「…と、言うわけで呪術師になった宮城薫くんです! みんな仲良くしてあげてね?」
「…どうも、はじめまして、宮城薫です」
そんな言葉と共に、五条悟は陽気な様子でお披露目でするように両手を大きく広げて薫を指し示し、現在のような状況にあまり慣れておらず、どうすれば良いのか分からなかった薫は無難に挨拶を済ませた。
反応は様々…茶髪の少女こと『釘崎野薔薇』は何処か品定めでするかのように薫を暫く見つめた後、まるで妥協でもするかのようにため息を吐き、その後に一言よろしくとだけ言葉を吐いた。
それに続くように黒髪のトゲトゲとした男子…『伏黒恵』は無愛想な様子で一言、名前だけを告げた…何処となく、警戒心のようなものが見え隠れするのが偶に傷というやつなのだろうか。
「俺、虎杖悠仁…あの時はありがとうな!」
そして最後、元気に明るく親しみやすく、笑みを浮かべながら気安い様子で話しかけてくる最後の一人…宿儺の指を食った呪いの王の受肉体、呪いを食らって死ぬことを宿命付けられた哀れな人柱。
宿儺の器『虎杖悠仁』…現在進行系で悪化の一途を辿っている最中であるはずのその男は、そんな様子など微塵も感じさせない様子で薫へと話しかけていた。
「良いよ、別に…気にするようなことじゃないから」
そう言って笑みを浮かべて言葉を返す、可能な限り親しみやすく、それでいて裏の感情なんて感じさせないような…そんな笑みで。
…正直な話をするのならば、薫は虎杖の反応に困っていた。
宿儺が受肉していた時とは言え、仮にも薫は自分を殺そうとした人間である、そのような人間相手に何故そのような態度を取れるのかが薫には分からなかった。
覚えているはずなのだ、自分が宿儺に向けた殺意と憎悪を…宿儺の器としての適性を持つのであればその記憶は虎杖自身にも反映されているはずなのだ…それなのに、何故己に礼など言うのだろうか、何故恨み言ではないのだろうか。
今すぐにでも口に出して何故そのような事を言うのかと問いかけたい…そんな思いを奥へ奥へと押しやって、薫は今後ともよろしくと手を差し出し、虎杖はそれに明るく応じながら薫の握手を受け入れた。
…良い人物だと、薫は素直にそう思った。
善人、凡人…呼び名としてはきっと複数存在するのだろうが、関わってみてまず分かるのは虎杖悠仁という人物は何処までも普通の人間であるということ。
普通に高校に通い、普通に交友関係を広げる…多少嫌悪と恐怖に耐性こそあれど、その本質は何処まで行っても平凡な男子高校生だ。
それがこうしてこんな所に来てしまっている、こうして自分達のような裏側の存在と関わり合いになってしまっている…幾数の状況と本人の善性が最悪の形で絡み合って、虎杖悠仁を呪いの世界へと落とし込もうとしてしまっている。
そしてその事実に、宮城薫は……都合が良いと、そう心の何処かで思ってしまっていた。
…駄目なのだ、近づいてはいけない、情を抱いてはいけない…自分は、宮城薫は両面宿儺を殺すのだ、殺さなければならないのだ。
両面宿儺を殺すということは宿儺の指を取り込んだ人間を殺すと言うこと…つまり、両面宿儺を殺すということはそのまま=虎杖悠仁を殺すということなのだ、何の罪も無い単なる善人であろうこの少年を宮城薫は殺さなければならない。
しかもこれは単なる私怨だ、兄を殺されたことによる恨みをその本人にぶつけずにはいられない、殺さずにはいられないというあまりにも個人的な動機…何処までも自分の為の理由付けでしかないのだ。
虎杖が宿儺に成る可能性がどれほどのものかは分からない、分からないが薫本人としては早く指を集めた果てに出てきて欲しいと思ってすら居た…何故なら、当の本人に引き篭もられてしまっては殺したくても殺せないのだから。
宮城薫は…否、禪院薫は何処まで行っても両面宿儺を殺したいのだ、殺して殺して殺し尽くしてやりたいのだ…だってそうでもしないと、あの日の後悔も憎しみも何一つとして晴れてはくれないのだから、未だに消えぬあの光景が今でも自分を責め立てるのだから。
気がつけば何処へやら、ボロボロとなった建物の中へと慣れた様子で入っていく釘崎と警戒心を稼働させながらソレに続く虎杖…その姿を、薫はただジッと見つめていた。
青い青い空の下、その澄み渡るような景色とは裏腹に薫が抱いていたのは何処までも燃え盛り消えることのない、ドス黒い恨みの感情だった。
シャランっと鳴り響く鈴の音と共に、ソレは瞳を開けた。
笛の音に太鼓の音、ざわざわと楽しそうに騒ぐ周囲の様子を尻目に大きく身体を伸ばして欠伸を噛み殺したその少年はふと今正に思い出すかのように口を開く。
「…そういえば今日って祭りの日なんだっけ」
何の祭りであっただろうか…そんなことをぼんやりと考えながら身体を起こして祭りの中をひた歩く、屋台から漂う良い匂いが鼻を擽り、それが少年の身体を否応無しに引き寄せた。
