宿儺にぶっ殺されたワイ、何故か子供になる   作:富竹14号

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 ちょっと変化球。


番外編 IF編 この世にあり得たかもしれないもしもの───

 

 

 雨が…降っていた。

 

 布団に寝そべり横を見る、縁側の外からやってくる冷たい風と水の音、水が地面を叩く音を水辺に落ちる音が同時に聞こえてきた。

 

 身体が軋む、身体が痛む…ほんの少し首を動かしただけでこうも響いてくるその身体の痛みに、私は衰えたなと何となしにそう思った。

 

 周りに人がいる…涙ぐみながら私を見つめる無数の姿…息子に孫にその家族、かつて戦場を駆けた戦友達にこの家を切り盛りした部下達…皆が、悲しそうな瞳で私を見つめていた。

 

 雨が響く、水音が響く、地面を打ちつけ水溜りを弾く…そんな何時かの再現のような音が私の耳へと届く…静かな空間が、そこにはあった。

 

 

「───…ッ」

 

 くすりっと、漏れ出るような声が溢れ落ちた。

 

 思い出してしまった…そうだ、兄が死んだのもこんな日だった、兄があの呪いの王に殺されたあの日も、こんな風に雨が降っていた。

 

 今思い出してみても悲しみが沸き起こる、あの日の光景と経験は未だに私の心を蝕み、そうして生まれたこの傷はこうして命尽きる時に至っても尚、癒えることは無かった。

 

 私の声に反応したのか、孫娘が私の側に身体を寄せる。

 

 その表情は焦りに満ち溢れ、嫌だ嫌だとその瞳に涙を溜めた顔で私に何かを言っている…生憎、最早何を言っているのかも聞こえないが…それでも泣いているのだからと、昔兄にそうされたようにと孫娘の頭を撫でてやる。

 

 弱々しい手つきだと自分で思う、枯れてしわくちゃになったそのその手を本当に自分の腕なのだろうかと疑問に思いながら、そんなこと関係無しと孫娘を撫で続ける。

 

 見開かれる瞳から涙が溢れ落ちる…何かを悟ったように、何かに堪えるようにその唇を噛み締めた孫娘の瞳からポロポロと更に涙は溢れ落ちていく、そんな孫娘の頭を私は泣くな泣くなとあやそうとして…ふと、腕に力が入らなくなったことに気がついた。

 

 時間切れ…そんな言葉を頭に思い浮かべた瞬間、腕がパタリと布団の上に落ちる、瞳は開かれたままだがそこから身体は更に言うことを聞かなくなった…どうやら、迎えが近いようだ。

 

 静かに息を吐く…雨の音だけが鮮明に聞こえてくるその中で、私の頭の中で様々な過去の出来事が雪崩のように現れては消え、現れては消えてを繰り返していく。

 

 走馬灯というやつなのだろうか…一番最初に現れたのは兄との思い出、泣きじゃくる私をあやして慰めて、時には抱きしめてくれた優しい兄様…そして、呪いの王に殺されてしまった、優しい兄様。

 

 貴方から教えてもらった様々を、私はただの一度も忘れたことは無い…貴方の教えが私を生かし、私に様々を救わせてくれた…言葉にするのならば、きっと感謝の言葉しか浮かんで来ないのだろうと私は思います。

 

 次に現れたのは菫様との思い出…傍若無人で唯我独尊、周りからの評価も印象も最悪の一言であったかもしれないけれど…それでも、身内と判断した人間にはそれなり以上に優しかった貴女。

 

 兄様が死んだ後、貴女は壊れてしまった…あの一戦、兄様を呪物にしようとしたあの一戦、私に敗れた貴女はあの場所で子供のように泣きじゃくっていた。

 

 どうして死んだのだと、どうして置いていったのだと、どうしてあの時自分はついて行かなかったのだと…そう、叩きつけるように私へと言葉を吐き出した貴女の姿は、今でも私の瞼の裏に焼き付いている。

 

 兄様の式神ですら躊躇った…あまりにも子供のように泣きじゃくるその姿に、この世の全てに絶望していると言わんばかりのその瞳に…その時になってようやく理解した、五条菫という人間にはとって兄様という人間こそが全てだったのだということを。

 

 そこから先は…もうどうしようもなかった……私との間に二度と兄様の死体に手を出さないという縛りを結んだ貴女は、ただただ呪いという呪いを殺し尽くす存在へと成り果てた。

 

 呪霊も、人間も、この世に呪いを振りまくありとあらゆる全ての存在を文字通りただただ殺し尽くす…その過程で幾多もの存在を救い、幾多もの評価を覆しても…貴女はただの一度も止まることをしなかった。

 

 私は、今でも後悔しています…貴女にもっとしてやれることがあったのではなかったのか…と。

 

 

 そして…三途……君と出会ったのは子供の頃だった。

 

 兄様が拾ってきた子供、白い髪に金色の瞳が特長的なその姿に興味が湧いたのを今でも覚えている。

 

 呪霊操術の使い手…無数の呪霊を下し、自ら取り込み操る特異な術式…周囲全ての言葉を押し退けて、兄様は君を僕達の元へと連れてきた。

 

 楽しかったよね…一緒に遊んで一緒に鍛えて、時には共に呪霊を狩ることもあった…今でも思うのだ、恐らく僕の人生に於いて君以上の友は居なかったのだろうと。

 

 だからこそ…悲しかった、君が敵になった、その時は。

 

 始まりは、兄様の死だった…内心で父親のように思っていた人間の死に君は絶望し、怒り狂っていた…なんで邪魔した、なんであんなことをしたと、君は僕が止められなかった彼等を殴りつけ、殺そうとしていた。

