…扇の爺さん…あんたの炎って最初から青いのかよ……どうしてくれんねん…というか炎要素が少ないやんどうしてくれんねん。
色々と前提が崩れるので、作者のところの焦眉之赳はこの路線のままで行きます、だってもう書いちゃった後だもの。
空は晴天、青空が燦々と輝く太陽に照らされる好天気…そんな晴れ模様を何処かぼんやりと見つめながら、宮城薫は車の座席にて揺られていた。
あの後の事を話そう…五条に自身の正体を見破られた薫は、特にこれと言った反論もせずにそれを認めた。
にんやりと笑う五条の顔…それがどうしようもなくかつての六眼の担い手に重なったこともあって、早々に抵抗を諦めたのだ…こういう時のこの人には何を言っても意味が無い…そんなかつての経験に思いを馳せながら。
そこからはとんとん運びだ、あれよあれよという間に座標を知らされ車に搭乗、話を終えたばかりの薫をさっさと特級討滅任務に派遣し…そして今に至る。
特急相当の呪力が確認されたのはとある都道府県の田舎町、その外れにある山の奥地…とある日の夜中に確認されたそれは唐突に弾け、一定間隔の上昇の後にその反応を消失させたことが報告に上がっている。
呪力が確認された付近に大規模な破壊痕があったこと、それに加えて呪霊の消滅反応が確認されなかったこともあって、これを放置するのは危険と判断…調査及び討滅任務へと舵を切ることとなった。
任務の目的はひとまずは調査…呪霊がまだ存在しているのか、存在していたとして何処に住み着いているのか、どのような術式を持ちどのようにして戦闘を行うのか…それらを加味し、現場の判断にて討滅を実行すること…それが今回、宮城薫に課せられた任務だった。
扉を開けて外へと足を踏み出す、アスファルトを踏み締める感触を感じながら大きく身体を伸ばす薫、それなりに長い車での移動時間はやはり退屈であったらしい。
自身を送り届けた運転手へと一礼を行い、視線の先にある件の田舎町へと足を踏み出す薫…何が待ち受けているのかも分からない件の場所へと薫は躊躇無く、その一歩を踏み出していくのであった。
「…ここか」
呟きながら薫は目の前のソレへと視線を向ける…視線の先にあったのは、何処まで深く続く暗闇が特徴的な一つのトンネルだった。
電灯も付かず、ただただ暗闇だけが支配する大きな穴の底を思わせるようなトンネル…件の呪力反応が確認されたのはこのトンネルの先にある山の奥地、特にこれと言った伝承も噂話も存在しないこの場所を子供達は山を目指して良く通っていくらしい。
山の中を無邪気に駆け回る子供達、川があるから川遊びも出来るし一部の大人達がそれなりに立地を整えているからか、今のところは行方不明者が出るということにもなっていない…まぁ、珍しくもない話というやつだろう。
コツリッコツリッと足音が良く響く、トンネルの中では良くある話でそれを怖がっていた妹の姿を薫は何故だが思い出していた。
ワンワン泣き喚く妹の姿、どうすれば泣き止むのか分からずあたふたとする自分と両親、抱きしめて頭を撫でてを繰り返してようやく泣き止んだと思ったら、足音には怯えてまた泣き出す。
最終的に耳を塞いで通り抜けることで終わったその大泣き事件はきっと今でも家族の中での笑い草だ…雷を怖がっていた自分に重なるその姿に薫は過去の自分を重ねざるを得なかった。
今でこそ大きくなって多少な耐性が付いたらしいが…こんな暗闇の中だ、ひょっとしたらまた小さい時のように泣き出してしまうかもしれない…そんな過去の思い出にくすりと笑みを溢しながら、宮城薫は迷いなくその足を進めた。
トンネルの先、光の差し込むその場所へと足を進ませ、通り抜けたその先にあったのは生い茂る無数の緑、自然豊かに存在する山特有の景色が宮城薫を出迎えた。
風が気持ち良く感じる、木々のざわめく音が嫌に心地が良い、まるで昔に戻ったような気分になる。
慣れ親しんだように山道を進む…立地を整えたからと言っても所詮は山道、それなり以上に険しいはずのその道を薫はまるで遊ぶようにスイスイと乗り越えていく。
スイスイ、ひょいひょい…見るものが見れば猿か何かであろうかと勘違いされそうな程に軽やかに山中を進んでいく薫、きっと子供達がいたなら尊敬の眼差しを向けられたのであろうが…残念ながら、ここにいるのは宮城薫ただ一人である。
進む、進む、進む、進む…木々のざわめきを耳に捉えながら、目の前に現れる自然を緩やかに躱しながら、ただただ雄大な自然の中を進み続けて───
「……ここが、そうか」
そうして、宮城薫はそこへと辿り着いた。
