最近対魔忍関連の二次小説見て、ふと唐突に思ったこと……廻って、対魔忍の世界に飛ばされたらどうなるんやろ?
「───俺のせいで死んだ」
開口一番、伏黒恵はそう呟いた。
緑に生い茂る森林の奥、武家屋敷かそれとも別の何かなのか、鎮座する奥行正しいそうなその建物の石階段の上で座り込みながら呟かれたその言葉を、宮城薫はただ黙って聞いていた。
淡々と、粛粛と…セミの鳴き声が煩くて堪らないこの季節の中で無表情にも等しいその表情下で呟いた伏黒はその両手を強く握り締めた。
「…最初、宿儺は俺を生かしておく気だったんだと思う…言動の節々から俺に対する期待感みたいなのが見え隠れしてた…多分、俺がどう術式を扱うのかを見たかったんだと思う」
あの雨の日…伏黒は冷たく、無造作にあしらわれ、なじられ挙句に嬲られた…切り落とされた腕はその切断面の鋭利さからなんとかくっついたが、やろうと思えばミンチに出来たろうことは想像に難くない。
物でも見ているような声色だった、まるで有象無象の更に下を見ているかのような極寒の声色…しかしそれでも、その言動の端々に確かな期待感が乗せられていたことに伏黒は気が付いていた。
露骨だったのだ…宿儺が己の術式に見せた態度があまりに露骨だったから、あまりにも執着心のようなものを見せびらかしてきたから、伏黒はそう判断せざるを得なかったとも言えた…より正確に言うのならば、宿儺がそれら感情を示していたのは伏黒というよりもその術式に対してと言える。
だから…嗚呼、だからなのだろうか、伏黒恵は原典とは違い明確に自らに責任を感じてしまっているのは。
「俺が手も足も出せないって気づいた時、俺がもう何も出来ないと知った時…宿儺の目の色が明らかに変わった」
如実に変化した気配、声色と表情、そしてその瞳…何もかもに失望が宿り、呆れが宿り、最後には怒りすら灯った。
何故その術式を使ってそこまで弱い? 何故その術式でその程度のことしか出来ない? 何故その宝をそんなにも無惨に醜悪に使っていられる?
節々から聞こえてくる落胆の声、呪いの王の心底からの呆れと失望の感情…それが、伏黒恵という人間にダイレクトに伝わっていた…伝わり過ぎていたのだ。
何もかもが落第点に到達していたと知った時、呪いの王は待つのを止めて躊躇無く伏黒を殺そうとしていた…虎杖が自分の命を引き換えにしなければ、あの場で死んでいたのは己だったのだ。
だから…そう、だから───
「俺が何か出来ていればきっと虎杖は死ななかった…少なくとも、俺が宿儺に何かしらの可能性さえ見せていれば、自分で心臓抉り出すなんてことしなくても良かった」
あの時自分が何か出来ていればと…そう思わざるを得ないのだ。
セミの鳴き声に混じるように呟かれる独白、滲み出る抑えきれない後悔と自分の弱さに対する落胆…もっと上手くやれたのでないのか、もっと出来たことがあったのではないのか…普段なら切り替えられるはずのそれが今回に限っては出来なかった。
握りしめられた手から音が鳴る、ギリギリと握り締められ段々と滴り落ちてくる血液、破れた皮から血が漏れ出ていることにすら伏黒は気づいていなかった。
そんな伏黒の姿を見て、その独白を聞いて…薫は意を決したようにその口を開く。
「うん、そうだね…君は弱かったから、そうなったのかもしれない」
それは肯定の言葉だった…伏黒の言葉を否定するでもなく、ましてや仕方ないと慰めるでもない、ただただ無慈悲にその弱さを肯定する言葉を薫は伏黒へと告げた。
冷たく感じるかもしれない、何故そこで優しく声を掛けてやれないのか、何故そこでフォローの言葉を入れてやれないのかと言われるのかもしれない…しかし、実際問題事実としてはそうなのだ。
何せ薫自身が感じていたことだ…何故その術式を使ってそこまで弱いのかと、もっと何か出来ていたのではないかと、他ならぬその術式使用者を知っている薫が思わずそう思ってしまう程度には伏黒恵は何も出来ていないのだ。
十種影法術…薫の兄である禪院廻を初代所持者とした禪院家の相伝術式…その恐ろしさと頼もしさを薫が忘れたことは片時も無い。
少し目を離した隙に鵺による雷が敵を撃ち、これまたほんの少し目を離した隙にまるで影から飛び出るように玉犬達が敵の首を刈り取る…此方は実際他者の影に潜るなどの行動が出来る為、余計に神出鬼没と言わざるを得ない。
満象による水攻めやその質量による圧殺、更にその水を利用し蝦蟇へと殺傷能力を付与し始めた時等は最早笑うしかなかった。
どれだけ非力に見えてもそこには必ず何かしらの使い道がある…蝦蟇にしろ脱兎にしろ、そこには必ず応用への道が転がっている…少なくとも自身の兄はそれを探しては見つけ出していた。
盤石な手数にそれによって生み出される多種多様な応用性、その使い勝手の良さも自身の孫が発現させた十種によって既に確認されている…つまりは、それだけの当たり術式なのだ、十種影法術とは。
