片付けて良いものじゃないっすよ」
虎杖は、そう言うしかなかった。
加茂憲紀
スポーツ音痴、最早ボールに嫌われてるレベルでスポーツが苦手、ただし陸上とかそういうのは出来る。