PS
ふと思ったことであったけれど…AIZOを聴いてると、本編の宿儺VS廻と合うんじゃないかと思ってしまったりした…ちょっと自意識過剰かなと思ってみたり。
「───何をやっていたんですか?」
静かに…しかし確かな圧力を伴って、その言葉はその口から吐き出された。
白い壁、白いタイル、無数の人一人平気で載せられそうな台車と無骨に壁に立ち並ぶ引き出しの数々…所謂死体安置所とでも呼ぶべきその場所で、宮城薫はその瞳を険しく尖らせた。
「特級に至るかもしれない呪胎のある場所に実績も実力も伴っていない術師三人を送り込んだ挙句に、その内の一人を死なせた…もう一度言いましょうか───」
───何をやっていたんですか?
淡々と述べられる言葉とそこから発せられる圧力、有無を言わさぬその言葉の羅列にそれを向けられた男は…伊地知潔高は何も言えずにいた。
本当に特級になるとは思わなかった、派遣が決まった時点ではまだ仮の段階でそこから特級に至るとは思わなかった…そう言うことは出来ても、それをした瞬間に首を跳ね飛ばされるような感覚があった。
五条悟とはまた違う絶対的な強者特有の気配、僅かに漏れ出たその片鱗が伊地知に己の死を予感させる、言葉を間違えればその時点で終わりであるとそう思わせるだけの凄みが薫にはあった。
流れ出る冷や汗は感じ取れた深い死の気配故…それだけと言うわけでは断じて無いが、確実にそれが含まれたが故の反応でもあった。
静寂が空間を支配する、言葉を一つ発さず冷たい瞳で伊地知を見据える薫、今にもその片手に携えた刀を抜き放ちそうな危うい気配を放つその姿に伊地知の心臓はバクンッバクンッと激しく鼓動を開始する…それほどまでの、死の気配がそこにある。
「───……すいません」
その死の気配が、ふとしたように軽々と霧散した。
出てきたのは謝罪の言葉、申し訳なさそうな表情と共に放たれたその言葉に伊地知の口から間の抜けた声が漏れ出る。
「少し、感情が昂ぶってしまいました…命令を下したのは貴方じゃない、貴方は下された命令を伝えて彼等を見送っただけ…悪いのは貴方じゃない」
粛々と申し訳なさそうな表情と何処か戒めるような声色と共に告げられた言葉、ジェットコースターが如き緩急付けた気配の変化に伊地知の喉は言葉を忘れていた。
そんな伊地知のことなど露知らず、何をやっているんだと薫はガリガリと頭を掻いた、苛つきを抑えるように怒りを宥めるように強く大きく掻き毟られた頭からは何本かの髪の毛が落ちていく。
罪悪感に濡れた表情をした伊地知、そんな彼に当たる自分…まるで、未熟で弱かった当時の自分に戻った様な行動に宮城薫は自分自身を引っ叩きたくなった、とっくにそんな自分からは卒業したはずだろうと、そんな自分ではなくなったはずだろうと。
肉体が若返ったからそれに精神も引っ張られているのだろうか…そうであったら良いのだろうが、きっと違うのだろうと薫は無理矢理に結論付けた。
「これじゃあ、三途のことをどうこう言えないな」
静かに、誰にも聞こえないように、消え入るような声で薫は呟いた…かつての親友であり、宿敵でもあったその姿を思い出しながら。
「───なんだ、起きたのか小僧」
そこは、地獄のような場所だった。
赤い水面に浮かび上がる無数の骨、上を見上げた先にあるのは人間の背骨の内側に入ったと思わせるような光景が広がり、その中心地には無数の亡骸の骨が積み重なった骸の山が存在する…恐らく、見た者の大半が地獄であろうと判断するような光景が目の前にあった。
そんな光景をいきなり目にした虎杖の上から声が響く…気怠そうに、心底からどうでも良さそうに、大きくため息を吐き出しながら陰気そうに冷めた瞳で虎杖を見下ろすその男に…呪いの王と呼ばれた存在を前に、虎杖はその身体を起き上がらせた。
バチャリッと水音と共に起き上がる身体、濡れた身体と見たこともない地獄のような景色、自分が死んだということを明確に認識しているが故の混乱も含めて何が何だか良く分かっていない虎杖は、まずはとりあえずとでも言わんばかりに───
「───オォラァッ!!!」
近場に落ちていた頭蓋の骨を、宿儺目掛けて投げつけた。
有無も言わさぬ投擲、青筋を浮かべ立て怒りに満ちた表情を浮かべながら歯を食い縛り、万力の力を以て解き放たれた全身全霊全力全開の剛速球、しけた面構えを浮かべた宿儺にふざけんなと言わんばかりのありったけの感情を込めて虎杖はソレを投げつける。
そんな虎杖の投擲を宿儺はつまらなそうに片手で跳ね除ける、徐に片手を振り被りやってきた頭蓋の剛速球を弾き飛ばす、吹き飛びズガンッと骨の一部に激突したその様相からはそれがどれほどの威力で投げつけられたのかがハッキリと分かる。
「…なんだ、随分機嫌が悪そうだな?」
「当たり前だろうが、こちとらお前のせいで死んでんだぞっ!?」
酷く興味の無さそうな声色と共に下されたその言葉に虎杖は苛立ちと怒りを滲ませた声色で喚く、お前が何もせず大人しくしてたらそもそもこんなことになっていないのだと言葉を吐き出す。