逆を言えば、それだけ使いやすく雑に強いその術式をまるで使い熟せていないどころか基礎すら成っていない伏黒の存在は、きっと宿儺の琴線を大いに逆撫でしたことだろう。
だから…そう…事実として伏黒恵は弱いのだ、歴代十種の中でも恐らく最弱と言っても良い程に。
「正直な話、君は弱いよ伏黒くん…近接が苦手というのは式神使いならば良くあることだけど…それ以上に君はその術式の使い方がまるで成ってない」
軽く、当たり前のことのようにそう言ってのける薫の言葉を伏黒は黙って受け入れた…分かっていることだ、自分が弱いことなど…それを、今回の一件で否応無く改めて突きつけられただけで。
石階段を下りる音が響く、蝉の鳴き声が段々と音を増していく中で薫は階段を折り切ったその先で伏黒へと振り返った。
「君は、自分の術式について何処まで分かっている?」
「…十種の式神がいて、それらに特徴があることは」
軽い質疑応答、ぽんっと出されるように飛び出た質問に伏黒が答えた…そしてその返答に続くように薫は更に言葉を開く。
「では、その式神達を形成する影については?」
続けて出た薫の言葉にえっ…という声を漏らした、思考の外側からの言葉に言葉に詰まり返答に窮した…そんな伏黒の反応にやはりとでも言うように、薫は更に更にと続けていく。
「その影で何が出来て、何処までやれるのかのは知っているか?」
「その影に反転術式を流し込んだ時に何が起きるのかは?」
「式神同士の組み合わせのレパートリーは? 式神の合体はもう試しているか?」
無数に飛び出てくる質問に次ぐ質問、最初の質問以外の全てに答えあぐねている伏黒は次から次へとやってくるその薫の言葉に黙っているか、知らないと答えることしか出来ないでいた。
何でそんなことを聞いてくるのか…というより何で当の術式保持者の自分よりも一般家庭生まれのアンタの方が術式ついて詳しそうなのかと問い質したくなる…が、それらの思考が言葉に回されようとしたのと同時に、宮城薫は締め括りとでも言うようにその言葉を伏黒へと投げかける。
「つまりはそれが今の君だ…応用云々以前に術式に対する基礎が出来てない…土台が無いんだよ、僕の質問にまるで答えられていないのがその証拠だ」
突き刺すようにそう言う薫の瞳は何処か鋭さを帯びていた、今までの穏やかなソレとは違う、まるで歴戦の猛者を思わせるようなその瞳に伏黒は知らずと息を呑んだ。
「出会ったばかりの僕にこんなことを言われるのは癪かもしれないけど、実際そうなんだから受け入れてほしい…君には近接能力とか術式の応用云々以前に、術式への理解と知識が圧倒的に足りていない」
結局のところはそれが全てなのだ…もしも伏黒恵に十種影法術の基礎的な知識と理解があったなら宿儺もまだ可能性有りとして見逃した可能性は大いにあった…例えそうでなくても、聞いた話のような無様さを晒すことはなかったであろう。
薫の言葉に伏黒は何も言えない…事実として何も知らないからだ、理解出来ているかと言われれば理解していないとしか言いようがないからだ…薫の言葉に反論するだけのものが何も無い…故に、何も言えない。
ならばどうするか…答えは一つだ。
「───知りたいか?」
試すように薫が言葉を投げかける、それが何に対しての言葉なのか…なんて、聞くまでもなかった。
「───教えてくれるのか?」
「───君が知りたいと言ってくれるのなら」
淡々と返される言葉…表情は動かさず、その口から出てくるその言葉には妙な説得力のようなモノを伏黒に感じさせる…ならば、言うべきこともやるべきことも一つしかないだろう。
「だったら教えてくれ…俺が知らない、全てを」
明確に瞳に決意が乗る、貪欲なまでの強さへの飢えが伏黒恵を突き動かす、もう二度とあんな思いしてたまるかとでも言うようにギラギラと。
そんな伏黒に薫は笑みを浮かべた…かつての自分のように強さを追い求め始めた若人を前に懐かしさを覚えながら、かつての自分のように兄へと教えを乞うた際の状況を思い出しながら、かつて禪院薫と呼ばれた男は喜んでその言葉を吐き出す。
「分かった、だったら教えてあげる…まぁ、流石に全部…とは、いかないと思うけどね?」
ここに師弟は生まれた…かつての存在した立場を、逆転させるように。
伏黒
後悔垂れ流し、自分がもっと強かったならまだなんとかなったんじゃないかと思ってる、実際もうちょい強かったら宿儺も経過観察と評して見逃してたので間違っていないのが辛いところ。
この度、実質的な薫の弟子になった。
薫
もうちょい何かやれただろとか素で思っている男、多分伏黒見た時の宿儺とほぼ同じこと考えてる、違うのは伏黒に対する認識だけ。
かつての自分に似ていたので師匠になることにした、因みに今回の問答に似たようなことをかつての廻とやっている、術式に対する質問攻めも廻にやられた。