 

 辛かったろう、苦しかったろう、何故こんな奴等のせいでと…そう叫ぶ君の言葉に何人もの人間が苦虫を噛み潰したような顔をしていた…中には嫌悪を彼らに向ける人間だっていた……けど、君は殺さなかった。

 

 飛び出せた人間と飛び出せなかった人間…あの場に於いては後者の方が正しいはずのその行いは、しかし見方を変えて見ればそれは臆した人間と臆さなかった人間だ…その違いは、何処までも大きい。

 

 その結論に、行き着いてしまったからなのだろう…結局君は誰も殺さなかった、自分で傷つけてしまった彼らに治療を施し、済まなかったと頭を下げてまで。

 

 そこから君は、何とか持ち直した…あの人に顔向け出来ないからと今までのように呪いを祓い、呪いに対抗出来ない誰かを救い続けた……自分達を助けた呪術師を、自分達の村を守ったその小さな背中を滅多刺しにした人でなし達の姿を見る、その時までは。

 

 

 

「───…ァァッ」

 

 

 声が漏れ出た…唐突に閉じた走馬灯の光景、それが消えると共に急速に消えそうになる自身の意識にとうとう終わりの時がやってきたのだと悟る。

 

 家族が寄ってくる、私のしわくちゃの手を握りしめながら必死に何かを私へと言っている…その光景にその言葉を聞くことが出来ないことを申し訳なく思いながら、しかし私は不思議と穏やかな心地で居た。

 

 痛みを感じない、苦しみを感じない、感じるのはただただ猛烈なまでの眠気だけ…死ぬというのはこういうことなのかと一つの納得を得ながら、私の視界は徐々に狭まっていく。

 

 暗闇に染まる自身の視界、堪えきれず大粒の涙を流し始めた家族と戦友の姿を瞳に残しながら、私は最後の力を振り絞って手を伸ばし…誰かの頬を、涙を拭くように撫でた。

 

 

 音が……消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に目を覚ましたその時…私の…僕の身体は縮んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜……だった。

 

 夜の校舎、砕けた一部が煙と共に舞い散り、辺り一面にばら撒かれる…無数に蔓延っていたはずの異形の姿は最早この世には無く、あるのはただひたすらの静寂だけ。

 

 飛び散っていた紫色の血液、呪いと共に生まれ呪いによってこの世から消える存在の血肉…それが空気に溶けるようにこの世から消えていく…そんな、誰かにとっての異常が霞んで見えるような異常がその場を包んでいた。

 

 そこに在るのは三人の人影…一人は黒衣の制服に身を包んだ男…頭から少なくない量の血を流し、息も忘れたような様相で向き合う両者を見つめている。

 

 一人は上半身裸の男…身体に奔る無数の入れ墨が特長的なその男は眼前に存在する男へとまるで信じられないものをみたような瞳を…否、まるで信じたくないようなモノを見るような目を男へと向けていた。

 

 一人は何処ぞの学生服に身を包んだ男…恐らくこの学校の生徒なのだろうその男は苦虫と憎悪を丸ごと噛み潰したような表情を浮かべていた…まるで、遥か昔に家族を奪った存在と再会したような…そんな表情を。

 

 

「───術式解放」

 

 

───『焦眉之赳』

 

 

 灯る蒼い炎、男の囁くような言葉を合図に男の両腕を包んだ蒼炎が夜闇を照らす。

 

 この世尽く、ありとあらゆる呪いに焼き尽くす滅殺の炎、平安の世に於いて後世に語り継がれる程に鮮烈のその姿を残したその炎はさも当然のように現代に姿を現した。

 

 そんな炎を、魂すら焼き尽くす程に洗練されたその炎を見て…ふとしたように、男は呟いた。

 

「───何故だ」

 

 

 かつて呪いの王と呼ばれた存在、史上最強とまで謳われた存在、かつて最強と呼ばれた存在を殺した存在が…まるで能面のような表情を浮かべながらそんな言葉を呟いた。

 

 あまりにらしくない姿、以前までの呪いの王であれば到底言わぬはずであろうその言葉に男は疑問の表情を浮かべるが、そんなこと知ったことじゃないと呪いの王の口は動き続けた。

 

 

「何故だ…何故だ…何故だ、何故だ、何故だ、何故だ、何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ………!!!!」

 

 

 徐々に強くなっていく語気、一言吐き出す毎に強くなっていく言葉の圧と呪力に男は咄嗟に構えた、呪いの王の名を欲しいがままにしたことを証明するかのように圧を増していくその威容に黒衣の男は息を飲む。

 

 

「───何故()()なのだ…何故、何故ッッ……!!!」

 

 地面が爆ぜる、呪いの王が征く…かつてに比べてみれば遥かに遅くなったその動きに男の目は容易く追いつき、さも当たり前のようにその一撃を受け止めていた。

 

 激突、真正面からその一撃を受け止めた男はやはり以前に比べて遥かに軽いと呪いの王を見やり…そんな男へと呪いの王は言葉を吐き出す。

 

 

「何故貴様なのだ…何故───」

 

 

 

───奴ではないッッ!!!

 

 

 

 それは、慟哭だったのかもしれない。

 

 吐き出された言葉に男は目を見開き、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら…呪いの王同様に言葉を吐き出した。

 

 

「───それは此方の台詞だろうっ…何故お前なんだ……何で…何で兄様じゃないっ!!」

 

 

 その言葉を合図に、両者の一撃は黒い火花と共に激突した。

 

 

 

 

 

 これはもしも…あり得なくはなかった、ひょっとしたらあったのかもしれない…蒼い焔の物語。

 

 

 

 

 





呪いの王

 虚無、廻病。
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