山の中とは思えぬ程に開けたその場所、平らな地面に木々の存在しない空間…まるで、そこだけ意図的にそうしているかのように。
圧し折れた木々に何かを叩きつけられたように割れた地面、散乱する木片に未だに残る呪力の痕跡、破壊痕と呼ばれたソレが戦闘による形跡であることに気がつくのに時間は掛からない。
呪霊と誰かがここで戦った…何方が勝ったのかは分からない、消滅反応が無いのならば人間が勝ったのか、そもそも特級の相手をしていたのが本当に人間だったのか…そんなことは、その場に居なかった薫には到底分からない事だった。
呪霊は基本的に生まれた場所に留まる、理屈がどうこうではなくそういうものなのだ…しかし、明確に自我を持った個体はそうでもない。
移動を行う、隠れ潜む…明確な自我を持つに至った呪霊は平気でそれを行う、自分が生まれたその地を平然と捨てる…少なくとも、薫が平安で戦った特異な呪霊の多くはそうだった。
ひょっとしたら、もうこの場所には居ないのかもしれない…町の住民に被害が出ていないのは単に痕跡を残したくなかったか、或いはそれをしてしまえば存在が露見してしまうという当たり前の事実に気がつけるだけの知能があったからなのか……。
……………否───
「───まだ、いるな」
それは確信だった、無数の修羅場を潜り抜けてきた術師による直感…無数の呪霊を狩り殺し祓い、灰に帰してきたが故の言葉。
呪霊は人を殺さずにはいられない、それが呪霊の本能だからだ、それは例え理性を獲得しようが何をしようが変わらない…一部な特異な例を除いての話ではあるが。
故に逃げ隠れしている間に人を殺さない…なんてことはない、バレないようにやるだけで人を殺さないなんてことはない、やるとしても痕跡が残らぬように皆殺しという形になると相場が決まっている。
だとすれば何処に行ったのか、何処に隠れたのか…この山の何処かにいるのであろう存在を炙り出すのはどうすれば良いのか…答えは至極簡単。
「───術式解放」
───『焦眉之赳』
発現する蒼い炎、呪いを焼き尽くすことを使命としたその焔が薫の内側から溢れ出す。
刀を引き抜く、スラリっと引き抜かれ静かに音を立てる刃の音、外側へと溢れ出した蒼い炎が波打つように刀の元へと集まっていく。
「───範囲と対象を固定、識別対象は呪霊と思わしき呪力を持った対象全て、呪霊以外への影響の全てを対象から除外」
ぶつぶつと呟かれるその言葉、蒼い炎の中で静かに呟かれるその単語の羅列…それが意味する所はたった一つ。
術式対象の固定及び除外…自身の狙ったモノのみを傷つけ燃やし、それ以外を遠ざけ癒す…焦眉之赳という術式の特性を最大活用した末に生み出された、呪霊
後にも先にも禪院薫だけが可能とした神業に等しいその炎、刀へと取り付くようにゆらゆらと泳ぐ蒼い炎を薫は地面へと突き立てる。
瞬間、周囲一体全てが一斉にして燃え上がる、蒼く燃え広がる蒼い炎が山全体を包み込み、中に存在する呪いと思わしき全てを例外無く達磨焼きにせんと躍動する。
これに堪らないのは山の中に隠れ潜んでいた特級相当の呪霊であろう…声にならない悲鳴を上げながらバタバタと転がるその姿はまるで鹿頭の人形だ。
一体何処に隠れ潜んでいたのか、何処からともなく薫の目の前に転がり込み悶え苦しむその姿を薫はまるで蛆虫でも見るかのように冷たい瞳で見下ろしていた。
悶え苦しむ呪霊、悲鳴を金切りあげながらジタバタジタバタ、ゴロゴロゴロと動き回る鹿の人形、火を消そうとする人間のように地面へと身体を擦り付けるその様相に薫は───
「───うるさい」
そんな一言と共に、呪霊の頭蓋へとその刀を突き立てた。
頭へと突き立てられた刃がドスンッと音を立てて突き刺さる、悲鳴を上げていた呪霊の声が小さくなっていく中で、まるで追い打ちと言わんばかりに脈動した炎がまるで導火線のように上から下へと刀を伝うように呪霊の頭へと滴り落ちる。
次の瞬間、呪霊の身体は内側から炎によって弾け跳んだ、肉片すら残らない。
呪霊の消滅反応…それを認識して薫は刀を一振して炎を払う…それと共に霧散する山を包んでいた蒼色、あれほどまでに燃え盛っていたと言うのに後になって残るのは何一つとして変わらない雄大な自然の景色だけ。
何も変わらない、何一つとして変化のない景色…それを一瞥した薫はふぅ…と一つ息を吐くと、満足したようにその場から背を向けて歩き出すのであった。
───特級相当の呪霊の調査及び討滅 任務完了
薫の焦眉之赳について
座村さんの『雀』みたいなことが出来ます。