そんな虎杖に呆れたような表情を浮かべた宿儺は、至極憂鬱そうにため息を吐き出しながら口を開く。
「心外だな、俺はお前の望み通りに動いた…お前達を殺そうとした
頬杖を付きながら宿儺は言う、己はお前の言う通りにしたのだから文句を言われる謂れ等無いのだと、己はお前の望む通りに脅威を排除してやったのだから寧ろ感謝して然るべきであろうと…実際、結果だけ見ればその言葉には何ら間違いは無い。
宿儺は虎杖の脅威を排除した、虎杖自身が半ば無理矢理に宿儺に変わったということを鑑みたとしても、やはり両面宿儺は虎杖悠仁の望みを万全に叶えていたと言っていいだろう…ある一点を除けば…という但し書きは付いてくるが。
「ふざけんなよ、じゃあなんで伏黒を殺そうとした? 伏黒を殺せなんて俺が一度でも望んだのか? …んなわけねぇだろうがッッ…!!」
宿儺があの時点で変わっていれば虎杖は何も言わなかったであろう、呪霊を祓った時点で目的は達成されており、それ以上に宿儺を動かす理由も無かったのだから。
だが、宿儺は動いた…気紛れに、ふとしたように、外で待機していた仲間を…伏黒恵の命を奪おうとした。
ならばこの虎杖の言葉も別段可笑しなものでもないだろう、仲間を殺せなんて言ってないだろうがと、そう言いたげな虎杖の口振りも特段破綻したものではない。
…が、しかし───
「なるほど…な……小僧、やはりお前は何か勘違いをしているな?」
それは、目の前の呪いの王相手には決して言ってはならない言葉でもあった。
宿儺の雰囲気が僅かに変わる…頬杖を解いて、ダルそうに玉座のように座り込んでいた骨山の上から立ち上がる。
───キンッ
瞬間、その音が聞こえた。
斬り裂かれる虎杖の片腕、伏黒に行った斬撃と全く同じ形で同じ箇所を斬り裂いた、ボトリと落ちた片腕が水面に音を立てて落ち、そこに遅れるようにダバダバと血液が流れ出していく。
何が起きたのかが分からない、あまりに唐突に斬り落とされた自身の片腕に虎杖は呆然と視線を向ける…そんな虎杖へと、何の色も温度も乗せない宿儺の言葉がやってくる。
「まず、俺があの虫を殺したのはあの虫が俺に牙を剥いてきたからだ…何もしてこなければ俺はあの虫を放っておいたし、何かするということも無かった…分かるか小僧? 結果としてお前の望み通りになったというだけで、俺はお前の望みを叶えよう等とは一欠片も思っていない」
ダラダラと骨の山を降りてくる呪いの王、ダバダバと蛇口のように血の流れる腕をベルトで止血する虎杖の姿等眼中にも無く、呪いの王は気紛れにその言の葉を続けた。
「そもそも今回の発端自体、お前の怠慢が原因だ…お前が多少なりとも呪術に対しての知識を保有していれば俺との入れ代わりに手間取る…等と言うことは無かったかもしれんのだからな」
淡々と、粛々と、抉るように捻じるように虎杖の非を突きつけるが如くその紅い瞳を傷に呻き膝を付いた弱者へと向けた魔王は辛抱ならんと言わんばかりに更に言葉を続ける、内に溜まっていた苛立ちと失望と虚無を吐き出さんとする。
「あの出来損ないに関しても同じだ、奴があのような体たらくを晒さなければ最初からお前と俺が入れ代わる必要など無かった…少なくとも、俺があの出来損ないを殺そうなどと思うことも無かった」
思い起こすのは己の宿敵と同じ術式を持ったウニ頭の姿…何をするにしても中途半端、術式の能力に頼るどころかそもそもマトモに使えてすらいないのだから、最早呆れるどころの話ではない。
玉犬の内の一体を破壊された時にしてもそうだ…彼処で伏黒が即座に混ぜ合わせた玉犬を呼び出してさえいたなら多少なりとも足止めが出来た…否、それどころか手傷を負わせ勝利への布石を持ち込めたかもしれない…それほどのスペックと可能性があるはずなのだ、あの式神には。
なのにしなかった、なのに逃げた、何も出来ない虎杖を置いて、虎杖の言葉を鵜呑みにして…ふざけているのかと思ったのは記憶に新しい。
自身の式神の能力、その全容を把握していないのだあの出来損ないは…だから逃げる、だからあぁも簡単な獲物にすらその命を奪われかける、だからこんなにも弱くなった己にすら遅れを取る。
先は虎杖の怠慢と言ったが…実際の宿儺の思考は異なる。
怠慢を晒したのは伏黒恵だ、伏黒がキチンと術式の全容を把握していればあぁはならなかった…少なくとも、虎杖と伏黒の役割は完全に入れ替わっていたはずだと、宿儺は確信していた。
だから、要するに───
「───お前が死んだのはお前とあの出来損ないの怠慢が原因であって、俺ではない」
そう、両面宿儺は言ってのけた…虎杖が死ぬ理由そのものを作り出した呪いの王がそう堂々と言ってのけたその姿に虎杖は唖然としたようにその瞳を見開き、そんな虎杖へと思い出したかのように呪いの王は口を開く。
「あぁ…それとだ、そもそもの大前提として───」
瞬間、両面宿儺は虎杖の頭を鷲掴みにし───
「───お前が下で、俺が上だ…次からは弁えておけ、小僧」
おもちゃでも壊すように、その頭を捻り取った。
宿儺
無茶苦茶不機嫌…なお、子供廻に会ったら馬鹿みたいに弾ける。