ふらふらと歩いて行った先にあったのは串焼き店、ジュワーッと香ばしく焼ける肉の匂いとソレに染み込んだタレの匂いが嫌に食欲を刺激する、腹の音が鳴るのにそう時間は掛からなかった。
「矢上さーん、一本くださいなー」
食欲に負けて財布の布を緩めた少年、黒い髪と特徴的な満月のような金色の瞳を揺らしながらそう口にしたその言葉に、屋台の主はおっ! と笑みを浮かべて反応する。
「
豪快な笑みと人当たりの良さそうな雰囲気を満遍なく出しながらそう問いかける矢上に少年は…葛城廻は気分次第かなぁっと間延びするような言葉遣いでそう返す…その瞳は、肉に釣られてあっちへこっちへと揺れていた。
「ガハハハッ!! 相変わらずの食いしん坊だっ! ほら、一本まけてやるよ、この間の礼代わりだ!」
がハハッがハハッと豪快に笑いながら焼き終えた串焼き二本を廻へと手渡す矢上、その様子を見ていた周囲からはじゃあ俺もまけてくれよぉとソレに便乗するかのような声が殺到する。
それに対してじゃかしぃっ!! お前等はちゃんと買えっ!! と一喝でもするかのような大声でそう声を上げた矢上にブーブーと文句が飛ぶ、廻くんだけズルいぞぉと言う声もあればこの前手伝った時は何もくれなかったじゃないかぁっと言ったような声も聞こえた。
そんな周囲の状況に廻はくすくすっと笑う、明るく楽しく賑やかに、負の感情が感じられないこの喧騒が葛城廻はどうしようもなく好きだった。
ありがとさんっと一言添えて廻は人混みの中へと消えていく、気を付けるんだぞぉと言う大きな声を後方から聞きながらパクリッと含んだ串焼きをモグモグと咀嚼する。
溢れる熱い肉汁をハフハフっと口をパクパクさせながら舌で転がし、程よい噛み応えと柔らかさを持った肉を豪快に喰らっていく、一つ食えばもう一つと次へ次へと口は動き、気が付いた時には全ての肉は視界の内から消え去っていた。
視界の中に残ったタレの付いた串、肉の付いていたソレを袋の中に放り込みながらけぷーっと息を吐く…取り込んだ物の熱気が故か、白い吐息を吐き出した廻は次は何を食べようかなとウキウキしたような様子で視線を動かし……ふと、その瞳を細めた。
嫌な感覚だった…まるで、泥を煮詰めてそのまま熟成させたような感覚、単なる足跡が夥しいまでの異臭を放っているようなその感覚に、廻は知らず知らずの内にその顔を顰めさせていた。
辺りに漂う嫌な気配、人か異物かで言うのならばきっと異物なのであろうその気配を前に、廻はその足を気配の方向へと動かした。
足音を残しながらゆったり歩く、誰か…否、ナニカの残した足音を辿りながらゆったりゆっくりと祭りの喧騒の中を歩いていく、周囲の楽しげな声を耳に入れながらその視界は残った紫に灯る足跡に注がれていた。
一歩、また一歩…進めば進む程に
進んでいるのは森の中、暗い夜の中を木々がざわめき揺れる、まるでこの先には恐ろしいモノが待っているのだと告げるように不気味にかさかさと音を立てる。
進み、進み、ただ進む…月明かりすら見えない深い森の中をただただ真っ直ぐと進み続けて……ふと、そこへと辿り着いた。
開けた場所だった…月明かりの差し込む明るい場所、そこだけ何処別の場所を切り取ったのではないかと疑問に思われる程に木々の少ない開けた立地…そこに、ソレはいた。
青みの掛かった黒髪とでも言うべき髪に黒いローブのような服装、ツギハギとなった皮膚を惜しげもなく晒し、まるで浴びるかのように手を広げて月光の下にただ佇む…見る者が見れば幻想性でも感じてしまいそうなその姿は、絵画にでもすれば絶賛されでもするのだろうか。
「…なるほど…こうして追ってきたってことは、君には俺が見えているわけだ」
軽薄そうな声が響く、ゆったりと振り向いた男はその顔に微笑みを張り付けながら廻へとその目を向けたその男は…人ではないはずのその存在は、さも当然のように廻へと尋ねた。
「それで? 君は俺に何の用なのかな?」
親しみやすい表情に親しみやすい口調…きっと、大多数の人間がその言葉を不快に思うことなど無いのだろう、ただ穏やかに尋ねられた程度にしか思わないのだろう。
…しかし、葛城廻はそうは思わなかった。
「
ただ殺す…葛城廻は一切の葛藤も躊躇も無く、その結論に行き着いた。
誰もいない暗い暗い森の中…ただ月だけが見つめるその場所で、血塗られた呪い合いは幕を開けた。
宮城薫(禪院薫)
未だにあの日の光景がトラウマ、生前は宿儺が死んでた+廻の遺言に止められてたから+当主という責任のある立場だったからブレーキ踏めてただけで、生まれ変わりの後だとそのブレーキがぶっ壊れかけている。
葛城廻
肉体年齢14歳の中学生、時折おじさん達を手伝ったりしてるから周囲からの覚えが良い、食いしん坊。
最近、お化けを殺すことが日課となっている。
ツギハギ
想像にお任せします。